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シナリオ詳細

<神の王国>破天曲折の道程:理想

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある男の記録
 混沌という世界は、死の危険が身近に潜む世界だ。
 国家間の争いや、人間が起こす命を奪う悪行。または悲しい事故や魔物の襲来。
 何を取っても、力を持たぬ存在は誰かの、もしくは何かの守護が無ければ簡単に死んでしまう。
 そんな状況を、ただ指を咥えて見ている事は出来なかった。
 初めはその程度の感情であったような気がする。
 救えず、守れず。目の前で死んでいく命に、涙を飲むことも多々あった。
 だがどんなに泥臭い形であっても生き延びた。
 そして諦めず鍛錬に励んだ。そうして守る事ができた人々が平和に暮らす様子。
 そんな普通の生活が、何故か思わず笑みがこぼれてしまう程素晴しく思えて。
 もっと多くの人を救おう。これからもずっとこの日々を護っていこう。
 そう心に決め、更なる訓練を課し、死地に赴き生還する。
 気づけば回りには、そんな想いに賛同してくれた仲間達がいた。救える命もどんどん増えていった。
 けれど。
 所詮人間の力には限界があった。
 いつもと変わらない、護るための戦い。
 違ったのは、勝者と敗者の立場だけ。
 多くを喪った。だが、まだ一つだけ。
 行ってくると告げた相手は、待っていると言ってくれたではないか。
 禄に動きもしない身体で這いつくばって。
 戻った先には、ただ物言わぬ肉塊が転がっていた。
「お、俺は……」

なんのためにいきてきたのであろうか。


●理想の一面
 煌びやかな輝きに満ちた地は、その美しさを持って様々な名で呼称される。
 選ばれし者の楽園、神の国、理想郷。
 冠位傲慢『ルスト・シファー』の権能により成るそれは、だれが見ても一度はその荘厳さに息を飲んでしまうほど見事だ。
 だが、彼の地において生きる人々や土地の有様は、そこを管理する遂行者により細部に違いがある。
 遂行者『チェイス』は、己が街ともいえるこの理想郷で、精一杯生きる人々を観察していた。
 生に悔いを残し死に、この地で再び生をやり直している者達を。
「いいからこれをお食べ」
「だって……」
「気にせんでよい。儂はお嬢ちゃんが笑ってくれれば幸せなんじゃ」
「あ、ありがと」
 老人に食べ物を恵まれた子供は、最初の一口はゆっくりと。
 怒られないと分かると、勢いよく口へ放り込み始める。
「ほれほれ、ゆっくり食べんと喉が詰まるぞい?」
 案の定咳き込む子供に、老人は水を差し出す。
 少女の呼吸が整い出したところで、老人は少女と会話を紡いでいく。
(……昨日よりもワンフレーズ増えているな。記憶の回復は進んでいるようだ)
 彼らの様子に頷いたチェイスは、次の区画へと足を運ぶ。
 それは以前この地を訪れた者達には意図的に隠した場所であった。
「そこの盗人、止まれ!」
 一人の騎士が剣を突きつける。
「う、うるせぇ! 邪魔するな!」
 煌めく切っ先に怯えながらも、宝石の詰まった袋を抱き抱えた男は、短剣を構え返す。
 絡み合う両者。やがて一人だけが立ち上がった。
「ま、て……」
「お、お前が悪いんだ! 邪魔なんてするから……!」
 勝利した男は、フラフラになりながら先を急ぐ。
 行先を示すかのように零れ落ちる赤の雫は、やがて次なる邪魔者を呼び寄せることは明白であった。
(騎士として正義を為す理想を抱きながら、何一つ為す事無く死んだ男。
 そして病に苦しむ母を治療すべく、他者から奪ってでも薬を買い求めようとした男。そろそろ時期か)
 チェイスが念じると、二人の時間が巻き戻る。
「そこの盗人、止まれ!」
 一人の騎士が剣を突きつけた。
「う、うるせぇ! 邪魔するな!」
 煌めく切っ先に怯えながらも、宝石の詰まった袋を抱き抱えた男は、短剣を構え返す。
 絡み合う両者――。
「そこまで!」
 その間に彼は立ち塞がり、騎士の剣を弾くと男を逃がした。
「な、貴様! 犯罪者に手を貸すつもりか?」
「それが目的ではない。我はお主も、あの者も生かすために此処にいる」
 そして語る。
 二人は混沌世界では死者であると。
 逃げていった男は分別ある大人であれど、病気の親を思う心優しき子に違いはないのだと。
 今のままでは史実を繰り返すままとなり、己の悔いを一生晴らすことは出来ないと。
「な、なら私に生き地獄を味わい続けろっていうのか?!」
「否。お主が生を完全に取り戻したいと願うなら。試練を乗り越えるのだ」
「試練?」
「そうだ。先程の者との勝負、あれを繰り返すがいい。始めは自身が死に戻る事しか解せぬだろう。
 だが、我に選ばれたお主が完全に死ぬ事はない」
「死なない?」
「うむ。お主の悔いは、かの世界では一生晴らすことが出来ぬ事。だがこの神の地では何度でもやり直せるのだ。
 恐らく数えられる内には、せいぜい我が介入した争いに変化をもたらすのが精一杯であろう。
 だが、それでも続けるのだ。一挙手一投足をその身に刻み、死の苦しみに耐え、何か一つでも変えるべく再び戦ってみせろ。
 さすればいずれお主が勝つ未来が訪れる。その境地に至り時、次はお主がかの者に伝え、導くのだ。
 両者が共に生き、共に悔いを晴らした世界を掴み取ろうと!」
 チェイスの真剣な眼差しに、騎士は覚悟を決めて頷く。
「その覚悟や良し。今から我はお主に苦しみを与える。だが同時に信じたいと願う心を込めよう。お主が絶望の先に希望を掴む事を」
 願いと殺意が込められた拳が、騎士の肉体を貫いた。

~~~

 チェイスはその後も街を隅々まで見て回る。
 見て、覚えるのだ。
 この地に甦るまで会った事も無い者の名を。生き様を。後悔を。
 そしてこの世界での命を育むのだ。
 見守り、試練を課し、未来を掴み始めた者達を本当の意味で理想郷と呼べる地――天上へと導くために。
(あれは……酒飲みを競う者達か)
 試練を乗り越え成長した者達でも新たな命、詰まるところの生前にない未来を重ねていく事は難しい。
 そのまま生きる努力を続けなければ、別な要因で死に至るか、眠り続ける事となり、やり直しの渦に飲まれてしまう。
 だが彼らはチェイスの教えを忠実に守っていた。
 更なる試練を重ねて、記憶の層に互いを描き込んでいくのだ。
(どうやら半日ほど生きた記憶を増やしたようだな。良い兆候だ)
 その時初めて。険しい表情を浮かべ続けた彼の口角が僅かに上向いた。


●護りたい者を守れる者
 視察を終えたチェイスは、理想郷の中心部へと向かう。
 広場とも呼べる空間には台座があり、その上で輝く水晶に一礼をすると座り込み目を閉じる。
(この力があれば。死者が甦りの歩みを止める事が無ければ。彼らと共に理想を抱き、導き、護り続ける者がいれば)
 例え形式上の死を経たとしても、失われることはない。
 誰も晴らし得ぬ後悔をすることはないのだ。
 更に己の思考を研ぎ澄ますため、彼は自身の心に目を向けた。
 しかしふと、これまでには無かったものが彼の中を駆け巡る。

 ――一人も残して帰れない……!
(死地において、窮地にも関わらず奴らは仲間を護り、救おうとした)

 ――結局最後は力で良し悪しを決めるか。……勝敗だけで全て綺麗に片付くなら、誰も苦労しないと思わないかい?
(異邦にて強大なる存在から民草を護り続けた者。敵の強大さを知ってなお、負けずに足掻く覚悟があった)

――氷に眠るあの子に……良くなる世界を見せる!
(死や絶望に苦しむ者共を目の当たりに、己の心を傷つけながらも混沌における未来を信じる者)

――貴方の正義や理想は、敗れるだけで潰えるものではないのでしょう?
(我が理想の真髄を知り、潜在する老いへの恐怖を認知しながらもこの世界を否定してみせた者)

――あの子の想いを踏みにじるなッ!!!
(死者を想う事が永劫癒えぬ傷と知りながら、想いと歩み続ける覚悟を持った者)

 イレギュラーズ。
 最初は今ある世界でしか物事を考えられぬ力に溺れた者だと思った。
 だがその守護の矜持や背負った覚悟に、懐かしいものを感じた。
 もし彼らが、混沌世界での絶望に抗うのではなく、この世界での命の再生という世迷い言に可能性を賭けてくれたなら。

――この世界には命を賭して誰かが成し遂げたことがある。それを否定する世界なんて……納得できない。
「……ふっ。これこそ叶わぬ夢想か」
 何かを得心したように、チェイスは目を開けると水晶を右手に握りしめる。
 渾身の力を込めれば、それは彼の手中に埋め込まれるようにして入り込んだ。
「――んんっ」
 僅かに漏れる苦悶の声。
 だがすぐに平静を取り戻すと、集中に当たり外していた武具を装備する。
 かつてつけられた薄く跡の残る傷を見やるが、直せるものでもないのは明白。チェイスはそのまま嵌めていく。
「魔を払う拳よ。我の道と奴らの道。恐らくそれは交わる事はないだろう」
 そして、左手に金色に輝く球状の何かを壊れないように握り絞める。
 以前は客として招いた。向けられた剣を退けはしたが、それでも己が矜持として最後は無事に返した。
「だがこの地を護るには。我が護りたいと願う者共を救うためには」
 今度はそうはいかない。やらねばならない。
 そんな決意に背を押されるようにして、遂行者の証たる白きコートに袖を通した。
「我は持ちうる全てを持って奴らを打ち砕こう。改心に至ればそれは良し。
 逝くならば我が記憶と死者との再会をもってこの地にて償い続ける。
 この信念が正しいならば、我に勝利を与え賜え」
 今の持ち主の決意を聞かされた手甲は、ただその黄金色を反射させた。
「だがすまん。今一度、最後に誘引せねばならぬ者達がいる」
 このままでは永久の別れに至る二人の信徒を思い浮かべ、彼は念じ始めた。


●誰が為の理想
 その少し前、天義の宿を『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は訪れていた。
「『フィアベル』さん、いるか?」
 彼の声とノックに獣種の少年がか細く答えると、中へ入る。
「突然済まない。ルディさんの様子が気になったから……って」
 彼は思わぬ先客の存在に、海洋で取れたフルーツの見舞いを落としかける。
「こんにちは」
「来てたのか、司書さん」
 ええ。と『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は答える。
 彼女もまた、自身が見聞きした情報を日を改め精査し、気になる点があったとしてここを訪れていた。
「気になる点? とはいっても、あそこは作り物。ハリボテの理想郷だった。というだけじゃないのか?」
「確かに私達から見ればそう思えたわね。だからあそこを『零れ落ちた者達の楽園』と称したけれど」
 イーリンは座っていた椅子から立ち上がると、自作したと思われる時系列図を壁に貼り付ける。
「ローレットにある調査記録では、最初に彼が確認された時、彼はあくまで神の国への侵入者を排除していただけだった。
 そして、そこに眠る『ルディ』は異言の呪いを受け、半ば強制的に神の国へ至る道のりを歩まされた」
「間違い無いか?」
 イズマの問いに、フィアベルは首を縦に振る。
「異言化は、帳が降りた『テセラ・ニバス』に生じた現象。当時彼女がそこで生活していたから罹患したものよ。
 しかも理想郷の住人と違って、まだ生物学的に生きていると言える状態だわ。
 そんな対象、チェイスがわざわざ気にするのかしらね?」
 彼が死者が生きる国を理想としている可能性は高いとしても、進んで人を殺しているようには思えない、とイーリンは補足する。
「なるほどな。確かに彼が救いの対象としていたあの理想郷の住人……『再誕者』だったか。
 それにルディさんは当てはまらないように思える」
「これが杞憂なら良いのだけれど……相変わらず、世話の焼ける出来事ばかり起こる国だわ」
 授けられた天啓故によく気がつき、心労が多いイーリン。
 彼女が戦いに疲れ果てた女だと思われる一つの要因でもあるため息が零れた。
 だがそれは最悪を思い浮かべて尚、諦めず対策を思案している象徴ともいえようか。
「チェイスの理想郷を破壊しても彼女が治らないかもしれない?」
 驚くイズマと同様の心持ちなのか、フィアベルもまた尻尾の毛を激しく逆立てていた。
「ええ。記録による彼の呼称を纏めれば、試練を超えし者、改心せし者は別な理想郷にいると言った。
 恐らくこの場合の前者はルディがいたという儀式を終え、神の国に辿り着いた人々。
 改心せし者は、異言の呪いに関わらず神の国へ協力する者、遂行者や遂行者が選び従える者が当たるでしょう。
 だとすれば彼女は……」
 イーリンは時系列図に書かれた文字『生者の世界』と『死者の世界』の間に、本の背表紙を優しく添えた。
「ここにいる、名も無き存在。神の国の加護も、遂行者の庇護も、混沌世界の自然治癒力すら得られない迷い人。
 もっとも刻々と死の方へ生の要素が蝕まれているようだから、いずれはどれかに選ばれるでしょうけどね」
「生と死の境、の住人。ということだな」
「そう。この混沌へ流れ着いた者の中には、かつてそれを超越していた者もいるでしょうけれど。
 今の私達では誰一人超えられない死という絶対法則。その狭間」
「だから死者の世界であるチェイスの理想郷を破壊しても、あくまで死者の世界が閉ざされるのみ。という訳だな」
 話が早くて助かるわ。とイーリンは微笑を湛える。
「理想郷や神の国の根源と思われる冠位傲慢をやれたならまた違うとは思う。でもどうみてもそれまでは彼女が持ちそうに無いわ。
 けれどチェイスはそんな彼女を救えると断言していた」
「彼には思い当たる方法があるという事か! いや、だが待ってくれ。司書さんの考えそのものを誤まりだと指摘する気は無いが」
 イズマもまた真剣だからこそ、意見を交わし合う。
「彼は自分の理想で他の住人を縛っているように思えた。そんな人間がわざわざ彼女を救うだろうか。
 考えたくはない話だが、ルディさんを理想郷の住人にさせて、目的はフィアベルさんを改心と言って引き込む事にある可能性も捨てきれない。
 具体案が見つかっているならまだしも、不確実な相手に頼るよりは俺達の仲間やローレットに頼って何か方法を探してはどうだろうか?」
 両者の意見は互いに真がある。
 だから何が正しいのか決められない。
 だが、自分の求める答えは一つしかない。
「どうしたら……ルディを救えますか?」
 フィアベルは震える声で呟く。
「その答えは……貴様が改心したならば授けよう」
 声の方向へ三人は一斉に目を向ける。
 それはベットに横たわり、ずっと呻き声を出していたルディの口から発せられたもの。
 けれど女性の声ではなく、聞き馴染みのある男のものであった。
「お言葉だけどその確証はどこから来るのかしら? 貴方のいうところの真理の先?」
 イーリンの言葉に、ルディを介してチェイスが答える。
「話はこの娘の耳を通じて聞いていた。異神に傅く司書、そして音色を携える青き鋼よ。もう一刻の猶予もないのだ」
 本当に助ける気があるのなら、助けた上で改心を迫れば良いのではないか?
 そう問いかけようとしたイズマを制し、イーリンが問う。
「聞かせてもらえる? ……楽園は私のこの傷ついた体も慰めてくれるのかしら?」
「ほう。理想において生きるのではなく、癒やしを求めるか。
 貴様の『声』はあまり得られなかった故少々不明瞭な部分もあるが……」
 チェイスは暫し押し黙ったが、やがて続きを紡いだ。
「貴様が『何も欠けぬ命』を是とするならば否。我が理想は貴様の願いを見捨てるであろう。
 貴様がその身に課せられた宿命を是とし、それでも選ぶことを諦めず前に進み続けるというならば。
 それは試練を超え続ける道と同義。我が理想は応じるであろう」
「……もう一つ。理想郷の住人となった私は、死んでいると思う?」
「貴様の……お主の心を我は代弁できぬ。だがもしそうなれば」
 ほんの少しだけ。声が和らいだように感じた。
「我がお主の生を肯定し続けよう。分岐した可能性も変わりゆく肉体も、全ては理が縛る故に枷となっているに過ぎない。
 だが生きようという意思や悔いを宿す魂が……心があれば。我が生を信じるお主を記憶している。
 ならば魔力体が再び生を信じられるまで、有様を語ろう。
 再び自身の歴史と思えるまで、お主が混沌にて為してきた軌跡を共に辿ろう」
 それだけいうと、チェイスは神の門と呼ばれる場所に理想郷への入口を開く時間を告げ、ルディを解放した。
 咳き込み出すルディを前に、フィアベルは医者を呼ぶために部屋を駆け出す。
「司書さん。あれは何を確認したか、聞かせてくれないか」
 イズマの問いかけに、司書は背を向け、時系列図を片付けながら答えた。
「確証を持つためのピースを得たかったの。あの理想郷が誰のための場所なのか。彼の心がどこにあるのか。
 死者のためと思っていたけれど、貴方の『自分の理想で他人を縛る』という言葉が引っかかって」
「で、その結果は?」
 イーリンは片付けの手を止めると大きく息を吐いた。
「例えどんな人間であっても、選んだ神によってその有様は善にも悪にもなる、といったところかしら」

 フィアベルやルディの事情。理想郷へ隠された真実はともかく。
 ローレットとしても混沌世界の未来としても、理想郷は破壊せねばならぬ偽りの世界。
 そして遂行者チェイスもまた、原罪の呼び声を扱うことができる魔種である。
 一旦状況を報告すべく、イズマとイーリンも部屋を後にした。

GMコメント

※各種《》項目に関してはGMページにて解説

《システム情報:情報確度A》
●目標(成否判定&ハイルール適用)
 理想郷の破壊
 遂行者チェイスの撃破

●副目標(一例。個人的な目標があれば下記以外にも設定可)
 ルディにかけられた異言化の呪いを解く
 フィアベルと理想郷を脱出する

●冒険エリア
【神の国内部】
・遂行者チェイスの理想郷

●冒険開始時のPC状況
 基本的に、遂行者チェイスが用意した理想郷への入口(魔法陣)を通り、彼の理想郷へついた瞬間からスタートします。

●関連シナリオ
<神の門>破天曲折の道程:選別
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10274
<尺には尺を>破天曲折の道程:誘引
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10371
※読まなくとも参加自体には支障がありません。知っていると遂行者回りの解像度が上がります。

●優先
※本作は、以下の皆様(敬称略)のアフターアクションを採用したものであり、
 該当の皆様がオープニングに登場している他、優先参加権を付与しております。
・『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
・『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)


《依頼遂行に当たり物語内で提供された情報(提供者:ローレット 情報確度B)》
●概要
 冠位傲慢の軍勢がこの世界に降ろそうと画策する神の国。
 帳に抗う戦いもいよいよ決戦の時がやってきました。

 舞台となる理想郷はルスト・シファーの権能に溢れた空間。
 敵は魔種である遂行者が待ち受けており、激しい戦いが予測されます。
 ですがここを破壊することができれば、傲慢と称されてなおその立場が揺るがぬ程強大な彼の力を削ぐことに繋がるでしょう!

 また、世界の命運をかけた戦いの裏には一つの小さな物語があります。 
 死者を甦らせ、彼らを護り共に生きることを願う遂行者チェイスの理想。
 運命に選ばれたが故に、大切な人を失いかけているフィアベル。
 どこで誰とどう生きるか、生殺与奪の権利を『神』に弄ばれたルディ。
 この戦いが、彼らの結末も定める事となるでしょう。

●関連人物(NPC)詳細
【フィアベル】
 獣種のイレギュラーズ。
 本シナリオでは「基本的に」参加した皆様の指示に従い行動します。
 特に指示が無ければ皆様の援護を第一目標に、主に理想郷の住人やゼノグロシアン(魔力体)等と戦います。
 能力は皆様の平均値をやや下回る程度。敏捷性を活かした近接攻撃がメイン。

【ルディ】
 人間種の女性。一般人です。
 もし彼女に何か試したい事が有れば、プレイングやスキル次第では可能です。
 (例えば「理想郷へ連れて行く」であれば、「陸上運搬(馬車相当)のスキル」、
  「理想郷内で何が起きても彼女が寝ていられる空間の確保」が必要となります)
 彼女の症状は特殊であり、通常のBS回復スキルでは対処できません。

【チェイス】
 遂行者。鍛え上げた肉体を活かした近接戦闘がメイン。
 守護者を自称する戦闘スタイルと聖遺物の効果か、攻撃は当たりやすくBSは入るが防御技術や体力など耐久面が極端に高い。
 両腕:『蝕む魔を払い、喰われた空へ苦難の分だけ活を授けし護り籠手』とチェイスが称した聖遺物を装備。
    詳しい解説は後ほど。
 右手:何かを握り絞めているようだ。
    (⇒手から原罪の呼び声が聞こえるため、その時点で水晶を握っているとPCが容易に推測できます)
 左手:何かを握り絞めているようだ。
    (仲間のイレギュラーズからの情報により、『不朽たる恩寵』と呼んだアイテムを握っている可能性が高いと予測できます。
     恩寵の詳細は後ほど)


●味方、第三勢力詳細
 基本的に戦力となる味方はフィアベルのみです。
 但しシナリオ参加人数が定員に満たない場合、不足分だけ天義の騎士が作戦に協力してくれます。
 天義の騎士は参加者の平均程度の能力に加え、参加者が付与したい役割(回復、タンクなど)「一つ」を
 担うのに必要な分のステータスが補正加算されます。
 (回復ならPP等が多め、タンクなら防御技能が高め、等です)

●敵詳細
・遂行者チェイス
 関連人物詳細をご参照下さい。

・選ばれし人
 ローレットに登録された名称。
 チェイスの理想郷では彼から『再誕者』と呼ばれており、他遂行者の理想郷の住人とは異なる特徴を持ちます。
 彼の説明を要約すると「悔いを残して死んだ人の魂」に「異言者や遂行者の協力者となった人々の持つ死者の記憶」から
 「ルストの持つ力で魔力の身体を創造」して「理想郷に甦った」人だそうです。
 身体は魔力体なので心臓の鼓動などは聞こえません。
 また、基本は生前を知る「現在も生きている人間」の記憶を元に作られているので、
 死者の事をそもそも知らないイレギュラーズ達とは会話が成立しませんでした。
 しかしながら、互いを知る再誕者同士は円滑なコミュニケーションが出来る様です。
 戦闘状態となると、「改心せよ」と言いながら迫ってきます。
 能力値は低めですが非常に数が多く、範囲系スキルで薙ぐとしても殲滅は難しいでしょう。
 ※特記事項
 チェイスは死者の魂が用いられていると言っていましたが、その分野に精通した仲間からの情報では、
 再誕者やその周囲には死者の魂を見つけることが出来ませんでした。

・異言者
 ゼノグロシアンとも呼ばれ、基本的には神の国の帳が降りた際に巻き込まれ、異言を話すようになってしまった人々
 (ルディのような人)を指す言葉です。
 ですがチェイスは魔力で作られた黒い人型を召喚する事が出来、今回はそれを指します。
 込められた魔力によってその強さが変化する他、PCの皆様の心に強く想うような人物がいた場合、その姿を取る可能性があります。

●アイテムギミック詳細
・聖遺物
 これまでの戦闘記録から、以下のような性質を持つと推測されます。
 1:BSを与える攻撃を受けると黒ずむ。BSを与えない攻撃を受けると赤みを持つ。
 2:黒ずんでから暫くすると色が戻り輝きを放ち、その光がチェイスの身体に宿る。
 3:チェイスが光を宿している間、以下のような効果があると推測される。
  「BS回復&無効化、各種ステータス急上昇、強烈な一撃を放つと光が消える」

・不朽たる恩寵
 「解き放つ」ことで「聖遺物の力を極限まで高め」る何か。
 強制的に手甲の輝きを発生させ纏う(その輝きは強烈な一撃を四発ほど連続で放つと消えました)。

・水晶
 「選ばれし人」を召喚でき、チェイスが持つゼノグロシアン召喚能力も強化されている可能性が推測できます。
 またチェイスの肉体に生じた傷を塞ぐようで、能力発生には輝きが増しますが、一度輝きが元に戻る過程が必要なようです。
 『原罪の呼び声』を発する能力があるようで、頭痛などを含めた不快感や体調不良が付与される可能性があります。
 旅人でも同様に効果が生じるようです。

●エリアギミック詳細
<理想郷内部>
光源:問題なし
足場:問題なし
飛行:問題なし
騎乗:問題なし
遮蔽:街中で戦えば相応の物があります。逆に広場や公園のような場所を選ぶ事もできます。
特記:特になし


《PL情報(提供者:GM プレイングに際しての参考にどうぞ)》
【対チェイス】
ある程度多人数で望む事が推奨されますが、彼は戦いの素養を持つ武人です。
彼の射程外から狙うなど、目障りな存在や策略的動きを感知すれば優先的に狙われます。
(これまでは近接攻撃しか見せていませんが、それでも【移】系の動きが見られた他、今回は水晶も握っています)
また、改心への想いを込めた輝きの一撃は、輝きを消費する代わりに、その一発で皆様を沈めうる可能性があります。
充分に注意して下さい。

【聖遺物】
かつて皆様の仲間が刻んでくれた傷があるため、戦い方によっては破壊できそうです。
BSが付与されない場合でも、チェイスは相応能力が高いので注意して下さい。
BSを付与する場合は、輝きを纏った攻撃が予測されます。
この状態のチェイスは非常に強力ではありますが、輝きが切れた合間であれば、恩寵を用いない限り、
多くの攻撃が入り隙を作れるのはほぼ間違いないでしょう。
強力な攻撃を覚悟しつつも確実な隙を狙っていくか、BSなしで正面から戦うかは皆さん次第です。

【その他戦闘】
チェイス以外の敵は彼のような傷の瞬間再生はしないので倒せます。
ですがこの戦闘内で枯渇させるほど倒すのは難しいほど数が多いです。
フィアベル一人ではいずれ手が回りきりませんが、それだけに集中してはチェイス討伐に時間がかかり、
原罪の呼び声による不調の危険も増します。

【チェイスの理想と正義】
彼は正しさの持つ価値は試練を乗り越えた先に掴み取るべきもの、だと考えているようです。
そして試練の過程で死ぬ命があることも知りながら、死者を救い護る事に理想を掲げる存在でもあります。
生きている人が覚えていれば復活できる、なんてお伽話も良いところですが……。
もしそれが実現できると実感できたとしたら?
生きている人が覚えている死んだ人は、あくまで生きている人の主観が加わり「きっとこうだ」と認識されているはずです。
死者を想いつつも生を歩む皆様の「想い」と彼の理想、それのどこがどう違うのか。
もしかすると、そこではない何処かに、大きなすれ違いがあるのかも知れませんね。
とはいえ、彼は倒さねば成らぬ存在です。
純粋な拳で勝敗を決めても良いですが、彼も皆様も想いを持って集っていることでしょう。
それをぶつけ合うことは、場合によっては普通の攻撃以上に強烈な影響を生じさせるかもしれません。

【フィアベルとルディ】
現状、ルディの異言化を解く術はチェイスしか知りません(知っているとも限りませんが)。
しかし彼女の体力的にここが最後の山場でしょう。
混沌に生きる者を蝕む神の呪いがどうなるのかは、皆様のプレイング次第です。
そしてフィアベルは、これまでの経験から「どんな困難も切り拓く協力の可能性」を信じたいと思っています。
ですが、彼は元々ルディを助けるために単身で神の国に突入するような男です。
協力の可能性に活路が見いだせなければ、何よりも「後悔しないため」に行動するでしょう。

●その他
・目標達成の最低難易度はH相当ですが、行動や状況次第では難易度の上昇、パンドラ復活や重傷も充分あり得ます。

  • <神の王国>破天曲折の道程:理想完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年12月20日 22時06分
  • 参加人数9/9人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ

●信ずる世界
「よくぞ参った。獣種の信徒。そして……我が理想を阻む者共よ」
 遂行者『チェイス』の用意した魔法陣を抜け、辿り着いたのは理想郷の中心部たる開けた広場。
 そこには一行を取り囲むようにして『再誕者』達が。後方には仁王立つ男が待っていた。
「狭間の女を連れてきたか」
 チェイスの言葉に頷く『フィアベル』。
 後ろには『チャド』と呼ばれる亜竜が引く荷車と仲間達が控える。
「僕は彼女を諦めたくない。だからできる事は全てやりたいんです」
「その意気だ、フィアベルさん」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が隣へ進み出た。
「さぁチェイスさん。約束通り連れてきたが、彼女をどう救う?」
「今は待つ。この者が神の国へ至る試練を超えられるか見極める」
「試練か」
 その言葉にイズマは顔をしかめる。
「勝手に帳を降ろし呪っておいて、それを受け入れなければ救えないというならまるで脅迫だ。
 貴方はそれを試練だ改心だと、言い繕っているに過ぎない。違うか?」
 イズマの問いかけに『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)も同調する。
「自分らには自分らの、あんたにはあんたの理想がある。
 それは自ずから描くもんで強制されるもんやない。
 そんな事も分からん奴がなんて言うか、分かっとるよな!?」
「手荒い真似ではあろう。しかし混沌はいずれ正しい歴史を歩む。
 そうして滅び、消え去る前に一人でも多くの者を導き、神の力で死を払おうというのが何故分からん」
「その力が、死を消しているという実感が。
 お前が信じる神の気まぐれ一つで、容易く崩れるようなものでなければ良いが、な」
「それは姿なき混沌の神とて同じ事。ならば事実で語るしかあるまい。
 この地には死が、飢えや寿命といった苦しみがない。混沌にはある。見よ」
『薔薇冠のしるし』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の言葉にチェイスは荷車を、中に横たわる『ルディ』を指し示す。
 確かに理想郷へ来てから症状は落ち着きを見せ始めた。
 だがイズマはその表情が晴れやかではないことを見逃さない。
「事実は彼女が苦しみながらもここまで生き続けた事だけだ。
 そして話せる状態ではない彼女の意志を、これまでの経緯と事実に見るならば。
 大切な人と共に生きることこそが望みのはずだ!」
 筋や理智を尊ぶ彼には、足掻きもせず最善を欠いた方法を選ぶなど論外だ。
 他者を思う静かな怒りは、理想を砕く最強の鋼たらんと願う彼の加護になる。
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)も自身の身に鎧を纏わせ歩み出た。
「旦那にも考えがあるってのは分かる。だが死を奪うのも混沌の未来を見限るのも間違いだ。
 生きてる奴が死んだ奴の無念や想いを繋いで背負う未来を。
 良き世界にしようと足掻く生き方を。まだ見ぬ世界の未来を知る希望を。
 途絶えさせる権利はねぇんだよ、……誰にもな」
「そうね」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が並ぶ。
「異神に傅く司書か」
「イーリンよ、イーリン・ジョーンズ」
(先輩が名乗った!?)
 真名(マナ)を用いた。
 『紫苑忠狼』那須 与一(p3p003103)はこの事実に驚きを隠せない。
 イーリンを愛しい主と慕うからこそ、この行いの特別さを知っていた。
「貴方の想い、痛み。その凄まじさは分かるつもり」
 彼女もまた武装をその身体に顕現させ、ルーンから降り注ぐ神々の加護を浴びる。
「気づいておろうな? かの者共は行き着く可能性の一つであることを」
「ええ。それでも私は今ある生を求める! だから勝負を!」
 その言葉を合図とするかのように、再誕者達はゆっくり歩み始める。
「「「改心せよ」」」
 場の緊張が高まる中、ゴリョウは背中越しに双槍を構えたエルフへ告げた。
「『ノエル』、坊ちゃんと嬢ちゃんを宜しくな!」
「ん、分かった」
「チャドには貴方の指示を聞くように指示してあるが、お願い出来るか?」
「はわぁ……うん、大丈夫」
「この状況で欠伸とは……肝が据わっているんだな」
「ぶはははッ! そうだったら良いんだが! まぁ安心しな。
 いざ戦いとなれば残念エルフも一端の武人! 家族の俺が保証するぜ!」
「ああ、頼りにさせてもらう」
 傍目からは諸々信じがたいが、戦友が疑わず信頼する事をイズマはまっすぐに受け止めた。
「さてと……互いに譲れんものがあるんだ、やるしかねぇよな!」
 ゴリョウが構え。
「試練となるならば……打ち砕くのみ」
 手甲が理想郷の陽光を反射して。
「神がそれを望まれる」
 イーリンの旗印が風になびいた。


●布石
「皆、頼んだわよ!」
 再誕者達が完全に囲い込むよりも一歩先、弾けるように飛び出しチェイスへ肉薄するイーリン。
 残した言葉は僅かだが、数多の戦いや経験を共にした仲間達は瞬時に呼応する。
「ええ、任せなさい」
 いつかとは逆の立場となって、一目散に飛び出す姿を見送りながら『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)はそう呟き。
「フィアベル殿、道はきっと私達が開いてみせる。だからルディ殿の護衛は任せるわ。
 そしてこの戦いに打ち勝ち見せつけてやりましょう。それぞれの想いを!」
「……はい!」
 曇りがかった青年の心に、笑顔と言葉で夢と希望を与える。
「私の名はレイリー=シュタイン! 鉄帝のアイドル騎士よ! 倒せる者はいるかしら!」
 続けざま、後光の中で四肢から取り出した装備を瞬時に身につけ、響き渡るような名乗りと共に突撃。
 再誕者の囲いに綻びを作り出す。
「く、くふふ……ああ、おかしいでごぜーますね」
 そんなレイリーに群がる者を『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)が狙う。
「これが噂に名高い理想郷とそこに生きる住人でごぜーますか。いやはや流石。何ともまぁご立派な」
 彼女の本心は誰にも図り得ない。
 だが発される言葉は名作劇へ捧ぐ感嘆で。
「ほんなら、なけなしの意思も消え去った改心を呪い続ける皆様に。わっちから贈り物を」
 投げつける堕天の輝きは三文芝居への野次より遥かに昏い。
 そこにエクスマリアも呪いを帯びた光を合わせることで、綻びは確かな穴へと拡張する。
「エマ。遂行者がよこす試練など、知った事ではないが。戦いは始まったばかり。油断は禁物、だ」
「勿論でごぜーます。むしろ壊しがいがあると気が引き締まったところ」
「なら、いい」
 完全に敵の動きを抑えた所で荷車が通過。
 エマとエクスマリアは殿となって、囲いの内と外を繋ぐ。
 残すはチェイスへと至る道。彩陽は弓を引き魔力を込める。
「こっちもこない仰山おったらかなんわ。せやったら……!」
 この理想郷に死者の霊は見えず。故に霊力を借り受けることは叶わない。
 呼び声に対して絶対の否定を持つ心は、その声を雑音へと貶める故に言葉とならない。
「俺の仕事はお邪魔虫を止めて、減らすことやろ!」
 しかしながら騎兵に加わり祓いを成し、積み上げてきた男の放つ矢は。
 再誕者の一角を乱すという求めた奇跡を、その実力だけで紡いでみせる。
「チェイス!」
 彩陽が生んだ僅かな隙間を駆け抜ける『銀焔の乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)。
 先陣をきったイーリンに合わせ狙うは右手の手甲。その奥に秘められし悪魔の結晶。
「銀の乙女!」
「確かに喪った痛みは今なお心を締め付けているわ。
 でも同時に、確かな声が、想いが、願いが魂に刻まれている!
 この痛みと温もりを、あの子の想いを背負って私は生を歩む!!」
 二人の乙女が剣の舞を重ね、受け止める聖遺物に黒ずみと赤みを同時に生じさせる。
(我への阻害を含まぬ攻撃、籠手の威力を知る故に試練を忌避したか?)
 一瞬の思考すら遮るか、頬を陸鮫にまたがる与一の凍結魔弾が掠めた。
「外した?!」
「続けて与一! 貴方の一射の積み重ねが、勝利を引き寄せる!」
「は、はいっ先輩!!」
 イーリンの鼓舞は、与一にとって最大の闘う理由。
 ただ主を背中から支えんと奮起する。
 その奮起に応えんと、主は前だけを見て全力を振るい。
 アルテミアが攻撃の間隙を埋めていく。
 チェイスも返す拳を幾度かは打ち付けるが。
「イズマ!」
「ああ!」
「くっ、攻め手への追撃を防がんとするか!」
「俺がやれるのも出来るのもこれしかねぇんでな!」
「これは今を生きる人々を守るための戦いだ。どんな強大な力でも全て受け切って……勝ってやる!」
 物理を排するルーンの障壁で二人が時を稼ぎ。
 乙女達はエクスマリアの回復を受け戻ってくる。
 無論この間には与一と彩陽がチェイスや再誕者の足を止め、身体や手甲にダメージを蓄えていく。
(なるほど。これは貪欲に勝利を求むるが故の戦略。
 手を読ませぬ多様な技とこの連携をもって被害を最小とし……狙うはこの籠手が守る水晶か!)
 如何に魔種といえど神の加護と聖遺物を失えば『勝ち』はない。
「……なればこちらも、勝利と守護に精魂をかけるが必定!」
 チェイスは手甲の黒ずみを黄金へ変化させ纏うと、その脚力で大きく距離を取り水晶を煌めかせた。
「今を生きる人々だと? かの者共の生き様を嘲笑うな!」
 放たれた水晶の光は再誕者の囲いを越えると、遠く荷車の近くへと落ちていく。
「混沌の法則を乗り越えた者が、混沌に散った命を掬い上げ。
 掬い上げられた命が試練に打ち勝つことで、その先に欠けた自我を取り戻す!
 世界の垣根を超えてまで生を渇望する意思を、生と言わずしてなんとするか!」
 それまで防戦主体だったのが一転、チェイスは輝きを保ち駆ける。
 その背を押すように。理想郷全土へ『呼び声』が木霊した。


●常に永遠に愛す人
 チェイスとの戦いが激しさを増す頃。
 再誕者の多くを引きつける囮部隊も、終わりの見えない敵の波にさらされていた。
「ねぇ、貴方達はこうまでして試練を乗り越えなければならないの? 理不尽だって思わないの!?」
「改心せよ」
「くっ!」
 全ての者を分け隔て無く助け守る事を理想とするレイリー。
 敵は有象無象の魔力体。分かっていても疑問は尽きない。
「レイリー様。人間でも何でもない偽物如きに心を砕いては。
 偶像の在り方としての博愛はこの上ないといえど、身が持たぬでありんすよ」
「それは分かってるつもりよ。でも……」
「確かに。あれは、尊い理想、誇れる正義、輝かしい未来を、見ている。
 だが、淡い恋心すら捨ておく傲慢が、それに答えるとは、思えない」
「案外自身が輝くための自己満足に過ぎない気もするでごぜーますが」
 凶悪な数という波は、不倒で知れたレイリーを持ってしても押さえ切れぬ程に多い。 
 けれどエマが降ろす情け容赦ない終焉の光。
 そして二つの戦いを支えるエクスマリアの光輝と奇跡を携えた治癒が共にあることで。
 荷車をノエルとフィアベルだけで対処できる状況を維持できていた。
 しかしそこへ放たれた水晶の光が到達する。
 レイリーが身を挺し一切の危険も通さぬと睨みつければ、光は徐々に形をとった。
「……レイリー。何年、私についてきてくれる?」
「っ!?」
 それは千年を越えて生き、死ねない罰に苦しんだ者。
「そのあたりの一般人B、宜しく」
「……くふ。あの丸坊主……いなせな事をするざんすね」
「いなせ、これが、か?」
「勿論。冗談でありんす」
 エクスマリアやエマにとっても旧知たる女の姿をとった。
「そう、これが試練って訳」
「私を……殺してくれる?」
「ついてきての次は殺して、あの時と願いは変わらないのね……分かったわよ。やってやるわ!」
 心のどこかにあった、死力を尽くしぶつかる事への興味。
「私はあいつに生きていて欲しかった。来年の卍祭も三人で舞台に立ちたかった」
 思えど口には出さなかった、文句の一つや二つ。
「その代わり杜撰な再現だったらただじゃおかない!」
 悔いを晴らすかのように槍を振るえば、風を揺蕩う希望の剣がそれを受け止める。
 想いの一端を知る二人は、敢えてその場を託し再誕者達を食い止めんと動く。


●再誕の真実
 既に幾度となく繰り広げられた攻防は、両の手甲に自然と戻らぬ程の濃い赤みを帯びさせた。
 だが狙いを読んだチェイスが聖打を避け、己の強化付与のみに用いることで輝きの消失を遅らせることで戦闘は長期化。
 さらにBの介入で継戦の要たる回復が断たれたイレギュラーズは大きく消耗していた。
「我が理想を阻む者共よ。勝負は見えた」
「いいえ、まだよ……!」
「これ以上は犠牲が出るぞ、イーリン・ジョーンズ」
 犠牲。その言葉が耳にこびりつく。
 幾度の戦いを経て、その身が力を取り戻しつつあろうとも。
 混沌を取り巻く魔は強大である。
「……自己犠牲だけで足りるほど、簡単な道じゃないと分かっているわ」
 勝つために数多の個を結集させ、堅実な戦術で挑んだとしても。
 時に波は大切な何かを容易く攫う。
「皆を踏み台にできるほど、私は強くないと知っているわ。けれど……」
 罪の呼び声が歌となる。心に、魔力に刻まれた奇跡の歌に似た何か。
 友の声が想起させる。取り零してきた多くのものを。
 この心の深くへ刻まれた想いが確固たるからこそ、過ぎるもしも。
 けれど、だからこそ!
「私はこの先へ進まなければならない!
 この想いが障害となるならば貴方は私達を完全に超える必要がある、そうでしょう!?」
「……覚悟はあるか。ならばその誠意に応えよう」
 チェイスは力を込め恩寵なる玉を砕き、これまでで最大の輝きを纏う。
 これこそがイーリンの、一行の真の狙い。後はその瞬間まで耐え抜く事だけが求められた。
「やっと本気になったか! ならその一撃、受け止めてみせるぜ!」
 力強い声と眼光で、ゴリョウが立ち塞がる。
「旦那。オメェさんは再誕者らが自身の意思を持つと信じてるようだがな、持ったところでそれは元と似て非なる別モンだ!」
「何故そう言い切れる!」
 放たれるは物理や神秘の法則を超えた聖なる一撃。
 その衝撃は想像を絶するはずであるが、エルフ鋼の盾とゴリョウの技量が堂々とした姿勢を保つ。
 これぞポロキメンの真骨頂。
「ぐおお?! ……そりゃあなぁ、奴さんらがオメェさん自身の想いで構成したに過ぎないからだ!
 死んだ奴は……どうやったって生き返らねぇ!」
「それは混沌の理屈! 死に消えたはずの未来掴まんと、試練を超えて得た自我がある!」
 放たれた二撃目に、流石の英雄も片膝を尽かざるを得ない。
 逆流する血潮は相当だが、可能性の力が混沌での死を妨げた。
 そこにイズマが割って入る。
「生に最善を尽くさない理想に、俺達の正義は負けられない!」
「永遠に消えぬ最上を与えるための過程が、最善と言えぬのか!」
 二人の棘の加護が跳ね返す傷は、水晶が強制的に塞ぐ。
 それでも痛みに苦悶が滲む三撃目。
 イズマもまたエルフ鋼に劣らぬ鋼として耐え抜き、神滅の魔剣を右手甲に打ち込み深い亀裂を生じさせた。
 だがあと一歩破壊には及ばず、返す拳に払われる。
「例え一時信徒へ至れぬとも、我が覚え待ち続ける! 我を信じ、神の力を信じるならば、必ず救ってみせる!」
 決意の四撃目。
 誠意を示すため、イーリンはそれを正面から受けた。
「ぐっ……! 優しいわね、でも」
 手甲の輝きが消えゆき、奪うが如くイーリンの右目が燃える。
 消えゆくパンドラが魔力となって心臓を燃やす。
「私達は喪失に悩み苦しむ! でも限りあるからこそ得られる温もりの美しさが!
 只人であり続けられることが! 愛おしいと思えるのよ!!」
 死者の守護者へ捧ぐ、生を導くカリブルヌス・月神狩。
 飛び上がり叩きつけられる魔剣は心臓を貫きその身体を地面に串刺しとする。
「今よ!」
「はあああっ!」
 全てはこの時のために。
 温存した魔力全て注ぎ込み、最大限の加速で迫るアルテミアは、蒼と紅の双炎を右手に叩き付ける。
 恩寵のない彼が取れるのは、左手を用いるのみ。
「今度こそ外しません!」
「ええ加減にせぇこのアホンダラ!」
 しかしその選択も。
 与一の必殺必中の願いが、彩陽の誰が為の想いが込められた一撃が封じた。
「貴方は、色褪せぬ強い想いがあれば理想の再誕が成せる。と言ったわね。
 でも、再誕者はあなたの望む理想には決して至らないわ」
「それは未だ自我が――」
「確信したのよ、その自我は生者の主観でしかないものだと! ふざけた神の呼び声に過ぎない事を!」
 双炎は急激な温度差で手甲に黒ずみより早くひび割れを広げる。
「双子故に心の繋がりが深かった私ですら、あの子の全ては……奥底に秘められた想いは知らなかった……!」
 だが声は語り掛けたのだ。
 『私は――エルメリア・フィルティスはアルテミア・フィルティスを……愛しています』と。
 それは彼女が無二を親友を介して聞いた妹の本心。
 直接聞けたなら。想いに応えられたならと思わなかった日はない。
 けれど妹が選び遺したのは『だいすき』の四字。
 そこに本当の彼女の悔いや魂があれば、最期まで秘匿を望んだ想いを告げるはずはない。
「なん……だと」
 強固な信念ほど、砕ければ脆い。
 ましてや力による強制や他方の理屈ではない、信じた神の。
 救い護らんとしたものの、誕(いつわ)りならば。
「貴方は痛みと死に立ちすくみ、声に振り返ってしまった。……そんな者に私達を止める資格なんてないッ!!」
 瞳に、髪に、剣に。
 確かに宿った姉妹の絆が、籠手を砕き、その腕ごと理想の核を断つ。


●想いの力
「ぬおおぉぉ!」
 結晶が砕かれたことで、チェイスの傷を塞いでいた魔力が、波となって溢れ出す。
 それは毒とも瘴気とも言える穢れを伴い、再誕者を飲み込み生者の肌を灼いていく。
「先輩!」
「大丈夫よ、与一。ありがとう」
 乙女達は激流に弾き飛ばされるが、与一と彩陽が受け止め。
「これで終いやね。はよ逃げんと!」
「皆、急いで荷車へ!」
 ゴリョウと支え合うようにして立ち上がったイズマが叫ぶ。
「皆、こっちよ!」
 既に荷車に乗り込むレイリー達も仲間を回収すべく近づいていた。
「チェイス!」
 だがアルテミアとイーリンは未だ波の中心を見る。
「例え掲げた理想が誤りでも、根っこの想いが本物なら……試練を乗り越えようとする彼女を救ってみせなさい!」
「蝕む魔を払うなら、神の呪いだって例外じゃないはずだわ!」
「あ、あ……」
 最早意識など一欠片もあるまい。
 だが救いを願う男は声に残された手を伸ばす。
「先輩、拙者がいきます!」
 深く傷ついたイーリンを助けに来たノエルに任せ、与一は魔力の波を掻き分けると手甲を回収した。
「チャド、高台へ急いでくれ!」
 全員を乗せたドレイクは主の指示に勇んで駆け出す。
 これだけの人数を乗せてもなお軽やかに動くは、日頃の調教と戦闘から守り抜かれ体力が残っていた賜物だろう。
「でもこない勢い、逃げ場なんてすぐ無くなってまう」
「いや、ある」
 彩陽がエクスマリアの声に前を見れば、浮遊していたBが降り立ち、高台の一番上に剣で円を描く。
 するとそれは魔法陣へと変化した。
「一体なんや……って、あれはミ――」
「偽物でありんすよ。レイリー様の想いが籠った」
「今は賭けるしかない! チャド!」
 荷車がすれ違う瞬間、レイリーは魔法陣の入口に立つそれを見やる。
 互いに限界まで闘って、まるで満足したように消えたかと思えば。
 こうしてふと現れるんだから、つかみ所なんてあったもんじゃない。
(やっぱり勝てなかった。倒されもしなかったけど)
 それは生前のBと行った模擬戦と同じ。
(所詮は偽物。物足りなかったけど……嬉しくて、愉しかった)
 愛してるわよ……さよなら。
 レイリーの胸に秘めた言葉に、Bは笑顔を浮かべ、口を動かす。
 ……またね、皆。大好きだよ。

~~~

 魔法陣を抜ける道中、与一が確保した籠手はルディにつけられた。
 激戦に赤みからヒビ割れ、湧き出た魔力に黒ずんでいたそれは、眩い輝きを彼女の身体に染み込ませきるのと同時に砕け散った。
「チェイス様がご執心だった神の力は、魔。だったようでありんすね」
「じゃあ、助かるのか?」
 自身の怪我など忘れたように、ゴリョウが覗き込む。
「チェイスの、いや。神の呪いは、消えた。心臓も、動いている。これなら、マリアが無理やりにでも、立って動けるようにできる」
「よっしゃ! なら美味いもん作って起きるのを待ってやらねぇとな! 未だ見ぬ異界美食の世界ってのを、オメェさん達に見せてやるよ!」
「全員生きて帰ったご褒美や。ええもん頼みますわ」
「その前に、全員。マリアが、癒してから、だ」
 ルディの無事に沸き立つ車内。
 その対角では、波を多量に浴び体力を消耗し気を失った与一が、イーリンの膝枕で寝息を立てていた。
 そこにアルテミアがやってくる。
「司――いえ、イーリン。お疲れ様。無事で良かったわ」
「そっちもね、ありがとう」
 いつかを思いだし、笑顔を浮かべ合った二人。
 眠りを妨げぬようにと、そっと立ち上がり去り際に。
「貴方が本物である限り、私はこうして共に立つわ。あ、変な迷宮へのご招待は勘弁だけれどね」
 その背を見送るイーリンは、与一の頭を撫でながら思案した。
 まだ。心臓は鼓動を刻んでる。
 まだ。器ではなく人としての意思がある。
 まだ。友が私を認めてくれる。
 だから。この躍動に身を任せられる。

成否

成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

なし

あとがき

冒険お疲れ様でした!

PCの皆様の活躍により、核となる水晶が破壊された理想郷はチェイスと闇に消えました。
そしてこの結果はルストの持つ権能の一部を破壊したとも言えます。
リプレイ納品段階でのルスト戦状況は分かりませんが、こうした小さな勝利は必ず、傲慢を打ち砕くことに繋がります!
そちらの戦いも最後まで頑張って下さいね!

今回の物語について。
『理想や正義を図る尺度は人それぞれ』というのが神の国関連のお話になります。
目に見えるもの、信じるもの。それが己の目線からは誤りでも、相手の目線からは正義です。
その複雑なしがらみを解くのは、対話か観察か腕っぷしか、はたまたその全てか。
そもそも解くことや理解する事すら必須ではないので、どの選択をしようと選択を拒もうとも『正解』ではありますが。
今回の件が皆様の信じる混沌での生き方(理想)を見つめ直し、仲間を大切に歩み続ける試金石となれば幸いです。

聖遺物に関して、こちらの言葉足らずで対応を悩ませてしまった点は申し訳ございませんでした。
ですが結果的には「輝きの多くをステータスUPの維持で消費させること」となり、
転じて「強力な一撃を減らし個々の致命的ダメージを避ける」作用が生じていました!
また参加者同士の連携意識も非常に高く、流石はここまで共に戦い抜いた皆様だ、と感動致しました!
この結果において貢献の貴賤はなく、誰が欠けていてもたどり着けなかったと思います!

その上で。理想郷の歪みに曇った信念に、己の現実と喪失を正面からぶつけ否定しつつも。
ギリギリの所で魔種から救いへの理想を引き出し、協力をもって困難を切り拓いた貴女にMVPを。

それでは、またどこかでお会いできることを願いまして。
ご参加ありがとうございました!

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