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シナリオ詳細

<クロトの災禍>危機に臨みて絶望を断つ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●非常なる災厄の未来
「明日、世界が滅亡しますです。
 あ、嘘です。明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます」
 神託の少女と出会ったイレギュラーズは皆、その言葉を耳にしただろう。
 無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)は、非常なる災厄の未来に瀕している。絶対に外れない神託により観測された超終局型確定未来――通称<D>の発生により、その消滅が確定したというのだ。
 世界の西端、混沌世界の深淵、多くが謎に包まれた影の領域であり、魔種の本拠とされる地域――終焉(ラスト・ラスト)での動きが活発になっていることが、逃れようのない未来を裏付けているようだった。混沌に害をなす終焉獣たちは、ラサ、深緑、覇竜へとその姿を見せ始めた。

 戦い続けなければならい、未来を変えるためにも――。

●デポトワール渓谷
 冠位魔種ベルゼー・グラトニオスが造り上げた最果ての花園──ヘスペリデス。竜種と人間の共存を目指した黄昏の領域は、少しずつ復旧を遂げていた。
 ヘスペリデスの北部には、岩山や渓谷が存在する。デポトワール渓谷と呼ばれる渓谷には、護衛役のイレギュラーズを伴うレーン・クレプスキュルの姿があった。
「こ、これは……!」
 先遣調査の情報を頼りに渓谷へと訪れたレーンは、表情を輝かせる。
「なんて、素晴らしい……研究材料なんでしょう!!」
 未知の魔物の死骸を前にして、研究者であるレーンは興奮気味に声をあげた。しかし、魔物とはいえ命を軽視しているようにも思えた自身の発言から口をつぐみ、静かに死骸を観察し始める。そんなレーンだったが、度々笑みをこぼしてつぶやく。
「ふふふ……ここまで苦労して崖を下ってきた甲斐がありましたね」
 山に挟まれた川沿い、砂利で固められた岸辺にたどり着くまでにはそれなりの労力を必要とした。
 レーンは研究データの収集に没頭しているようで、魔術紋の刻まれた特殊な端末を頻りに操作している。
 レーンの調査に同行するイレギュラーズの面々の中には、【聖女頌歌】 スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)の姿もあった。周囲を警戒するスティアは、魔物の死骸に夢中になるレーンの様子を一瞥する。レーンにとっては貴重な研究の機会であることは理解するが、スティアは死骸の状態を見て懸念を抱く。
 スティアらの目の前にあるワイバーンの死骸には、明らかに食い荒らされた痕跡があった。
「先遣調査の話だけど──」
 スティアはレーンに向けて懸念を口にした。
「ここはやっぱり、魔物のエサ場で間違いなさそうだね。あまり長居するのはよくないよ」
 そう言いつつ、スティアは対岸にも巨大な魔物の死骸があるのを認めた。そして、スティアの言葉をまるで聞いていない様子のレーンに再度声をかける。
「できれば直に……その猛々しい姿をこの目で――」
 そうつぶやくレーンの意識は、すでに目の前の死骸から別の場所へと移っていた。遠くを見つめるレーンの視線は、遠くにそびえる山頂──バンジャンス岩山に向けられていた。
 周囲の山々とは異なり、緑よりも岩肌が目立つ荒廃した岩山。スティアも遠くの岩山を眺めながら、レーンから聞かされた先遣調査の報告を振り返る。近頃その岩山では、滅びのアークに触れて凶暴化したワイバーンやワーム――『滅気竜』が確認されている。その凶悪さは竜種に匹敵するとの見込みで、正面から太刀打ちできるかどうかは不透明であるという報告だった。
 バンジャンス岩山の滅気竜に思いをはせているであろうレーンは、ようやくスティアの呼びかけに反応する。
「す、すすすみません……! つい夢中になっていました」
 レーンは死骸の方を何度か振り返りはしたが、今のところは調査を終えようと、帰路の方角へ向き直る。
「あ、待ってください!!!!」
 レーンは急に声をあげたかと思うと、更に岸辺の端へと小走りで向かっていく。
 帰還を促すイレギュラーズの制止も聞かず、あるものを見つけたレーンは注意深く観察を始めた。
「これは……一体なんでしょう? 謎のストーンサークルです!」
 レーンの言う通り、レーンの腰の高さほどまである20個の岩が、規則正しい円を描いていた。その岩には奇妙な点があり、岩の表面を覆うように無数のフジツボらしき物体が付着している。
「これは……?」
 スティアはレーンに問いかけるようにつぶやいた。
「わ、私も見たことがありません。これはきっと未知の──」
 興奮し切りだったレーンだが、フジツボの殻の間で一瞬何かがうごめいたことで悲鳴をあげる。
 スティアがレーンの悲鳴に反応した瞬間、ストーンサークルの岩々から、一斉にモヤのようなものが吹き上がる。勢い良く吹き出したそれは、スティアたちの頭上を覆う。モヤは形を変えてうごめき、ドクロのような禍々しい霊体に近い姿を見せた。
「まさか、星海獣……?! 覇竜に伝わる、伝説の魔物――」
 レーンは魔物についての講釈を始めそうな勢いだったが、目の前の危機を回避しようとするスティアは、レーンを守るためにもその体を引き寄せた。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●シナリオ導入
 調査に夢中になるレーンの後を追いかけ、奇妙なストーンサークルの内側に踏み込んだイレギュラーズ一同。その岩自体が魔物であり、おどろおどろしい霊体を噴出させてイレギュラーズを出迎える。
 レーンを無事に帰還させるためにも、護衛の務めを果たさなくては──。更にそこには、星海獣の新たな脅威が迫っていた。

●成功条件
 ワイバーン型の星海獣6体を倒し、レーンを無事に帰還させること。

●戦闘場所について
 ヘスペリデスの北部、デポトワール渓谷の川沿い。
 レーンと共に降りてきた岸辺自体は、8人が十分に立ち回れる面積。
ストーンサークルの直径は5メートルほど。

●敵について
●星海獣の能力について
 神秘属性の攻撃をエネルギーとして吸収し、HPを回復することができる。(BSの影響を受けた場合はその限りではない)
●フジツボ岩について
 岩に擬態した星海獣の幼体、20体。
 霊体を自在に飛ばすことができる。攻撃手段は【神特レ単】(石化、防無)で、レンジによるペナルティ、ボーナスの影響を受けない。が、本体である岩自体はその場から動かない。
●ワイバーンについて
 ワイバーン形態の星海獣6体。
 体の大半が、無数のフジツボが付着したようなゴツゴツした表皮に覆われている。
 生気や希望にあふれたエネルギーを好み、イレギュラーズを執拗に狙う。
 翼をはばたかせると同時に、きらめく鱗粉のようなエネルギー体(神中範【識別】【火炎】【痺れ】)を降り注がせる。地上戦になった場合、しっぽなどを鋭く振り回して対象をはね退けようとする(物自範【飛】)。

 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。


レーンの護衛方針
 レーンを護衛する務めを果たすためにも、どうにか切り抜けなければ――。
 更には奇妙な姿をしたワイバーン6体が上空から現れる。通常のワイバーンとは異なる禍々しい姿を見たレーンは、再度『星海獣』の名前を口にする。
「あれは……もしや、成体? 『生命力を食らう飢えた獣』……覇竜に伝わる伝説が正しければ、まずいですよ。イレギュラーズの皆さんが真っ先に狙われます!
 星海獣にとって、きっとイレギュラーズは極上の獲物なんです。ここで倒さなければ、しつこく追ってくる恐れがあります。もしも、あれが人里に降りてきたら……お願いです、皆さんの力で食い止めてください!!」

 全体を通して、レーンの護衛に関する基本方針を決めてください。

【1】積極的にレーンを守る
 レーンを守ることに重点を置く。

【2】仲間に一任し、臨機応変にサポート
 戦闘、サポートなどに重点を置く。

【3】その他

  • <クロトの災禍>危機に臨みて絶望を断つ完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月26日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)
高邁のツバサ
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン

リプレイ

 レーンと共に奇妙なストーンサークルの内側に踏み込んだイレギュラーズ一同は、星海獣に遭遇することとなった。岩から出現したその禍々しい姿に怯むことなく、イレギュラーズはレーンを守るためにも為すべき行動を取る。
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、星海獣をレーンに寄せ付けないように立ち回る。スティアと身を寄せ合うレーンの周囲には、瞬時に無数の火の粉が舞い始めた。火の粉は舞い散る花吹雪のように宙を踊り、一瞬炎の渦となって勢いを増す。星海獣を遮る壁と化し、スティアはレーンを連れてサークルの外へと退避する。
 霊体となって迫る星海獣を退けようと、『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)は魔導式拳銃を構える。エステットは、素早い連射によって本体の岩を撃ち砕き、星海獣らの勢いを押さえ付けた。
 レーンとその盾になることに専念するスティアの2人を、『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は一瞥する。
 強い探究心だけでなく豊富な知識も兼ね備える──レーンのような優秀な人材は、きっとこの先戦っていく上でも心強い存在になるだろう。華蓮はそれを見越して、仲間と共にレーンを守り抜く決意を固めた。
 ──何より……研究に輝くその目を、怪我で曇らせる様な事は決してしたくないのだわ!
 その決意を現すように、力強く祝詞を捧げる華蓮は巫女としての力を発揮する。華蓮は神の加護、神威を授けることで、率先して星海獣に立ち向かう者らの心身を支えようとした。
 イレギュラーズの周囲につきまとうドクロのような姿の霊体──星海獣はどこか品定めをするように、しばらく宙を旋回し続ける。その動きを眺めるレーンは険しい表情を見せ、皆に注意を促した。
「覇竜に伝わる伝説……私の解釈が正しければ、星海獣はエネルギーを吸収する能力があります。皆さんの魔力による攻撃は、効かない恐れがあります!」
 イレギュラーズはその注意喚起に耳を傾け、レーンの懸念を汲みつつ攻撃に移る。
 『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は群がる星海獣に対し、その動きを制御しようと能力を発揮する。ユーフォニーの能力によって、星海獣らの頭上には無数の光が舞い踊る。無数の光の小片は、万華鏡からあふれ出したような幻想的な輝きを放った。その光に魅せられたように動きを鈍らせる星海獣は、ある情動に支配される。それは星海獣を引きつけるトリガーとなり、多くの星海獣がユーフォニーへと襲い来る。
 ──大好きな覇竜を護るため。ここは絶対譲りません! レーンさんのことも、きっと守ります!
 ユーフォニーは迎え撃つ覚悟で態勢を整え、聖なる力を全身に集中させた。
 ユーフォニーが星海獣の霊体を充分に引きつけている間に、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は星海獣の本体である岩の破壊を試みる。
 素早く掲げられたイナリの手は、印を結ぶような動きを見せる。すると、複数の岩の一部が瞬く間に砕け散る。内側から破裂するような勢いで、周囲にその破片や付着していたフジツボの体液のようなものが飛び散った。
「レーン殿、案ずるでない。吾輩たちが粉砕してくれようぞ」
 『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)も、岩を破壊しようと力を発揮する。
 亜竜種の魔術師、『スゥーパァーインテリジェンスドラゴニア』を自称する練倒だが、その実態は脳筋である。
 ──このインテリジェンスによって鍛え上げた筋肉で、粉々にしてくれよう。
 亜竜の骨から作られた斧を構えた練倒は、目の前の岩に向けて勢い良く振りかざす。打撃と共に放たれた衝撃波も加わり、練倒の重厚な一撃によって砕かれた岩は、原型を失った。その岩が本体であった霊体の1体は、たちまち掻き消えて霧散した。
 ユーフォニーの周囲に群がっていた霊体だったが、岩を破壊する練倒らの動きに何体かは反応を示す。岩の破壊を阻止するかのように、練倒やイナリの頭上を旋回する霊体の数が目立ち始めた。
 『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)も霊体の数を減らそうと動き、岩の破壊を試みる。風の力を凝縮させたサンディの手の中には、球状に渦巻く竜巻が現れる。サンディがそれをボールのように投げ放つ間にも、周囲には暴風が吹き荒れる。サンディが放った風の力によって、岩の1つは高速回転するスクリューを押し付けられたようにボロボロに崩れ去った。
 3体目、4体目と霊体が霧散していく中、空気をつんざくような鋭い鳴き声が響き渡る。その声の存在は、上空から迫る影であることはすぐに察知できた。
 翼を広げて滑空する6体の影。それらはイレギュラーズのいる岸辺を目指して真っ直ぐに向かってくる。
「あれは、ワイバーン……?」
 遠くに見えるその姿に目を凝らすレーンは、ワイバーンらしき輪郭を認めつつも疑問を抱いた。フジツボによく似た無数の物体に覆われたゴツゴツした表皮は、今まで見てきたワイバーンとは異なる特徴だった。その姿をよく観察していたレーンは、「星海獣の成体……!」と鋭い声をあげた。
 見る見る内に岸辺までの距離を縮め、ワイバーンはイレギュラーズに向かって一層けたたましい鳴き声を発する。
「『生命力を食らう飢えた獣』……覇竜に伝わる伝説が正しければ――」
 次々と頭上を過るワイバーンの影に身構えつつ、レーンは深刻そうな表情でぶつぶつとつぶやいた。そして、何かを確信したように、レーンは皆に星海獣の危険性を説いた。
「星海獣にとって、きっとイレギュラーズは極上の獲物なんです。ここで倒さなければ、しつこく追ってくる恐れがあります。もしも、あれが人里に降りてきたら……お願いです、皆さんの力で食い止めてください!!」
 レーンの言葉を聞き入れた一同は、新たに現れたワイバーン――星海獣の討伐に傾注する動きを見せた。
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)は自在に宙を飛び交う霊体をかわし、その間をすり抜けるようにしてワイバーンへ狙いを絞る。ルチアを認識する前に、6体の内の1体――ワイバーンAの体は天上まで柱のように伸びる一筋の光によって貫かれる。少なからずその体には衝撃が走ったが、ワイバーンAは飛行を維持したままルチアの方へ向き直る。
 ワイバーンAを見据えながら、ルチアは心中でつぶやく。
 ――今は無事に切り抜けないと……私が抑え込んでみせる。
 ワイバーンを仕留めるためというよりは、ルチアは陽動のために攻撃を放った。レーンの予想通り、ワイバーンはルチアの攻撃によって生じたエネルギーを吸収しているようだ。ワイバーンAは無傷にも見えたが、すべての影響を打ち消すことはできない。ルチアの能力は対象を静かに蝕んでいく。
 明らかにイレギュラーズに狙いを定めたワイバーンらは、翼を前後に動かしてホバリングする様子が見られた。空中から見下ろすワイバーンは翼を動かすのと同時に、イレギュラーズに向けてきらめく鱗粉のようなものを大量に放出させる。その鱗粉は濃霧のごとく立ち込め、サンディや練倒の下へと到達する。極力鱗粉を吸い込まぬようにと口元を覆う2人は、たちまちワイバーンが放ったエネルギー体の影響下に晒された。始めのわずかな間はパチパチと静電気のような刺激に襲われたが、それが繰り返される内に肌を焼くような強烈なものへと変化した。
 鱗粉によって生まれた霧は風に流されていくこともあり、練倒とサンディは即座に霧の範囲外へ脱出する。
 サンディは脂汗をぬぐいながらつぶやいた。
「星海獣か……こいつは、本気を出さないとな」
 エステットと共にレーンを退避させることを優先しながらも、スティアはワイバーンの脅威に晒される者らの状況に目を配る。スティアはサンディを始めとする者らに向けて、自身の癒しの力を存分に振りまく。
 スティアが祈りの力を引き出すように聖杖を構えると、穏やかな風がまるで福音の兆しのようにサンディらを包み込んだ。頬を撫でる風はどこまでも安らかな心地を覚え、同時に体が軽くなるような感覚は再起を促す。
 次第に岸辺全体を鱗粉が覆い始め、自在に宙を飛び交う霊体の群れは、イレギュラーズを翻弄しようとする。しかし、誰もが冷静に反撃の隙を窺っていた。
 華蓮は風に舞い上がる鱗粉に目を細めつつも、冷静に状況を判断する。華蓮はその有り余る母性に突き動かされるように、多くの仲間の盾を担うことで、霊体の攻撃を繰り返し退ける。更に巫女としての力を発揮する華蓮は、討伐完遂への道を切り開くかのような追い風を吹かせる。文字通り、華蓮がもたらした神の加護は、追い風となってイレギュラーズの下に発現した。その風に乗じるかのように、イナリは機敏な動きを見せた。
 瞬時に術式を展開するイナリは、ワイバーンをその範囲内に捉えて手をかざす。3体のワイバーンが苦痛にあえぐのと同時に、ワイバーンA、Bは体の自由を失ったように岸辺に落下した。
 イナリは、ワイバーンを排除するためにも冷静に立ち回る。
 ――そういえば、異世界の特定地域ではフジツボは高級食材だったわね。
 星海獣を前にしてもどこか余裕な構えを見せるイナリの頭の中では、「食べれるのかしらね?」という考えが同時に浮かんだ。
 岸辺の上に巨体を投げ出したワイバーンAからの風圧を受けつつも、ユーフォニーはすでに攻撃の構えを見せていた。
 炎の力を操るユーフォニーは、自身の周囲に炎を噴出させる。激しく巻き上がり、揺らめく炎はワイバーンAの下に到達する。全身を包み込もうとする炎に対し、ワイバーンAは身をよじって抵抗する。しかし、炎の勢いは弱まらず、追い詰められるワイバーンAは灼熱の苦悶にあえぐ。
 イレギュラーズの攻撃は、確実にワイバーンを追い詰めていく。ユーフォニーらがワイバーンの対処に集中する一方で、エステットは霊体の本体である岩の破壊を狙う。
 攻撃の合間を縫うように、縦横無尽に飛び回る霊体はイレギュラーズの動きを妨げようとする。だが、魔導式拳銃を駆使して弾幕を張るエステットは、複数の岩を蜂の巣にしていく。エステットの働きもあり、破壊された岩の数はすでに半数に達した。
 数で圧倒してきた霊体の勢いは衰えたが、地上へと降り立ったワイバーンはイレギュラーズの多くを巻き込もうと暴れ回る。攻撃を加えようとするイレギュラーズをはね飛ばそうと、ワイバーンは全身を使って長い尾を鋭く振り回す。
「伏せて!!!!」
 レーンを更に後退させようとした直後、スティアは声を上げた。レーンを抱え込むようにして、スティアは半ば強引にレーンの体を屈ませる。次の瞬間、2人の頭上をワイバーンBの尾が切り裂いた。直撃すれすれの瞬間に、レーンは息を呑んで固まる。しかし、うろたえている猶予はない。エステットは、レーンを退避させる時間を稼ごうと銃を構えた。
 エステットの弾幕に晒されたワイバーンBは、標的を定めたかのようにエステットを見据える。しかし、ワイバーン同士で振り抜いた尾がぶつかり合うなどして、互いに威嚇するワイバーンはイレギュラーズから意識をそらす。所詮は統率などない野性の魔物同士である。
 エステットは果敢にワイバーンBの足元をすり抜ける。レーンに攻撃が届かない立ち位置へと移動しようとしたエステットを、ワイバーンCの視線が追いかけた。エステットの進路を遮るように、ワイバーンCの前脚が地面をえぐる。その拍子に、大量の土砂がエステットへ振りかかった。ワイバーンは片方の前脚を振り上げた態勢から、瞬時に裏拳を繰り出す形でエステットを弾き飛ばそうとする。
 華蓮はわずかな差でエステットの腕を引き、引き寄せたエステットの体を反転させたことで立ち位置を入れ替える。一瞬の出来事でなすがままにされたエステットは、華蓮の体が宙に打ち上げられる様を目の当たりにした。ワイバーンCによって弾き飛ばされた華蓮だったが、間一髪で受け身を取ることはできた。
 華蓮と自身の手腕を比較し、エステットは歯がゆい思いを抱いたものの、ひたすらに目の前の敵に、射撃に集中した。
 イレギュラーズの攻撃によって怒りを誘発されたワイバーンは、一層凶暴な振る舞いを見せる。激しい攻撃にさらされる中でも、ルチアはワイバーンBの全身を覆う黒いキューブを出現させた。黒いキューブは一瞬にして掻き消えたが、あらゆる苦痛を内包させたルチアの能力、キューブの影響は即座に現れる。
 ワイバーンBは痛々しい鳴き声を上げ始める。それが弱体化の兆候を示していることを確信したルチアは、皆に攻撃を促す。ワイバーンAに続き、ワイバーンBもその巨体を岸辺に横たえることとなった。
 ワイバーンBが倒れた直後、ワイバーンCは力強く翼をはばたかせる。その拍子に大量の鱗粉が舞い上がり、ワイバーンCの周囲は煙幕を焚いたようになる。勢いに乗ろうとするイレギュラーズを遮るかのように、ワイバーンCは警戒を強めたようだった。
 ワイバーンCへ接近しようとした練倒は、鱗粉を浴びると共に肌を焼くような痛みに襲われる。しかし、それは一瞬の内に治まった。練倒と鱗粉の壁の間には、炎の盾を生み出すユーフォニーの姿があった。
 巨大な盾によって鱗粉を遮るユーフォニーの前に、ワイバーンCが迫ろうとする。練倒は炎の盾の影から勢いよく飛び出し、ワイバーンの鼻先に大きな裂傷を刻んだ。星海獣らにはないチームワーク、互いが互いを補うことで、イレギュラーズの攻勢は苛烈さを増していく。
 レーンをワイバーンらから充分に遠ざけたスティアは、浄化の力を発揮する。スティア自身を中心に、ワイバーンが放つ鱗粉の影響を打ち消す力が波紋のように広がっていく。スティアの働きもあり、イレギュラーズは攻勢を維持することでできた。
 残るワイバーン3体を追い詰めようとするルチアは、全身から禍々しいオーラを放つ。そのオーラはルチアの両手に収束され、強大な力となってワイバーンDに向けて放たれる。獣のように鋭利な爪を形作ったルチアのオーラは、ワイバーンDの首筋に深い傷を刻むほどだった。ルチアの能力によって、すでにワイバーン――星海獣が力を吸収するという懸念は払拭されていた。ルチアの攻撃を受けたワイバーンDの様子から、華蓮もその状況を察した。
「大丈夫……大丈夫。私達はもっとやれる……」
 祝詞を唱えて祈り続け、常に皆を守り助ける力を引き出してきた華蓮は、自身に言い聞かせるようにつぶやく。
「――まだまだやれる…強くなれるのだわよ!」
 華蓮は何も手にしていない状態で、弓を引き絞る構えを見せた。すると、華蓮の手の中には確かに光り輝く矢の形が現れた。それは神威を授かった必中の一矢となり、ワイバーンEの片目を貫いた。ワイバーンEが悲痛な叫び声をあげるのと同時に、練倒は一気にワイバーンEの下へと迫る。練倒の斧は鱗粉の霧を切り裂くほどに鋭く振り抜かれ、その勢いのままにワイバーンEの首をへし折った。
 次々と他のワイバーンが打ち倒され、最後に残されたワイバーンFは半狂乱になってイレギュラーズを仕留めにかかる。
 スティアの影でワイバーンFの様子を食い入るように眺め、星海獣の生態を分析するレーンはぶつぶつと独り言を繰り返す。
「あの特徴的な表皮……ワイバーンに似ているけれど――」
「力を吸収する、ということは……」
「宿主ではなく、あれは星海獣そのものなの……?」
 レーンのことを気にかけつつも、スティアはワイバーンFの動向を遠巻きに見据えた。最後まで気を抜かず、スティアは油断のないように護衛の務めに集中する。
 イナリとサンディは相手を挟み撃ちにする動きを見せ、ワイバーンFを翻弄していく。術式を発動させようとするイナリに対し、ワイバーンFは振り回した尾でその瞬間を妨げる。イナリは弾き飛ばされたが、ワイバーンFはサンディに対して無防備になる。サンディはその隙を逃さず、瞬時に攻撃に出た。
 風の力を操り、その手に力を収束させたサンディはボールを飛ばすように投げ放つ。渦巻く球に触れた瞬間に、ワイバーンFの体は激しく吹き飛んだ。練倒は透かさず追撃を放つ構えを見せ、振り抜いた斧からは衝撃波が放たれる。練倒の一撃は、横倒しになったワイバーンFの上顎を吹き飛ばすほどのものだった。うるさいほどに響いていたワイバーンの鳴き声は途切れ、そこには川のせせらぎだけが残された。

「レーンさん、研究熱心なのは良いことだと思うけど……もうちょっと自分の身の安全に気を配った方が――」
 そう言ってスティアがレーンのことをたしなめる間にも、レーンは熱心に星海獣の死骸を観察していた。その後ろ姿を見て、練倒はかつて竜種の調査に励んでいた自身とレーンの姿を重ね、しみじみとつぶやく。
「吾輩も昔は竜の痕跡を探しては、亜竜によく追いかけられたものである」
 レーンは練倒の一言に反応したように振り返る。
「あなたも、魔物を――竜種の調査を?!」
 モンスターの謎、あらゆる生態を解明することに心血を注ぐレーンは、練倒の話に大いに食いついた。
「また調査の機会があれば、吾輩たちを頼るがいい。大船に乗ったつもりでどっしりと構えておくである、ガーハッハッハ」
 そう言って豪快に笑う練倒を、スティアは何か言いたげに見つめる。スティアの心配をよそに、イナリも星海獣のフジツボのような特徴について言及する。
「これって、異世界の高級食材に似てるのよね。そもそも、星海獣って食べれるのかしらね?」
「なるほど……その部分の謎についても興味深いですね!」
 レーンの探求心は尽きることを知らず、その場から引き剥がすまでに時間を費やすこととなった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。

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