PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Chi rompe paga.

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 アエミリアという娘は実に不憫な女だった。
 孤児院を営む女と、傭兵であった男の間に産まれた彼女は両親の愛を真っ当に受け止めてきたとは言い難い。
 血の繋がらない兄弟は数多く、実母だからと独占することも出来まい。
 身に鞭を打ちながら、拾い子達を慈しむ女の姿は実子であったアエミリアから見れば信じがたい存在だった。
 兄弟達は皆、思い思いに羽ばたいていく。アエミリアが恩知らずと罵ることもあったが「便りの無いのは良い便り」と母は笑うのだ。
「母さん」
 拗ねたアエミリアの頭を乱雑に撫でる母は何時だって優しかった。
「アンタも独り立ちする時が来たんだよ」
 自身は彼女の――マチルダの子だ。修道女となり、孤児院を継ぐと思って居た。
 だと言うのに、引き離されるようにして実父に預けられた。実父も多忙な身の上であった「お前のためだ」と言いながら鉄帝国の私塾に娘を預けたのだ。
 アエミリアからすれば厄介払いも同然だ。『コブ付き傭兵』など動き辛くて仕方が無かっただろう。
「くそったれ」
 アエミリアが呟けば、鉄帝国の私塾のオーナーが困った顔をするのだ。

 ――人としての幸せを学んで欲しい。この子には不幸にならないで欲しい。生きる力を、幸せを、与えて遣ってくれ。

 珍しく頭を下げたスピーキオの事を覚えているオーナーは「そう言いなさんな」とアエミリアの頭を撫でた。
 アエミリアは捻くれた幼少期を過ごし、徐々に大人に近付いていく。
 その最中だ。
 母は病に伏し、亡くなった。
 途方もない喪失感が襲った。学ばねば、母の遺志を継がねば、父が迎えに来たならば稽古を付けて貰おう。
 父が亡くなったという便りが届いた。
 コルネリアという娘がスピーキオを殺したと知った。コルネリア――『家族』の一人だったあの少女か。
 アエミリアはそれ以来、コルネリアを探している。
 母の愛を受け、母の最期を見届けた彼女。父の弟子となった彼女。妬ましくって堪らなかった。
 アエミリアにとっては『血の繋がりしか無かった』家族の在り方が。
 本来ならばその場に居たのは自ら出会ったはずなのにと言う嫉妬に、怨嗟がその身を狂わせた。
 人を殺すことにも慣れた。
 銃弾は容易く人間の臓物を抉り、血潮を吹かせる。呆気のない死に様だ。ざまぁみろ、と口にする度に少女『アエミリア』が死んでいく。

 それでも、アエミリアが正気であったのは彼のお陰だったのだろう。
「ティー」
 呼べば、彼は「ん」と首を傾げ此方を見詰めてくる。
 色素の抜け落ちた髪や眸、特別な何かに愛された証の子供が持つ色だと母が言っていた。
 アエミリアは「兎に似ている」と彼を、ティエーラを可愛がっていた。
「アエミリア」
「何だ?」
「何もない」
 アエミリアにとって『偽物になった家族』よりも、ティエーラの方が落ち着くことが出来た。
 彼女の抱える感情は恋情にもにつかず、家族愛と言うには余りにも陳腐で、型に嵌められぬ物だった。
「ティー、死ぬなよ」
 ただ、生きていて欲しかった。
 ――復讐の旅が終ることが恐ろしかった。ティエーラには言えやしないことだった。
 もしも、復讐の全てが終ればティエーラは自らの罪に始末を付ける。死するつもりだろう。
 共に死ぬだけの勇気も、何もかもを持てぬまま遣ってきた『どっちつかずのアエミリア』。
 母も、父も、そんな彼女の事をよく分かって居たのだ。人として幸せになって欲しい。どうか、当たり前の陽の光の下を生きて欲しい。
 そう願われて育てられた『何も知らない』アエミリア。
 もう、戻れる道は無いのだと、嘲笑うように幾つもの足音がする。
 始末を付けるときがやってきた。アエミリアはゆっくりと立ち上がってから、もう一度言った。
「ティー、死ぬなよ」


 ティエーラは多くは語る事は出来るまい。ただ、タイム(p3p007854)が殺した『暗殺ギルドの一員だった』だけなのだ。
 それでも、彼は家族を深く愛していたのだろう。よくある話だと済ますことは出来ないが、それでも「この世界では有り触れた一つの物語」に過ぎない。
 アエミリアの事を知る限りを語ったコルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)は彼女は『家族だった』と言った。
「それでも、命の取り合いだってンなら容赦はできないね」
「それで、いいの?」
 タイムの問い掛けに「しくじったけど」とコルネリアは眉を吊り上げた。
 殺すならば簡単だ。心臓を撃ち抜けば良い。弾丸一発で全ての因縁と『おさらば』できる。
 だが、それで終いになど出来なかった。俯くタイムは窓際に折り畳まれた一枚の便箋が置かれていることを知る。

 ――アエミリアを助けて欲しい。

 ただ、それっきりだった。
「ティエーラ……?」
 誰が書いたのかは明らかだが、如何すれば良いのかなんて分かりやしない。
 アエミリアは深い怨嗟を抱えている。屹度、ティエーラよりも尚も深い復讐心だ。
 それは実子でありながら全てをコルネリアに奪われたと認識するが故の苦しみに、父を殺されたという復讐心だろう。
 ティエーラの『家族を殺されたからこその復讐』と似ていて、違うのは血の繋がりだ。
 アエミリアは血の繋がりに固執して居るのかとアーリア・スピリッツ (p3p004400)は呟いた。
「あの子、きっと一人になのね。だから……ティエーラ……彼が、アエミリアにとって最後の支え」
「そうなのでしょうね。ティエーラにとってもアエミリアだけ。歪な共存関係です」
 小金井・正純 (p3p008000)から見ても二人は歪だった。
 ティエーラは生きている理由に『復讐』を掲げている。それも、一人ならばどうでも良い事柄のように感じられていた。
 ただ、アエミリアという女の生き方に見せられた。彼がどう感じているのかは分からないが、アエミリアという女が『生きている為』にティエーラは息をしているように思えてならなかったのだ。
「恋人……いや、それでは陳腐過ぎるかな。家族、か……?」
 ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル (p3p008017)の問い掛けにアーリアは「どう、なのでしょうね」と眉を顰める。
「何方にしたって、それは分からないことなのかも知れないわ。彼等しか、理解出来ないことで私達には教えてくれないのかも」
「けれど、この手紙の意図は? アエミリアを救う為にコルネリア君を差し出すことは出来ない」
 マリア・レイシス (p3p006685)の言葉は尤もだ。スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)が「分り合えないのかな」と呟いたのは無理もない。
「どうだか」
 ルカ・ガンビーノ (p3p007268)は何気なく手紙を見詰めてから嘆息した。
「分かり合おうとしたからこそ、じゃないのか」
「そうかもしれないね。ただ……ティエーラさんの出方次第かもしれない。
 あの人が、アエミリアさんの為に生きてるならば、アエミリアさんの考えをどうにかしてあげなくちゃならない。
 ティエーラさんは復讐を終えたら屹度、全てが終わっちゃう。あ、復讐終えられちゃ困るんだけど」
 それは即ちタイムやコルネリアの死であるからだ。
「なら、どうする」
 コルネリアは何気なく問うた。どうしろというのだと、言いたげな眸が仲間を見る。
「会いましょう。会って話さなくちゃ」
「……いざとなれば?」
「殺す事も、結論のひとつ。けれど、まだそれを出すには早すぎるわ」
 復讐なんて、動機がなくなっても繋がっていられることが出来たならば。
 それでも、罪は罪。
 消えぬそれをどうやって背負って行くのか。
 ――全てのけりを付けなくては、行き着く先は見つからない。

GMコメント

●成功条件
 『アエミリア』の撤退
 ※ティエーラの生死は含みません。

●現場
 アエミリアとティエーラの拠点とする廃屋です。
 お天気はとても悪く足場は泥濘、曇天です。雨の中でアエミリアとティエーラは共に立っています。
 雷の音は心地悪く、気分を暗くさせますね。

●『緋色の弾丸』アエミリア
 コルネリアさんの『姉』です。同じ孤児院で過ごし、コルネリアさんの養母マチルダと師匠スピーキオの実子ではありましたが鉄帝国に預けられました。
 コルネリアさんが『スピーキオを殺害した』と認識しています。アエミリアがちょっとした偶然で出会ったティエーラは彼女の現在の相棒です。
 何方も家族を失った者同士。互いに同じ目的を抱いた『相棒』になってきているのかもしれませんね。
 彼女の抱くティエーラへの気持ちは形容しがたい物です。ですが、彼が居なければ行く先は見つかりません。
 頭が硬いところがありますので、アプローチをするならばティエーラから、かも知れません。

●『紅色の眸』ティエーラ
 幻想スラム出身の暗殺ギルドで育てられた青年。魔術の素養が強く、数々の暗殺を熟してきました。
 ある時、アエミリアとタッグを組んでの依頼を任され帰宅するとローレットによってギルドが壊滅させられていました。
 その際に聞いたのがタイムとコルネリアという名前です。実の親のように愛していたギルドオーナーを殺したローレットに恨み辛みを重ねています――が、因果応報とは思って居ます。
 ティエーラには家族は居らず、自身をティーと呼ぶアエミリアは本当の家族のような存在になってきてしまっています。
 ティエーラにとってアエミリアは唯一です。彼女を支えているという自覚はあります。
 ただ、己は復讐を終えたら生きている価値がなくなるので死するつもりです。アエミリアを大切に思いながらも、何か支えがないと苦しいのです。
 和解の道があるとするならばティエーラが納得する未来を導き出すことです。
 どの様に声を掛ければ良いのか、考えて上げて下さい。実感のこもった言葉ならば響きます。
 彼はバカでも無く、思い込みが激しいわけでも無く、ただ、寄る辺を失っただけなのです。
 無理なら殺せば良いのです。そういう、仕事ですから。

 ○『かつての依頼』
 とある貴族令嬢の依頼で父親を殺した暗殺ギルドを壊滅させて欲しいという依頼が舞い込みました。
 ローレットが暗殺ギルドを壊滅させた際の依頼に『参加している』設定で皆さんは動いて構いません。
 ※コルネリアさんとタイムさんは参加しています。その他の参加者の皆さんはその依頼の同行者であって構いません。

 二人達は本当に家族を殺した存在への復讐のために動いています。それしか、今の生きるよすががないからです。
 その復讐心を無くすのか、それとも、復讐心を燻らせ殺すのか。その判断を下すためにも対話は必要でしょう。
 理由無く人を殺す事も出来るかも知れませんが、それは大きな罪のように今は感じられるでしょうから。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さいね。
 コルネリアさんはアエミリアについて深く知っていても構いません。それを仲間に話しても大丈夫です。

  • Chi rompe paga.完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年12月31日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ


 助けてくれ、だなんて都合の良い言葉だっただろう。
 その言葉を吐いた許とて、誰かにとっては仇である。無秩序な生き方をしている。吐いた唾は飲み込めない、己の罪は己が背負うべき。
 それが傭兵として――いや、人殺しとしての道理であると『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は知っている。
 それでも、だ。届いた手紙を一瞥してからルカは己も大概お人好しなのだと頭をがりがりと掻いて嘆息した。
 人に頼らず自分でなんとかするべき事であろう事は理解もしているが、助けを求めただけ上出来とさせるべきだろう。そこまで無慈悲になるつもりもない。
「だから、此処まで来たのよ」
 胸に手を当て、静かに息を吐いてから『女の子は強いから』タイム(p3p007854)は笑った。
 稲妻は地を打ち叩く。その気配に寂しくなった肩口に指先をやってから『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は静かに息を吐いた。
「はぁ、それにしても嫌な天気だし髪もじっとりしちゃう。……ねぇ、タイムちゃん。髪ボブにした私とかどう思う? ふふ、もしもの話よ」
「アーリアさんのボブ、きっと似合うと思う、けど……どしたの、急に。バッサリ行くつもり? ならわたしが切ろっか?」
 これでも、得意なのよと揶揄うように弾むタイムの声音に「どうしようかしら」と目配せをしてからアーリアは目を伏せた。
 稲妻は、響く。雷鳴は地を揺るがして居る。それがまるで、眼前の女の心模様のようだとさえ思えてならないのだ。
「のうのうと殺されに遣ってきたか」と女は云った。歯を剥き出し、目を見開き、憎悪を滲ます黒い髪の女。その顔を見るだけで、彼女が抱えた憎悪など痛いほど。
『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は苦い思いを噛み締めて飲み込むことしか出来なかった。
(どうしてなんだろう)
 スティア・エイル・ヴァークライトという少女は恵まれた家庭環境とは言えない。貴族であろうとも家族は死に耐え、唯一の血族が叔母のただ一人だ。
 叔母はスティアの助命を嘆願するために家族をも切り伏せた。スティアにとっての仇であれど、許し合い分かり合うことが出来て居る。だからこそ――
(お互いを想い合っているなら、復讐なんて。そんなこと。
 ……どちらかが欠けるかもしれない。そう思った時に手が止まりそうと思えるのに、だからこそ今のこの状況になっているのかな?)
 理解なんて、してやれそうになかった。スティアと『彼女』は違うから。スティアと『彼』も違うのだ。
「やあ、話をしに来たんだ。むざむざ殺されるつもりはないからね」
「そんなことが罷り通ると思うのかい」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は手負いの獣を女に重ねた。牙を剥き出したかのように見える彼女にマリアは肩を竦める。
「理解している、と言えば怒るだろうけれどね。愛する者を奪われるというのは、身を裂かれるような思いだろうさ。
 たとえ自分や自分が愛した者が、他人の愛する者を日常的に奪っていようと、きっと理屈じゃないんだろうね。
 君達の悲しみや怒りは否定しない。……だけど、遅かれ早かれ君達の内の誰かが罰を受けていただろう。それだけのことをしていたんだから」
 引き攣った息を呑んだティエーラを庇うようにアエミリアが立った。アエミリア、その人はコルネリアの『姉』だという。
「アエミリアでしたね」
『ただの女』小金井・正純(p3p008000)は静かに声を掛けてから「一先ずは銃を下ろしていただいても?」と問うた。
「何時だって、お前達を殺せる」
「ええ、それは何方も同じ。なら、少しだけ時間をいただいても? この場に来たのもティエーラからのお招きです」
 正純はちら、とティエーラを見た。何処か気まずそうに目を伏せる青年にアエミリアはそれが真実だと理解してから銃を下ろす。
 その仕草だけでも良く解るではないか。彼等の間には信頼がある。かけがえのない存在とも言える。ならば、復讐という手段を取らなくとも良いだろうと正純は考えて居た。
 その先に続く未来を彼等はどう考えているのか――屹度、それによっては、下す手段は変わってくる。


 復讐とは、何を失ったかを測る事の出来る基準のようなものだ。それが何れだけ大切であったかを言葉の外で告げて居る。証明でしかない。
 失せ物の大きさは心に穴を開けるだけであり、それをどうにか埋める為に宛がった無理な理由に敢て名を付けたことが復讐なのだ。
(復讐を行なったならば、その心を埋めるものなどないのだろう。終ってみて、何も得れないと悟るか、それとも何かもっと別のもので埋まるのか。
 ただ――その過程で得た大切なものというのは心の穴と形が違うのだ。だからこそ、彼等は復讐を選ぶ、銃を手にして呪文を唱えるのだ。
 それが、私の思い描く復讐だ。ただし、それは私の中でだけだからこそ、千差万別な復讐というものに敢てラベルを貼ることは出来まい)
『薄明を見る者』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が静かに息を呑む。己の口からは復讐を止めろという言葉は出やしなかった。綺麗事だと思い込めば、対話をする為の武装さえも我楽多に思えてならないのだ。
 だからこそ、ブレンダは「コルネリア」と呼んだ。傍らの女の顔は、常とは違ったようにも見えたからだ。
 土砂降りの雨が女の頭のてっぺんから爪先までを濡らして行く。『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は俯きながらも息を吐いた。
 なんて、都合の良い言葉を吐くのだ。この場の誰もがそうやって乞うた相手に手を掛けて今がある。コルネリアもアエミリアも、同じだけの罪を重ねてきた――いや、そんな物を同じだなんてどう言えようか。どうせ、互いに何れだけ手を汚したかなんて、自分たちでしか分らないのだから。
「アエミリア」
「コルネリア……ッ」
 呼ぶ。名を呼んだだけでひりつく気配がした。コルネリアは銃を構えていない。アエミリアとて、そうだった。
「今から話すのはアンタが欲しい『理由』だよ。信じるか信じないかは置いて、知らないというのはフェアじゃないだろうから」
 ――全てを取りこぼしたのは、間違いじゃないのだ。その小さな手で何が出来ただろうか。何も出来ないだろう。コルネリアとて『同じ』だ。
 選ぶ事が出来ずに零してきたのだ。義母の病には何も出来ずに見ていただけのアエミリア。父親はコルネリアの手によって命を落とした。
 知らぬ間に全てを失って、その側には何時もコルネリアが居た。すげ変わったと。娘の立場を『盗られた』と思い込む彼女がやり場のない悲しみと怒りをコルネリアという女にぶつけるのは屹度、致し方がないことなのだ。
 話ながらも、アエミリアを見た。女の瞳はそれでも敵意に満ち溢れている。
「何よ。だから何だってんだ」
 ――そうだ。当たり前だ。『コルネリアを殺す』事で無念を晴らすのか? 悲嘆の中で何をすべきか、縋る場所を探しているのか?
「お前がアタシから奪ったんだろ」
 ――そう言って、殺すしか選択肢がないのだ。それを受け入れる事はコルネリア=フライフォーゲルには出来まい。そんな楽な死に方など出来やしないのだから。
 ティエーラは静かに聞いていた。アエミリアは俯いて手をぶるぶると震わせている。
(うん、そうだよね……聞いたって、考えたって、それでも納得できる答えに落ちるのは難しいのかも知れない。
 どういう状況だって殺めた事実は消えないのだから……納得のいく結論にならなければ、復讐を止めて生きる未来なんてない)
 スティアはゆっくりとティエーラを見た。ティエーラさん、と呼び掛ければ青年はのろのろと顔を上げる。
「復讐は何も産まないよ。仮に成功したとしても今度は追われる立場になるだけだから……。
 もしアエミリアさんが大切であれば終わった後の事も考えた方が良いんじゃない?
 とはいえ、そのままでは気が済まないって事であれば話し合って納得できる形を探せば良いんじゃないかな……。
 ちなみにティエーラさんは終わった後の事って考えてるの?」
「考えること何て、できやしないよ」
 呟く声を聞いてから「そうよねえ」とアーリアは苦い笑いを浮かべた。復讐なんてものは、きっと言葉にも出来ないものだ。
 復讐は何も産まないとスティアは言ったがアーリアはだから悪いのだとは糾弾で来やしないのだ。
(うん。彼等にとっては――いいえ、私にとっても、綺麗事なのよ。だって、小さな私が力を持っていれば、きっと今頃は、騎士様を殺していたわ。
 その後は返り討ちで死んでいるか、裏路地の娼館にでも逃げ込んで知らぬ客の子を産んでいれば上々だったでしょうし)
 アーリアは静かに息を吐いてから肩を竦めた。「でも、ティエーラくんは『助けて』って言えるもの。えらいわね」と。
「……偉くはないよ。自分なんて、どうでもいい」
「そうかもしれないけれど、一人で抱え込んで、何処までも沈んでしまうのは一番簡単で、一番救いようがないの」
 アエミリアのためを思ったのだろう。タイムはそんなティエーラを眺めてから小さく笑みを零す。
「わたし達を襲撃してきた時、アエミリアさんとコルネリアさんが撃ち合った時、わたしだけじゃなく、あなたも間に入っていた。
 あの時にティエーラさんにとって何が大切か、気が付いたんでしょう? その大切なものの為に、復讐心を捨ててもいいと思ってしまったんでしょう?」
「……」
 青年は黙りこくったままタイムを見た。いけないのだ。その先の言葉も、その先の『未来』も夢になど見てはならない。
 スティアが言った『先のこと』なんて考えてはいけないのだ。だって――復讐こそが二人を繋いでいる。血よりも深い絆だったから。


 酷い雨の降り荒む中でブレンダはまじまじとその様子を眺めて居た。なんと言葉にするべきか、その唇が紡ぐことが難しかった。
(……復讐か。復讐が悪だと、そう言ってやれればどれ程に楽か。
 きっと私も大切な何かが奪われれば己の総てを賭しても復讐に走るだろう。そう確信できる。
 ……その上で私は未だなにも失くしたことがない恵まれた立場だ。彼等とは違う。だからこそ、そんな者の上面だけの言葉を彼等に投げ掛けるなんて、きっと恥知らずなのだろう。
 ――騎士を名乗る私が剣を振るう理由がない、ただのブレンダが口から出す言葉がない。
 ここにいるのはただの部外者。彼女たちの心の痛みがこれっぽちもわからない恵まれた者でしかないんだ)
 唇を噛み締めた。コルネリアがどう言う道を選ぶのか、それだけが気に掛かったのだ。
 戦わねばならないのだろう。屹度、そうするしか無いのだ。ルカは「おい」と静かな声音で呼び掛けた。
「ティエーラ、お前はなんで自分で説得しねえんだ?」
 ティエーラがアエミリアに何か言葉を自ら伝えたならば解決だって近いはずだろう。だと、言うのに彼は動かない。
「アエミリアを助けて欲しいけど、自分はどうなっても良い。復讐を辞める気はねえって事か?
 そいつは随分虫が良すぎる話だ。それでも何もしねえよりはずっとマシだが。
 ……アエミリアだってお前がいなけりゃ希望なんて持てねえだろ。アエミリアを助けたいなら生きろ」
「僕がアエミリアの復讐を手伝うしか、出来ないんだ。自分はどうなっても良いに決まっている。
 だって、そうしなければ、僕達は一生同じ苦しみの中で泳ぎ続けるだけになる。履き潰した靴を買い換える自信が無いんだよ」
「それはどう言う」
「……変化って、恐いんだ」
 ティエーラはそっと腕を擦った。変わってしまえば、どうなってしまうのか。タイムは「ばかね」と嘆息した。
「彼女との絆が復讐心だけだなんて。本当にばかなひと。わたし達には言葉があるの。伝えなくちゃ伝わらないわ」
「ええ。本当に……ティエーラ。変わらず、ローレットへの敵愾心や復讐心は残っていらっしゃるのでしょうか。
 まあ、一朝一夕で忘れられるものならこんなことにはなってないのでしょうけれど。
 ただ、その気持ちだけではないから、あんな手紙を送ってきたのでしょう?
 ……貴方が死んだら、彼女は絶対に幸せにはならないし、助かりませんよ、あれ」
 あれ、とはアエミリアのことを指していた。ティエーラは正純が指し示したことに気付き息を呑む。
「貴方は女の情念ってやつを甘く見てる。自分がどうにかなってもあの人なら大丈夫はマジで事故りますよ?? ね、タイムさん。分かりますよね」
「ん、そうよ、正純さん。
 自分の気持ちに気付かないフリして、伝えるべきを伝えられず大切な人を目の前で失うなんておばかさんよ――それは嫌でしょ?」
 タイムがこてりと首を傾げれば、ティエーラは「僕に女がどうとか、分らないよ」と呻いた。
 ああ、本当に不器用な人ばかりなのだ。『己がティエーラの復讐の相手』であることを理解しながらもタイムは真っ直ぐに向き合う。
「わたしにとっては暗殺ギルドは無責任な殺人集団だった。
 でもティエーラさんにとっては家族……大切な家族の命を奪ってごめんなさい。
 だからこそ、わたしはアエミリアさんがティエーラさんにとって大切な人だったら、失わないように、止めて欲しいと思うわ」
「君を殺せやしない僕は生きてる意味も無い、アエミリアを止める事も出来ない。」
「ええ。そうね。死にはしないわ。復讐は果たせない。その上で、……ひとつだけ、聞いて。
 生き方がわからないならわたしが教えてあげる。ここからずっと遠い場所に、わたしが領主をしてる土地があるの。
 あなた達の素性を隠して、誰も殺す必要もなく、静かに暮らせる――自給自足の生活する人達が住む場所よ。どう?」
 生きようと思えばどこでだって生きられるのだとタイムは手を差し伸べた。ティエーラは俯いたままだ。
「だから、彼女を助けたいなら貴方が彼女とどうしたいかを決めなさい。どんな先を掴みたいのかを決めなさい。
 その結果で、それでも復讐をするって言うなら相手になります。ただ、そうでないなら未来を掴むお手伝いはしますよ」
 正純は真っ直ぐに、ティエーラを見る。青年はそれでもまだ、俯いたままだった。マリアは向き直る。
「君達はまだ生きてる。憎しみを忘れることは出来ないかもしれない。
 けれど、失った愛する者の分も生きるつもりはないかい? 君達二人が一緒なら、それも可能じゃなんじゃないか? お互いに大切に思っているんだろう?」
「お互いに?」
「ああ、そうだ。お互いにだろう。私はもう争いはうんざりさ。もう十分に争った。本当に必要に迫られない限り争いたくはない。
 勿論、私は出来ることなら君達とも争いたくはない。友人の身内でもあるようだしね……。
 争う前に君達のことをもっと知りたいし、話し合いたい。争うことなんて、いつだって出来るんだ。道だって示せる!」
 マリアは唇を震わせ声を張り上げた。コルネリアが為したいならばそれを見届ける。タイムだって無理をしないで欲しい。
 皆で食事でもして、先を話せるだろう。愛情も、恨みも、悲しみも否定はしない。どんな悪人だろうと、喪った人は愛を等しく持っていた。
(――殺し合うなんてしたくはない)
 スティアは「ねえ、二人とも、未来を思い描いてよ。そうじゃなきゃ、戦ったって、その先はないよ」と首を振る。
「アタシが?」
「そうだよ。アエミリアさんもティエーラさんも『私達を殺した後』如何するの?」
 突拍子も無い事を言ったスティアにアエミリアが思わず固まった。ゆっくりと振り返った女を見てからアーリアはからりと腫れたように笑う。
「本当に殺してすっきりするなら、殺してみちゃえば?
 ほら、二人ならパンドラもあるし、ちゃっかり生きてるかもしれないし……。
 それに、ハナから殺す気なら――もう、会話なんてしないで殺せばよかったじゃない」
 アエミリアの身体が固まった。コルネリアはゆっくりと銃を構え、女を睨め付ける。
「銃を構えなアエミリア、盛大な姉妹喧嘩といこう。
 アンタはここまでの話の中でわだかまりは取れたのか? ――そんなこたぁ無いだろう。
 アタシ達は自分と同じく誰かにとって大事なモンを奪ってきた。善も悪も等しく。
 事情有る無しなんて関係無く殺してきた。殺す気で来な、アタシもそうするからさ」
「アンタとは、分かり合いたくもなかったわよ」
 アエミリアは呟いた。そうだ、『分かり合っちゃ』いけないのだ。
 タイムが己と彼女の間に滑り込んだときに、ティエーラも居た。その姿にティエーラとの疑似家族としての愛情だろうが、依存だろうが、そこに『家族』としての繋がりがあったことを認識して心が揺らいだのだ。
(は、バカみたいだろ――)
 殺すつもりで居たのに、救う方向を考えた。そうするには一時の言葉なんかじゃ取り払えない。
「アエミリア」
 ティエーラの声が響く。
「ティー!」
 アエミリアの怒号にティエーラの身体が固まった。邪魔をするなとアエミリアは告げる。弾丸がアエミリアの頬を掠めた。
「コルネリアッ!」
 アエミリアの弾丸はコルネリアの脚を穿つ。呻く声、其の儘、視線が下がるが――まだ、引き金に指先は添えられていた。
 姉妹喧嘩その言葉にマリアはお姉ちゃんか、と呟いた。会いたい。けれど、会えやしないその人を思い浮かべた。
「アエミリア……」
「そこまでだアエミリア。それ以上やるならコイツを殺すぜ」
 ルカはティエーラの腕を引いてからその頸筋にナイフを押し合えてた。アエミリアがその身体をぴたりと固めて唇を噛む。
「冗談だ。俺は殺さねえよ。だけどティエーラは復讐を果たしたら死ぬつもりらしいぜ?」
 アエミリアは目を見開いてからティエーラを見た。コルネリアの銃はアエミリアの脳天を目掛けている、が、指先はまだその引き金に添えては居ない。
「それとな、コイツはお前の事を助けて欲しいって俺達に頼んできやがった。仇である俺達にな。それがどれほどの事か、お前には誰よりわかるだろ。
 アエミリア、テメェは新しい家族を殺してでも復讐がしたいのか」
 家族とアエミリアは辿々しく紡いでから、ティエーラの目を見た。ルカがその背を押す。
「タイムの領地に行かねぇなら俺の傭兵団でも良い。だが、誰も知らねえところを歩いてみるのも良いだろうよ」
 その言葉を胸に、ティエーラは「コルネリアなんて、知らないって云ってくれ」と呟いた。
「その人が家族なら、アエミリアは苦しみ続けるだろう。僕は、生きていく寄る辺に、君を選んでも良いんだろうか。
 僕には何もない。けど、アエミリアにはコルネリアが居たから……僕は、君の邪魔をしたくはなかった」
 二人に蟠りがなくなれば、屹度家族にもなれるだろうというバカみたいな夢を抱いていた。
「ばかだな」
 アエミリアは目を伏せてから首を振った。
「……ずっと、アンタしか居なかったよ」
 盲目になって追い求めたコルネリアは他の場所を見ていて、それだけで、絶望したのだ。
「屹度、アタシはアンタを殺せない。だから、もう二度と会わないでくれ」
 アエミリアは喘ぐようにそう言った。
「『お姉ちゃん』」
 コルネリアはゆっくりと銃を下ろした。今、殺せば良かったのに。
「面倒なところだけ、似ちゃったね」
 ――雨はまだ止まない。

成否

成功

MVP

ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。

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