シナリオ詳細
<クロトの災禍>100万のリスの軍勢。或いは、怠け者を拝みに行こう…。
オープニング
●世界の終わりのその始まり
「明日、世界が滅亡しますです。
あ、嘘です。明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます」
神託が、事実であることを証明するように深緑の迷宮に終焉獣が現れた。
その姿はリスに似ていた。
まるで、夜闇を塗り固めたかのような影の身体を持つリスだ。小さな四肢で大地を駆けて、迷宮森林の樹々を齧って、草を食む。リスの軍勢が駆け抜けた場所に、緑は1つも残らない。
広大な迷宮森林であるため、失われた緑はごく一部分で済んでいる。だが、仮にこれが深緑の外であったなら、とっくの昔に小さな森の1つぐらいはすっかり消え去っていただろう。
もしもこれが、乾いたラサの砂漠であれば、木材の類など一切合切が消失していたことだろう。
終焉獣。
滅びのアークそのもので作られた獣達の総称であり、影のような“リスの軍勢”もその1種であろうことが窺える。
もしもあなたに『植物疎通』の才があるなら、酷く苛立ちを感じさせる木々のざわめきや苛立ちの声、それから世界の終わりを告げる絶叫を聞き取ることができるはずだ。
最初にリスの軍勢と遭遇したのは、調査に訪れたイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)だった。最初は森に強い風が吹き抜けたのだと錯覚した。
だが、違う。
風ではない。
ごう、と森をざわつかせ、イフタフの傍を駆け抜けたのは大地を黒く埋め尽くすほどのリスの軍勢だったのである。
その数は100万にも至るだろうか。絶えず動きまわるリスの軍勢であるため、正確な数を数えることは叶わない。
「……んん?」
リスの軍勢は、イフタフを襲うことは無かった。
イフタフのことなんて、まるで視界に入っていない。
だからこそ、イフタフはある程度、冷静にリスの軍勢の動向を観察することが出来た。もしもリスが、人の肉でも構わず喰らうようであれば、イフタフの小さな身体などとっくの昔に骨になっていただろう。
ともすると、骨さえも残らなかったかもしれない。
「……? 数の割に森を喰らう速度が遅いような?」
黒いリスの駆けずり回る森の中で、イフタフはリスたちの動きを観察していた。じぃ、とあまり視力の良くない目を凝らしてみれば、リスたちはある法則に沿って動き回っているのが分かる。
「あ、これ、リスの方はただの“枝”っすね」
やがて、イフタフはそんな言葉を口にした。
●リスの軍勢
「仮称“リスの軍勢”たちは、ある程度の量の樹や草を食べると何処かに帰っていくみたいっす」
壁に張り出した迷宮森林西部の地図を指さして、イフタフはそんなことを言う。
地図の一部のインクで黒く塗られた箇所が、リスの軍勢の行動範囲なのだろう。現場にいた段階では気付かなかったが、どうやらリスの軍勢は“ある1点”を中心に、まるで円を広げるように行動圏を拡大しているようである。
黒く塗られたエリアの中心には、小さな1つの遺跡があった。
「お腹がいっぱいになったリスたちは、どうやらこの遺跡に戻って行っているみたいっすね」
遺跡が、リスの貯蔵庫になっているのかもしれない。
だが、イフタフの予想は少し違った。リスの軍勢たちが、終焉獣としてはあまりに貧弱であるように思えたからである。
イフタフの予想では、遺跡にリスの“親玉”がいる。
森に放ったリスたちの喰らった樹々や草や果実を、1歩も動かず受け取っている存在がいるのだ。
つまり、リスたちは“本体”から枝分かれした“分身体”のようなものであるとイフタフは言うのだ。
「こういう相手は“本体”を叩かないと倒せないって相場が決まってるんすよね。残念ながら、私じゃ遺跡までたどり着けなかったんで、本体の姿や形、大きさなんかは不明っすけど」
リスの軍勢が、イフタフに興味を示さなかったのは、イフタフがあまりにも貧弱で、“本体”にとっての脅威でないと判断されたからである。
だが、もしもイフタフが遺跡の近くに進んだ場合はどうだっただろう。
少なくとも、無傷のまま拠点に帰還することは叶わなかったはずだと彼女は予想していた。
「リスに齧られないよう注意しながら、本体のところへ向かってほしいっす。あぁ、リスたちに齧られると【重圧】、【崩落】、【懊悩】なんか悪影響を受けるようっすから、気を付けて」
分身体であるリスがそのような性質を備えているのなら、きっと本体もそれに近しい技能や性能を有していると思われる。
加えて、リスの軍勢が回収してきた食糧を、どのように扱っているかも不明。
「まぁ……なんとかなるっすよ。怠け者のリスの親玉の顔を拝んでやろうじゃないっすか」
現場に向かうのはイフタフではないけれど。
なんとかなる、と。何の根拠もない自信に満ちた言葉をイフタフは吐いた。
- <クロトの災禍>100万のリスの軍勢。或いは、怠け者を拝みに行こう…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月12日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●100万のリスと、ちっぽけな僕たち
地面も、木の上も、どこもかしこも見渡す限りリスの海。
迷宮森林西部。
小さな遺跡を中心とした、半径数百メートルほどの範囲がそうなっていた。
「うーん、ちょっとこれは……自然の摂理を超過してるわよね」
『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はリスの軍勢を見渡しながら首を傾げた。普段ならそこら中を飛び回っている精霊たちも、リスに怯えて姿が見えない。
由々しき事態だ。
世界の滅亡……神託の内容が、いよいよもって現実味を帯びて来た。
「リスの大軍か……数の暴力はいつだって恐ろしい物だ、頑張って対応しないとな」
「こう、猫としてはテンション上がりそうな内容ではあるのだが……流石に、真面目にやらないと拙い代物だな、これは。手はあるか?」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)へ『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が問いかけた。リスの軍勢を前に、サイズが何か準備しているのを見たからだ。
「これを使う」
サイズが取り出したのは、油紙に包まれた“何か”である。
リスの軍勢は、黙々と木の実や木の葉、時には皮まで、目につくものをがむしゃらに貪り食っている。
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は、その様子を飛空探査艇から見下ろしていた。
リス……齧歯類の食欲というのは厄介なものだ。小さな身体ゆえに脚が速く、気づいた時には背後や足元にまで近づかれている。
鋭い前歯で足や腕の肉を齧られ、血を流す。そのうち動けなくなれば、肉も内臓も、場合によっては骨さえも、集団で寄って集って喰らわれる。
そんな遺体を、過去に何度か目にしたことがある。
「まずは一ヶ所に集め……ん?」
瑠璃の耳が、カリカリという微かな音を拾った。視線を背後へと向けると、数匹のリスが飛空探査艇に張り付いているのが見える。
食っているのだ。見慣れない飛空探査艇という乗り物を“食糧”だと勘違いして、小さな、けれど鋭い前歯で一心不乱に齧っているのだ。
リスの一部が、遺跡の方へと駆けていく。
腹が一杯になったので、本体の元へ帰還している途中である。
その様子を、空から1羽の鳥が見ている。
「やはり、親玉の周りにもリスが多いな」
鳥の目を通し遺跡の様子を観察しながら、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はそう告げる。
親玉の姿は見当たらない。しかし、遺跡に居ることに間違いは無いだろう。
「幸い、遺跡から動く様子は無いが……」
「ふーん、親玉リスはぜんぶ分身任せなの?」
ウェールの零した言葉を拾って『無尽虎爪』ソア(p3p007025)が顎に爪を当てて首を傾げた。
「自分で狩をしないなんてもったいない。一番楽しいところなのに」
自分ではまったく動かず、リスたちに餌を集めさせている“親玉”とやらの考えが、ソアにはまったく理解できない。
「ふっ、多勢に無勢か。なぁに、我はメカじゃからな。この程度で驚きはせんよ」
「100万のリスの親玉、すなわち王。しかるにリスの王たる私と鎬を削ることは避けられないでしょう」
『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)並びに『リスの王』カナデ・ラディオドンタ(p3p011240)も、戦意は十分のようである。
もうじき、別動隊の仲間たちがリスとの戦闘を開始するだろう。
その隙に、一目散に遺跡に向かって“親玉”を討つ。100万の軍勢を相手取るなら、もたもたと時間をかけてはいられない。
「いざ、いざ、リス頂上決戦と参りましょう」
「うむ。ところで、お主……リスだったのか?」
「私ですか? アノマロカリスです」
カナデは「リスの王」ではあるが、リスの王が“リス”であるとは限らないのだ。
●リスに飲まれ、リスと争う
リス。
哺乳綱齧歯目リス科リス族の動物の総称。
今回、森林に現れたそれは終焉獣により分かたれた、影のようなリスの群れであり、通常のリスとは些か異なる存在である。
「くっ……やはり、今回の敵も侮る事は出来ませんね」
瑠璃の操る飛空艇に、リスの群れが張り付いている。木の枝を伝い、最初の数匹が飛びついたのがきっかけだった。
リスとはいえ、数は100万。
無限と評して問題ないほどの大軍勢となれば、その監視範囲も相応に広い。
最初の数匹を相手に戦っている間に、リスの群れの一部が行動を開始した。リスの上に別のリスが乗り、その上にさらに別のリスが……そうして、リスによる橋が作られ、あっという間に瑠璃の飛空艇は群れに捕まった。
高度を上げる暇も無かった。
100万のリスの軍勢、その全体を瑠璃1人で監視できるはずも無かった。それでも、背後からの急襲に、それでも対処してみせたのは流石というべきか。
飛空艇が揺れる。
動力部にまで、リスが到達したのかもしれない。
落下する。
そう判断した瑠璃は、操縦桿から手を離し、飛空艇の屋根の上へと駆けあがる。その後を追って、リスの群れが疾走を開始。
何が何でも、瑠璃を地上へ引きずり下ろすつもりだろう。
群れに捕まり、全身を貪り食われた犠牲者の話を聞いたことがある。うっかり地上へ落下して、そのような目に逢ってはたまったものではない。
「とはいえ、この程度の数なら……一網打尽にすれば、危険という事もないでしょう」
片足を軸に瑠璃が身体を回転させる。
「しかしまぁ、うじゃうじゃといる。これで喰らう速度が早かったら致命的……ん?」
汰磨羈の頭上に降って来たのは、血液のような黒い雫と、黒く塗られた苦無であった。
視線を上げれば、瑠璃の飛空艇がある。
どうやら、黒い血と苦無は飛空艇から降って来たものであるようだ。ふらふらと軌道の怪しい飛空艇から、リスたちの鳴き声が聞こえていた。
その鳴き声を耳にするなり、周囲のリスが一斉に餌を齧る手を止め、視線を上げる。
眺めているのは、瑠璃の乗った飛空艇だ。
1匹、2匹、その次は10か20か、それとも100か。リスの群れが、飛空艇の方向へと駆け出した。
「しめた。道はこちらで強引にこじ開ける」
リスの意識が、瑠璃の方へ向いているのなら都合がいい。
汰磨羈は低く腰を落として、刀を背後へ振りかぶる。
白刃に渦巻く魔力が纏わりついて、形成されるは魔力の大刀。
「親玉の速攻撃破は任せたぞ!」
摺り足で大きく1歩、前へ踏み込む。
腰から上体にかけてを捻り、汰磨羈は刀を一閃させた。解放された魔力の渦が、轟音と共に地面を抉る。進路上のリスの群れを飲み込み、塵へと変える。
「任せてっ!」
「ここは頼んだ!」
汰磨羈が強引に開いた道を、ウェールとソアが駆けていく。
2人の声に首肯を返し、汰磨羈は即座に刀を再び構え直した。先の一撃で、リスの注意が汰磨羈の方へ向いているのだ。
ゆっくりと、仲間を見送る時間は無い。
「ぬわぁああああ!!!」
ビスコッティが悲鳴をあげた。
リスの軍勢に飲み込まれ、もはや腕しか見えていない。
「さすがに」
ビスコッティが、リスの群れに運ばれていく。
餌と勘違いされたのか、それとも、リスの移動に巻き込まれて押し流されているだけか。
「これは! 津波と同義じゃろ!!」
指が空を引っ掻いた。
そもそも、ビスコッティは多勢を相手にするのがあまり得意ではないのだ。リスに押し流されるのも無理からぬことである。
「おいやれるんか!! やるしかあるまい! モスカー! おー!!」
苦手だからと、このまま流され続けているわけにもいかないが。
必死にもがいて、リスの中から顔を覗かす。
限界まで伸ばしたビスコッティの手を、誰かが掴む。
「100万の軍勢相手に徒歩の進撃はなかなか厳しいかと存じます」
ビスコッティの手を掴んだのはカナデである。飛空艇の操縦席から身を乗り出して、ビスコッティを空高くへと引っ張りあげた。
「お、おぉ? これは?」
「ご覧の通り、王の戦車(チャリオット)です」
どう見ても飛空艇だが。
何はともあれ、かくしてビスコッティは空を行く足を手に入れた。
リスの群れが、胡桃のケーキを齧っている。
その様子を見ながら、サイズは小さく拳を握った。リスの群れが食っているのは、サイズの用意して来た“毒草入り”のケーキである。
「食ってるな。毒草をリスが食ってその草が親玉がくって、後々の戦いに有利になったらいいよな」
毒草が終焉獣に効果あるのかは不明だが。
意味が無くとも、打てる手段があるのなら打っておいて損は無い。少なくとも、サイズの打ったこの一手が、後々に戦況へ影響を与える可能性も0じゃない。
それゆえ、サイズが毒草で編んだギリースーツを纏っているのも自然なことだ。リスに齧りつかれても、運がよければ毒殺できる、とそう考えての合理的な装備である。
「さて……」
餌を喰らうリスを横目に、サイズは大鎌を肩へ担いだ。
仲間たちは、既に遺跡へ向かっただろうか。もしかすると、そろそろ親玉の元に辿り着いた頃かも知れない。
「妖精の前で無様な所を見せられないからな!」
サイズは鎌を一閃させて、眼前に群れるリスの軍勢を薙ぎ払う。
ここから先は、持久戦だ。
サイズの体力が尽きるのが先か、仲間たちが“親玉”を討伐するのが先か。
そう言う戦いが、これから始まる。
リスの群れを飲み込んだのは、大規模に展開された漆黒の泥だ。
「だめ、ダメよ、リスたち。そっちに行くなら日の光も届かない沼に沈めちゃうわよ?」
泥を引き連れ……否、泥を次々に展開しながら歩を進めるのはオデットだった。
リスたちは、漆黒の泥の中で必死に泳ごうとしている。あまり知られていないことだが、リスや鼠という生き物は泳げるのだ。
もっとも、オデットの泥は川の水ほどに泳ぎやすいものではないが。
必死にもがき、けれど力も及ばないままリスたちは泥の中へと沈んで行く。
「順調そうですね」
頭上から瑠璃の声がした。
飛空艇から身を乗り出して、オデットの右前方を指さしている。そっちを狙えという指示だろう。瑠璃の指示に従って、オデットは右前方へ汚泥を展開。
「多くの敵を薙ぎ払うのは得意なほうよ、任せてみなさいって」
リスの群れが、100か200か泥に飲まれた。
既に何度も泥を展開しているが、まだまだオデットの魔力は尽きない。ガス欠とは無縁のオデットにとって、リスの軍勢という“数だけが多い脆弱な群れ”は相性の良い相手と言えた。
けれど、しかし……。
「……っ」
足首に鋭い痛みが走る。
オデットの展開した汚泥を突破し、数匹のリスがその細い足首に噛みついているのだ。
肉が削がれ、血が零れる。
オデットの魔力は尽きないが、体力の方はそうもいかない。
結局のところこの戦いの勝敗は、いかに親玉を速く討つかにかかっているのだ。
遺跡の最奥、かつての祭壇に鎮座するのは全長5メートルを超える巨大なリスだ。
大きく膨らんだ尻尾をクッションの代わりにして、四肢をだらんと投げ出し何かを喰っている。
ぶくぶくに膨らんだ腹に、パンパンの頬袋。
たるんだ瞼の肉のせいで、それがどんな目をしているのか分からない。
リスの親玉だ。
「……うるる」
短い手……5メートル超えの巨体であるため、それでも長い……で、親玉は何かを手で掴んだ。それは、目の前を飛んでいた鳥だ。
掴まれた瞬間、鳥は全身の骨を折られて絶命していた。
ぐったりとした鳥を、親玉は自分の口へと運び、咀嚼した。
バリバリ、バリバリ。
鳥の骨を噛み砕く音が響いていた。
「……向こうか」
片眼を抑え、ウェールは呟く。
ウェールが五感を共有していた鳥は先ほど喰われたが、幸いなことに親玉の位置を補足することには成功していた。
だが、まだ遠い。
既に遺跡に足を踏み入れているが、親玉までの間には無数のリスが存在している。
「可愛くて美味しそうなリスだけれど、それだけいたら気持ち悪いよね」
リスが蠢く遺跡を見やって、ソアがげんなりとした顔をする。遺跡を埋め尽くすほどに膨大な数のリスを1度に見るのはこれが初めてだ。
「一旦……道を開けた方が効率よく進めるな」
リスたちは、蓄えた餌を親玉に献上するためにここに集まっている。親玉のいる祭壇、その周辺に積み上げられた木の実や木の葉がそれである。
まったく、暴食もここまで極まると笑えない。
そんなことを考えながら、ウェールは数枚のカードを片手で構えた。
その銃声は、まるで落雷のようだった。
大地を震わす轟音と、次いで降り注ぐ無数の弾丸。
鉛弾の雨である。
回避することも出来ず、数百のリスが弾丸に射貫かれた。黒い血を撒き散らし、その体を崩壊させる。
終焉獣の分身体だ。遺体が残ることも無い。
ただ、墨に似た影の残滓が遺跡に飛び散っている。
黒い雫を蹴散らしながら、たった1つの稲妻が駆けた。
「見ぃ~つけたっ、がお!」
否、稲妻ではない……風より速く疾走する1匹の虎だ。
「ボクの予想通り、まるまると太ってる! 冬に向けて肉をつけて、食べたら頬っぺたが落ちるんじゃないかしら!」
獣の狩りとはこういうものだ。
一気呵成に距離を詰め、鋭い爪で一撃を刻む。
ソアという名の“虎”ともなれば、狩りの精度は野生の獣のそれを遥かに凌駕する。
誰もが、ソアの接近に気付いた。
誰も、ソアの疾走を阻めなかった。
斬撃が、親玉の腹部を斬り裂いた。
●リスよ、さらば
ソアの爪は親玉……“巨大リス”の腹を深く抉った。
だが、抉れたのは腹に蓄積された脂肪の一部だけ。絶叫を上げる巨大リス。空気が震え、ソアは両耳を抑えてその場に尻もちをついた。
あまりにも煩かったからだ。
「あ~ぅ~」
転倒したソアへリスの群れが群がりはじめた。一部はウェールの射撃によって薙ぎ払われるが、いかんせんリスの数が多い。
「撤退は……いや、一気に落とすべきか」
リスを回避するために、ウェールが空気を蹴って空高くへと飛び上がった。先ほどの絶叫が聞こえたのか、遠くの方で森の木々が騒めいている。
ソアに群がるリスの群れが、衝撃と共に飛び散った。
「どけこらどけどけモスカが通る!」
「ゴー。キング・ゴー!」
ビスコッティとカナデである。
破損した飛空艇を乗り捨てて、2人はやっとのことでこの場へ辿り着いたのである。正しくは、リスの群れに飲み込まれ、流されて来たというべきか。
ズンドコボコボコと腕を振り回すカナデが、ソアに群がるリスを次々と弾き飛ばした。
「さあ詰めに入るぞ!」
ビスコッティが、拳で地面を殴打した。
硬い地面が崩れ、沼地へと変わる。巨大リスの下半身が、裁断ごと沼に飲み込まれた。もはやこれで、満足に動くことは出来ないだろう。
「ごきげんよう、リスの王たるカナデ・ラディオドンタです。お死にくださいませ」
沼から逃れようと藻掻く巨大リスの正面に立ち、カナデは優雅にカーデシー。
リスの群れに襲われながらも優美さを失っていないのは、流石“王者”の風格とでも呼ぶべきか。
カナデの右腕にリスが群がる。
皮膚を齧られ、血が滴った。
問題はない。左腕が動けばいいのだ。
カナデの左腕に魔力が渦を巻く。夜の闇を塗り固めたような、漆黒の魔力が吹き荒れる。
「王者の威光はリスより来る。もちろんリス以外からも随時募集中です」
バクン、と。
奇妙な音がして、漆黒の魔力が巨大リスの胸部を抉る。
絶叫はあがらない。
喉を抉られた巨大リスは、もう悲鳴をあげることさえできない。リスの群れが集めて来た餌も、もう喰らえはしないだろう。
「全力!」
ビスコッティは、低く落とした腰の手前で両手を組んだ。
組まれた両手に、ソアが右足をかける。
ビスコッティは体を仰け反らせるようにしてソアを空中へと放り投げた。ソアは、ビスコッティの手を蹴り付けて、加速した。
「森の王はこのボクだよ、あなたは食べられる側なの」
鋭い爪に紫電が迸る。
ソアの瞳は、まっすぐに巨大リスの脳天を見据えている。
落雷が……落雷のごとき爪の一撃が、巨大リスの脳天を抉った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
無事にリスの軍勢は討伐され、被害も最小限に抑えられました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
リスの親玉を討伐する
●ターゲット
・リスの軍勢(終焉獣)×???
影のようなリスの軍勢。
その数はイフタフの見立てによれば100万に迫るそうである。
基本的には人に興味を示すことなく、動き回って、森の樹々や草を食んでいる。
ある程度、腹がいっぱいになると拠点の方へ戻っていくようである。
拠点に近づいた場合、リスの軍勢がどのような行動に出るかは不明ですが、おそらく本体を守るように行動するものと予想されます。
齧られると【重圧】、【崩落】、【懊悩】などの状態異常を受ける。
・強欲なリスの親玉×1
リスの親玉ですが、現在、姿は確認されておりません。
遺跡を拠点とし、分身体のリスの軍勢を森に解き放っています。
分身体であるリスの軍勢より強力であることが考えられます。
周囲に存在するリスの軍勢が少ない方が本体を討ちやすくなると予想される。
●フィールド
迷宮森林西部。
小さな遺跡を中心とした、半径数百メートルほどの範囲。
遺跡周辺にはリスの軍勢が放たれており、森の樹々を喰らっている。
リスの軍勢は、基本的に“人”に興味や関心を抱くことはない。
なお、遺跡に近づいた場合にリスたちがどのような動きを見せるかは不明。
樹々などの影に身を隠すことは可能だが、基本的には何処に行ってもリスの目があると思って良い。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります
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