シナリオ詳細
<悠久残夢>誰そ彼に燃ゆる残り火よ
オープニング
●黄昏の炎よ
――輝かしいものを見た。
滅びゆく世界で、全てが滅びゆく世界で。
俺は、実に輝かしいものを見た。実に、反吐が出ることに。
その輝かしさが、おぞましかった。
「……これほど強いのに、どうして貴方は滅びに加担する?」
黄昏色の剣を手に、その男は静かにそう問うてきた。
愚かなことに、実に愚かなことに。
夥しいほどの死体を重ね、恐らくは親しかったであろう者たちを消し飛ばされなお。
愚かなことに、数刻の内に築き上げた戦争にも至らぬ虐殺の果て。
終焉の獣たるこの俺に、そう問うのだ。
「そんなものを問うて何になる。どうせ、この場で死ぬというのに」
反吐が出る。そんな輝かしさが、反吐が出る。
アナトリウス氏族だか何だか知らないが、愚かな剣士だった。
「そうだな、私はここで死ぬのだろう。
あそこで貴方の部下に四肢を掴まれ心臓を貫かれた女性は私の婚約者の姉だった。
その傍で彼女を守りながら砕けた刀が自分の首に突き立った男は、彼女の夫だ。
私もそうやって貴方が積み重ねた数多の死の一つに積み重なるのだろう。それでも……」
怖気の走るほど真っすぐに、その男は俺を見ていた。
「私には、貴方がどうしてこうも連中に味方するのかわからない。
魔王軍の連中は、まるでそれこそが正解だというかのようだ。
貴方は何者だ、何のために滅びに加担してこんなことをする」
静かに、真っすぐに俺を見ている。
恐れることもなく、ただ真っすぐに、滅びを見ている。
それが■■■■■■■、俺は自然と答えていた。
「俺は終焉の獣なり」
「獣? 獣というには随分と、理性的だな」
「このような問答が何になる。愚かなことだ。それとも、時間稼ぎか? 下らぬことをする」
「……ははっ、時間稼ぎ? まさか。貴方が全員、殺しただろう。
戦士たちは死んだ。戦える者たちは死んだ。
それでも、私には不思議でならないんだ。何に飢えている、終焉の獣」
「飢えている、だと」
「そうだ。これはきっと、歴史の片隅にさえ残らぬ問答に過ぎない。
だから――最後に問うているのだ、終焉の獣よ」
真っすぐに向けられる夕焼けのような瞳は俺の目には悍ましいまでに眩しかった。
「――下らんな」
眩いばかりの輝きに、心底唾棄すべき輝きに、俺は滅びを固めた剣を振りぬいた。
「――そうか、分からないのか」
剣を受け止めた男がそう驚いたように笑っていた。
「――ならいい。なぁ、終焉の獣よ。お前の名は何だ」
「そんなものはない。不要だ」
「憐れな男だ……ならば、私が死んだら私の名前を貸してやろう。
ついでの餞別だ、この剣も貸してやる。
いつか、私よりもきっと強い英雄が、お前を殺すだろう。終焉の獣よ、怪物とは英雄に殺されて初めて怪物なんだよ」
振りぬかれた男の剣を撃ち返すままに振り下ろした斬撃が男の身体を斬り開く。
「そして――きっとその時、お前は答えを知るだろう。
その時、地獄の果てで私はお前の名をもう一度問うてやる。
それまで、その剣とその名はお前の目印だ」
静かに笑った男の名を――アルタクシアス・アナトリウス・ルーベン。
斬り開かれ果てた、ただの人間だ。愚かな武人であった。
――実に、下らぬ。
実に愚かであることに、結局、俺はあの男の名を使う羽目になっているではないか。
「アルタクシアス・アナトリウス・ルーベン……忌々しい名だ」
独り言ち、闇衣の騎士は黄昏色の剣を振りぬいた。
滅びの気配濃いこの地でなお、黄昏の光は灯っている。
この身はここにあるのだと、あの男が言っていた通りの証明のように――
●因果を巡り
「……そうか」
サイズ(p3p000319)の言葉を受けて、青髪の女性――アンネマリーは目を伏せて短く言葉を切った。
「私と彼はそれほど長い付き合いではないが――それでも悲しいものがあるな」
「あぁ、だから俺は彼のためにもルーベンの宝剣を取り戻して供養にしたい」
「――ありがとう、でいいのかは分からないが、確かにあの終焉獣が握る剣は、そうに違いない。
魔王城になら、あの男は確実にいるだろう。よろしく頼む」
そう答えたアンネマリーは少しばかり考えているようにも見えた。
「……しかし、あの男は何なのだろうか」
ぽつりとつぶやいた。
「終焉獣の多くは君たちの世界から渡ってきたのだろう?」
アンネマリーは少しばかり考えながら声をかけてくる。
「それならどうしてあいつはこんな風に遺跡の奥地で眠ってたんだ?」
そう言ってアンネマリーが取り出したのは一枚の写真だ。
サイズが撮影したそれは、先だってイレギュラーズが確保した遺跡の奥に存在していた壁画と石室のもの。
壁画にはゼロ・クールと思しき者たちを率いて黒い影に立ち向かう黒騎士が映し出されている。
「これが君達が呼称する終焉獣『闇衣の騎士』だとして……ならばあの黒い影に立ち向かう理由は? そして、なぜ石棺に安置していた。
だれが何のためにそんなことをするのだろうか。そう言ったことを考えていた」
アンネマリーは写真をひらひらとつまみ、続ける。
「――もしもだ。この存在が元々どちらかというと『こちら側』の存在だったとしたら?
終焉側の勢力への対抗手段として、どこか誰かが作り上げた兵器――或いは、そのために戦った戦士だとしたら?
あの三角形の建造物がそんな存在のために用意された墓地だとしたら。
影海の只中に落ちたことで、終焉獣に呑み込まれたとしたら……長々と語ってしまったね」
そう言ってアンネマリーは写真を手放すとコホンと咳ばらいを一つ。
「……これは独り言だから、無視しておいてくれても構わない。
私はずっと、考えていた。何故、私が生き残ったのかを。
そして、何のために何を為すべきなのかを」
不意にアンネマリーは微笑んだ。
「アルタクシアスの、義姉の、義兄の、仇をとりたかったか。
多分、違うのだろう……ならどうして? そう、ずっと考えていた。
でも、簡単なことだったんだと思う……私はね、多分、嫌なんだ。
『貴方達は滅びます』――なんて、そんな言葉に踊らされて、私が愛したモノが泡になって残らないのが、嫌なんだ」
そう語るアンネマリーはゼロ・クールのケイを招き寄せる。
「ケイ、君には魔王城に一緒に行ってほしいんだ。私の代わりに、全ての瞬間を見てきてほしい」
「それがご命令というならば……」
そう目を伏せるゼロ・クールの頬を、アンネマリーはそっと撫でた。
「違う、これはお願いだ。君には断る権利があるんだ」
「……だとしても、私は主人様のお言葉のままに」
「そうか、ならそれでいいよ……けれど、どうか生きるんだ、ケイ。
……これは、私がアルタクシアスに言われたことだけどね。
君には……君達には、生きて沢山の景色を見てほしいんだ」
そう、言い終えたアンネマリーが何かを懐かしむように微笑むと、深呼吸をして表情を引き締めた。
「……私は、あの騎士を必ずしも討ってほしいとはもう思っていない。
だが――せめて、アルタクシアスの剣は……彼の名は、取り返してほしい」
そう、オーダーを告げ。
「たしかに管理人とやらの計画は盤上遊戯で言えば直接プレイヤーを痛めつけるようなものだ。
これはアルタクシアスが言っていたことの受け売りだけど……敵が搦め手や盤面を覆すような手を使ってくる時こそ勝機の証であるらしい。
正面から動いて失敗してきたから、そんな手を使わざるを得なくなったってことだろうから。
生き延びて、生き抜いて、正面から打ち破ってやればいい。君達は必ず勝てる――そう信じているよ」
微笑むままに、だから無事に帰ってきてくれと、そうアンネマリーは締めくくる。
●
「奴は何が言いたかった。滅びの結晶たるこの俺を見て、なぜ俺を憐れんだ? 分からぬ……分からぬとも良いが」
髑髏面に紅の瞳が明るく灯る。
滅びの化身が、終焉の獣――その上位個体たるクルエラの一が瞳を戦場に巡らせる。
「来訪者ども」
静かに片手で剣を構え、闇衣の騎士が拳を握る。
「貴様らを蹂躙すれば、俺はその答えを知れるのか? 理解できぬ。
それでも……理解せねば、俺はあの奴に負けたままな気がしてならぬ」
焦がれるように、可能性の輝きへの嫌悪と敵意を滲ませ、静かに騎士は告げる。
「俺の名はアルタクシアス・アナトリウス・ルーベン――奴の名と共に全てを蹂躙する者だ」
もう一度、闇で作り上げられた騎士はその名を呼んだ。
- <悠久残夢>誰そ彼に燃ゆる残り火よ完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年12月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「憐れんだ? 何言ってるんだ?
まあいい、その宝剣と名前をあるべき所に返してもらおうか。
どれだけ活躍しようがどれだけ劇的に死のうが、名前がないから歴史にも人の記憶にも残らぬ終焉獣として消えろ」
騎士に向け『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は短く告げる。
同時に本来の持ち主の遺言の1つでも聞けやしないかと宝剣へと意思疎通を試みる。
返答はない。単純に不発であったのか、持ち主からの遺言がないのか。
「そうだな。殺して奪い取って見せろ」
揺らめく黄昏の炎を纏って騎士が剣を構えた。
(闇衣の騎士……奴にも何か事情がある……? 何にせよ、宝剣は奪還するよ……!)
ぼんやりと浮かぶ紅の瞳を見やり『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は思う。
「アルタクシアスさんを殺したのに『彼に負けたまま』? どういう意味だ?
貴様とアルタクシアスさんの間に何があったんだよ!」
「ふん。誰が自分の恥辱をわざわざ口に出すか」
静かなままに騎士は言った。
「『闇衣の騎士』。ソノ真実ハ 分カラナイ。
『こちら側』ノ存在ダッタノカサエモ分カラナイ。
キット君自身ニモ分カラナイ。
タダ分カルノハ。君ハ死者ヲ想ッテイル。
ソレガドンナ形デモ アルタクシアス・アナトリウス・ルーベン 想イ続ケテイル」
静かに『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は騎士を見る。
「……寝ぼけたことを。この俺が、奴を想い続けているだと?」
「ダカラコソ名乗リ続ケ 彼ノ剣ヲ使イ続ケテイル。
ソレダケノ何カヲ ソレ程ノ何カヲ 彼ハ君二遺シタ。
君ヲ遺シタ。ナレバ我 君ガ名乗ルヨウニ 敢エテ呼ボウ。アルタクシアス」
「……ふん」
フリークライの言葉に鼻で笑ったようでありながら、それはどこか嘲笑というよりも図星を刺されたことを誤魔化しているようだった。
「無理やり滅びを押し付けられるのは確かに嫌だな。
まだ生きていたいし、大事な全てが無に帰すなんて虚しい。滅びを打ち破ろう」
依頼人の言っていたことを思い出しつつ『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はメロディア・コンダクターを構えた。
「速戦即決。弾はこちらで用意しよう、加減はなしで頼むよ」
いつものようにそう告げる『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は化神機星を広げて微笑み。
「やべーぞマニマニ! 魔王城でイベントだ! どゆーイベントかって? いや、しらんけど。
でもマジでヤバいやつだって、絶対! ここ魔王城だぞ! 髑髏面が割れると誰か分かるやつだ! 違いねえ」
対する『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は目の前の敵に目を輝かせるもので。
「そういえば今回は私も攻撃する側だった」
秋奈の言葉を聞いてメーヴィンはすぐにでも動き出せるように魔力を制御していく。
「死者の名を借りて、強い奴と戦い、自分を知りたいがために動く。
……オレから言わせてもらえれば……本当に終焉獣か、アレ?
『俺より強い奴に会いに行く』を体現しているようにしか見えねえが……」
銃剣と鞘鉈を構える『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は目の前の騎士擬きを見てそんな感想を抱くものだ。
「とはいえ、滅びのアークが亡霊騎士の形をとっていると言うのならオレ達としては敵でしかない。
最早意味などないが…亡きルーベンの仇討ちといこうか」
「しかり。俺と貴様らは敵同士――ならばやる事などひとつしかない」
「油断するなよ秋奈。髑髏の騎士だからってハロウィンは1ヶ月過ぎてるんだからな?」
紫電はそんな相方にそう忠告しながら動き出せる準備を整える。
「ま、その反応も良き良き。わははは! 紫電ちゃん、連鎖行動よろよろー!」
「あぁ、任せろ。黒き亡霊騎士……ルーベンの宝剣を返して貰おう」
最速で動く紫電、その言葉の終わりには既に夜は奔っていた。
闇の冷気を纏いし刀は時空を斬る黒い刀、紫電の本来の秘奥義。
「ほう、面白い技を使う」
まるで気にも留めず、いっそ感嘆と共に騎士は笑った。
「……案の定か」
「――というわけでー戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! いざ参る!」
間断なく秋奈は名乗り向上と共に思いっきり突貫する。
「とりま宝剣がほしいんだわ!」
その言葉の刹那、秋奈が既に騎士の眼前にあった。
斬り払うは戦神戦闘術の弐。
紫の輝きを帯びた刀は周囲の悉くを薙ぎ払う。
「ぬぅ!」
斬撃の衝撃に騎士は後方めがけて吹き飛ばされた。
「もう一度聞く! 何があったんだよ!」
魔導書に魔力を落とし、ヨゾラは再び問うた。
「下らん、そんなものを聞いて何になる」
眩いばかりの星の輝きを纏う星空の泥が広域に揺蕩い、騎士の身体を絡め取っていく。
続くままにメーヴィンは舞い踊る。
奉納の舞はその身に数多の加護を抱く。
「――私も加減はなしでゆこう」
刹那の内に戦場に作り出される無数の魔法陣から一斉に放たれた呪鎖が騎士の身体を絡めとらんと迸る。
騎士が剣で振り払おうとすればするほど、意志を持ったように波を打つ鎖は複雑にその動きを絡め取っていく。
鎖の動きが収まるころには無防備なる姿を曝け出されていよう。
「何があったかはわかりませんけど、何を憐れまれたのかはなんだかわかる気がします。
だって知らないことが多すぎるから、なんで戦うのか理由がきっとないんでしょう。
蹂躙すると言ってるところからそれはわかります」
手鏡で口元を覆うようにしながら『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)は静かに敵を見やる。
「であれば――問おうか」
ゆらり、騎士が動く。その視線は間違いなく鏡禍に注がれていた。
騎士の眼前に呼び出されしは一枚の鏡。
映し出されし姿と手元の手鏡を接続すれば、鏡界の向こう側から絡めとる。
「む――面妖な技を」
反撃とばかりに騎士が黄昏の炎を纏う剣を重々しく構えるままに振りぬけば、その斬撃が近場を扇状に斬り払った。
「ただ強い人と戦いたいと思ってるのなら……僕が相手になりましょう。
蹂躙するというのなら僕一人簡単に殺せないとダメですよね」
その言葉に対する答えは騎士の瞳が物語っている。
●
鏡禍は妖力で構築した剣を振りぬいた。
「その剣が欲しいんですよね。あなたを打ち倒したら譲っていただけませんか?
剣を弾き飛ばすか、握れない状態にするか、勝負としては無しではないと思いますけどどうでしょう?」
「ほう、出来るかどうかはともかく、面白い。
よかろう、どいつもこいつもこの剣が欲しいと見える」
激しく競り合う中、騎士の握る剣を見やり問えば、静かに告げた騎士は静かな答え。
「出来る者ならばやってみよ」
「できますよ。だって僕……いえ、僕らは負ける気全くないので」
「良いだろう」
一歩、騎士が前に出て押し込んでくる。
そのタイミングで鏡禍は体勢をあえて崩した。
そこに向けてサイズは飛び込んだ。
(しかし凄いなあの宝剣。
終焉獣に振るわれてたらすぐに壊されてしまいそうだけど、壊れてない辺り相当な業物だな……)
視線を向けた宝剣は宝剣の名のわりに武骨なつくりに見える。
真っすぐに突っ込んで、振り払った斬撃は真っすぐに髑髏面を狙っていた。
そのまま宝剣を奪い取るために手を伸ばす。
シードスティール、妖精たちを救い出すための技の応用だった。
「見すぎだぞ、妖精」
そんな声と共に吹き飛ばされる体、蹴り飛ばされたのだと気づいたのは後退した時だった。
「人間は軌跡を残して生きていくが、終焉の獣は滅ぼすだけか。
最後には己が滅ぼしたという事実すら消えるんだな」
イズマは細剣を静かに構えていた。
「それが俺という存在であるゆえに」
「……それは確かに憐れかもな」
静かに呟きを漏らすように告げれば、騎士の紅瞳が瞬いたように明滅する。
「――ほう、貴様は分かるというのか。
奴めが俺に宝剣と名を貸すなどという妄言を放った理由が。
この俺を憐れんだその理由が!」
「答えは己を打ち破る者が現れた時に理解するだろうさ」
振り払う斬撃は運命を弄ぶ旋律を描く。
「貴様も、奴と同じことを言うか!」
「アルタクシアス。我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
死者 遺サレシ者 心 護ル者也。
コノ戦イノ果テニ アンネマリーダケデナク 君ノ心 晴ラサン」
「……俺の心だと? 何故?」
フリークライは静かに告げると共に術式を展開する。
降り注ぐ光は温かに傷を受けたばかりの仲間を癒していく。
「ソレガキット君達遺シタ彼ノ願イデモアルノダカラ」
「――は、なるほどな。やつめの願いか!」
静かな笑いと共に振りぬかれた斬撃が戦場を走る。
「――秋奈、守りは任せた!」
紫電はその言葉と共に既に騎士へと肉薄していた。
「宝剣は取り返して終焉の獣をやっつける。
どちらもやらないといけないのがウチらのつらーいところだが、
今から知恵と実力でそれを証明してもらおうじゃないかーい!
よーし、さっそく始めてみっか!」
騎士の攻撃を受け止める秋奈の頼もしいことだ。
「あぁ、そうだな……紫閃弌刀――」
フェイントに加えた鞘鉈によるブルーフェイクが確かな手応えを感じさせる。
そのままに光速を越え、神速に至る髑髏の仮面を削り落とすべく、紫電の斬光は残酷なまでに伸びる。
無数の斬撃が騎士の身体を縦横に切り刻んでいく。
「いつまでその剣を握っていられるかな! ぶっとべー!」
長年の連携に隙などあろうはずもなく。
秋奈による追撃は受け止めた剣を流すところから始まった。
紫に輝く斬撃は闇のような体を切り刻んだ。
「ぬぅ! このような手でくるとはな!」
桔梗の太刀は騎士の腕を吹き飛ばし、宝剣が床に落ちた。
「……貸された名を呼ばないのも彼に失礼だよね」
語られた真実に頭を抱えていたヨゾラは思い直すと共に魔導書に魔力を通していく。
「闇衣の騎士、アルタクシアス。僕の全力でぶちのめす」
「ふん、出来るものならば、な――」
肉薄するヨゾラはその手に星の輝きを束ねていた。
「闇を晴らす、星の一撃……ナハトスターブラスター!」
その身全てを星の光が瞬くような輝きを引いて、撃ちだされた一撃が騎士の仮面に炸裂する。
「灯火は消えずなおも輝く、か」
メーヴィンは語られた言の葉に静かに言葉を漏らす。
「どうやら先達が心に欠片を埋めていったようだね。ならば私達がその灯を受け継ごうか」
為すべきことは変わらない――なれど、紡ぐものの違いがあるのなら、それはきっと全く違うことなのだ。
舞うように撃ちだされた呪鎖の陣は再び縦横無尽に張り巡らされていく。
それだけで終わろうはずもない。重ねるように紡いだ舞は仲間たちのに加護を降ろす。
魔力を、気力を取り戻すための支援が駄目押しとばかりに張り巡らされる。
宝剣を奪えばひとまずの依頼は達成だ。
「……しかり。俺の負けに違いあるまい。だが――これで終わりのはずはなかろうな」
静かに騎士は言う。払われた手には、黒い剣が握られていた。
いや、黒い剣の形に整えられた滅びのアークそのものか。
●
ルーベンの宝剣を失い、本来の獲物に乗り換えた終焉の獣の攻勢は続いている。
より強大に、より広範にばらまくように降りぬかれる斬撃は強烈だった。
それでも、積み重ねられたダメージの疲労は目に見えて大きい。
「……とはいえ、些か無理をしすぎたか」
揺らめく騎士の身体が当初よりも小さくなっている。
「――オレたちを蹂躙すれば答えを理解できる。
……そんな単純なものだったら、とっくの昔に答えが見えてるだろうさ。
……お前は初めから、負けていたんだ」
「ふざけたことを……この俺が、初めから負けていただと?」
紫電は肉薄した騎士の懐にて剣を払う。
振り払う斬撃は光をも超え、無限の剣閃は空間を侵略する。
「いやー、めちゃくちゃさも極まって、がぜん楽しくなってきたなー!
とにかく攻撃を叩き込んでめんどくさくしてやんよ!」
追撃の秋奈は跳ね上げた長刀を振るう。
放たれるは斬影千手。
緋色の軌跡はその全てが質量を伴い数多の傷口を作り出す。
「――確かに面倒だが、面白くもあろうな!」
受け止める騎士の答えに、秋奈は笑ってみせた。
「それならテンアゲ増し増しおかわりっしょ!」
踏み込むままに放つ崋山の刀。
紅瞳が見開かれたように光を強め、髑髏面を両断すべく斬撃は走り抜けた。
「アルタクシアス……満足できた? 僕等と戦ってる時楽しかった?
勝手に思いついた『モーントナハト』って名前をあげるよ」
ヨゾラは再びその手に星の輝きを纏いながら問いかける。
魔術紋が鮮やかに輝いて、星の破撃は流星のように騎士の身体へと吸い込まれていく。
「……別の名前がないとアルタクシアスさんに名前返せないよね?」
「――ふん、余計な世話だ。元より名など終焉の獣に必要ない」
淡々と答えながら、叩きつけられた魔力に騎士の――モーンナハトの身体が吹き飛んだ。
「だが……そうだな、どうせだ、貰っておいてやろう。
やはり、強者というのは良いものだ」
短く答えた騎士がふらりと後退しながら再び滅びのアークを束ねていく。
「ン ソノ様子 答エ 得タ?」
フリークライはその姿を見据えながら問いかける。
その身を中心に降り注ぐ温かなる光は仲間たちに最後の休息と最後の一撃がための力を齎していく。
「……分からん。俺は終焉の獣であって人ではない。
貴様らのいう答えとやらも、何もわからんな」
「……フリークライなら私のサポートなんてなくても戦線維持は出来るのだろうが。
着実に歩を進めるならこちらが正というもの……厄介なものには対策マシマシで行かせてもらう」
続きざまにメーヴィンが下した天上のエンテレケイアは戦いの趨勢を確固たるものとするだろう。
消耗戦になりかけた戦いを、優勢へと持ち直す。
「――ふん、なれば何度でも押し通させてもらおう」
静かに、滅びのアークを束ねてモーンナハトが笑う。
「そうか、ならばその前に1つ、見せてもらおうか」
それは、ある種の交霊術であった。
舞はこの地に夥しい死の内から1つの残滓を呼び起こす。
「待ち人への言葉と、彼の者への言葉を。今際に交わしたかもしれないが、その答えを、思いを」
メーヴィンは静かに目を伏せ、もう一度開く。
黄昏色の瞳がそこにはあった。
「――その目は!」
「地獄で聞こうと思っていたけれど、こんな機会は都合がいい」
「アルタクシアス!」
「……時間もない。お前の話はあとでいい」
そう言って、メーヴィンの身体を借りた残滓は視線を巡らせる。
「――アンネマリーに伝えてほしい。
愛していたと。君が生き延びているのなら、私の行いも意味があったというものだ。
この世界が滅びて消えてしまうとしても、私は君の婚約者であれてよかった。
先に行っているから――ゆっくりと歩いてきてくれたら嬉しいよ」
ケイの方を向いた残滓の言葉は静かな物だった。
「……終焉の獣よ、お前は結局分からなかったんだな。
俺はお前を憐れに思う。そう生まれついただけで滅びに味方し、そのまま消えるお前を」
改めてモーンナハトを見た残滓はそれだけ言って、ちらりとサイズを見た。
(……そういうことか)
サイズがカルマブラッドを振りぬいたのはその時だった。
鮮血の色に染まった自身の刃を思いっきり降りぬいた。
弧を描く魔力の斬撃はやがて大きな顎となって鮮血の獣が走り出す。
「――ぬっ!?」
気付いたらしいモーンナハトがこちらを向くももう遅い。
2度に及ぶ斬撃は確かに髑髏面へと叩きつけられ、ミシリと罅が入る。
「ぐぅ……何たる様だ。負けるのか、俺は」
「そうだ。お前の負けだよ」
イズマは肉薄するままに剣をとった。
鋼の細剣には魔力を束ね、指揮者の放つ刺突は滅びの獣に夢を与える。
「何たることか」
真っすぐに討ち放たれた刺突は髑髏面に刻まれた罅に入り、そのまま粉砕する。
「だが、これで己が滅びであったことを遺せるだろう」
「――あぁ、なんということか。
怪物は英雄に討たれて初めて怪物となる、か。は、はははは!」
笑いながら、その獣はその姿を永遠に失った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『ルーベンの宝剣』の奪還
【2】『闇衣の騎士』アルタクシアスの撃退
●フィールドデータ
魔王城内部に存在するホールの一つです。
騎士を思わす甲冑がずらりと並ぶ荘厳なる場所。
見晴らしはよく、射程も広く取れるでしょう。
●エネミーデータ
・『闇衣の騎士』アルタクシアス
闇の身体をした騎士風の男――の姿をした終焉獣です。本名はなく、終焉の獣の一体であるだけ。
髑髏の面に赤い瞳が映り、他には黄昏色の炎を纏った剣が辛うじて見えるだけです。
その暗さは暗視やカラーボールなども闇に呑むほどです。
現在の呼称は後述のアルタクシアスからその名乗りを借りています。
自信家であり傲慢な性格。強い者と戦うことを好む気質が見られます。
『●黄昏の炎よ』の内容はPL情報ではありますが、なぜあの時アルタクシアスが自分を『憐れんだ』のか、それが知りたいのでしょう。
それはいつか自分と新たな強者が戦い死ぬ寸前に、
あるいは次にそう言った存在が出たときに知ることができるのではとでも考えているのでしょう。
クルエラと呼ばれる終焉獣の中でも指揮官クラスの上位個体です。
不定形の滅びのアークがぼんやりと騎士のように集まっている状態で、唯一の物質的な部分は髑髏面のみ。
着実にダメージを与えるには髑髏面を殴りましょう。魔種相応の優れたスペックを有します。
黄昏の炎を纏う剣による近接物理戦闘を主体に【火炎】系列や【不吉】系列、【暗闇】などの攻撃を行います。
また、滅びのアークを物質化させて射出する神秘攻撃も可能のようです。
●友軍データ
・『隠密式・K001号』ケイ
ゼロ・クールと呼ばれる魔法使いたちのしもべ人形の1体。
武士や忍者を基盤に設計された隠密・索敵、探索用の魔法(プログラミング)が施されたアンドロイドです。
長身の東洋人風といった印象を受ける黒髪に紫の瞳をした女性型。
軽装ではありますが日本風の甲冑を装備し、短めの日本刀風の武器を2本装備しています。
反応、EXF、回避が高めの生き残り特化型。
高い反応による攻撃も可能なサブアタッカー。
●参考データ
・『魔法使い』アンネマリー
テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)のご先祖様。
何の因果かテレーゼのそっくりさん。ゼロ・クールの製造主である魔法使いの1人。
親類や縁者は魔王軍に殺しつくされています。
戦う術が無かったため本人は生き残っています。
どこかで生き残ったことを気負っているような節が見られます。
・『アナトリウス氏族』アルタクシアス=アナトリウス=ルーベン
『アナトリウス氏族』の氏族長、故人。アンネマリーの婚約者でした。
イレギュラーズがプーレルジールへ来るよりも前に魔王軍に抵抗し、殺されてしまいました。
真相の『●黄昏の炎よ』はPL情報ではありますが、内容の通り、闇衣の騎士に剣と名前を押し付けて討ち取られました。
つまらなさそうに蹂躙を繰り広げる終焉の獣へと正面から立ち向かい、存在意義を問うてみせるような人であったようです。
それ以外にも異世界人を受け入れ友人として遇したほか、
アンネマリーとはいつも穏やかな朝日を見ながら朝食をとるのが日課であったようです。
●サハイェル城攻略度
フィールドが『サハイェル城』のシナリオにおいては城内の攻略度が全体成功度に寄与します。
シナリオが『成功』時にこの攻略度が上昇し、全体勝利となり、プーレルジールにおける『滅びのアーク』が減少します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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