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シナリオ詳細

<悠久残夢>久しぶりを、また会えたねを言うために

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 終焉の使徒と名乗ったプーレルジールの『管理人』こと『始原の旅人』ナイトハルト・セフィロトが語った計画。
 それはプーレルジール世界を滅ぼし、滅びの蔓延したプーレルジール世界を混沌に食らわせることで『内側から滅びという猛毒に侵食させる』というものだった。
 イレギュラーズ達は魔王の計画する混沌計画を止めるために、そしてナイトハルトの計画を止めるために魔王城の本格的な攻略開始せんとしていた。
「ねぇ、先輩達」
 金色の髪を揺らして、彼女は問う。
「あたしの友達――うぅん、親友は、『魔王様の配下』なんだって」
 目を細め、魔王城を見据える瞳には彼女が親友と呼んだ人物の姿が映っているのだろう。
「親友は、志穂は……終焉獣に憑かれてるみたいなんだ。
 あの子は、あたしにとっての日常の象徴でさ、大切な……大切な、元の世界の日常の、証なんだ」
「だからこそ、次こそは取り戻す、だろ?」
「……うん、そうだね。絶対に取り戻したいよ」
 レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の言葉へと佐熊 凛桜(p3n000220)がそう深く頷いた。
「何か気になる事があるのね?」
 オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はどこか曖昧な表情を浮かべた凛桜に問いかける。
「……凛桜殿?」
 芍灼(p3p011289)もまたその表情に気付いて首を傾げて問いかければ、凛桜は小さな笑みをこぼす。
「ねぇ、先輩達……なんで、あいつは志穂のことをあんなに演じ切ることが出来るんだろう」
「演じ切る、でございまするか?」
「うん。あの終焉獣は、あたしの名前を知っていて、あたしを狙ってた。
 あたしの世界で、あたしが混沌に召喚された後のことを知ってるみたいだった。
『力を持つ者は、弱い人に手をかけてはいけない』――って、志穂が良く言ってた言葉を知ってた。
 たしか、前に会った時は一緒にいたローレットのイレギュラーズの活躍を知ってるみたいだった。
 それ以前に、志穂がいつどこのタイミングから来たのかも知ってた」
「はったりじゃない?」
「ええっと、つまり、どういうことでございます?」
「――もちろん、オデットさんの言う通りはったりかもしれないんだ。
 ――でも、あいつの言動はすごく自然だった」
「言われてみれば、そうかもなァ」
 レイチェルが合意すると、凛桜は少しばかり目を伏せた。
「――本当に、『志穂の記憶を読めてるとしたら』?」
「ははぁ……それがいったい」
 首を傾げる芍灼に、凛桜は少しだけ深呼吸をして。
「つまり、だよ。あいつは『ただの寄生型終焉獣なんか』じゃないかもしれない。
 もしも、寄生した存在の記憶を覗いて、その個体の考え方や技術を完全に模倣することができるんだとしたら……それは普通の寄生型なのかな」
「……凛桜殿はこう言いたいのでございますか?
 あの終焉獣は、今までそれがしたちの遭遇してきたタイプの寄生型終焉獣ではなく、上位個体のようなものと?」
 芍灼が思い立った様子で言えば、凛桜は小さく頷いた。
「――もしもそういうタイプの終焉獣だとしたら、あんな風にあたしが知ってる志穂の言葉や考えに沿った風を演じれるかもしれない。
 そんなことができるのなら、それは多分、寄生だけじゃなくて模倣の領域だよ」
 そう静かに声を漏らした凛桜は再び視線を魔王城へと向けた。
「それでさ、これが一番の問題なんだ。そんな風に記憶を覗かれて……うぅん、脳の中を弄られてまともで居続けられるとは思えないんだ。
 今はまだ大丈夫かもしれない……だとしても、いつまでも持つとは思えない」
「そうね……凛桜の言う通りなら、なおのこと、あいつから志穂を助けましょう!」
「うん――ありがとう、オデット先輩――あたしも頑張るから、先輩たちの力を貸してほしい」
 オデットの言葉にそう頷いて答えた凛桜の視線は決意に揺れていた。
「あぁ、そう言われて助けないようなら俺達じゃねェだろ?」
「ふふ、そうだね、先輩」
 レイチェルの言葉に頷いた凛桜は、少しだけリラックスしたように微笑んだ。


 暗かった。何も見えず何も分からず、何も感じないのに、誰かが私の中を覗き込んでいるような気がする。
(……うぅ、痛い、頭が、痛いよ)
 そうやってのぞき込まれている間、ずっと頭が痛かった。
 少し前に、誰かに名前を呼ばれた気がして。
 懐かしい親友の声を聞いた気がして――すがるように声を出した覚えがある。
 でも、あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。
 常に誰かにみられ、身体をひっくり返されるような吐き気がしてたまらなかった。


 サハイェル城へ乗り込んだイレギュラーズ達は、回廊の一角を走っていた。
 西方の果て、影の領域があるべき場所。黒の魔王城は終焉の気配すら感じさせていた。
「はぁい、こんにちは、同胞さんたち」
 そのただなかで朗らかに志穂が笑っていった。
 黒髪の下から覗く深い青色の瞳はゾッとするほど澄んでいる。
「……なァ、クルエラってのは、アンタみたいな奴のことか?」
「ふふ、それをどこで知ったの?」
 レイチェルの言葉に首を傾げながら、志穂は笑みをこぼす。
「――なんてね、別にそこまで隠す理由もないもの。
 えぇ、その通り。私のような者のことをクルエラというわ」
「……終焉の使徒なのよね。終焉獣とは違うのかしら」
 オデットが続ければ、志穂――クルエラはそれを否定する。
「私達は、終焉の使徒。有象無象の終焉獣よりも上位に属す存在だと思ってくれれば十分ね」
「……こちらに気付かれてるからと言って、どうしてそんなに素直に教えてくれるのでございまする」
「ふふ、そんなの……だって――」
 芍灼の言葉にクルエラが短く笑った刹那、その影から黒い刃が爆ぜるように飛んだ。
 鋭く飛んだ刃は凛桜に炸裂する寸前に魔法陣に弾かれる。
「――だって、このまま私が貴女達をもらっていくのだから同じよね」
 薄く、微笑んでみせる。
 志穂と呼ばれる女性を『演じる』理由を失った終焉の使徒が、その正体のままに笑っていた。
「さぁ、貴方の世界の剣豪たちと共に、お友達を増やしましょうね」
 トンと足元を踏んだのを合図に、イレギュラーズを囲むように英雄譚のしもべ達が姿を見せた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】志穂の救出
【2】エネミーの撃退

●フィールドデータ
 魔王城の一角、長い回廊の1つ。
 いるだけで気持ちが悪くなるほど終焉の気配が濃い空間です。
 天井にはシャンデリアのような灯りが連なり、
 床は異様に大きな絨毯がどこから伸びて、果てまで続いています。

●リプレイ開始状況
 リプレイ開始時、イレギュラーズはエネミーに取り囲まれています。
 イレギュラーズが油断したわけでも何でもなく、皆さんが辿り着いた後から志穂が召喚して包囲したような状態です。
 接敵前に前衛と後衛の立ち位置を変えることは可能です。

●エネミーデータ
・『魔王の配下』志穂
 黒髪に深い青色の瞳をした女性。
 ゾッとするほど澄んだ瞳は故にこそ狂っているという印象を受けます。
 肉体は凛桜と同じ世界、凛桜よりもやや遅れるほぼ同じ時間軸から混沌へ転移した正真正銘の『旅人(ウォーカー)』です。
 それゆえ皆さんのことは『同胞』とも呼んでいます。
 終焉獣により意識を乗っ取られており、表の人格は基本は終焉獣による一種の『演技』とのこと。
 本来の性格は凛桜曰く、ごくごく普通の感性をした剣道を嗜む普通の日本人の女の子。

 その正体は終焉獣の上位個体である『クルエラ』と呼ばれる存在の一体。
 この個体自体は寄生型終焉獣から直接的に進化したかのように、
 寄生対象の記憶(脳)を解析することで動きや思考、言動もろもろを模倣する事が出来るようです。

 戦闘によってダメージを蓄積させ、死せる星のエイドスを使用することでクルエラと志穂を分断することができます。
 なお、死せる星のエイドスを使用して志穂を助け出した後、クルエラが消滅するかは不明です。

 日本刀による殺傷能力の高い物理近接戦闘に加え、正体を隠さずとも良くなったために滅びのアークを用いた神秘攻撃を行ってきます。
 日本刀が志穂由来とすれば、むしろこちらが『クルエラ』自体の本当の力なのでしょう。

 日本刀による物理攻撃はのいくつかは【必殺】が着くほか、【凍結】系列や【出血】系列、【致命】などのBSを与える可能性があります。

 滅びのアークを用いた神秘攻撃は敵が今まで隠し持ってきたこともあり詳細は不明です。
 黒い靄であることや滅びのアークそのものであることなどから【暗闇】や【狂気】などは推察できますが、それ以上は不明です。

・『英雄譚のしもべ』剣客×10
 滅びのアークにて作り上げられた『英雄譚に語られた嘗ての英雄や死者たち』のような姿の怪物です。
 多くの場合は混沌由来ですが、この戦場ではどこか江戸期やら幕末やらを生きた剣客たちを思わせる個体で構成されています。
 志穂の記憶から情報を盗み見たクルエラによる『優れた対人戦能力を持つ恐るべき戦士』で構成されているためだったようです。

●友軍データ
・佐熊 凛桜
 希望ヶ浜学園に所属する大学生、イレギュラーズ。神秘ヒーラー。
 オタクにも優しいギャル系お姉さん。ROO事件にも参加していました。
 より多くの死線をくぎ抜けてきたイレギュラーズの皆さんの事は全員『先輩』として敬意を示しています。

 ●サハイェル城攻略度
 フィールドが『サハイェル城』のシナリオにおいては城内の攻略度が全体成功度に寄与します。
 シナリオが『成功』時にこの攻略度が上昇し、全体勝利となり、プーレルジールにおける『滅びのアーク』が減少します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <悠久残夢>久しぶりを、また会えたねを言うために完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年12月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
雨紅(p3p008287)
愛星
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
芍灼(p3p011289)
忍者人形

サポートNPC一覧(1人)

佐熊 凛桜(p3n000220)

リプレイ


「凛桜殿! 志穂殿をお助けしましょうぞ! それがし、目一杯頑張りますゆえ!
 再会したら、それがしのことも紹介してくださると嬉しいでござるよ。
 なんと言ってもそれがし、凛桜殿の後輩ですゆえ!」
 明るく、『忍者人形』芍灼(p3p011289)は佐熊 凛桜(p3n000220)に向けて笑いかける。
「うん、もちろんだよ。芍灼さんにも、他の人達にも、紹介したいな」
「約束でござるよ!」
 凛桜と約束を交わすままに、芍灼は一気にクナイをクルエラめがけて投擲する。
 刀を振るってそれを防がんとしたクルエラは、一本目の影に仕込まれた二本目を捉えきれぬ。
 懐へ潜ったクナイに仕込まれた致死毒はきっとクルエラを苦しめる。
「――ッ、油断したわね」
 息を呑んだクルエラの姿を見据え、『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は弓を引き絞る。
「後輩とその親友の為なら、今一度医者に戻るのも悪くねぇ。辞めて久しいがなァ」
「あら、お医者様だったの? それは怖いわね。治せる人の目は傷を見極められる目だもの」
 くすりと志穂の身体をしたクルエラが笑った。
「よく分かってるじゃねぇか」
 レイチェルはその口ぶりに返すように挑発の意味を込めて笑みを刻む。
 引き絞った月華葬送より放たれる紅蓮の炎が天井に炸裂すれば、そのまま無数の炎の矢に分裂して戦場に降り注ぐ。
「お医者様の矢は毎度厄介ね――鬱陶しいわ」
 滅びのアークを物質化させてレイチェルの矢を振り払いながらクルエラが舌を打った。
「それが俺の仕事なんでね」
 二の矢は既に放たれた。
 レイチェルの矢は真っすぐに堕天の炎を戦場に張り巡らせる。
「これ以上、凛桜様のご友人を、志穂様を好き勝手扱わせはしません。
 私は、お二人が共に笑いあっている姿を見たいのです」
 槍を構えた『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)に対して、クルエラが不思議そうに首を傾げる。
「それなら、今でもできるじゃない。その子を私にくれたら、ね」
「私が言っているのは、志穂様であって貴女ではありません」
「ふふ、冗談じゃない、そう熱くならないで」
 明らかな挑発と共に笑ってみせたクルエラを振り払うように雨紅は槍を一閃した。
 放たれる斬撃は多数の剣客を巻き込み恐怖劇を作り出す。
「面倒ごとは任せるぜ、ミーはそういう繊細なのは好みじゃねえ。
 ぶっ壊さずに倒すのは手間だからな、ミーには向いてねえや」
 そう告げる『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)は1体の剣客に向けて視線を向けた。
「安心しな野郎ども、全員たっぷりもてなしてやる。ユー達なら、遠慮なくぶっ飛ばして構わねえだろ?」
 それは挑発だ。ただそこにいるだけで理不尽なるタイマンのゴングは鳴り響いていた。
「望むところだ」
 そう告げた2体の剣客が一気に貴道めがけて突っ込んでくる。
 大ぶりな剛剣を体捌きで躱し、小手先の剣に拳を叩きつけて勢いを相殺すれば、そのままに敵陣を睨め付けた。
「旅人の脳にまで寄生する敵か……とんでもないな……」
 剣客に向けて本体を構えた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は先端に砲身ユニットを取り付ける。
「……そうだね。クルエラがあたし達の世界から来た終焉獣なら、混沌にも似たようなのはいるのかもしれない」
「ここで良かったな……混沌だと助けようがないということだろ?
「どうだろう……死せる星のエイドスってパンドラの無いプーレルジールでパンドラによる奇跡を起こす起点みたいなものなんだよね。
 だったら、むしろ混沌世界の方が助けられる可能性は高くなりそうだけど……」
 サイズの疑問に対して、凛桜はそう言いつつも歯切れは悪い。
 実際に混沌で似た事態が引き起こされてない以上は分からない話だろう。
(……まあ、個人的には妖精武器としてオデットさんを守るだけだな)
 チャージされた砲撃は戦場に幾重もの閃光を走らせていく。
(ふむ? 骸骨騎士みたいな人に似た個体は見たことあるけど。
 人間に寄生しておまけに模倣までする個体が出るとは思わなかった)
 そんな2人の話を聞きながら、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は首を傾げていた。
「興味はあるけどそれにかまけて対応を疎かにする訳にはいかないからね。
 とりあえず有害な獣には手早く離れて貰うとしましょう」
「あら、興味があるのなら、一緒に遊んでくれてもいいんじゃない?」
 凄まじい速度で飛び込んできたクルエラがくすりと笑ってみせる。
「これは嬉しいね。せっかくのお誘いだけど、まだキミと正面切る予定はないんだよね」
 ルーキスは一気に跳躍すれば、同時に術式を展開していた。
「――捩じれて曲がれ、かの運命。――《クラウストラ》」
 不敵な笑みと共に放たれた術式がクルエラの足を止める。
「あらら、狙うべき相手を間違えたかも?」
 多少の余裕を残しながら、クルエラが笑ってみせた。
「この日のためにみんな尽力してきたんだから、私達なら出来る。
 何も疑ってないわ。だから凛桜、回復はお願い」
「……うん、任せて先輩。志穂の事……お願い」
 『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は笑みをこぼすと共に術式を展開する。
「もちろんよ、みんなで救いましょう」
 照らしつける陽射しの輝きが多数の剣客たちの身体を貫き、剣客たちの宿命を弄っていく。
「寄生する終焉獣か。
 ゼロ・クールに寄生するのは見てきたが人にも寄生出来るとはな。
 その体を返して貰うぞ」
「え、嫌よ。せっかく手に入れた体なのに」
「――お前の意志は聞いていない!」
 その身に闘志を纏い、『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)は一足飛びに志穂の眼前へと飛び込んだ。
 握りしめた拳は破砕の気迫を纏い、クルエラのみぞおち辺り目掛けて真っすぐに閃を穿つ。
「まぁ、酷い!」
 そう笑ったクルエラは滅びのアークで守りを固めようとした。
 霧状のままで物質化しなかったアークの上から昴の拳は強かにその肉体に突き刺さる。
「――ぐっ」
 目を瞠り、クルエラが大きく崩れた。


 戦いは続く。
「しっかり覚えておくと良い。攻撃特化の魔術師相手に下手に近寄ると面倒くさいよ」
 ルーキスはメレム・メンシスの銃口から善なる魔弾を撃ちだした。
 距離を問わず撃ちだされた弾丸はクルエラの身体に確かな一撃となって刻まれる。
「痛いだけで死なないだけ良しとしなさいな」
「そうね、それと鬱陶しいのは別でしょう!」
 動きを大幅に制限されながらもクルエラは苛立ちも露わに暴れている。
「大丈夫大丈夫、この程度で倒れるなら上位個体なんざ名乗れないでしょう?」
 笑ってみせたルーキスにクルエラの表情が歪んだ。
「助けに来たって割には容赦ないわね!」
「えぇ、容赦はしないわ、ヨハンナのこと信じてるから」
 嘲るように笑ったクルエラへと肉薄し、オデットはその手に束ねた小さな太陽をクルエラめがけてたたきつける。
 峰でオデットの腕ごと受け流そうとしたクルエラへ、その輝きを炸裂させる。
 その側面へと走るのはサイズだった。
 やることは決まっていた。
 いつの日も、彼女が――妖精がいるのなら、サイズのやるべきことはたった一つ。
(オデットさんの負担を少しでも減らすんだ……!)
 握りしめた鎌を振るい、撃ちだす斬撃が弧を描いて獣の牙となり、クルエラに食らいつく。
「普段よりは多少は耐えられるだろうが私の出来る事なんて限られているからな」
 昴握りしめた拳には全霊の闘志を籠めて。
 竜をも叩き落とす拳はクルエラの身体を真っすぐに貫いて見せる。
 全てを攻めに傾けた苛烈なる拳打は余りにも壮絶極まる。
 流れるままに穿つ栄光への一打さえもあまりにも脅威的だった。
「……良いでしょう、貴女の拳は立派なことね」
 苛立ちを露わに、クルエラが舌を打つ。
 その手に霧状に集まっていく滅びのアークが明らかに高密度に束ねられていく。
「――お礼に殺してあげるわ!」
 それは至極シンプルな滅びのアークを纏めて打ち出すだけの砲撃だった。
 高密度にまとめられた一撃が昴の身体を貫いた。
「年貢の納め時、というやつでござるよ。クルエラよ、お覚悟!」
「あはは! それはどうかしらね!」
 振りぬかれた一閃を返すように芍灼はクルエラめがけて肉薄する。
 美しき輝きを湛える全霊の一閃はクルエラの身体を両断せんと鋭く伸びる。
 刀を合わせられようとかまわない。愛刀に纏いし『気』は既にクルエラの刀を伝って内部を切り刻む。
(寄生されてようが志穂は人だ。
 人なら……あいつの言う通り出血量や外見的損傷、呼吸数や動作で負傷具合を判断出来るだろう)
 レイチェルの視線は強かにクルエラの動きを捉え続けている。
 人の動きを真似てこそいるものの、一部に人外じみた挙動もあった。
 それらの挙動はレイチェルの目を攪乱するためだろう。
 そう察しを付ければ取るべきは1つ。
 堕天の宝冠より繋ぐ二の矢に籠めた炎の結界がクルエラを確かに捉えた。
「前もやられたわね。なら――」
 刀を振るわんとしたクルエラが痺れた様に取りこぼす。
「寄生型には、多くのゼロクール達も弄ばれた。
 彼らと近しいレガシーゼロとして、あなた方を止めます!」
 雨紅はクルエラへと穂先を向けて宣誓の言を告げる。
 舞槍『刑天』に籠められた敵意は確かなものだ。
 舞うように穿たれる刺突は真っすぐにクルエラの身体を結界の上から差し穿つ。
「有象無象の寄生型と同列に扱われるのは癪ね」
 そう語るクルエラの視線は間違いなく雨紅に注がれていた。
「HAHAHA、手練ればかりとは嬉しいじゃねえか。
 つまらねえ依頼だと思ったが……存外、面白そうだ。
 化け物風情に理解できるとは思っちゃいないが、楽しもうじゃねえか」
 そう笑うのは貴道だ。
 理不尽にもタイマンに持ち込まれた憐れな剣客たちの多様な剣技を真正面から叩き割り、懐に拳を叩きこみ。
 多勢に無勢なれど、それぐらいでちょうどいい。
 羽虫の如き軽妙さで打ち出される拳に秘めたる猛毒は確かに剣客たちをむしばみ、流れるままに打ち込むガンマナイフクロスは剣客たちを内外から破壊せしめていく。


 クルエラの身体は明らかに疲弊を重ねていた。
「ヨハンナ!」
 オデットはその様子を見ながら直感と天啓が正しいのかを問うべく名を呼んだ。
「――あぁ、行けるはずだ」
 確かにそう重ねられて、オデットは奇跡を願う。
 そのために今日ここにいる。
(――やっと、凛桜を友人と再会させてあげることが出来るのね)
 それは確信にほかならない。
「――く、この感じは!」
 刹那、クルエラが表情を歪めた。
 その瞬間を待っていたのは雨紅もだ。
「凛桜様にとって大切な親友だったのなら、それは志穂様も同じでしょう。
 呼んであげてください。それは凛桜様だからこそ届けられる声です」
 穏やかなままに雨紅は凛桜の前に立つ。
 撃ちだされるだろう攻撃をかばうためにあらず。
「私が祈りましょう。『志穂様から離れなさい、クルエラ』――」
 踏み込むままに、槍を撃つ。
 奇跡の輝きに満ちた一撃がクルエラを貫いて――
「志穂――」
 凛桜が叫ぶ。
「あたしはここにいる。お願い、手を取って!」
 輝く槍は志穂の身体を素通りする。
「志穂殿、お助けに参りました! 今度はちゃんと手を掴んでみせまする!」
 倒れ込もうとする志穂へ手を伸ばす芍灼も同じく、温かなる輝きを纏う。
「――あははは! 良いでしょう! 何度やろうと同じ事! もう一度――」
 その言葉を聞きながら、芍灼は志穂を抱きしめるままに後退し。
「させねぇよ」
 レイチェルの金銀妖瞳は静かに志穂の後方を見据えていた。
 死せる星に捧げた奇跡は、クルエラが引き剥がされた後にこそ願う物。
「もう逃げ場はねぇぞ、クルエラ。お前は此処で討たれるンだ」
 落ち着いた動きで構えた弓に紅蓮が宿る。
 尾を引いて放たれた炎の矢は志穂を覆いつくさんとした滅びのアークへと炸裂する。
 わずかなパンドラの光を帯びて放たれた矢は楕円を描いた。
 それはまるで志穂とクルエラの間を阻む境界線のように。
「あぁ、そう。そりゃあそうよね。前と同じ轍は踏まないわね!」
 クルエラが激情を露わに叫ぶ。
「――上手くいったみたいね。悪いけどあなたが消滅するまで見届けさせてもらうから。
 凛桜、志穂を寝かせてあげて」
 オデットは凛桜へと目配せしながらも視線はクルエラから外さない。
 オデットが掌に集めた魔力は小さな太陽を作り出す。
 それは朗らかな陽気と共に輝いて、周囲に一時の休息を与え、疲労感を打ち払う。
「――は……いい気に、なって」
 姿を見せたのは不定形の黒い靄のような何か。滅びのアークの塊。
 それはかろうじて人の形をしていた。
「――ま、まぁ、いいわ。残念だけれど、今日はここまでにしてあげましょう!」
「ここで逃したら確実に別の被害者が生まれるでござる。その命、頂戴する!」
 芍灼はクルエラを静かに見上げ忍刀に『気』を纏う。
 芍灼を証明するようかのような石榴色の輝きを纏った一閃は不定形の身体を捉えた。
 美しき太刀筋は昏き滅びのアークの内側に鮮烈に輝いて中心にまで浸透していく。
「あぁ、その通りだ。逃がすわけないだろう!」
 あらん限りの闘志を拳に籠めて、昴は迫る。
 握りしめた拳に籠められた破砕の闘志は対城絶技にも匹敵する洗練されし一撃。
 守りなど無意味、全てを破壊する拳が不定形たるべきクルエラの身体を確かに捉えて打ち砕く。
「この私を、捉えるなんて!」
 叫び、クルエラが後退するような動きを見せた。
「タチの悪い害虫を逃がすねえだろ。煙で焚いて殺そうなんて難儀はしねえさ。
 慈悲の代わりだ、蒸発するまで殴ってやるよ」
 後方に向けて下がろうとした滅びのアークを掴み取ったのは貴道だ。
 その個体に顔があればそれはきっと顔をひきつらせただろう。
 神武の拳は止まらない。浸透する無数の打撃が不定の人型を霧散させていく。
(オデットさん……大丈夫だったみたいだ)
 サイズはクルエラを警戒しながらも志穂の回復に努めるオデットをみてほっと胸を撫でおろす。
「救出されたならもう手加減不要だ!」
 カルマブラッド本体をくるりと構えなおして、サイズは魔力を活性化させていく。
 鮮血の色を纏った刃から放たれる斬撃はもうほとんど数のいない剣客のうち1体を切り刻む鮮血の顎。
 数度に及ぶ斬撃の連鎖が敵を捕らえ、食らい潰す。
「やっほークルエラちゃん、しっぺ返しのお時間だぞ」
 もはや不定形すら留め切れぬクルエラへ、ルーキスは肉薄する。
「アタッカーたるものこれぐらいの芸当は出来ないとね?」
 当然、既にクルエラだったものに声が出せようはずもないが。
 高純度の魔力を籠められた禍剣は完全なるトドメとなってクルエラの身体を完膚なきまでに消し飛ばした。


「……志穂。親友の凛桜がお前を助けに来たぞ。踏ん張れ!」
 レイチェルは床に寝かされた志穂の応急処置を試みていた。
 オデットの回復術式もあり、容体はひと先ずは安定しているように見える。
「……り、ぉ」
 小さな声がする。震える唇で志穂が小さく言葉を作る。
「……小さくとも言葉が話せたのなら大丈夫だ。頑張れ!」
「回復は私に任せて、凛桜は手を握ってあげて」
 レイチェルの言葉に合わせ、オデットが術式を発動させれば、頷いた凛桜がそっと志穂の手を取った。
「ぁ――ぅ……」
 ぎゅっと瞼に力が入って、少しずつ、瞼が開かれた。
「し、ほ……」
「……凛桜……私、は……」
 霞んだ瞳に光が僅かに差した。
「あぁ、良かった。良かった――」
 心の底から、凛桜が声を漏らす。
「……ありがとう、久しぶりだね……凛桜。声が、聞こえてたの。貴方達の声が……」
 涙をこぼした凛桜の頭を撫でて、志穂が顔を上げた。
「……ありがとう、ございました」
「志穂殿」
「それがしは芍灼と申しまする」
「……うん、貴方が手を伸ばしてくれたのを、私覚えてる。ありがとう、芍灼さん」
 疲労感こそ漂わせながらも、志穂がそう言って微笑みを零した。

成否

成功

MVP

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

状態異常

雨紅(p3p008287)[重傷]
愛星
三鬼 昴(p3p010722)[重傷]
修羅の如く

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
MVPは救出後の再寄生を阻んだレイチェルさんへ。

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