シナリオ詳細
<悠久残夢>滅びの使徒
オープニング
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境界図書館から至った世界、プーレルジールは滅びに面している。
それは、『冒険者アイオン』からも語られた。
混沌世界の下位に位置するこのプーレルジールは、やがて上位である混沌世界に呑み込まれてしまう。
跋扈する終焉獣、明らかに魔種と思われる狂気を孕む病。
さらに、魔王に率いられる者どもが、少なくなったプーレルジールの民を虐殺しているという。
それによって、魔法使いは生活をサポートしてもらう為、ゼロ・クールを作り出したのだそうだ。
彼らの協力を得て、プーレルジールの探索を進めるイレギュラーズだが、魔王の配下である四天王が姿を現して。
『我々はこの世界を滅ぼし、混沌世界へと渡航する事に決めた』
イレギュラーズ、混沌世界を知る魔王軍。
それに立ち向かうべく、アイオンは協力を申し出てくれた。
彼との旅路は混沌にも伝わる勇者王アイオンの伝承をたどる。
「とはいえ、混沌の歴史とは状況が違うよ」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は、魔王が旅人でないこと、四天王が終焉獣に寄生された存在であることを話す。
「ブハハハッ、ハナから滅びのアークに侵されてるなんてな!」
「この世界に、救いなんてなかったのかもね」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)、『優しきおばあちゃん』アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)は、もはや仕組まれたようなこの事態に笑いすら浮かべてしまう。
魔王軍は、西……影の領域にあるサハイェル城で待ち受ける.
なお、そこまでの案内は、2体のゼロ・クール、生体番号「D-011」ビスクと、生体番号「RB-10」セネシオの2人がしてくれる。
「すでに、現地までの道順は登録済みです」
「ただ、その行く手には障害もあります」
ビスクは万全の案内を約束するが、セネシオはその道が平坦な者でないことを示唆する。
それは、途中にある『ゼロ・グレイグヤード』なる場所だ。
「そこは、『ゼロ・クールの墓場』とも称される場所さ」
この近辺には、魔王配下の者達や、終焉獣が行く手を遮る。
特に、寄生する個体が廃棄済みのゼロ・クールを操って……。
「クルエラなる指揮官級は終焉獣の中でも一際強い存在だよ」
終焉獣の中で自我を持ち、高い戦闘能力を個体、それがクルエラだ。
やはり、下位の終焉獣よろしく様々な形をとり、滅びを蔓延らせることに長けている。
そして、ゼロ・グレイグヤードで待っているのは、戦うのに都合がいい場所と言うことだろう。
「くれぐれも注意してくれ。敵が何をしてくるかは分からない」
分かる範囲での情報をオリヴィアは提示するが、現地では何が起こるか不透明な部分も多い。
できる限りの準備を。
オリヴィアは最後にイレギュラーズへとそう告げた。
●
影の領域へと踏み込んだイレギュラーズ。
サハイェル城を前方に臨みながらも、メンバー達が通りがかったのはゼロ・クールの墓場、ゼロ・グレイグヤードである。
「……前方に敵対存在を感知」
「該当データあり、終焉獣です」
ビスク、セネシオが続ける。
イレギュラーズはあちらこちらにゼロ・クールの残骸の転がるその地でゆっくりと歩を進めて。
「ブハハッ、大層な歓迎だな!」
ゴリョウが目の前に現れた終焉獣の姿に噴き出してしまう。
人型の筋肉を思わせる漆黒の終焉獣、スライムのような流動性を持つ寄生終焉獣、それにすでに規制されたゼロ・クール。
いずれも資料によってイレギュラーズが遭遇経験のある敵ばかりだが、そのうち1体だけ未知の存在がいた。
「完全に人の姿をとる終焉獣……ね」
ゆったりとした口調でアルチェロが言葉を漏らす。
こちらの反応を観察していたそいつは……漆黒ではあったが、完全なる人間の姿をとっていたその人型はチアウェイと名乗った。
「滅びに抗う愚か者どもよ」
腕を伸ばしたチアウェイは従える終焉獣らを身構えさせる。
イレギュラーズもまた銘々にチアウェイへと呼びかけるが、相手はその全ての淡白な答えを返して。
「全ては滅びの前に無力だ。受け入れよ」
ここでそれを受け入れれば、プーレルジールだけでなく、混沌世界までもが滅びを迎えてしまう。
それを全力で抗う為、イレギュラーズはまず目の前の滅びの使徒に抗うにである。
- <悠久残夢>滅びの使徒完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年12月04日 22時50分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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プーレルジールから出立したイレギュラーズは改めて、合流したゼロ・クールと交流を深めて。
「ビスクさんもセネシオさんも久しぶり!」
「「お久しぶりです」」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が挨拶すると、2人のゼロ・クール、金髪碧眼のビスクと、銀髪の少年セネシオは声を揃える。
今回、メンバー達はこの世界に滅びをもたらす魔王軍と対するべく、魔王城……サハイェル城を目指す。
「にしても、滅びのアークを引っ提げて混沌世界に……なんてはた迷惑な話だわ」
『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は改めて事情を聴き、呆れを隠さない。
魔王軍はすでに滅びのアークに侵されており、彼らはこの世界に滅びをもたらす前提で、混沌世界までも狙っているのだという。
程なく、メンバーが差し掛かったのは、ゼロ・クールの墓場、ゼロ・グレイグヤード。
ゼロ・クールの残骸が残るこの場所で待ち受けていたのは……。
「いるね」
敵の存在を感じ取ったヨゾラが仲間達へと呼びかけると、メンバーは前方に様々な姿をとる終焉獣の存在を感じ取る。
スライムの如き寄生終焉獣、それらに寄生された廃棄済みゼロ・ドール達。
大柄の人型で筋肉を発達させた憤怒の筋肉。
そして、黒い人型、クルエラと呼ばれる指揮官型終焉獣がこの場の敵を統べている。
「滅びに抗う愚か者どもよ」
「滅び、ね。そこには優しい眠りも、穏やかな夢もありはしないのでしょう」
「……無論だ」
『優しきおばあちゃん』アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)の問いに、チアウェイと名乗るクルエラが頷く。
「世界が終わる事に抗うのは、当たり前のことなの、です!」
そこで、『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)が声を荒げる。
「滅びに抗うのはイレギュラーズだからでも、ましてや愚か者だからでもなんでもない」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は眼前の敵を諭す。
――今を生きる誰もがやって当然のことだ、と。
「この手に抗う力がある以上、はいそうですかって受け入れる訳にはいかないわ」
「俺達の抵抗はかなり痛いぜ、覚悟しろよな?」
ルチア、錬も終焉獣の指揮官へと敵対の意志を示せば、チアウェイは従える終焉獣全てに臨戦態勢を取らせて。
「……全ては滅びの前に無力だ。受け入れよ」
ただ、ここまでやってきたイレギュラーズがそれを受け入れようはずもない。
「悪いけれど、滅びは生まれ故郷の話だけで充分なの」
当時、無力な小娘だった『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)は先んじて故郷から一人逃がされたという。
その為、ルチアは実際に滅んだ様を直接視認したわけではないそうだ。
次に、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はその手の決まり文句は聞き飽きたと頭を振って。
「もっと正直に言ったらどうだ? 『降参して頂かなければ困ります』とな!」
汰磨羈の声がこだました後、場の空気が一気に張り詰める。
メンバーもまた、手早く戦いの準備を整えて。
「ぶはははッ、ビスクとセネシオはアルチェロの護衛と俺らの援護を頼む!」
「了解です」
「最善を尽くします」
ゼロクールらしく返事するビスク、セネシオに、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は再度豪快に笑いかけて。
「なぁに俺が居る! 一匹たりとも寄生終焉獣は行かせやしねぇさ!」
先のチアウェイからの返事を受け、アルチェロは自身が戦場に立つ理由としては十分だと悟って。
「私は夢の守護者、生きとし生けるモノの命を見守るモノ」
――おばあちゃんの前で、傷付いていい子等など居ないのだから。
悠然と敵と対する名付け親の2人に挟まれ、ゼロ・クールらも心強そうだ。
「……2人とも、守り切るよ。絶対に奴等に寄生させないからね……!」
ただ、今回はゼロ・クールにとっては天敵ともいうべき存在であり、ヨゾラは特に寄生終焉獣からは護り切る気概で身構える。
「勇者は不在であっても、この際関係ない」
このプーレルジールには確かにアイオンは存在するが、アンナが言うように勇者と呼ばれる存在はいない……それでも。
「魔王だのなんだの引っくるめて、あなた達のような存在は全て私達が倒すのだから」
その言葉を聞き届け、チアウェイは腕を振り下ろして配下の終焉獣どもをけしかけてきたのである。
●
ゼロ・グレイグヤードはゼロ・クールの墓場と言われるが、実際はあちらこちらにその残骸が転がる廃棄場を思わせる。
それらは何とも無惨さを感じさせるが、もはやコアの遺されていないそれらは動くこともなく、ただ風化していくのみ。
だが、まだ完全に壊れていないコアもあり、それを使って強引に廃棄ゼロ・ドールを動かしたのがスライム状の寄生終焉獣である。
共闘するビスク、セネシオをそれらから守りたいメンバー達だ。
Lilyは少し空中へと浮かび上がり、仲間と共に2人を護るべく寄生型を最優先討伐対象として見定める。
ただ、それらを従える指揮官チアウェイの能力が未知数なのが気になるところ。
(皆、百戦錬磨のイレギュラーズだ)
ゴリョウはこれまで出現した人体部位型終焉獣の情報をモンスター知識として皆へと伝達する。
「ほぼ全種と戦った経験ある俺が居るのは不幸だったな、チアウェイ!」
「…………」
そのチアウェイが先んじて怪光線を発してくる。
これは瞳型の敵が使ったもので間違いない。
「指揮官に大人しく仕事をさせるほど、私達も素直じゃないのよね」
僅かに後手へと回ったものの、ステップを踏むアンナはひらりと光線を避けつつそいつの周りを舞い踊る。
「そういうわけだから付き合ってもらうわ。力尽きるまで踊り明かしましょう?」
まるで誘うようにくるりと回るアンナは、妖艶な笑みを浮かべて手を広げる。
「……」
返事はしないチアウェイだが、しばらくはアンナの誘いに乗ることにしたようだ。
また、錬も屈強なる憤怒の筋肉2体纏めてを相手取っていて。
「お前たちが終焉を齎すよりも速く作れば何も問題ないな、止められるものなら止めてみな!」
「「…………!」」
凛として名乗りを上げる錬に対し、筋肉らも挑まれた勝負ならば望むところと彼に向かってその膂力をぶつけることにしたらしく、大きく腕を振り回していた。
ほぼ同じ時、他メンバーが寄生型と廃棄ドールの殲滅を急ぐ。
ルーンシールドを展開したゴリョウが敵陣へと突っ込んでいて。
「さぁ来な、寄生虫ども! 俺に取り憑けるもんならなぁッ!」
彼が捉えようとしていた終焉獣、廃棄ドールは合わせて10体もいる。
それだけの攻撃を引き付ければ、致命傷は避けられないが、ゴリョウは持前の防御技術に加えてルーンシールドで凌ぐ。
とはいえ、ゴリョウが耐えられるという確証もなく、汰磨羈は彼の戦いぶりを気にかけつつもビスク、セネシオから敵を引き離すべく、高速詠唱して。
己に魔神の一部を降ろした汰磨羈は次の瞬間、一気に殲光砲を放つ。
激しい光に灼かれる終焉獣らは、重力を無効化する汰磨羈の力に屈して後方へと飛ばされる。
ただ、魔王の力によるものか、はたまた滅びの力で強化されているのか、敵は皆汰磨羈の砲撃に耐えていたようである。
しかし、メンバーの攻撃は続く。
ヨゾラが呼び起こしていたのは、プーレルジールに揺蕩う根源の力。
「呑み込め、泥よ! 終焉獣達を全部飲み干せ……!」
それらを煌めく星空の如き泥へと変え、ヨゾラは一気に敵陣へと解き放つ。
例え、仲間がその間にいようと泥はしっかりと避け、敵だけを呑み込んでいく。
(ゼロ・クールさん達に憑かれる前に……、早急に倒す!)
そのビスク、セネシオもイレギュラーズを助けようと立ち回ろうとするが、アルチェロがしっかりと彼らに言い聞かせて。
「セネシオ、ビクス。今まで学んだことは覚えているわね。良い? 無茶も、無理も、おばあちゃんの前でしたら駄目ですからね」
「はい……」
「了解、です」
少しだけ申し訳なさそうに俯くその姿はなんとも可愛らしいが、アルチェロはそんな彼らに襲い掛かる終焉獣らに、並々ならぬ敵意を抱く。
「私の前で、坊や達を傷付けようだなんて……ええ、ええ、認めないわ。許さないわ」
その見た目は幻想的にも思わせるアルチェロだが、その言葉には何とも言えぬ威圧感があった。
とはいえ、寄生型も新たな体を得ようと躍起だ。
強引にイレギュラーズを突破しようとしてくるそれらに対し、Lilyとルチアが仕掛ける。
多数の実弾兵器を展開していたLilyはあり得たもう一人の可能性を纏い、前方へと弾幕を展開していく。
すでに体が傷んだ廃棄ドールを操る個体は爆撃で苦しんでいたが、それ以上に前へ前へと進もうとしていた寄生型は体が削られていた様子。
回復役として立ち回るルチアだが、初期は仲間達の作戦が功を奏していたからか、自らの攻撃に出ることにしていて。
仲間へと近づいた寄生型へ、ルチアは禍の凶き爪を獄門より呼び寄せ、手近な敵から引き裂かんとする。
早くもその体が崩れかける寄生終焉獣の姿を認め、イレギュラーズはなおも攻撃を激化させるのだった。
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滅びという恐るべき力を持つ終焉獣だが、その終焉獣とも戦いを重ねていたイレギュラーズはその対処も手馴れたもの。
「…………!!」
猛然と殴り掛かってくる筋肉の一撃は思った以上に強力だ。
しばらく、防御に注力していた錬だが、式符を使って絡繰兵士を従えており、しっかりと反撃も叩き込む。
錬から少し距離をとり、寄生型と廃棄ドールを相手取るメンバーがその殲滅を急ぐ。
「喝ァッ!」
近寄ってきていた敵へ、ゴリョウが雄叫びを上げる。
放たれた黒い衝撃波が敵陣へと浴びせかかり、寄生型1体が消し飛んでいった。
同士討ちも狙っていたゴリョウだ。
見れば、寄生型1体と廃棄ドール2体が同胞に襲い掛かっていた。
それでも、体を求める寄生型が体を引き延ばして近づく。
すかさず、寄生型の侵攻を止める汰磨羈は、後方のビスクやセネシオを護るべく攻撃に出る、が。
前方に、汰磨羈はチアウェイを抑えるアンナの姿を見た。
「早く私を排除しないと部下が全滅よ。お得意の滅びで何とかしなさいな」
煽っていたアンナはできる限りそいつの注意を自身に集め、滝の如く血を流させるように終焉を刻み込まんとする。
「小癪な」
多少どす黒い血を流したところで、チアウェイは臆する様子も見せない。
黒い瘴気を発していたその力は胴体を象った終焉獣のもの。
ただ、やはり強力なクルエラが使えば、その力はそれ以上らしい。
自らに強化魔術を施すアルチェロも瘴気を浴びそうになっており、閉じた聖域で抵抗力を高めてから自分の調和を賦活の力へと転じてアンナを癒していた。
汰磨羈は仲間の姿を認め、少し射線を変えてから殺気と闘気を極限まで込めた赫刃を刻み込んで寄生型を爆ぜ飛ばす。
「もう1体来るよ」
ヨゾラの声に気づき、Lilyはそちらに向けて弾幕の嵐を降らす。
Lilyの爆撃を浴びた寄生型が消し飛ぶ間に、同士討ちしていた敵陣で、廃棄ドールが最後の寄生終焉獣を銃砲で撃ち抜いていた。
もしかしたら、ゼロ・ドールがせめてもの抵抗を見せたかもしれない。
イレギュラーズはそう思わずにはいられなかった。
しかしながら、廃棄ドールも2体が相打ちとなっていたようだった。
終焉獣らも底力を見せる。
憤怒の筋肉の片割れが錬を突破し、ルチアへと迫ったのだ。
直接剛腕を叩きつけてくる敵に、彼女は自らへと光輪を降らして耐えようとするが、そこでチアウェイが長く髪を伸ばして彼女を締め上げる。
その連撃に耐えられず、ルチアはパンドラを砕いてしまっていた。
イレギュラーズもその間に、敵を順当に追い込んで。
「その子等の体は丁重に弔う予定だ。貴様等がその体を理不尽に穢し、壊す事は決して許さん」
蹴りを繰り出すその廃棄ドール……いや、ドールを巣食う終焉獣へと告げ、彼女は纏めて捕捉する。
「――さぁ、その体から出ていって貰おうか!」
再度、魔神を降ろす汰磨羈が放つ殲滅砲が廃棄ドール1体を無力化する。
寄生していた終焉獣も同時にコアごと消し飛んだようだ。
「ビスクさんもセネシオさんも、皆も! 誰も倒れさせないよ……!」
ほぼ、戦闘を見守る形となっていたゼロ・クールらを守る為、ヨゾラも渾身の一撃で終焉獣の寄生したドールを打ち砕く。
「勝手に人様を盾にしてんじゃねぇッ!」
さらに、ゴリョウが叫んで新たに1体のドールを魅了する。
そいつが別の1体を銃砲で撃ち抜けば、魅了したドールはLilyが願う。
(人々を護って眠ったドールさん達、起こして御免なさい……)
少しだけ、ほんの少しだけ、その力を貸してくれたなら。
魅了されたままのドールが僅かに硬直したところで、Lilyは致命の剣を突き出す。
コアに取りついていた寄生型が霧散し、ゼロ・ドールはLilyの顔を刹那覗き込むようにして崩れ落ちた。
「これが、特異運命座標……」
滅びに抗う特異点の力を垣間見るチアウェイに、アンナが踊りながら近づく。
「これ以上好きにはさせないよ」
ただ、アンナの想像以上にチアウェイの意志は固く、足を振り上げて空間を裂いてくる。
すぐに空間は閉じ、アンナはなんとか耐えきったが、巻き込まれたルチアはそうもいかず、意識を失っていた。
倒れる仲間を確認したアルチェロはすぐさま介護に当たるが、やはり一緒にいたゼロ・クールらが次に狙われることを懸念したようだ。
「……私、自分で思ったよりずっと欲張りみたい」
必ず、2人を守り抜く。
アルチェロの異なる色の双眸に見つめられ、チアウェイの動きが止まる。
傍では、他メンバーが残る憤怒の筋肉の殲滅に力を尽くす。
文字通り、筋肉でこの状況を覆そうとしてくるが、ゴリョウがそれを許さない。
存在感を示すゴリョウが加わったことで、幾分か肩の荷が下りた錬が攻撃に転じる。
式符より鍛造した相克斧は五行の循環によって強い魔力を宿し、攻め来る筋肉へと叩きつけていく。
体を割られ、筋肉の片割れが爆ぜ飛んでしまえば、もう片割れが思いもしない光景を目の当たりにして若干たじろぐ。
「私達は本当に無力なのかどうかを、その体で確かめて貰おうか!」
汰磨羈はチアウェイへと呼びかけつつ、赫刃を空中で走らせる。
さながらそれは、赤く目映い彼岸花のよう。
それらで体を切り刻まれる筋肉が刹那恍惚とすれば、星の瞬きのような光を発したヨゾラがその筋肉を見事に粉砕してしまう。
これで、チアウェイ以外は皆、ゼロ・グレイグヤードから消え去って。
「安らかな眠りに付いていたドール達を、無理矢理起こして暴走させたことを、私は許さないの、です!」
語気に怒りを込めたLilyが空中からチアウェイを見下ろし、呼びかける。
無論、すぐさま攻撃に出て、銃砲でその頭を撃ち抜こうとする。
「滅びの前に無力だ、なんて。そんな言葉一つで諦めていたら、ここまで来れていないわ」
ここまで抑えていたアンナも息つきつつ。
「……私達が立っている限り希望はある。今までもそうだった。これからも」
滅びに抗い続けるイレギュラーズの意志の強さを、終焉獣へと見せつけた。
「……滅びの前では、そのような力など……」
再度空間を蹴りつけたチアウェイは、自らその中へと飛び込む。
そうして、相手はこの場からあっという間に姿を消してしまったのだった。
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指揮官こそ逃したが、終焉獣の一隊を討伐したイレギュラーズ。
新たな敵の来襲を警戒しながらも、ヨゾラは仲間を手当てしつつ倒した終焉獣が消えた跡を見下ろして。
「体の部位の敵、これで打ち止めかな」
これまで、ヨゾラは人体の部位を思わせる終焉獣と対し、出現報告を聞いていたが、完全な人型が現れたことでそう推察する。
「他に出るなら、倒すだけだけどね!」
いずれにせよ、未知の別種が出現するなら、全て倒すのみ。
ヨゾラはそう割り切っていたのだった。
治療と並行して、メンバーはゴリョウが主体となり、廃棄ゼロ・クール達を埋葬していく。
「俺にとっちゃ、ゼロ・クール達の『それ』は廃棄ってよりも死の感覚に近い」
動きを止め、コアが壊れてしまった彼らは一体どのようにプーレルジールで生を全うしたのだろうか。
墓を築いた後、アルチェロはこの場に妖精達を呼び寄せて。
「たくさん頑張った子等に、穏やかな眠りを」
妖精達が弔いの花を降らせる中、皆銘々に祈りを捧げる。
Lilyもまた、今度こそちゃんと安眠できるようにと両手を合わせていた。
同じく、ビスクやセネシオが同胞の安寧を祈るのを、じっと見守っていたゴリョウは皆が祈り終えるのを見計らって。
「さて! 辛気臭ぇのはここまでだ! 今回は有難うな二人とも!」
「ビスクさんとセネシオさんも大丈夫?」
2人を労うゴリョウに続き、ヨゾラが体調など気にかけると、2人はそれぞれ問題ないことを主張して。
「気遣い感謝です」
「それより、魔王軍は……」
この先、魔王城の攻略に臨むメンバーもおり、逆にビスク、セネシオの2人に気を遣われていたようだ。
それはそれと、ゴリョウは笑って。
「しかし、戦いだけじゃなくて料理の一つでも教えたいもんだねぇ!」
今後とも長い付き合いをしたいと語るゴリョウは、改めてよろしくと2人の手を握る。
「は、はい」
「ありがとう……ございます」
若干恐縮気味のセネシオに対し、名付け親からのこれ以上ない言葉にビスクは感謝を示していたようにも見えた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは戦場にて強い存在感を示した貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<悠久残夢>のシナリオをお届けします。
●概要
サハイェル城の途中にある『ゼロ・クール達の墓場』である『ゼロ・グレイグヤード』が今回の舞台です。
これまでとは違う指揮官級の個体の登場と合わせ、連れてきたゼロ・クール達を寄生終焉獣から守りつつ撃退を願います。
●敵
指揮官級終焉獣クルエラを中心に、終焉獣、寄生終焉獣に寄生された廃棄ゼロ・クールが相手です。
〇クルエラ:チアウェイ
指揮官型終焉獣。全長2mほどの黒い人型。
これまで出会った人の部位を象った終焉獣の内から幾つからの技を使う、指揮官に相応しき能力を持ちます。
・終焉獣:憤怒の筋肉×2体
全長3m程度で人型をしています。
全身真っ黒な体躯ですが、発達した筋肉で戦場を立ち回り、強力な一撃を叩き込んできます。
終焉獣らしく、全身を闇のオーラで包んでから解き放つことで近場を侵食することもあるようです。
・寄生終焉獣×4体
スライムのような姿をしており、人の形をしている者に取り憑く習性があります。
寄生終焉獣同志で引っ付き合い、強化個体になることも。
スライム状の姿で戦う際は、身体の一部を弾丸のように飛ばしたり、近づいて相手の動きを止め、精神に作用してその体を乗っ取ろうとしてきます。
〇廃棄済みドール×6体
廃棄されたゼロ・クール達の体を寄生終焉獣が乗っ取った姿。
終焉獣の力で滅茶苦茶に行動し、暴走しているようにも見えます。
全身を侵食されて真っ黒になっており、足技と銃砲を両方使ってきます。
●NPC
〇ゼロ・クール×2体
とある魔法使いと呼ばれる職人によって作られた人形達。
いずれも知識、感情を有してはいますが、物事の実体験、戦闘体験などはさほど多くなく、無茶して攻撃することもある為、援護する必要があります。
・ビスク(D-011)
ゴリョウ・クートン(p3p002081)さん命名。
金髪碧眼の少女型アンドロイド。
戦闘は近接では片手剣、遠距離では弓、ドローンを使って交戦します。
・セネシオ(RB-10)
アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)さん命名。
10代前半銀色の短髪が特徴的な少年の外見をした球体関節人形。
重火器を使った遠距離攻撃の他、攻めの波動、守りの波動、癒しの波動と支援能力も有しています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いします。
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