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シナリオ詳細

<Scheinen Nacht2023>La magie

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あらすじのような、日常のような、
「メリークリスマス、っていうのよね。いいなあ」
 呟く魔法少女に勇者は「まあ、もうすぐさ」と何気なく返すのだった。

 いつもの通りのプーレルジール。イレギュラーズによる『一方通行』
 その現状を解決し、混沌に至り至るべき終焉への対抗策を講じたいと考えて居るのは元イルドゼギアことロック (p3n000362)その人だ。
 大魔法使いとして知られる男はプーレルジールと自身を救ってくれたイレギュラーズに対して非常強い恩義を感じている。
 それこそ、イレギュラーズの一員として顔を時折出すようになった愛娘、クレカ (p3n000118)との再会もその一つだ。
「クレカの外見はプーレルジールの『現し身の鏡』を使った際に見えた女性のものを象ったのだ。
 どうやら、君達の知り合いのようだね。勝手にモデルにされてしまったことを怒ってやいないだろうか」
 外見こそは原初の魔法使いらしく堂々とした『魔王』然とした男ではあるのだが、ロックは非常に穏やかな性質だ。
 クレカのモデルとなってしまった『穴掘り隊長』の感情にも配慮し、勝手にモデルとしてしまったことには悔んでいると彼は行った。
「実は、プーレルジールと混沌は非常に近い位置に居てね。バグが起こって誰かが紛れ込んでしまうように其処かしらで密接しているんだ。
 余り良い事ではないんだよ。混沌という世界は全てを飲み食らってしまうからね。だから『無辜なる混沌』だろう」
 ロックはテーブルの上に置いてあった眼鏡を掛けてからそう言った。魔王らしい衣服ではなくきちんと防寒を施した魔法士の服に身を包んでいる。
 そんな彼の傍にちょこんと座っていたのは栗鼠のフードのケープを身に纏ったマナセ・セレーナ・ムーンキー (p3n000356)だ。
 実家の両親と和解し、世界を救った大魔法使いだとロックが告げ、アイオン (p3n000357)が旅に出る交渉を行なった後である。
 全てのゼロ・クールの産みの親であるロックはプーレルジールに有する自身のアトリエへと助手としてマナセを招集するという強攻策をとったのだが――それが両親には効果てきめんだったらしい。
「ねえ、ロック。プーレルジールはもう惹き会わないの?」
「世界を観測してみたら、大丈夫だとは想うよ。ただ、僕達が彼等の所に行こうと思うなら少し細工が必要かな?」
「細工? 何? 世界に風穴を開けるの?」
 マナセ、とアイオンがその肩を掴んでから首を振った。唇をつんと尖らす彼女は「だってえ」と呟く。
「マナセ、古語の本は持ってきているかな」
「ええ」
「まじないの用意は?」
「勿論。プーレルジールの魔術形態は混沌と少し違うのね。お役に立つかは分らないけど」
 いいのかしら、と鞄の中からとりだした魔導書を握るマナセにイルドゼギアは「よろしい」と笑みを浮かべた。

●『ここからが本題なのよ!』byマナセ
「ご機嫌よう。イレギュラーズ。天才美少女魔法使いのマナセよ」
 にっこりと笑った女児は相変わらずの様子だった。そんな彼女の傍にはアイオンが立っている。
「やあ。イレギュラーズ、会えてうれしいよ。調子はどうかな」
 プーレルジールにちらつく白雪に、シャイネンナハトではないが何処かの旅人が持ち込んだ『クリスマス』の街並みが眩い。
「実はね、わたしたちがプーレルジールから混沌に渡る道を作っているのだけれど、力を貸して欲しいの。
 簡単なことだわ。わたしにね、魔法を授けさせて欲しいの。あなたの話を聞いて、わたしがプーレルジールの魔法を一つ渡すわね。
 それを混沌で芽吹かせて。簡単よ。魔法の胤だから、それを育ててくれればロックが座標を固定してくれる」
 マナセはそうする事で行き来が自由になるのだと告げた。
「あ、勿論、プーレルジールで遊んで言ってくれても良いわ。何なら、ゼロ・クールちゃんも紹介しちゃうし! どうかしら」
「マナセ、その勧誘の仕方は少し違うよ」
「アイオンって時々物知りなのね?」
「……まあ」
 困った顔をしたアイオンは「ギャルリ・ド・プリエで行きたいところがあれば逆に俺達が教えることも出来るよ」と告げた。
「少しだけお手伝いしてくれると嬉しいわ! 勿論、『マナセうらない』に任せてくれてもいいのだけれどね」
 にんまりと笑うマナセは古語の本を手に喜びを滲ませていた。

GMコメント

 夏あかねです。ライトシナリオです。
 プレイングがちょっとしかないので、お気を付け下さいね! 沢山お任せ下さる方推奨です。

●混沌に胤を植える
 マナセがどの選択肢を選んでも何か渡してくれますので、お部屋にでも植えて下さい。
 屹度素敵な花が一晩で咲きますよ。

●NPC
 ロック、アイオン、マナセがおります。
 また夏あかねの所有する『イレギュラーズのNPC』ならば一緒に声を掛けて頂いて構いません。
 このシナリオはイレギュラーズ以外でもプーレルジールに来ることが出来ると言う道を渡すための準備編です。
 何だか良い感じにロックがしてくれます。クリスマスに間に合いたいマナセの心に従って、本シナリオは12/24から12/25に起こった事として扱います。


何をする?
 何をするのかをご選択下さい。

【1】マナセに魔法を授けて貰う。
マナセに自分のことを簡単に話しましょう。
(恋バナ、家族の話、印象的だった『シナリオ』の話、印象的だって『NPC』の話など)
完全にお任せしても魔法の種類を指定しても良いです。
ただ、混沌では魔法形態が違うのでマナセからの『クリスマスプレゼント』はあくまでもフレーバー程度です。
……ですが、その魔法の胤は確かに混沌で芽吹きますので皆さんとプーレルジールを繋ぐ橋渡しになります。

【2】アイオンにプーレルジールを紹介して貰う
アイオンにプーレルジール各地を教えて貰います。
行ける場所が大幅に増えています。ロックの『移動魔法』の補助があるためです。
「行けるかな?」程度で声を掛けて頂ければ嬉しいです。アイオンは『混沌のアイオン』と似通っては居ますので「ここ知ってる」などと新しい冒険譚を聞けるかも知れません

【3】ロックにゼロ・クールを紹介して貰う(ギャルリ・ド・プリエ探索)
振り合う袖もなんとやらで、す。現地でお友達を作りましょう。
また、知っているゼロ・クールに合いに行くのも良いでしょう。
ロックに質問したい場合も此方にどうぞ。


不思議な選択肢
マナセ「胤は持って帰って貰うつもりだから好きなの直感で選ぶのじゃ!」

【1】Margarites
『咲いて、咲いて、砕け散る』

【2】Frauenglas
『あなたの上に天は立つ。全ては極光の元に』

【3】Aspida
『我が願いはあなたを護る』

  • <Scheinen Nacht2023>La magie完了
  • GM名夏あかね
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

サポートNPC一覧(3人)

マナセ・セレーナ・ムーンキー(p3n000356)
魔法使い
アイオン(p3n000357)
勇者
ロック(p3n000362)

リプレイ


『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が「マナセ!」と手を振れば、彼女は何時ものように明るく返すのだ。
 両腕を空へとぴんと伸ばしてからぶんぶんと手を振り続ける。そんな様子を見れば、彼女が『いにしえの魔法使い』だとか『全ての魔法の素』だとか、そうした存在ではないように思えるではないか。
「シキじゃない! わたしでいいの? アイオンは?」
「ふふ、マナセに逢いに来たかったんだ。久しぶりに声が聞きたいと思って」
「わたしは美声だからね!」
 よく言う、なんて事は言わずにシキは揶揄うように笑って見せた。何時ものような溌剌なマナセはそそくさと椅子を勧めてくれる。
 ご用件は周知済み。シキが何か素敵な事を教えてくれることを期待するように眸がきらりと輝いた。
「豊穣のことを話そうと思ってね。混沌には神威神楽と呼ばれる場所があるんだ。ずっと海向こうの、何処か違う文化を持った国だよ」
「それは、シキの世界のアイオンも知らない場所ね?」
「うん。其処に至るまでには大海原を越える事が必要だったんだ。その地ではね、二つの種族がいて……諍いがあった。
 蓄積する穢れが地を荒らし回ってしまうけれど。それでも、あの地を愛し、守り抜こうとする人が居る。素敵な場所なんだ。
 お菓子もね、マナセには馴染みの無い物が多いかも。今度食べに行こうか?」
「行くわ! 美味しいのかしら。サクサク? ふわふわ? それとも、ほろほろかしら」
 和菓子は中々馴染みないだろうとシキは小さく笑った。あの国は美しい、四季折々の変化も、美しく咲く花の香りも。
「マナセにも是非来て欲しい。そして、知って欲しいんだ。あの国の素晴らしさを。
 ……私はね、あの国を護りたいんだ。大好きだから、大切だから、そんな場所に君を連れて行けたら光栄だ」

「やれやれ、恋バナでスか」
「ええ、クリスマスはそういうものだと聞いたわ!」
 マナセをじいと見てから「誰が一体そんな」と『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は呟いた。
 それでも、期待をする彼女のご希望に答えないという選択はない。テーブルに腰掛けた時点で出された歓待は「分かって居るな」という圧をかけているような素振りにも見えた。
「そうでスね……どうも賢い男というのが苦手でして」
「賢い男?」
「ええ、賢い男。機転が利いて、理を説き、明晰な頭脳を有して先を見通すだけの力のある男とでも言いましょうか」
「それって、良い男なんじゃないの? ママが、そういう男を捕まえなさいって言って居たわ」
 美咲は目の前の大凡10歳程度の少女が口にするとは思えない言葉に「なんて母親だ」と思わず呻いた。
 桃色の髪をふんわりと揺らした楽しげな少女は不思議そうに首を傾げている。ああ、そうだろう。彼女の母親が云う事は良く分かる――が。
「元カレが賢くて性格がクソだったってのもありまスが、性格が良くてもやるべきことに気づき、成し遂げてさっさと死ぬんスよね」
「あら、置いていくって事? それは酷い」
「そう酷いんスよ」
 美咲は頬杖をついて嘆息した。「私、愚かなんであちらが思ってる以上に根に持ちまスよ」と呟く美咲をじいと見てからマナセは首を傾げる。
「ああ、いや、此方の話」
「誰かに置いて行かれたの?」
 無垢な彼女は『冒険には出ていない魔法使い』だ。だからこそ、きっと、置いて行かれる経験には乏しい。
 美咲は「そんなの、山のように」と誤魔化すように笑った。あの浮遊島に居た彼はどんな顔をするだろう?


「印象的だった相手の話、でよかったか」
 ティーカップに注がれた紅茶はバニラのフレーバーティーだったのだろう。ミルクをたっぷりと入れるマナセに倣うように真似をする『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は彼女を窺い見た。
「ええ。勿論」
 頷くマナセにとって『知らない相手』の話だ。だが、本来の混沌では彼女が歩んだ後にある世界の在り方でもあった。
「決して分り合えない相手が居た。彼等は混沌世界の敵であり、息をするだけで、心臓を動かすだけで、世界を滅ぼすそうだ」
「それは、魔王とは違うのね。プーレルジールの滅びそのものの人って事?」
「ああ、そう捉えてくれ。彼等はそれぞれが司る人間の欲求を体現していた。私達と何も変わらないんだ。それ以外は」
「……そうなんでしょうね。何となく分るわ。だって、わたしとゲオルグだって違うものね。
 生きてる世界というか、見て居るものも、きっと常識とか、そういうの。えへへ、子供でも分るのよ」
 彼女はプーレルジールで産まれている。だからこそ、混沌世界の常識と呼ぶべきものを理解はしていないだろう。
 ゲオルグはまじまじとマナセを見て「そうだろうな」と目を伏せった。
「救うことの出来ない命ではあるが、彼等とは分り合えれば良いと思ったのだ。
 信条が違う、常識も違い、何よりも、どちらかが立てば、どちらかが折れてしまうような関係だった」
「『Perdere』……という魔法があるの。古語魔法の呪文って意味が少しズレているから、正確なのは読み解けてないけれど。
 美徳とは不幸だと唱える意味もあるの。だから、拒絶の呪文だともいわれているのよ、えーとね……むずかしい」
 幼い少女は少し思い悩んでから、言った。
「たぶん、誰か一人でも想いを汲んでくれたなら、それって、意味があることになるとおもうわ。呪文だって、受け入れていなければ拒絶も出来ないもの」

 マナセの前に腰掛けた『闇之雲』武器商人(p3p001107)は「やあ」と微笑む。
「ん?」という顔をしたマナセにやっぱりと武器商人は小さく頷いた。マナセは魔法の流れを理解し、魔法の存在を感知することが出来る。
 だからだろうか。目の前に腰掛けている武器商人を『魔法使い』と認識していなかったのは。
「『魔法使い』と呼ぶべきかい? それとも、名前で呼んでも?」
「マナセで構わないわ。とびっきり親しみを込めて欲しい」
 幼い少女がにんまりと笑えば武器商人は緩やかに頷く。『魔術師の振りをした魔法使い』ではあるが、その振りをした魔法そのものに見えたのは、その魔力の流れが妙だったからなのだろう。
『外世界から訪れる旅人に対して内向的な地方の人間』というプーレルジールにおいて、地方出身のマナセという娘はそうした存在に対しての忌避感は薄く、寧ろどちらかと言えば探究心が擽られたのだろう。
「では、マナセの方」
「マナセ」
「……マナセ。旧い魔法というものに興味を持っているのだけれど、我(アタシ)でも扱えるものはあるかい?」
「魔力の流れが少し違うから、深く理解をし読み解かねばならないかもしれないわ。私と、武器商人さんはとっても魔力の流れが違うから深く探求が必要なのかも」
 武器商人は「ふむ」と呟いた。彼女の魔法には興味がある。だからこそ、彼女の魔法を読み解く努力というのは捨てたくはないとも感じていた――が、マナセは例えば、と魔術書をなぞってから指先に光を灯す。
「これは、銀の雲よ。あなたみたいね」
「銀の雲?」
「うん、古語では『alabast』と書くのだけど……ただ、単純に白い雪みたいなものを降らせるだけなの。似ているなあって」


『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は「僕自身が魔術……という話はおいておいて」とそっと添えた。
「うん、魔術の流れがすこしちがうもの」とマナセはその眸を輝かせて頷く。彼女の目にはヨゾラは『人』ではなく『魔術紋』として映ったのだろうか。
 やや驚いた顔をしてから「マナセさんから見た僕はどうかな」と揶揄うように笑うヨゾラは『解析』でもしようとして目を細めたマナセに手を振る。
「すこし照れるかも」
「あ、ごめんなさい。不躾だったかも! ええと、何を聞かせてくれるのだったかしら?」
 ヨゾラは頷いた。仲良しで、一緒に遊びに行く友人がいる。彼等の話だ。三人の友人は『星空』で繋がれた唯一無二だ。
 親友と呼ぶべき彼等とは一緒に遊びに行ったり冒険をしたり――そして、その中で徐々に関係性が変わっていく。
「えっ! 物語みたいね」
 手を打ち合わせるマナセが「それで?」と身を乗り出した。ヨゾラは小さく笑ってから頷く。
「うん、それでね。フィールホープさん……親友の一人にシャイネンナハトに告白しようと思うんだ」
「え、素敵ね。お友達は知っているのかしら?」
 興味津々なマナセにヨゾラは小さく笑った。さて、どうだろうか。きっとヨゾラの親友達は二人の関係が徐々に変わっていくことにも気付いて居るはずだ。
 マナセはその関係性を「『物語』のよう」だと喩えた。それはヨゾラにとっても心地の良い言葉だ。
 物語のように結ばれることは喜ばしい。フィールホープになんと伝えようかとヨゾラは思い悩んでいた。
「ねえ、ねえ、告白が上手くいくと良いわね。わたしが魔法でなにか、って思ったけど、きっとそれじゃだめだもの」
「どうして?」
「だって、ヨゾラ一人で伝えた方がとっておきですばらしい告白になるでしょうから!」

 恋バナと『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は呟いた。
「聞きたい?」
「勿論! 何かあるの?」
 マナセが身を乗り出せばオデットは「紅茶が溢れてしまうわ」と彼女の手許を指差した。大きすぎる仕草を見せたマナセは「あ、いけない」とすとんと腰を下ろす。それでも身体はやや乗り出しているようだ。
「私ね、好きな人がいるの」
「わあ、それで?」
「……それでね、元の世界において来ちゃったと思ったら、コッチの世界でまた会えたの」
 運命だわ、とマナセが声を上げる。ああ、きっと彼女ならばそう言う筈だとオデットは思って居た。
 そうだ。ここまでで話が終れば運命なのだ。マナセの眸はきらりと輝き、そんなロマンティックな出来事を喜ぶように細められている。
「けど」と言葉を繋げるオデットを悲痛な目で視た彼女に申し訳なくも想いながら、一つずつ言葉を選んだ。
「……彼ね、何もかも忘れてたのよね」
「え」とマナセは呟いた。それからオデットに「嘘ぉ」と呟く。彼女の反応は本当にただの少女そのものなのだ。
 恋の話ともなれば瞳を輝かせ、それが終ってしまうとなれば苦しげに眉を顰めて。そんな、当たり前の仕草が愛おしくも感じられる。
 くすりと笑ってから「それでも、好きな気持ち、忘れられないの。変でしょ?」とオデットは肩を竦めて見せた。
「全然! だって、それって、もしもその人が変わってしまったとしても丸ごと愛してあげられるって事でしょう。
 オデットって凄いのね、すっごい深い愛を持っているのね。それって、わたしは素敵な事だと思うわ」


「折角やから、初めましてしに来てみたんよ。
 ……という事で初めましてのご挨拶。マナセはん。火野彩陽言います。どうぞよろしゅう」
「マナセよ。マナセ・セレーナ。よろしくね、彩陽さん」
 しゃっきりと背筋を正して微笑んだマナセに『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は頷いた。
 あまり関わり合いにならなかった魔法使いではあるが、こうして相対してみれば彼女はほんの子供だという事が分る。
「彩陽さんはどんぐりマンを取り戻すために尽力していたのよね、知ってるわ。わたしね、後ろで見ていたのよ」
「どんぐりマンって……」
 その呼び名はどうなのか、とイルドゼギア――ロックの事を思い浮かべた彩陽にマナセは「似合っていると思うんだけどなあ」と呟く。
「だって、可愛いでしょう。どんぐりマン。何だか、森の精霊って感じもするし。
 古語の魔法って花の名前や自然に由来するものがおおいのよ。やっぱり、自然こそがわたしたちを作るからかしら?」
「何か、そういうのって『魂とは何か』みたいな話にも思えるなあ」
 あっけらかんと告げる彩陽に「そうねえ」とマナセは頷いた。常世と幽世を隔てた世界。そうした『場』を見詰める事の出来る彩陽にとってはマナセの言葉は何となくだが理解も深い。
 自然界におおらかに受け入れられる魂は何れは幽世に渡って行くのだ。それが分れば、彼女が『古語は自然に即するものが多い』と告げる事も理解しやすい。
「んー、でも、こういう話ばっかりしててもつまんないと思うの」
「ん?」
 彩陽は突然、話題の方向転換をするマナセを見た。マナセはぱあと明るい笑みを浮かべてから「だって初めましてでしょう?」と首を傾げる。
「まあ、せやなあ」
「だからね、好きなものは何か、とかから話しましょう。だって、私と彩陽さんはお友達になるんだから!」

 テーブルの上のクッキーをひとつまみ。『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は「美味しいね」と笑う。
「でしょー。これ、お気に入りなの」
 一緒に旅をしたマナセとは知った顔だ。だからこそ、挨拶もそこそこに「最近のことなんだけど」と切り出した。
「先日、祖国で大きな戦いがあったんだ」
「えっ、燃えたの!?」
「うーん、燃えたような、燃えていないような。でも、凄く大きな戦いだよ。
 イルドゼギアさんを倒すときみたいな感じかも。マナセさんの力も借りたかったかなあ」
「でしょうね」
「ふふ」
 マナセらしい返答だとスティアは笑った。このお調子乗りの小さな魔法使いは頬を緩めてジョークと笑うのだ。
 けれど、彼女の力を借りれていれば心強かっただろうか。もしくは、古語を学べばスティアもそれを模倣した魔法を使うことが出来そうだ。
「それで、私の目標がね、聖女となることだったんだけど……
 そこでようやく聖女って認められるようになったんだ!
 それにずっと助けたいって思っていた子を助けられて、お友達になれて、一緒に聖女を背負ってくれるって言ってくれたんだよ」
「一番の成果ね! でも、聖女かあ。あのね、プーレルジールの戦いが終ったときにフィナリィに会ったの。
 あの人も、聖女様でしょう。それを見ると、聖女ってすごいなあって思うのよね。
 わたしには屹度難しいのよね。誰かのために、何かするって、きっと並大抵の事じゃないもの」
 マナセはテーブルに額を引っ付けてから「スティアも誰かのために何かが出来るのね、とっても凄いわね」と笑った。
「ふふ、聖女ですから」
「でも、聖女ってフィナリィみたいなおしとやかな人を言うんでしょう? スティアはなんか……」
「ががーん!」


 マナセはじい、と皆を見回した。これは、占いのようなものだと彼女は笑う。
「シキと彩陽には『白き祝福(Margarites)』を。
『咲いて、咲いて、砕け散る』――あなたたちが得るこの祝福は、どんな困難だって跳ね返すことが出来るわ。
 この魔法は、わたしが最初にお勉強したものなの。つまり、ええと、自分の力で何だって越えていけるという意味だわ!」
 まだ幼い彼女にはその魔法の詳細を確実に伝える事は出来ないだろう。
「何だって越えられる、そうやね……自分でやれることは、自分で熟しておくべきや」
「そうよ。人任せだとね、きっと、願い事って叶わないもの。奇遇~!」
 彩陽の背を叩くマナセは楽しげににんまりと笑った。白き祝福は輝かんばかりの花の魔法なのだとマナセの指先に華が一輪咲いた。
「それからヨゾラとゲオルグは、『聳え立つ護り(Aspida)』を。
『我が願いはあなたを護る』――あなたたちが得るこの護りは、きっと、誰かを守り抜く勇気となる。
 この魔法は、プーレルジールに向かうときにやっと覚えたのよ。自分一人じゃできないことも多いから。
 だから、えーとね、人を想い、人を愛し、困難をも乗り越えるだけの強さと光が得られるという意味だと思う」
「困難、か」
 ゲオルグは呟いた。確かに、彼の望んだ道は困難も多い。人々と分かり合うというのは常に困難がつきものだ。
「最後ね。『砂に咲く華(Frauenglas)』。
 この魔法は実はわたしが一番最近覚えた魔法なの。教えてくれる人が居たから」
「ファルカウさん?」
 問うたスティアに「せいかーい」とマナセは手を打ち鳴らす。大樹の魔女、ファルカウ。彼女はプーレルジールでは世界に溢れた滅びを抱えて眠りに就いた。
「この魔法の意味は、『あなたの上に天は立つ。全ては極光の元に』……。だからね、これは祝福と、災いなの」
「どういうことかしら?」
 ぱちりと瞬くオデットにマナセは自身が手にしていた古語魔術の書の背表紙を撫でた。
「神様は、全てを白日の元に、っていえばいいのかなあ。何て言うんだろう……。
 正しい人は、祝福されるし、災いはその人の罪を裁くように訪れるの。だからね、ファルカウは斯う言っていたわ」
 マナセは真っ直ぐにイレギュラーズを見た。
「『わたくしも、そしてあなた方も、誰もが報いの日が訪れる』って。
 わからないわ、だって、悪い事なんてしたつもりはないもの。けれど、それが誰かにとって悪い事だったら……」
 マナセは俯いてから困ったように首を振った。
「砂に咲いた華は周りの水を全て奪って、それから美しく咲いて枯れて仕舞うのだそうだわ。
 肉体が石に変わっていく呪いのように。アイオンのお母さんの病気を、ファルカウは『魔女の災い(アーテルロサ)』って呼んでたわ。良く知らないけれど、ね」
 マナセはそれだけ言ってから立ち上がった。
「さて、わたしの話はこれでおしまい! 胤をあげるわ。これをお部屋に埋めて頂戴ね。
 それから、わたしを呼んで。そうすると、道が繋がるから。行き来できるようになったら、案内してね。教えてくれた好きな人を紹介してね。
 それから……わたしともっともっとお友達になりましょうね!」
 マナセはにっこりと微笑んでから胤を皆に配ってから手を振った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 メリークリスマス、祝福が訪れますように。

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