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シナリオ詳細

<神の王国>降下してくる巨大天使が爆散する前にぷっしゅうさせる急ぎのお仕事

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 空をごらん。
 天使が下りてくる。
 誰かがそう言って指さした。
 大きな頭に小さな体。ふくふくとした短い手足。姿かたちは、ハイハイを始める頃の赤ん坊のよう。
 肉付きのいい頬。突き出した唇。愛されるた目にそうなのだと言わんばかりなのに。
 ――どうしてこうも、まがまがしいのだのう。
 神の手による造形を愛せないお前が悪いのだ。と、糾弾してくる圧さえ感じる。
 釣り合いの取れていない不揃いな羽の間から別の骨格が捻じ曲がるように生えていて、なんでそれで飛べるのかわからない。
 頭髪はなく眉毛もなければまつげもない無機質な肌の表面は医療用ラテックスのように無機質にのっぺりしている。
 天使が下りてくる。
 丘と見まごう巨体を揺さぶりながら、体側から生える無数の小さな――若木のような手足をばたつかせながら。
「――あああああああ――ぐるああああああああああ――っっっ!!」
 何かをしゃべっているのだろうか。赤子の喃語だろうか。神を讃えているのだろうか。
 ああ、でもその一音一音が大気を揺るがし、踏みとどまることもできない。地面に這いつくばることしかできなくなる。
 幼い日に読んだおとぎ話。
 巨人は死んで大地になりました。
 その巨人が赤子ならこんな風だったのだろうか。
 ああ、いや、そんな世界。まがまがし過ぎて、ご免こうむりたい。


「世界を塗り替え、塗り潰すなんてね。そうそうできることじゃないんだよ」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、薬草茶をがぶ飲みしている。
「それの達成目前。でもさ。その達成間際でステップ踏み外して奈落に真っ逆さまなんてのはよくある話。そうなってもらわなくちゃならないから、自分ができることをできる範囲でしよう」
「『冠位傲慢』ルスト・シファーの権能の大部分は『理想郷』に割かれている。神の御業と言えば『天地創造』・『生命の息』? そして「エラバレタユウシャ」に『知恵と言』を与える事も、ね」
 とってつけたようなアクセントに情報屋の煮えたぎっている胃液の熱さを感じる。
 実際、権能を分け与えられた「エラバレタユウシャ」――遂行者が各地に現れている。という。
「この遂行者を楔にして、自分の権能で世界を覆うつもりでいる――ってところに付け込もうとしてるのがこの作戦。その遂行者を各個撃破して制圧し、そこから滅びに立ち向かえるだけの『可能性(パンドラ)』を流入することで『神の国』の崩壊を手繰り寄せる」
 え~、倒せるじゃーん。ヒトが倒せるってことは神じゃないんじゃないの? を、積み重ねるのだ。
「それをどうやるかって言うのは簡単。『神の国』と『混沌各地』の両方から攻撃を仕掛け、ルストの権能を打ち破ること」
 両面攻撃だ。
「神の国内部であれば『死ぬ事の無い』という制約を課しているからこそ外には姿を見せない男を引き摺り出すことが目的。神は『盟約』により『神の国』では決してその命を落とすことはなく、自らの受けたダメージを他の何者かに与える事ができる。んだと。なにそれ、迷惑極まりないな。いいのか、それで。崇拝者ならありなのか。肉壁か」
 メクレオが手元の資料を見ながら唸っている。
「つまり、各地で神の国に綻びを作り、肉盾をはがし切って、ルスト本人が表舞台に出てくる事で全面対決を行なう段取りを組もうってことだ。ここまでいいか?」


「さて。信仰心とかさっぱりわからない門外漢の俺の担当区域はこっち側。もうルストの手駒は全部潰す。子飼いはもちろんのこと、傭兵も潰す。冠位傲慢勢力とは、最早『一蓮托生』になってる綜結教会も一緒にすりつぶす。漁夫の利取られたら目も当てられないからな。実際、遂行者テレサ=レジア・ローザリアから滅びのアークを付与されてるから対処せんわけにもいかんのよ――あ、資料めくる前に言うが、だいぶ見た目がぐちょまぜなので繊細な奴は一呼吸おいてから確認してくれ」」
 ヒトには異物をでたらめにつないで遊んだとしか思えない――作った奴は正気でなかったと思いたい代物だった。
「それが、小さな丘サイズのでっかい赤子が空からべこぼこと降ってくる。ラサの大地に。そして、新たなる理想郷の種となり――ルストの支配勢力が広がる――あれだ。飛行船爆弾だ。図体の割には紙装甲なので、こう、いいのが入ればぷっしゅううううううと行く。被害も極小。精々砂漠がえぐれて砂柱が立つくらい?」
 幻想の都市とかが標的でなくてよかった。
「ただ、ちょっと数が多い。コレッくらい」
 と、手をぱあっと広げた。
「これが地面に激突したら地獄だ。爆発し、辺り一面おぞましいものがまき散らかされる。だから、今回欲しいのは、目標に素早く接敵できる機動力! もしくは超遠距離攻撃手段! 飛べればなおよし! 一人でやる必要はなし! 火力担当を運ぶリガーがいればいいんだから!」
 アクセル全開、フルスロットル、ニトロバーストでよろしくお願いしまっす!

GMコメント


 田奈です。
 空から降りてくる化け物が地面に激突する前にプッシュルルルルさせるお仕事です。
 飛び回ってぶんなぐっても、一歩も動かずスナイプでも、圧倒的魔術でぶち抜き貫通してもらっても構いません。砂漠なので。

*場所:ラサ・荒涼とした砂漠。昼間‣晴れ・無風
 何もありません。まっとうな遊牧民はとうに避難しています。存分に派手にやっていただいて結構です。

*敵:超巨大量産型天使(全長25メートル)×10
 綜結教会の技術者が気まぐれで作った量産型の派生体。
 元が量産型なので戦闘技術に優れてはいませんが、質量は武器です。
 赤子を悪意を持ってデフォルメしたものにデタラメに継がれた廃物やほかの獣などがとにかくおぞましく、発する奇声は構えを崩し、集中を欠かせる点に留意が必要です。
 内部に大量の可燃性ガスが注入されていて、地面に激突すると爆散。量産型天使を構成する良からぬものが四散します。
 爆発前にガスを抜くことに成功すると逆に凝結し、無害のまま処理することができます。
 ガスを抜くには、一定のダメージを与えることが必要です。観察すれば効率的な場所が見つけられるかもしれません。
 落下速度は、遅々たるものです。ですが、傷が入るとガスの噴射で速度が上がるので、どういう風に攻撃するか
 パーティーメンバーによって得意分野があるでしょうから、相談することが肝要です。

  • <神の王国>降下してくる巨大天使が爆散する前にぷっしゅうさせる急ぎのお仕事完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
もこねこ みーお(p3p009481)
ひだまり猫
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ


 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が指さした。
「あれが――『天使』?」
 空から飛来してくる何かの詳細がわかる程度に接近したイレギュラーズの第一声はほぼ同じだった。
「酷い見た目ですわね……」
『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)のあちこち包帯と添え具とギプスでぎちぎちに固められた姿もなかなかに痛ましい見た目なのだが方向性が違う。
「なんともまぁ、醜悪なモノを落としにきたものだ……!」
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、脆弱な個所を早々に発見しようと互換のすべてをギリギリにチューニングして微に入り細に入り観察しているので尿場が自然険しくなる。設計理念など理解したくもない。
「――何かしら、破綻が生じている個所がある筈。生物と無機物の境目のような、生体として融合しきれない箇所が狙い目か?」
 血管とも蛇腹ホースともつかないものが刺さった肉瘤からびしゃぶしゃと分泌液が垂れている。
「まあ天使って伝承によっては恐ろしい姿だったりするけど……これはちょっと嫌なのだわぁ……」
『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の語尾が切なく消え入る。
「あぁあ……でも、よく見ておかないとなのだわ……」
 弱点を探し出し、できれば意識的にかばっているところを探り当てられれば最高だ。
「――――」
 口に出すのもはばかられるビジョンを見てしまった『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は仔細は口を閉ざした。
「まあそれ程グロテスクってことだね。うん」
「あれ天使とか呼びたくないですにゃ……怖いのですにゃ……」
『ひだまり猫』もこねこ みーお(p3p009481)の二本のおしっぽがぶっとくなっている。
「それな!」
 彩陽は、食い気味に声を上げた。
「天使ってもっと神々しいもんやろー……? さっさと倒してまおー……」
「面倒そうな敵ではあるが、この程度、皆で戦えば怖くなどない」
 『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)も、衣服の隙間から見え隠れする包帯と薬液のにおいがなかなか壮絶だがそこには頓着していないようだ。
 更に、天使の外見も特にまがまがしさなどに悪影響を受けているようにも見えない。
「さあ、いくぞ! この貴族騎士に続け!」
 どちらかというと、二つ名にふさわしくあらんとする方に意識が行っているともいえる。
「これを元に理想の国を作り出そうとは趣味が悪い」
 赤い砂と共に生きてきた『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、鼻で笑った。
「ただ、何でも砂の下に沈めるのがこの国さ。赤子もどきも砂に沈めばきれいさっぱりだろうよ!」
 広大な砂は偉大だ、すべてを飲み込み、すべてを隠す。
 イレギュラーズの仕事は砂が飲み込みやすいよう、いい感じにすることだった。勝手に爆発四散の上、災いを撒き散らかされる前に。


 生体と断じるには均一的で、機械と呼ぶには生々しすぎる。
 げぶげぶと逆流する分泌物だか機械油だかわからない液体が、血管だかパイプだかわからない管の継ぎ目から漏れているのを狙わない手はなかった。
 青い空にラダの青い飛竜が飛ぶ。飛竜の頭に似ているからとつけられたものの別名の略称が飛竜につけられる。鳴き声が異界の渡り鳥に似ないことを祈るしかない。
「――高度が低い敵が比較的多い側から攻めていくか」
 どの天使が先に地表に激突するか。風の影響でいくらでも変化しそうなこの高度ではもはや勘に頼るより他はない。
 怒涛のように襲ってくる敵軍のどの牙が突出してくるかにさも似たり。空と大地の差はあれど、それこそ勘がものを言う局面だ。
「何というか派手な相手だが、対処は地道だな」
 ラダのつぶやきに同意するように、飛竜が小さく泣いて大きく旋回する。鳥のようには聞こえなかった。
 チリ。と、殺気の余波を感じて地上を見下ろす。自分に向いているものではないのは百も承知だ。
 地上では、汰磨羈がすでに構えに入っている。狙いは同じ個体のようだ。巻き込まれない位置に入る。
「仙狸厄狩さんは最優先なのだわ」
 汰磨羈の頭上を白い翼が滑空していく。華蓮の祈りに女神が追い風を送り応えた。
「あんなモノの着弾など、決して許してなるものか」
 汰磨羈の厄狩りとしての勘が、ガンガン警鐘を鳴らしているのだ。
「アレは全て、跡形もなく消し飛ばすぞ!」
 あれは厄を生むために潰れる熟れた果実のようなものだ。
 消し飛ばした後、ここは醜悪な天使の残骸によって不触の地となるだろう。その間に穢れた苗床からいびつな摂理が紡がれ、気が付いた時は手が付けられないモノが芽吹いているのだ。
 触れれば爆ぜる厄を撒くイキグサレ。
 自身に魔神の一部を降ろし、その魔力を放つ。魔人と汰磨羈がつかの間混じり、練られた力が天使を穿った。

 光の柱が伸びるのを大きく迂回し、ラダは自分の獲物を見定めた。
 地上に近いものは地上班へ。それ以外の――現時点で一番高度が低い敵から攻撃だ。
 下から潜り込むようにして、銃使いにあるまじき確実に殺すための一撃を繰り出す。未完成の技、どうしても負荷を逃がし切れない。
 明らかにどこかの筋を違えている鈍痛を感じつつも、銃口を深くえぐりこませて引き金を引いてやる。
 内部で爆ぜた手ごたえに、次の一撃でどこを攻撃しようか思案を巡らせる。
(この手の奴は継ぎ目が脆かったりするものだがどうだろうな。或いは、特定の廃物や獣だろうか?)
 次から次へ。アタリを引くまでは手数が重要だ。どんどん殴ろう。商売も討伐もまずは先方の反応を見るところからだ。
「赤子相手には気が引ける行いだが、これだけ異形だと罪悪感ないな。それだけは感謝しよう」


「地上に辿り着かれるまでが勝負でございますわー!」
 これと定めた量産型天使の落ちる先には、赤々とした血溜まりが待ち構えていた。
 血溜まりの横で雲雀がヴァレーリヤに手を振っている。準備完了。
 絶妙のタイミングで血だまりから湧き上がる冷気が量産型天使の鼻先をとらえた。
 手綱を幾重にも巻いた上で突き出されたヴァレーリヤの手指の前に、主の御手が現れる。すなわち、それは炎の壁であり、ヴァレーリヤの障害を払い、その一撃を鼓舞するものである。
 一挙手一投足から異端を選り分ける審問官のように、巨大な天使の脆弱個所を見透かし、デタラメに継がれたとしか思えない接合箇所のガス漏れ音を聞き分ける。
(可能な限り、地上に向いている部位や、水平方向の部位に穴を開けるようにすることで、ガスの噴射で地上に落ちる速度が極力上がらないようにしたいと思っていましてよ!)
 空中でワイバーンに騎乗しながら。過酷もいいところだが、それに慣れ、なおかつ、ひどい状況になればなるほど気力が充実するヴァレーリヤにとっては我知らず声が跳ね上がる。
 優雅な曲線を持つ――高級酒のボトルと言っても通用しような――メイスが城と橙をねじり合わせた色合いの炎をまとう。
「――どっ」
 皮一枚えぐるアッパー気味のヒットアンドアウェイ。
「せえええええええええええええええいっ!」
 ばふんと、何かが抜ける音がした。巨大な赤子がしぼみながら加速する。べわけべあやと、余った皮が上昇気流に煽られてはためいた。
 砕け散る、突き出た足やらはねやら機械部品やらを血溜まりは一切の別もなく飲み込んだ。
 ぞぶりずぶりげぶり。
 禁術・大紅蓮蟻地獄。あまりに冷たすぎて皮膚から噴き出す血が赤いから大紅蓮。どこかの世界ではそんな風に名付けられた。
 あふれる赤がみな飲み込んでトプリと。
「ナイスフォローですわ! では、後はお任せいたしますね! 次はあれの相手ですわ!」
 ヴァレーリヤがすっとんでいく。雲雀もゆっくりはしていられない。何しろ次々落ちてきているのだ。
「でも、死ねないんだよね、この術だけでは」
 絶対逃がさないのに特化してるから。雲雀は
「寒ければこの天使っぽい何かが泣き疲れるのも早まるんじゃないかとおもったんだけどな……いや本当に騒音なんてレベルじゃないんだけど!」
 なんかやられてる気がするが、歯を食いしばってやり遂げるのだ。
 赤い星が、往生際が悪い腹を突き通し、もう一回背から別の穴をあけ、天使はようやくおとなしく新たな血だまりの材料になった。


「よし、順調だ。次に行くぞ、ホワイトバスター!」
 名家の調教を受けたワイバーンにはそれぞれのメソッドが浮き彫りになる。いわんや、シューヴェルトの呪いに反応するこの白い飛竜の加速度は、生半可な乗り手では体が付いていけずに気絶して落馬ならぬ落竜することになるだろう。
 しかし、シューヴェルトにその心配はないどころか、巧みにその鼻先を操り、地上班が獲物に困ることのないように高度調整に心を配った。
「いい感じで来ますにゃー」
 シューヴェルトの駆る白い竜が攻撃対象の目印だ。
 広大な戦闘域をフォローしうる視界を持ったスペシャリストがそろっている。
 そしてふわふわもこもこのにゃんにゃんも例外ではない。
 あまりにも量産型天使がうるさいのでお耳はぺったり気味だが貴族騎士の号令を聞き逃すほどではない。
 丁遠方狙撃に特化された古式ゆかしい狙撃銃。ラダなら砂漠の市で見たことがあるかもしれない。
「どっちにしますかにゃー」
 相手の装甲を無視するのと、絶対殺すのと。どちらにも長所短所がある。気まぐれにゃんこの気持ちは揺れ動く。おしっぽの振れ具合で決まるのだ。
「撃つのちょお待ってやー! 先にこっちの撃つよって。巻き込まれんように離れてなー!」
 彩陽の懸命な「逃げて」を表すボディーランゲージに、シューヴェルトのホワイトバスターが美しく弧を描いて離れていく。
 この赤い大地で力尽きた者達の気配が矢に宿り、矢じりのあたりだけ空気が重苦しく凍り付き、ぱりぱりと音を立てて帯電していく。
 それは奇跡の一撃。物理法則を蹴り飛ばして結果を導く。
 天地に呪いを振りまく者こそ割れて、あれ。
 生白くのっぺりとした量産型天使の皮膚がビシビシと音を立てて凍気でひび割れ、目に見えてあちこちでスパークを起こす。
 空は青い。今こそ引き金を引く時。
「――にゃーん!」
 猫股の鳴き声をかき消す狼銃の咆哮。ラダがいつだったか取り扱った気がする覚えのある銃と同種の銃声に、にやりと笑う。
 どうしようもなく笑ってしまうほどに。だから、死神にもおすそ分けを。
 必殺の弾丸は、指示通りの個所を見事にうがった。


 あちこちで、何とも言えない色合いの気体を漏らしながら量産型天使が不時着し、爆発することなく瓦解していく。図体のわりに安普請らしい。
 しかし、いい感じにでかいのを食らわせないとそのまま突っ込んでくるのが頭の痛いところだ。小さいのを積み上げてではらちが明かない。中途半端なダメージは通っていないのだ。一気にどかんと奥までえぐりこ実、ガス噴出孔を作るのがコツ。
 何体か試した結果、非言語手段で情報を共有したイレギュラーズ達は大盤振る舞いをするより他はなくなった。ペース配分をしている内に落ちてくる。数は暴力だ。
「天使らしく天に昇れ!」
 ワイバーンの背中で、宙返り気味にシューヴェルトが量産型天使を蹴り上げた。
「蒼脚・堕天!」
 下で順番が詰まっているので。もう少し上空にいてほしい。指揮者として。
「お前の番はもう少し後だ。良い子で待ってろ」
 ラダの音響爆弾も一役買っている。食らった個体は推進機構に誤作動が生じて落下速度が目に見えて遅くなっている。
「もう少し、飛んでおけ」
 重力を多少いじれる汰磨羈の一撃で最後尾に飛ばされた個体は哀れだ。進捗によってキックとノイズの洗礼が待っている。
「ああ、もう! 埒が明かな過ぎてイライラして来ましたわ!」
 慈悲深き主の前には、救われねばならない者が長蛇の列を成しているのだ。どっかの邪神と違ってそれはお忙しいのだ。世界を亡ぼすために策謀する暇もないのだ。当然、そのしもべたるヴァレーリヤも世界の端から端まで駆り出されている。人生が消し飛ぶくらいに忙しい! 
「さっさと全部吐き出しなさい! 次がつかえているんですのよ!」
「みんなもうひと踏ん張りなのだわ。ちゃんと当たってるのだわ。支え切ってみせるのだわー!」
 華蓮が気を吐いた。ごん太の破魔矢が新風をはらんで量産型天使に突き刺さる。

 体に負荷がかかる大技を連発しながらの飛行戦闘。地上班とて直接の接触は少ないとはいえ上空からの飛来物や不意の接近で無傷とは言えない。
 砂の味と風の音と晴れた空と視界を埋め尽くす天使の白と。
 それでも、終わりは必ず来るのだ。

 気が付けば、辺りは静寂を取り戻していた。視界を埋め尽くしていた城はすでになく。
 空はどこまでも青かった。


「も、もうあの敵は落ちてこないですにゃ……?」
 みーおが髭についた砂の粒子を手でこすり落としながら言う。銃は砂に強いラサせいではあるが、入念にオーバーホールが必要になるだろう。
「ああ、終わりだ!」
 シューヴェルトはやり切った充実感で若干語尾が強めだ。
「やな音はやんだようやね」
 彩陽は、ずっとうるさい~と辟易していた雲雀に、大丈夫か。と声をかけた。
「大丈夫だ。聞こえなくなっている!」
「なんで、アンタが返事するん」
 シューヴェルト的には、ギフトで周囲の霊的存在の『声』がしなくなったのを確認していると言いたいし、彩陽としてはそれを発生する霊的存在が掻き消えているといいたいのだが、そこに至るまでの説明が長くなりそうなので、各々割愛した結果がこれである。
「周囲状況確認して――被害でかいところは何か修理とかいるんかな?」
 イレギュラーズの奮闘のおかげで地面に激突する量産型天使はいなかった。残骸が多少――図体がでかかったからそれなりに散乱してはいるが。
「荒地って聞いてるから大丈夫やとは思うんやけども」
 生体部分は、みな見る間に干からびていった。脆弱な何か嫌な実験の産物だったのだろう、正しい意味での生命力は皆無に等しかったという訳だ。
「――――」
 雲雀が小さく何事か口にした。
「なんか言うた?」
「何でかな、無性に口にせざるを得ないような何かが……」
 雲雀にもなんでそんな言葉が口をついたのかわからない。
「なんや、それ。こわ」
「本当に、何だろうな」
「ああ、そういうのもみんな置いて行け。憑き物落としじゃ。後はきれいさっぱり忘れろ」
「それがいいのだわ、風に流しちゃうといいのだわ」
 汰磨羈と華蓮が言うと、重みが違うというか、とっとと忘れた方が吉という気がする。忘れよう。なるたけ速やかに。
「さっき言ったろ」
 ラダが、もう風にさらわれ、鳴らされていく砂丘の様子に笑みを浮かべる。
「何でも砂の下に沈めるのがこの国さ」
 厄の塊も、赤い砂が抱き、やがて何物でもないものに変えてくれる。そして、いつかラダのような土地の民が拾い上げ、また世界の営みの中に戻してくれるだろう。
 妄執の残滓よ、永の眠りにつけ。なにものでもなくなるまで。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。空中でバインバインされる量産型天使は想定してませんでした。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね!

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