シナリオ詳細
<尺には尺を>クリザンテームといと尊き理想郷
オープニング
●理想郷
ここは神の作りたもうた理想郷なれば。
遂行者達の本拠地とされる『神の国』。その入り次として広がっていたテュリム大神殿の攻略を終えたイレギュラーズたちは、『理想郷』を目の当たりにすることになった。
それは大神殿の更なる深層。幾重にも施錠された階層には、様々な光景が広がっている。
豊かな村。賑やかな町。光に満ちた花畑。人々はそれを理想郷と呼んだ。
例えばここに、騎士クリザンテームがいる。
彼はベアトリーチェの災厄の際に魔種に加担したことで知られ、イレギュラーズたちに倒された遠い過去があった。
だがそれがなんだというのだろうか。
「私は確かに死んだ。戦友たちも死んだ。だがここにいる。暮らしている。なぜならば、我等が真なる神がお造りになられたからだ。神のお造りになられた命は永遠である。故に、もう死ぬことはない。
そしてこの場所では、選ばれし誰もが幸福に過ごすことが出来る」
「その通りであります。クリザンテーム殿」
応えたのは彼の副官だった人物だ。名をエステバンという。
「ご覧下さい」
振り向けば、多くの騎士たちが笑顔のまま並んでいる。
足元には花が咲き乱れ、広い広い花園が出来上がっていた。
飢えて苦しむ者は一人もいない。大怪我を負って呻く者も一人もいない。
あのエステバンとて、脇腹を剣で切り裂かれのたうち回ったあげくに死んだというのに、その傷跡すら残ってはいない。
死に怯える者も、一人もいないのだ。
なんと美しい光景だろうか。なんという幸福だろうか。
嗚呼、主よ、真なる主よ。
こここそが、理想郷。
●作られた人形劇
「こんなものが、理想郷であるはずがないわ」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は切り捨てるように言った。
「あの『理想郷』、そしてそこに住まう『選ばれし人』――これらはおそらく、ルストの権能によって作られたもの。幸せであるのも当然、そうなるように作られたからにすぎないわ」
けれど、だからこそ、この理想郷を進まねばならない。探索せねばならない。
これを作り出した者の元までたどり着くため、あるいはそのもくろみを叩き潰すために。
「けれど実際、この空間彼らが『死なない』ということは事実のようね。
もし倒す事が出来ても、別の場所にリポップしてしまうそうよ。
だからこそ、彼らは死を恐れずに戦おうとする……厄介な存在だわ」
今回突破することが求められているのは、『選ばれし人』の領域。騎士クリザンテームとその部下たちの領域である。
当然彼らは敵として立ちはだかり、こちらを迎え撃つだろう。
「騎士クリザンテームはベアトリーチェ災厄の際に魔種側に味方した騎士よ。
黒き剣を自在に操る戦術で兵を圧倒したというわ。
その部下たちも精強なものばかり……」
そう言ってから、プルーはふと口元に手を当てた。
「戦いの中で、彼らと対話を図るのも、いいかもしれないわね。『選ばれし人』がどのような心境でこの領域に存在しているのか。それを知ることが出来るもの」
それと、と付け加えるように指を立てた。
「倒した敵がリポップするといっても、その場にすぐに戻ってくるということは無いわ。あくまで、死を恐れない敵として対応するのがいいでしょうね」
騎士クリザンテームたちを倒し、この領域を突破するのだ。
- <尺には尺を>クリザンテームといと尊き理想郷完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●こここそが、理想郷
「別に死なないって言っても、復活するって言っても、痛みとか覚えてないものかしらねぇ
私は死なないって言っても痛いのは嫌なんだけど
まぁ心折れるまで殺しつくすつもりでいった方が気楽かしら
やだやだ、か弱い乙女に何をさせるのかしらね、まったく」
花咲く野原の真ん中で、『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はしかし不機嫌そうだった。
傲慢の呼び声が蔓延しているがための不快感だといえばそうなのかもしれないが、それだけともやはり言いがたい。
「何度もリポップする、ね。似たような世界を知っているぞ、ゲームの中だがね」
『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は肩をすくめて語る。思い出すのはROOだ。あちらは精巧に作られたバグだらけの世界。対してこちらは、マニエラからすればお粗末な世界に見える。
「リポップが同一箇所からであればリスポーンの目印か何かがあるかもしれんね。
とはいえ、復活し続けるのを相手取るのは面倒だ……倒すのは今回の一度だけでいいのか?」
「まあ、そのはずだ。別の場所にリポップするといっても、何度も襲われるとは言われていないしな」
『紅風』天之空・ミーナ(p3p005003)は手を振ってそう応えると、はあとため息を深く吐き出した。
(遂にはかつて死んだ者達まで出てきたか……私に死神の力があれば、なんとでもできたかもしれないけど……ないものねだりしている場合じゃないね。行こうか)
死は本来ミーナの領分だ。死者が這い出てきたのなら、それは禁忌として罰するべきだろう。
では死者を精巧に作り直した人形が現れたら?
今回は、どうやらそのケースにあたるらしい。
なにしろ……。
「プルーはああ言ったが、奴らにとって理想郷であることに間違いないのだろう。
それがそうなるように他人の手で作られた、偽りの理想郷であったとしてもな。
……だからこそ、俺らが羨ましいなんて思っちゃいけない。
此方と其方は決して交わることのない、相容れぬ世界なのだから」
『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)はどこか不快そうに、あるいは悲しそうに言い捨てる。
この世界は、その住人達にとって幸福な場所であるらしい。なぜならそうなるように作られたから。そうなるように、設定されたから。
部外者であるアルヴァにとっては、魔種の気配と呼び声の響く不快な空間でしかないのだけれど。
「甘ったるい安寧の香り。
満たされつくして向上心をなくした落伍者の声。
そして永遠を約束された生。
なるほどな。
これもある意味、ボクが求めるものか」
そんな中で、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は自嘲気味に笑った。
魔性との契約により肉体を常に再定義し、最良の状態を維持し続ける。それが『美少年』に定義づけられた彼という存在だ。ある意味理想郷の理念に近い存在であるのかもしれない。
相容れぬのは、それがルストへの信仰と支配のもとにあるという点なのだが。
(何でもこう、絶対っていうのはないんよな。それを知ってる。それが分かってる。
だからどうしても理想郷ってのは薄ら寒くなる。分かってて目を背けてるような。
……目を背けてはいけない。から、前を見て進むだけ)
『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は黒衣のマントを軽く握り、そして肩にかけた弓に意識を向けた。
確かに、この理想郷とて絶対はない。たとえばルストを倒してしまえば何もかもが消えるだろう。
だが……倒せるのだろうか? こんな理想郷を作り出してしまえる存在に、果たして?
『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)が花咲く野原を見回し、遠くに敵の存在を嗅ぎ取った。
「此処が、ある種の理想郷と言うのは、間違いなく事実だろう。
唯、これが万人にとって、理想郷では有り得無いのもまた、間違いなく事実だが」
ゆっくりと漆黒の大剣へと手を伸ばす一嘉。
彼の言うように、ここは万人にとっての理想郷ではない。少なくとも自分にとっては、不快なだけの『きれいな掃き溜め』だ。
『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)がじゅるっと触手を動かした。
「当端末ハ、ベアトリーチェ災厄時ハコノ世界ニ召喚サレテイナカッタノデ、今回ノ敵集団ニ対シ思ウ所ハ特ニナイワケデスガ。
敢エテ述ベルナラ、彼等ノ言ウ真ナル神ノ『自己顕示の為の操り人形』ト成リ果ルシカ、救イガ無イノハ哀レカト」
「確かに……な。その通りだ」
一嘉が頷き、観測端末へと返す。遠い敵の集団はどうやらこちらに気付いたようで、突撃隊列を組んで迫ってくるのが見える。
さあ、戦いが始まるぞ。理想郷を賭けた、戦いが。
●からっぽの魂
「まるでR.O.Oのプレイヤーみたいだな」
アルヴァは小型ホバーボード『G-ドライブ』を宙に浮かせると、それに飛び乗ってクリザンテームの一団へと突撃。
「仮に死んでも死なないとして、その先に何がある?」
「何があるだと? 永遠があるとなぜかわらぬ!」
アルヴァの挑発に乗った騎士が彼を追いかけ斬りかかるが、空中を華麗にターンするアルヴァを剣でとらえることがどうしてもできない。
「作られた命、決められた人生。退屈で窮屈だろ」
高度をとって頭上からライフルによる連射を浴びせるアルヴァ。
騎士たちは盾を翳しその攻撃を防御した――その途端。
ミーナによる斬撃が横合いから撃ち込まれる。
上空のアルヴァに気を取られた騎士たちの隙を突き、斬って、斬って、更に斬っていく。
「一所に集まってくれて助かるね。簡単に制圧できる」
「そう簡単にやらせるものかよ!」
何発かの斬撃を通した後、騎士エステバンの剣がミーナの剣をとらえた。
ぶつかり合い、つばぜり合いの状態へと持ち込むエステバン。
少しはやるか……? とミーナが警戒の色を現したところで、彩陽による射撃が始まった。
『ダニッシュ・ギャンビット』で強化された矢が飛び、エステバンへと突き刺さる。堕天の呪いを帯びた輝きが爆発したように広がり、周囲の騎士たちを巻き込んだ。
「散開だ。散開せよ!」
叫ぶエステバン。それによってアルヴァの挑発に乗せられていた騎士たちがハッと我に返ったように隊列を整え始める。
「そう容易くない――か」
セレマは呟くと、一気にエステバンとの距離を詰めていた。
「どうやら君が戦術の要のようだ。黙っていてもらうよ」
翳した手のひらから放たれたのは『聖王封魔』の衝撃。
エステバンはかろうじて直撃を避けたものの、これを喰らえばどうなるか察しがついたのだろう。ミーナを突き飛ばし、セレマに意識を向けて剣を繰り出す。
剣は見事にセレマの身体を貫いたが……しかし、死ぬことはない。
「何!? 手応えは確かにあったはず……! まさか貴様も……!?」
「そんなまさか」
セレマは美しく笑うと、エステバンに二度目の『聖王封魔』をたたき込みその動きを封殺した。
(そう、不死。
契約の中枢を犯されぬ限り決して崩れない普遍の美。
奴らのように、血を流した果てに手に入るそれとは異なる、完全性。
死して何度も蘇るそれを相手に、ボク自身の不死を示せるかと思うと……優越感が込み上げてくる。
神に愛されているのは果たしてどちらだろうな?)
余計なことを考えてしまうな、とセレマは微苦笑を浮かべ、そして周囲に向けてその顔を整えて見せた。
再び隊列を乱した敵集団に対してオデットは素早く行動に出た。
「――『ケイオスタイド』っ!」
ビッと突き出す二本指。弓のようにひいたもう一方の手。その間にオーロラのように煌めく太陽の光が満ちた。矢を放つように飛んで行ったそれは空中で分離し、降り注ぐ。
「誰かに作ってもらった理想郷を壊されるのが怖いのかしら?」
「壊す、だと? 貴様等にこの理想郷を壊させはせん。神を冒涜する貴様等などに、この正義の剣が負けるはずはない!」
部下の一人がそう叫び、オデットへと襲いかかってくる。
オデットは光の障壁を展開して攻撃を受け止めつつ、顔をしかめた。
正義? 神への冒涜? これまで散々奪って壊して作り上げてきたものどもが、あろうことか正義を振りかざすとは?
「決定的に、話が通じない人達ね」
なんて……とオデットは心の中で呟く。
(そもそも壊されたら無くなってしまうのは理想郷だなんて言えないと思うのだけど
薄氷の上に立つものなんて理想郷ではないんじゃない?
本当の理想郷なら作った神がいなくなったって永遠であるべきだわ
それに死なないなんて人間じゃない。生きる中で考えて足搔いて全うするのが美しい人だと思うもの)
その一方でマニエラは攻撃をせずに仲間の回復に専念していた。
騎士の連撃を受けて光の障壁が割れかかっているオデットに対して治癒の魔法をかけ続ける。
高い賦活能力もあってか、オデットの障壁は即座に修復され打ち砕かれる様子はない。
「補給はこちらで受け持とう、加減はなしで頼むよ」
そう仲間に呼びかけつつ、騎士クリザンテームへと声をなげかけた。
「生き返ったその命、何のためにと考えたことはあるか」
「考える必要などない。主がそのようにお造りになられた!」
「思考停止か……あるいは余計なことを考える余裕がなくなったか?」
死を超える事だけが理想郷なのか。
死なないというだけで痛みを感じているのか。
二度目の瀕死を経験する時、その記憶は心を蝕まぬのか。
気になることは、考えてみれば沢山有る。一度腰を据えて話し合ってみるのも面白そうだ、とマニエラは考えた。
そうしている間に、クリザンテームへと一嘉と観測端末が襲いかかる。
「さて、ディスペアーよ。絶望の大剣の力、希望を切り開く為、使わせて貰うぞ」
クリザンテームの剣と彼の剣がぶつかり合い、漆黒の刀身が激しく反発した。
(死を恐れる必要が無くなった彼等では、大将首を落としても、大して動揺を誘えもしないのだろうが。
それでも、指揮能力を低下させれば、こちらが戦いやすくはなる)
狙うは斬首戦術。一嘉は苛烈に攻めつつも、しかし剣術で言えばクリザンテームの方が上手。一嘉の身体に徐々に傷ができはじめる。
それを治癒するのは観測端末の役目だ。
カッと目を見開き、治癒の魔術を高速詠唱。完成させたそれを一嘉へと流し込めば、体中の傷はみるみるうちに消えていく。
これならば安心してクリザンテームと切り結べるというもの。
一嘉は早速クリザンテームへ質問を始めた。
「一つ尋ねるが。此処では死なないと言う事だが、別に、痛みを感じないわけでは無いのだろう?
なら永遠に繰り返す復活は、永遠に痛みを受け続けると言う事でもあるわけだが。理解しているのか?」
「永遠とはそういうものだ。だが死によって潰えることはありえない。主の齎す幸福が、痛みと苦しみすらも癒やしてくださるのだ!」
「ふむ、そういうもの、か」
ならば何度倒しても蘇るわけだ。なんと厄介で、そして……。
「それは、ゆるやかな自殺とどう違う」
戦いは続いている。が、変化は起きていた。
隊列を崩されては直してをくり返すクリザンテームたちが、こちらのヒーラーであるところのマニエラと観測端末を狙って攻撃を始めたのである。
「気を乱すな! 一斉攻撃!」
エステバンの号令を受けてBSを回復した騎士たちが観測端末へと殺到。
無数の剣が観測端末に突き刺さる――も、しかし、その大量の触手は見事に相手の剣を受け止め、攻撃を防いでいた。
いざとなれば仲間の盾にもなれる。それが観測端末の強みでもあるのだ。
自分を狙ってくれるならばむしろ好都合。密集している敵に対して、一度大きく飛ぶように離脱してから『チェインライトニング』の魔術を叩き込む。
次に動いたのは彩陽だった。
密集している敵集団めがけて『穿天明星』の矢を放つ。矢は幻影のように分裂し、まるでマシンガンのように次々と敵兵集団へと突き刺さっていく。矢は強烈な封殺効果を発動し、幾人もの騎士を行動不能にしていった。
その中を切り抜けて飛び出してきたのは副官のエステバンだ。
「これ以上、理想郷で好きにはさせん!」
「……」
彼も、分かっていて目を背けているのだろうか。彩陽は考えて、そしてエステバンに向けて矢を放つ。
飛来する矢を剣で切り落とすエステバン――だが、その直後にアルヴァの銃撃が頭上から降り注いだ。
「死なないから勝てると思ってんなら、それは大きな間違いだぜ。
少なくとも、死の恐怖と緊張感を忘れたお前らには負けねえよ」
「だが、我等は……主と共に……」
銃弾に撃ち抜かれたエステバンがばたりと倒れ、そして消えていく。
「エステバン!」
叫んだクリザンテームが、切り結んでいた一嘉を突き飛ばして駆け寄った。
消えた姿に伸ばした手が空振りし、そしてハッと気付いたように顔をあげる。
「ふ、ふふ……そうだ。我等は死なない。貴様等に勝てなくとも、負けはしない!」
「いいや、負けるね」
ミーナの剣が鋭く走り、クリザンテームの鎧をも切り裂く。
豪快なその剣に続き、鎌の一撃がクリザンテームを襲った。
ギャリッと装甲を削っていく鎌。
「ルストの権能頼りの理想郷だ。ルストが死ねば、それで終わる」
「おのれ――そんなことは不可能だ!」
剣をムチのように伸ばして振り回し、縦横無尽に走らせるクリザンテーム。
ミーナたちはその暴風の如き剣さばきによって吹き飛ばされるが、すぐにマニエラの治癒で回復した。
「余裕がなくなってるようだな。理想郷の幸福はどうした? 主の恩寵は? 薄々気付いているんじゃあないのか? この理想郷がまやかしだと」
「黙れ!」
クリザンテームの剣がマニエラを襲う。
が、それに対抗するようにオデットの繰り出した太陽の力がクリザンテームへと激突した。
光が無数のレンズのように連なり、パンチの要領で打ち出されたプリズムが幾重にも拡大してクリザンテームを横殴りに吹き飛ばす。
「おの、れ……!」
それでも起き上がろうとするクリザンテームを、セレマの魔術が押さえつける。
まるで巨大な手に上から押さえつけられたかのように地面に潰されたクリザンテーム。
「ここには無限のリソースがあるのに、お前たちはそれを皆で享受しようとする。
永遠とは占有すべき資源であることが正しく。
そして占有すべきは己であるべきなのに。
お前達は全く度し難く。
この場所に相応しいとは言えないな」
「何、を……!」
潰されまいと抵抗するクリザンテームのそばへ、一嘉が近づいていく。
振りかざした漆黒の剣が、断頭台のごとく落ちた。
●まやかしの、理想郷
すべての花が散って枯れた。
騎士たちは消え、寒々しい光景だけが広がっている。
「ふむ……この理想郷が、冠位傲慢の権能であるなら、この理想郷内では冠位傲慢もまた、クリザンテーム達と同様に、倒しても、永遠に復活するのだろうか?
……流石に、冠位傲慢本人は、適用外だと思いたいが……さて」
ゆっくりと飛行し、この領域からの離脱を始める一嘉。観測端末も同じく飛行しながら周囲を観察した。
周りには、なにもない。本当に、何も無かった。
寒々しく、むなしい光景だ。
「さあ、もう行こうか」
彩陽が言うと、ミーナが操るドレイクチャリオッツへと乗り込んだ。
セレマも同じく乗り込み、呟く。
「心底無様な姿だった。生き恥だな」
砂駆にひかれた馬車が、走り始める。
アルヴァはボードに乗って飛びながら枯れた花園を振り返った。
もうそこには誰もいない。
「連中は、またどこかでリポップしたんだろうか」
「だろうな。また会うこともあるんだろうか」
マニエラが呟くと、オデットが首を振った。
「やれやれ、ね。その時もきっと、今の繰り返しになるんだわ」
永遠の住人。
永遠のわからずや。
彼らの理想郷がまやかしだと、気付く日がくるのだろうか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●シチュエーション
騎士クリザンテームたちを倒し、この領域を突破しましょう。
●フィールド 理想郷『正しき騎士たちの園』
正しき歴史において勝利していたはずの騎士クリザンテームをはじめとする騎士団が集められた花園および宿舎です。
彼らにとっては多幸感に満ちた空間ですが、PCたちにとっては原罪の呼び声が響く不快な空間となっています。
●エネミー
・騎士クリザンテーム
黒き剣を自在に操り戦う悪しき騎士です。故人です。
この領域では『選ばれし人』として作り出されています。
・クリザンテームの部下たち
どれも精強な騎士たちで、クリザンテームと共に戦おうとします。
彼らもまた『選ばれし人』であり、死を恐れずに襲いかかってくるでしょう。
●用語
・『選ばれし人』
ルストの権能によって作り出された人間たちです。多くのものは異言を話しますが、中には話の通じる者たちもいるようです。
彼らは理想郷の住人であり、理想郷の中で死ぬことはありません。
もし殺したとしても別の場所にリポップするだけとなるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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