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シナリオ詳細

<伝承の旅路>まだ知らない物語

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「勇者っていうのは冒険に出るらしいよ」
 そんな風に口にした青年を『境界図書館館長』クレカ (p3n000118)は見ていた。
「冒険の先は決まって魔王の場所だという。そういうものなんだって。
 イレギュラーズは、滅びを退けたい。それから、俺は君達と冒険の旅をしたい。なら答えは決まっているだろう?」
 彼の名はアイオン。
 無辜なる混沌では勇者と呼ばれた――この世界では『冒険者』の青年だ。
「こわくないのかな」
「怖くはないよ」
 首を振ったアイオンにクレカは「そう」とだけ呟いてからギャルリ・ド・プリエから遠く離れたサハイェル砂漠が存在する西方を見詰めたのだった。

 クレカ。
 K-0カ号。
 秘宝種として命を得て、記憶も朧気で只独りぼっちであった娘のルーツはこの場所にあった。
 記憶は無いけれど、そうだと心が告げて居た。故に、自身について知りたいと少女はプーレルジールの冒険を選んでいる。
 ゼロ・クール――そう呼ばれる『人形達』が棲まう場所。
 それは無辜なる混沌と似通っていて大きく違う滅びに面した世界、プーレルジールである。
 異世界と呼ぶにはあまりにも無辜なる混沌に似すぎているその場所をクレカはこう考察していた。

 この世界には可能性(パンドラ)と滅びのアークと呼ぶものがほぼほぼ存在して居ない場所なのではないか、と。
 無論、イレギュラーズが居れば可能性は蓄積する。それに相反する存在とて確認されている。
 空中庭園がなく、ざんげも居ない現状ではイレギュラーズと呼ぶ存在がそもそもプーレルジールには有り得ざる者達だったのだ。
「だからね、プーレルジールって場所では奇跡が起こりにくい。
 ……PPP(可能性による奇跡)があれば、コア近くにまで侵蝕されたゼロ・クール達を助ける事が出来るかもしれない……けど」
 どうしようもないと、そう呟いていた。
 クレカにとっては同胞だ。だからこそ、救えるなら救いたかった。
 己と、ゼロ・クールの違いは世界が認めた生命であるかだ。Guide05というゼロ・クールとクレカはそれ程違いは無いが――あるとするならば、二人は『生き物かそうでないか』の差がそこにあったのだ。
「でもね、少しだけ光が見えた」
 ――それが、ステラという少女だった。
 彼女には何らかの特異な力がある。その出自こそまだまだ不鮮明な部分もあるが、彼女の能力を欠片として利用すれば奇跡を起こせる可能性が引き上がる。
「ゼロ・クール達を、助けながら、それからね……アイオンが言う通り、サハイェルを目指そうと思う」
 クレカは『無辜なる混沌』の地図を指差した。

 無辜なる混沌であればラサが存在する西方の砂漠地帯。そこから影の領域に至るまでを『サハイェル砂漠』と呼んでいるらしい。
 そこから西へ、西へと至るにつれて徐々に昏く変化していく。沈島地帯はその名の通り浮遊島であったサハイェルが『落ちた』結果出来た澱みの領域なのだという。
「影海。ここが最終の目的地。でもね、触れちゃ駄目らしい。
 触れると死んでしまうって言われてるから……まあ、つまりね、滅びのアークなんだって」
 クレカはとん、とんと地図を叩いてから顔を上げた。
「サハイェル砂漠周辺を視察しよう。何度でも冒険にはいけるだろうし、あとからアイオン達も冒険するだろうから。
 ……その前に救えるゼロ・クールが居たら助けて上げたいんだ。アイオンって、そういう人を見捨てそうだから」
 クレカは可笑しそうに笑ってから、旅装束を身に纏った。
 慣れやしない戦いも、これからずっとずっと、熟していけばイレギュラーズのようになれるはず。
「がんばろう」


 西方に位置するサハイェル砂漠、そしてそこから先の影海。
 その地へ向けての進軍は砂漠地帯を旅することになる。点在するオアシスを越えて行かねばならないが、それもゼロ・クール――秘宝種ならば慣れたものだ。

「彼の地にGuide01――ギイチと言う姉妹がおります。彼女の連絡が途絶えたので見てきてはくださいませんか」
 Guide05――ギーコはギャルリ・ド・プリエからクレカを送り出す際にそう言った。
「分かった。ねえ、ギーコ」
「はい、どう致しましたか?」
「私とギーコはきっと、姉妹だね。作られ方が似てるから」
「はい。私もそうであると認識しています」
「なら、Guide01は?」
「姉妹だと確定致します」
 クレカはゆっくりと振り返ってから回言 世界(p3p007315)とグリーフ・ロス(p3p008615)の名を呼んだ。
「私の姉妹。きっと、私の『お父さん』の事も分かる。だから……行きたい」
「構わない」
 世界は目を伏せてから頷いた。
「構いませんよ」とグリーフは淡々と言った。――が、心の何処かにクレカの製作者が自身にとっての『マスター』と関わりがある気がしてならなかったのだ。
「私の製作者が分かったら、グリーフのことも何か分かるかな?」
「……もしかすれば、です」
「そうだね。ごめんね、ちょっとだけ、可笑しな話をする」
 クレカはどこか迷った様子で唇を動かしてから言った。
「あの時、アイオンと魔王イルドゼギアが出会ったとき……懐かしい気配がした」
 ――それは、どういうことだろう?

GMコメント

●成功条件
 Guide01の『破壊』もしくは『寄生終焉獣』の撃破

●フィールド
 サハイェル砂漠(ラサ周辺)です。その更に西には天にあった浮遊島サハイェルが落ちてきたことによって、変化した影海という澱みの領域が存在して居ます。
 Guide01(通称ギイチ)はその地までのガイドを担当しているゼロ・クールです。
 彼女の居るオアシスは嫌な気配が漂っており、四天王の配下でしょうか……? 影で作られた人間の姿が見えます。
 それらを制圧してギイチを救いましょう。

●エネミー情報
 ・Guide01(ギイチ)
 ゼロ・クールの少女。少女型です。赤い髪を有した少女であり、コアは胸に存在して居ます。
 終焉獣に寄生されているようです。四肢から取り憑いており、昏睡状態であるようです。
 非常に俊敏に動きます。獲物は斧。痛烈な攻撃を放ちます。
 ギイチのコアを破壊するか、終焉獣を引き剥がして倒す必要性があります。(終焉獣本体はスライムのような姿です)

 ギイチから終焉獣を引き剥がすためには『奇跡』が必要となります。
 『携行品・死せる星のエイドス』を持ち込み、奇跡を願ってください。また、PPPを発動させる為の準備にあたりますので、パンドラ減少はございます(混沌の奇跡よりもゼロ・クールを助ける程度ですと減少は控えめです)

 ・英雄譚のしもべ 5体
 クレカが読んだ本の勇者や魔法使いなど物語の登場人物の姿をしています。
 それらは滅びのアークそのものであり、動き回ります。その戦闘能力は個体それぞれですが、皆ギイチを守るようです。

●NPC
 ・クレカ
 境界図書館の館長。魔法使いタイプのゼロ・クールです。魔術師として皆さんに同行します。
 ギイチ、ギーコとは姉妹――であるような気がしています。また、魔王イルドゼギアに懐かしい気配を感じたようです。
 ……何らかの『関わり』があるのでしょうか……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <伝承の旅路>まだ知らない物語完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

サポートNPC一覧(1人)

クレカ(p3n000118)
境界図書館館長

リプレイ


 救えるゼロ・クールが居たら助けて上げたいんだ。アイオンって、そういう人を見捨てそうだから――

 それが『境界図書館館長』クレカ(p3n000118)の見た『勇者』アイオンの姿であった。その言葉に思わず笑みを漏したのは『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)。
「た、確かに……見捨てる、というとアレですが、そのまま突き進んでいきそうでは、あります、ね……アイオンさまは」
 彼と出会って、冒険をして。メイメイが見てきたアイオンという青年は人情に篤いように見えて、薄情者だ。切り捨てるべきを切り捨て、お節介を焼きながら勇者になって行く。大のために小を捨てることが出来る男なのだろう。
「『奇跡』で、侵蝕されたゼロ・クール達を助けられるの、なら……やってみる価値は、あります。……クレカさまもまた、ひとりの『勇者』です、ね」
「わ、たしが、勇者……?」
 メイメイの言葉に驚いた様子で振り返ったクレカに『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)は頷いた。
 自身が『心』を得たように、彼女もそうやって心を動かし愛を知り、世界に彩りを得る最中なのだ。勇者は冒険の旅路で人を救う存在ならばそれは紛れもなく彼女もそうだと言い切れる。
 それでも、彼女は伽藍堂だ。自分のような者がイレギュラーズと同じ勇者を名乗って良いのかと迷うように瞳は彷徨った。
「……クレカさん。これから先にあるものがクレカさんの記憶と合致する存在、だというのですね。
 貴女がかつて読んだ本が、物語がこちらにあったということで、やはり何か、貴女のルーツが、こちらの世界にあるのでしょう」
「うん」
 そう。彼女は未だ自分捜しの途中だ。それは彼女が『自分とは何か』を知る旅であり、在り方と存在理由を見定める機会でもあるのだろう。
「自身のルーツを辿る為の旅か……それを行なう意味は俺も少し分かる気がするよ。
 この旅路がクレカ殿にとって意義あるものとなることを祈っている。無事に旅が終えられるように助力は惜しまないよ」
 穏やかに微笑んだ『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は「それでも、ギイチ殿との合流はそう易々と行かないようだけれどね」と肩を竦めた。
 ギイチ――Guide01は連絡が途絶えてしまったという。先見させたメイメイのファミリアーでその周辺には終焉獣が『クレカの知っている物語の存在』を形作り、稼働しているゼロ・クールが寄生された状態でその場に留まっているというのだから。
「ギイチ……クレカとギーコの姉妹、か。故郷に帰還し、家族を見つけられた、か。ならば、傍に居られるように、努めよう」
 その現状が余り芳しくないものであれど。『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は救うが為の努力は惜しまない。
「以前私が遭遇した寄生型の終焉獣は廃棄されて動かなくなったゼロ・クールに寄生していましたが、稼働している個体にも寄生するとは……脅威に対する認識を改めないといけませんねぇ。
 ……遠い世界で巡り会えたクレカさんの姉妹達。必ず、救い出しましょう!」
 にこりと微笑んだ『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は「お返しします」とクレカが読んだという本を差し出した。英雄の伝承だったのだろう。戦士クラトスと呼ばれた男と彼に師事する双剣士シーシャという娘の物語は心躍るものでもあった。
「気休めではありますが情報は得ました。それ以上に、面白い本でしたね。『戦士クラトスの旅路』。こちらの『魔導師リリアの呪文』は物語めいていました。これらが襲い来る可能性があるというのは……少々心は躍る者ですね」
 英雄譚に擬え、人が心を砕いた存在が敵に回るのは頂けないが『伝承に触れる』という意味では存分に楽しめそうだとドラマは心を躍らせていた。
「成程、そうした存在が居るのか。この世界では勇者は魔王のところに向かうのだな。
 俺の故郷には魔王はいなかったが
困難へ立ち向かい、運命の糸を紡ぐ勇士たちはいたな。ヒトが困難に立ち向かうことで、より強くしなやかな運命の糸が紡がれると言われる」
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は理解出来ると頷いた。クレカがゼロ・クールという種にとっての勇者になるのかもしれないと戸惑う彼女を見てから改めて認識するのだ。


 Guide01――ギイチを救うが為には、奇跡を求め、祈る事が必要なのだろう。死せる星のエイドスは可能性を引き上げる願望器のようなものだ。その対となる願う星のアレーティアはと言えばその増強を行なう代物なのだろうけれど。
 西へ、進む足は淀みなく。地を踏み締めてから『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)はまじまじと広大なる大地を見た。此処は、シフォリィの生れ育った場所ではない。ただ、似ているだけの空間だ。
(混沌ではない世界、いわば秩序しかない世界というべきでしょうか。
 そんな世界の勇者の旅路を邪魔しないためにも済ませられるものは済ませておくべきでしょうね。……きっと『私』ならそうしたでしょうから)
 目を伏せる。シフォリィのルーツは幻想に留まらない。無数の国家の血を跨ぎ、生れ落ちた娘は己の魂にくっきりと刻まれているものがあったのだ。
 勇者アイオンのパーティーに存在したフィナリィ・ロンドベル。彼女ならば、アイオンに「助けましょう」と助言しゼロ・クールを救っただろう。
「ギイチさんを救う為には戦う必要があります。準備は宜しいですか? クレカさん」
「うん。頑張る。……ね」
 振り向いたクレカの視線の先に『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は立っていた。「ああ」と頷く彼は『嫌な推測』を立てて居た。
 願わくば外れていて欲しいが、それが正解だった場合は――ああ、頭が痛くもなる。どちらかと言えば傍観者であった筈なのに勇者の真似事をしなくてはならないのだ。
 ――あの時、アイオンと魔王イルドゼギアが出会ったとき……懐かしい気配がした。
 それは答えではないか。
(イルドゼギアに対して懐かしい気配、これはあるんじゃねえのかヤツが父親説。
 ……なんて冗談をクレカの前で口にするほど無神経ではないし、そんな気分でもない。
 というか、彼が何にしろ手がかりを得る為にもう一度会いに行く必要があるだろう。ならば魔王城を目指す必要が……)
 何方にしたって西を目指さなくてはならない。それ以上に魔王イルドゼギアとクレカに、そしてグリーフの産みの親に繋がりがあったならば。
(……――さて、溜め息で幸せが逃げる前に思考を切り替えて、まずはクレカの姉妹とやらに会いにいきますか)
 今はそんな考えは余所に置いてから、ギイチを助けに行くことを優先するべきだろうか。世界は乾いた風を背に佇んでいる一人のゼロ・クールを見た。
 ギーコと良く似ているが髪は短くこざっぱりとしている。胸のコアはやや濁った色彩をして居るか。
「彼女が、Guide01……ギイチさん、ですか」
 彼女を救うためには終焉獣を引き剥がさねばならないとシフォリィはグリーフの背を見た。救う為、と握り締めた『死せる星のエイドス』は穏やかな色彩を宿している。
「何も準備せずに引き剥がせば周りの英雄をもした影に為す術もなく手を掛けられてしまう可能性は十分にある。
 何にせよ、私達は周辺掃討を行なわざるを得ないという事ですね。……よろしいですか? クレカさん」
「うん」
 こくりと頷くクレカにシフォリィは笑みを零した。奇跡なんて、何時だって起こる者だとは思っては居ない。ただ、ステラという少女が与えたそれは万能とまでは行かずとも格段に可能性を引き上げる――代償を求める辺りが『万能とは言えやしない』のだけれど。
 何かあればその手で終らせることを決意している。胸に秘めたその覚悟は鋭い刃として敵影へと振り下ろされた。
 一閃。続き、地を踏み締めた銀の乙女が翻る。後方へと下がったシフォリィに頷きながらも放たれたのは圧倒的な連続魔。
 エクスマリアの藍玉の眸が真っ向から滅びの気配を見据える。髪の魔力を織り込んだ手袋は指先に簡単にも魔力を手繰ることを許した。
「ギイチを傷付けたくはない、が」
「向かって……来て仕舞いますね。『憑いている』だけなら、良かったのに……。
 めぇ……嫌な予感が、当たってしまいました、ね。ギイチさまを、お救いしないと……!」
 メイメイの祈りと共に小さく愛らしい白き翼達が駆け寄っていく。しもべ達の姿に矢張り動きを止めたクレカを見れば彼女の記憶に反応したか、それともギイチか、それとも――『イレギュラーズ』そのものかと考えずには居られない。
「……はっ、いけません、ね。考えるのは、後回し」
 首をふるりと振ったメイメイをちらりと見てから世界は「やれやれだな」と呟いた。皮肉めいた笑みを浮かべた男は言葉を、そして、その仕草だけでも『当たり前の様に』悪辣な存在を思わせるぶるように振る舞った。
「しかし、敵が勇者達の姿を模してるとはな。さしずめ今の俺は魔王のポジションか。
 挑発も兼ねてそれっぽい演技でもしてみるか? ……馬鹿げているが、少し楽しくなってきちゃうぜ」
「似合いそう」
「それは褒めてるのか?」
 ぱちくりと瞬いてから「褒めてないのかな」と首を傾げたクレカに世界は肩を竦め――思わずヴェルグリーズは笑みを零した。
「クレカ殿は褒めてた?」
「うん。褒めた、つもりだった」
 両手をまじまじと見詰めてから、幻影の小斧を作り出したクレカが敵影へと投げ入れていく。イレギュラーズと幾度かの戦いを経て漸く自分らしさを見付けた彼女は「褒めてたつもり」と何度も繰返している。
 未だ情緒の発展途上にある娘の様子に思わず笑みを零してから、ヴェルグリーズは神々廻剱、その写しを握り締める。片手での取り回しを安易にしたその剣は流星の如き一瞬のきらめきを残す。
『来たか、魔王のしもべ!』
「……どちらが、と言いたくはなるけれどね」
 それは戦士の言葉だったか。大ぶりの斧を振り上げた男の背後から双剣を手にした少女が滑り出す。その一撃を受け止めた世界は「幻影にも心があるのか」と呟いた。


 アーマデルは英雄譚のしもべをまじまじと見詰めていた。魔法使いは魔法を使い、戦士はイレギュラーズを受け止める。
 成程、滅びのアークで出来た勇者の模造は『物語』などからその存在をサルベージしているのか。
「正しく、伝承をなぞった、だな」とアーマデルは呟いた。
 己も勇士の未練を手繰る者ではある。運命の糸が混じり合えばそうした事もあるのだろうとアーマデルはそれらを眺め遣った。
 体を自由自在に動かすギイチを傷付けないように、周辺を削り続ける。ふわりと踊るように前線へと飛び込むドラマの魔力は青褪めた魔術礼装の切っ先から『痛み』を具現化させていた。
「本の英雄と戦えることは喜ぶべき、なのでしょうか」
「強敵であることは難点ですけれども」
 シフォリィに囁かれてからドラマは確かに、と呟いた。英雄達は本の中では美化されている。正しく『伝承に相応しき人格』なのだ。
 それをそっくり其の儘、表されては流石に手も掛かると云う事か。
 蒼剣の切っ先の魔力を手繰り寄せる。鮮やかな紅玉の瞳が見据えたのは敵の『隙』だ。師の剣を真似るようにやや大ぶりな仕草でドラマは戦士の胸を穿った。
 毒を孕んだ剣が迫るが、弾いたのはエクスマリアの魔力か。精密な操作を得意としたのは金糸の刺繍が身によく馴染むからである。
「そろそろ、大人しくしてもらおうか」
 エクスマリアが囁けば、全てを受け止めていた世界を支えるメイメイがこくりと頷いた。
 アーマデルの英霊の呼ぶ声に呼応したようにシフォリィの剣が一筋の煌めきと共に滅びの気配を払い除ける。
「怖いですか」と問うたグリーフにクレカはふるりと首を振った。怖がって等、いられないから。
 アーマデルは気丈な娘をまじまじと見詰めてから「残るはギイチ殿だけか」と声を掛ける。
 腕は妙な方向に曲がっているが球体関節の娘にはさしたる問題も無いのだろう。ぐりん、と首を傾げて見せたギイチに「直ぐに解放、します」とメイメイは指を折り重ねる。
「廃棄されている人形でしたら、それほど不安には思いませんでしたが……貴女は稼働(いき)ているのですから。
 己の意志とは別の行動を強制的にとらされるのは非常に恐ろしいことでしょう。……今すぐ、助けます」
 ドラマはギイチが逃げ出さぬようにと退路を塞ぎながらしっかりと彼女の顔を見てそう言った。
 コアの煌めきは消えていない。彼女はまだ、生きているのだ。それが分かるからこそ――どうにも、苦しくもなる。
 グリーフはクレカの名を呼んだ。
 ここからが、救う為の『可能性』を見出す時だ。
「……私は、クレカさんと共に奇跡を行使することを願います。
 クレカさんも私と同じ秘宝種。パンドラを有する者。そして、ギイチさんと一番近しい、彼女の無事を願う者。ならば、彼女の願いが、一番でしょう」
 グリーフはクレカを見た。愛する事は、喪うことを恐れる事だと聞いた事がある。
 クレカは屹度、愛する事を知っている。グリーフの方が先に頃が芽生え、感情を揺れ動かしたかもしれないが、それでも彼女だって立派に『人間』に近付いた。
「けれど、彼女の器は、満ち足りているから。その願いのための欠けは、私が担います。クレカさん。貴女は、どうしたいですか?」
「……グリーフはいいの?」
 グリーフは頷いた。クレカ一人に代償を背負わせることはない。だが、クレカが背負う可能性に奇跡を齎すだけの隙間を生じさせる事は必要だと考えた。
 死することを怖れるような少女ではない。元々はそう有るように作られたはずだからだ。世界を一瞥する彼は肩を竦めている。
「奇跡とやらは信じちゃいないが、現状Guide01を救う唯一の手段なのも確かだ。どういう力なのかリスクとリターンをしっかり見極めておきたい。
 クレカがそうするなら、しっかりと見させて貰おうか」
 グリーフとクレカが共に願うというのだから、全てを引き受けるようにして立っていたが――さて。
「グリーフは、混沌(あっち)に大切な人がいるでしょう。だから、私が頑張る」
 クレカは振り返った。メイメイは「お手伝いします」と囁きヴェルグリーズがそっとクレカに『死せる星のエイドス』を手渡した。
「君の想いの力を借りるね」
「……有り難う」
 願うようにして指を折り重ねた。万が一にでも、叶わない可能性があるならば『重ね』るとエクスマリアは堂々と宣言した。
「安心して、取り掛かってくれ。マリアが、再度願う、準備はしている。
 後詰めの奇跡など、と笑うならば、笑え。滑稽だろうと、不遜だろうと、無様だろうと。取り零さぬと決めたなら、這いずってでも拾うだけ、だ」
 クレカは目を見開いてから、静かな声音でイレギュラーズに問うた。
 どうして。見ず知らずの人のために――クレカにとっては『そうだと分かって居ても初めて見た姉妹』だ――力を貸せるのか。
 屹度、それを識る事が出来ればもう少し人間らしくなれる気がしたのだ。
 黒き気配が、離れていく。警戒するシフォリィと共にドラマはギイチの様子を確認していた。
「どうだろうか?」
「大丈夫です。終焉獣の気配だけ、剥がれています」
 頷くドラマにアーマデルは「剥がれ落ちたものは逃がさない」と囁き――倒れていくギイチから抜け出したものをその場で払い除けた。
「おっと……ギイチ殿。大丈夫かい?」
 体に蓄積したダメージなどを確認するヴェルグリーズにギイチは「大丈夫です、ご心配をお掛けしました」と目を伏せった。
 彼女から聞けば影海への道のりはある程度理解出来る。同様に、『アルティオ=エルム』側からの道を識る事が出来たのは僥倖だったか。
「Guide01と言ったな。すまない、クレカ……K-00カの『親』について識る事は無いだろうか」
 世界の問い掛けにギイチはクレカをまじまじと見て「K-00カ」と呟いた。
「その……イルドゼギアと名乗る方と、出会いました。
 わたし達の出会ったあのイルドゼギアさまは混沌世界の事もご存じでしたし、クレカさま達を生み出した存在とも関わりがあってもおかしくはない、気もします。ギイチさまは、お名前の通り、最初に作られた方なのでしょう?」
 メイメイが恐る恐ると問い掛ければギイチは「あなたが、K-00カ?」とクレカに問うた。
「クレカ、と呼ばれてる。私が、クレカ」
「クレカ。……確かにマスターはあなたを、それからわたしたちを作った。あなたは新しいテストモデルだった。
 別の世界から此方に近付いた存在の姿を観測して、それを作ったって聞いてる。マスターと、『ドクター』はプーレルジールを保とうとしていました」
「保とうと……?」
 グリーフは問うた。ギイチはグリーフの姿をその双眸に映してから「ニーヴィア?」と問う。
「……知って、いるのですか……?」
「マスターの協力者であるクリエイター……ドクターは、ニーヴィアの再誕を願っていました。私達とは、従妹と呼ぶべきでしょうか」
 グリーフはクレカを見た。制作物である以上、血の繋がりは無いがギイチはそうした繋がりに尊さを覚えて居るのだろうか。
「すまない、ギイチ殿。……そのマスターは今、何処に?」
「マスターは終焉獣に近付きすぎました。今は、それに乗っ取られています」
 アーマデルはなんと、と呟いた。益々信憑性を帯びてきた一つの仮説に世界は頭が痛くなる。

 ――イルドゼギアに対して懐かしい気配、これはあるんじゃねえのかヤツが父親説。

「まさか、なあ……」
 呟く世界にギイチは「よろしければ、影海の途中までご一緒させて下さい」とそう言った。
 その付近には勇者アイオンのキャンプがある。そこに向かいながら彼女と話してみるのも構わないだろう。
 例えば――『製作者(ちち)』が其方に居る可能性を彼女が思い浮かべたのならば。
(……ああ、厭だ。本当に厭だ。敵だと思って居た奴が取り憑かれていて、それで世界を滅ぼせと言っている可能性がある?
 冗談じゃない! ……俺は勇者なんかじゃないんだぞ。そんな勇者の真似事――)
 傍を一瞥すればクレカは「行こう」と世界の手を引いた。
『それ』をせざるを得ないのだろうと、もう一方の手でグリーフの手を握って嬉しそうに笑ったクレカに嘆息したのだった。

成否

成功

MVP

回言 世界(p3p007315)
狂言回し

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 クレカも『普通の女の子』に近付いて来たような気がしていますね。

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