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シナリオ詳細

<クロトの災禍>影より来たる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ひたひたと、迫り来る何かが居る。
 それが滅びの気配だとすれば――ああ、実に笑いが溢れてくるでは無いか。
 神託の少女は『明日世界は滅亡します』とあっけらかんと言ったらしい。
 その後直ぐに『嘘です。明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます』だなんて。
 酷くメチャクチャで理不尽なプロローグは、世界の命運を物語っていた。
 未来を変えるためには戦わなきゃならないらしい。
 救われるための可能性(パンドラ)の蓄積に滅びが抗おうとしているのだろうか。
 影は蠢いている。影より来たるのは――

「終焉の監視者って呼ばれている人達がいるんだ」
 イヴ・ファルベはそう言った。彼女はラサ南部の砂漠地帯であるコンシレラを抜け、影の領域の『境界線(ボーダーライン)』にまでやってきていた。
 終焉(ラスト・ラスト)と呼ばれたその地は混沌世界の深淵だ。
 国家ではない。あくまでも領域と呼ぶべきその場所は何が潜むかも分からぬ危険地帯そのものだ。
 そんな場所にまで彼女は来た。
 ラサの商家であるパレストに身を寄せている情報屋見習いの娘である。
 星色外套に身を包み、旅装束を整えてきた彼女は終焉の監視者『クォ・ヴァディス』へと身を寄せるのだ。
「終焉に接する『ラスト・ライン』……クォ・ヴァディスと呼ばれるこの人達はずっとその動きを見ている。
 安易に踏み入れたら、命がない。だから、ここの守護者って呼ぶべきかもね。
 私も、そこに名を連ねに来たんだ。……変な顔。ラサを護る為だよ。ファレンも、フィオナも、私の家族だから」
 ファルベライズ遺跡の守護者であった元『大精霊の欠片』は希われて精霊種としてその命を得た存在でもある。
 寄る辺のなかった彼女を支え守ってくれたのは紛れもなくファレンやフィオナだった。それだけではない『赤犬』始めとした傭兵団の誰もがイヴを大切に大切に保護してくれていた。
 だからこそ、守りたい。その気持ちを胸にこの場所まで来たのだ。

「……凄い、昏い気配だね」
 イヴの唇が震えた。影の領域と呼ばれたその場所に恐れを抱いたのだ。
 ただの覚悟だけで此処に来たわけではない。
 このクォ・ヴァディスから伝令があった。ラサ、深緑、覇竜のそれぞれに何らかの魔物の存在が散見されていると。
「コンシレラ方面に終焉獣が姿を見せるかも知れない。それに、他の何かも居るのかも……」
 それが何であるかは分からない。だが――ここで諦めるわけには行かなかったのだ。
 終焉獣(ラグナヴァイス)とは何か。
 それは滅びのアークそのものであるという。滅びによって作られたが故に、知能も、戦闘能力もそれぞれであると耳にしている。
 イヴは眼前に透明な獣の姿を見た。透明、と言っても黒く、その体内が透き通っている獣だ。
 それは無数に存在して居る。
 それだけでも気分が悪かった。吐き気をも催したのは『それが滅びそのもの』であったからだろうか。
 大精霊の欠片。守護者の心臓(Jb)。悪しき存在に対して人一倍に察知する能に少女は長けていた。
「……怖い」
 思わず唇が震えた。そんな甘えたことを言っている場合じゃない。
 ファレンも、フィオナもラサを護る為に戦わなくちゃならない。傭兵団の力を借りようとも、全てが出払うわけには行かない。
(……だから、先にこうして私が調査に来たんだ。情報屋になる為に)
 イヴ・ファルベと名乗ってから、暫くの時が経った。紅血晶の事も、様々な事件も乗り越えてやってきた――筈なのに。
 恐怖に戦いた己を律してから、肺一杯に息を吸い込んだ。冷えた空気が心地良い。
「イレギュラーズって、いつもこうして怖いの?」
 イヴは問うた。
「怖くないのかな。戦うのが好きな人なら、きっと、喜んで走って行けるのかな。
 私は臆病だったんだな。あのね、あの……終焉獣が何かを解き明かしたい。ラサを守るための情報を持って帰るんだ。手伝ってくれる?」
 少女は、その時初めて剣をとった。守られてばかりの戦い方を止めるが為だった。

GMコメント

●成功条件
 終焉獣『透明な獣』の撃破

●フィールド
 影の領域境界線。クォ・ヴァディスの拠点近くです。ラサ方面。南部砂漠コンシレラに面しています。
 周辺は重苦しい空気が漂っており、鬱蒼としています。やや昏く感じられます。
 また、天気が非常に悪く雷や雨が降ったり、止んだりといった調子です。飛行する際や、行動時は注意をして下さい。

●エネミー『透明な獣』 10体
 体の中身が透き通った黒い獣です。四足歩行ですが、二足歩行……しそうです。
 R.O.Oで見られた『でっかくん』と呼ばれていた存在にも外見的に似通っていますが共通点は不明です。
 知性は余りないのでしょうか、只、外に飛び出していこうとしているようです。
 対話は出来ないかも知れませんが語りかける事はムダではナイ……と思われます。
 イヴは非常に忌避感を抱いているようですが――

●同行NPC『イヴ・ファルベ』
 今回から剣を持ちます。宝石(色宝)が埋め込められた長剣です。
 星色の外套を身に纏い、ラサを護るべく戦います。精霊剣士と呼ぶのが相応しいかも知れませんね。
 イレギュラーズの皆さんは彼女にとって英雄です。共に戦えることを楽しみにしています。
 クォ・ヴァディスの一員となる為、終焉獣を撃破後は拠点に向かうようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <クロトの災禍>影より来たる完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

サポートNPC一覧(1人)

イヴ・ファルベ(p3n000206)
光彩の精霊

リプレイ


 ひりつくような気配は肌を包み込んだ。何れだけ恐ろしくとも、ここまで来たのだ。『光彩の精霊』イヴ・ファルベ(p3n000206)はすうと息を吐く。
 遂に彼女も初陣なのだと幼子の成長を感じ入るように『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)は目を細めて笑った。
「イヴさん」
「正純」
 彼女は何時だって気を配っていてくれたから。イヴにとって、正純は信頼できる存在だ。正純だけではない。
『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)や『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)、この場に居るイレギュラーズ皆がイヴにとっては信頼できる存在で、先輩に当たる。
「……恐怖を感じることは何も悪いことではありません。それが、初めて矢面に立つ戦いなら尚更。
 私だって、完全に恐怖を忘れられたわけではありませんから。だから、その恐怖が少しでも和らぐように私たちが支えます。一緒に頑張りましょうね」
「……うん、皆も怖いなら、私は可笑しくないんだって安心できる」
 ほっと胸を撫で下ろしたイヴの手をそっと握り締めてから『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は「可笑しくなんてないのだわ」と柔らかに微笑んだ。
「怖いのだわ……いつものことながら、怖くて怖くて仕方がない。
 それでも、仲間達と一緒だから……皆に胸を張れる自分で居たいから……レオンさんの助けになりたいから……。
 こうありたいという理想の私に近付く為に、逃げるわけにはいかないのだわ!」
 彼女はどんなに恐ろしくたって、前に立つことを選んでいる。眩い存在だとイヴは思った。
 彼女がレオンのためと口にしたように。イヴは自身を家族として受け入れてくれるパレスト家の二人の力になりたかったのだ。
 怖がって、臆病で。そればっかりではいけないと俯いたイヴの肩を『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は叩いた。
「……わざわざ前線に、なぁ。
 まぁ、こっから先、どうにもどこにいたって安全たぁ限らねぇくれぇにきな臭くなってきたしな。好きにすりゃいいと思うが。
 臆病でいいじゃねぇか。少なくとも俺ァ最高に臆病もんだぜ。
 ハウザーだってそうだろ。おまえやパトラっつったか、周りの女子どもに嫌われんのにビクビクしてんじゃねぇか」
「あ、本当だ」
 ふ、と笑みを零した彼女はハウザー曰く『表情も硬いガキ』だったらしい。そう思えば随分と人間味が増したではないか。
 ルナは雑に彼女の頭を撫でた。「でもよ」と繋げればイヴは真剣な表情でルナを見る。
「だからこそ強ぇし、だからこそ今日まで生き残ってきてんだよ。
 だから、よ。使命感を持つのもいいし、蛮勇に憧れんのも自由だ。
 このラサで生きるのに、てめぇ自身の強さを求めるのも賛成だ。だがその底で、生き汚い臆病者になれ」
「いいの?」
 ああ、と。そう頷いたのはラダだった。イヴはゆっくりと振り向く。ラサの砂漠で、勇敢な彼女は何時だって先を切り拓いてくれていた。
「お前は傭兵ではなく情報屋になるんだろう?
 なら向いてるよ。情報屋ってのは勇ましく敵に立ち向かう者じゃないんだから。
 よく見て覚えて、不味いって思ったらすぐ逃げ帰る。臆病な奴が向いてるんだよ」
 臆病者であってもそれに利点があると云うならば。イヴは頷いた。ラサの砂漠は、生き残るには力が必要だ。
 だからこそ、自らの在り方をイヴは示したかった。使命感でも、義務感でも良い。己が行くと決めたのならば『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は背を押すだけだ。
「この程度の相手は怖くねえ。だけど怖い相手はいたな。リヴァイアサンなんかは流石にブルっちまった。
 ……でもな、初陣の時は俺だって怖かった。ようは慣れだ。少しずつ出来るようになりゃ良い。いけるな、イヴ?」
「行ける。出来るよ」
 イヴは剣を手にしていた。拾い集めたファルベリヒトの欠片を溶かし固めて造り上げた願いの剣。イヴにとっては、母と共に在るような安心感がそこにある。
 その真剣な顔を見ていると、嗚呼、何と云えば良いのか。眉間には皺が寄っている。
 心配で仕方が無いのだ。戦わなくても良いはずの彼女が、身を守るために剣を手にしている。
 守り抜いた彼女が、新たな未知を目指していることが。
「……まあ、やっぱ最終的には当人の気持ちだよな、うん。うん。うーーーーー……はーーーーーー。
 あーーもう!! やるぞイヴ! みんなで友達を、世界を護るぞ!! うっしゃオラー!!!」
 やる気を漲らせた風牙を真似るようにイヴは「おらー」と拳を振り上げて見せた。
 心配をさせてごめんね。でも、少しだけほんの少しだけ、秘密を教えてあげる。
 進む勇気をくれたのは、君達だったんだよ。


「ふむ」
 各地で終焉の気配が漂っているという。文字列だけを眺めてみれば世界が終わりに近付いているとも称することが出来るのだろうか。
 実に厄介だと『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)は嘆息した。何にせよ、だからといって考えるほどはない。
「敵がいるなら戦うだけだ。でっかくんほどでっかくないから、ちっさくんか。
 どーなつとか喰うかな。こみゅにゅけーしょんが取れるなら、何らかの情報を手に入れられるかもしれないしな」
「コミュニケーション、できる?」
 イヴの問い掛けに愛無は「分からない」とだけ告げてから手を上げて見せた。黒く粘膜によって包まれたからだ。だらりと降ろしていた腕を掲げてから「はろーはろーあいむかいせいぶつ」と挨拶を一つ。
 眼前の存在は返事はしない。R.O.Oに置いて滅びの気配と共にやってきたジェーン・ドゥが連れていた『でっかくん』に良く似ているからこそ『ちっさくん』。その呼び名は実に愉快だと『殿』一条 夢心地(p3p008344)は高らかに笑い声を上げてから地を踏み締めた。
「うむ。うむ! 懐かしいの。ゲームの中にいた敵じゃろ、アレ。麿もエクスギアに乗って蹴散らしてやったわ!」
 夢心地の瞳に光が宿された。実際、ずっと煌びやかではあったが今この時だけは楽しげな色彩が宿されている。
「今回は麿が……超強襲用高機動お殿様『エクスギア・夢心地』となる!!
 乗れい、小金井・正純! この『エクスギア・夢心地』を見事操縦して見せよ!!!!」
「え?」
 呼ばれた正純が振り返る。イヴに「違いますよ」と声を掛ける正純は堂々たる夢心地を凝視しているイヴの視線を覆い隠した。
「発進! ゴーーーーーー!! エクスギアッ!!! 夢心地ッッッ!!!!」
 正純は何も気にする事は無く「天候や空気。其れ等を鑑みても暗く戦いにくそうですね」とイヴに声を掛けている。
 スルーされた夢心地は気をとりなおしたかのように太刀を振り上げて叫んだ。
「夢心地ビーーム! 麿はほぼディルク・レイス・エッフェンベルグ! ラサを守るという娘の気持ちに応えて見せよう!!!!!」
 熱き思いが迸る。返答もなく牙を剥く獣達へと放たれたその一撃を上空より確認していたルナは「成程なあ」と呟いた。
「外見こそ『滅びのアーク』そのものだが、動きは獣、しかもザコと言うしかないか」
 ルナが確認しておきたかったのは終焉獣達の在り方だ。通常の生き物との違いは何か。その生体や身体構造、弱点をそれぞれ把握しておきたかった事もある。個体によるとしか言いようがないのだろうが身の内が透明に透き通り臓腑さえ見えてしまいそうな眼前の獣達は部位を吹き飛ばされようと自在に動かんとするのだ。
「くらげのようだ。噛んでも味はしない」と愛無は何気なく告げる。
「イヴ。今回は護衛対象ではないのだし、お互いサポートし合おう。 ところで誰に戦い方を習った? …… まさかハウザー?」
 銃を構えたラダにバックアップを任せ前線へと走るイヴは剣を手に「そう!」と応じた。
「それから、ファレンも剣はちょっとだけ使える。あとイルナスも弓を教えてくれた、けど、近接の方が身を守れるって。ハウザーが!」
 ああ、だからだろうか。彼女の太刀筋は荒い。ディルクやハウザーに指南を受けたなら力任せな攻撃になるのも理解出来る。
(戦い方を教えてやった方が、いいのかもしれないな)
 ラダはそう思いながらも天候の回復を願うように黄水晶の雫を握り込んだ。雷の気配を背に風牙は駆けて行く。
 南部砂漠コンシレラに面したこの地は、一つでも取りこぼせば人里へと不和を運ぶ可能性がある。相手はどう動くのか。獣よりも人に近いその姿に抱いた焦燥がまだ年若い娘を急き立てた。
 敵は滅びの化身だという。ならば? どう動くのか――『より多くの人間を殺す』と考えるのか。それとも。自身等をスルーして人里へと向かう可能性までも考慮しなくてはならない。故、放つ霊鳥の花炊き。
 鮮やかなる炎の一閃の如く、気が炸裂する。天より地を焦がす一撃と共に風牙がその身をぐるりと捻り上げた。
「行くぜ!」
 ルカが地を蹴った。愛無は空きっ腹を満たすように終焉獣を引き寄せてくれている。ならば、『月と狩りと獣の女神』を真似るように狩り取るだけだとルカの唇が吊り上がった。地より突き刺す闘気の杭が獣達を縫い止める。
 ぐうと呻いた獣の鳴き声に後方より放つ弓が漆黒にその場を塗り潰す。正純は前線のイヴの表情を盗み見た。
 どうして彼女が――『精霊であった』彼女が忌避感を抱くのか。それが滅びの化身である以上に何かあるのかと正純は問い掛けようとし。
「そこの、イヴ・ファルベであったな。どうしてアレを忌避しておる? キモいからか? 確かに、それは確かに!」
「うん。まあ、べしょっとしてるけど、違う」
「ふむ」
 夢心地はおとがいを撫でた。戦闘経験の少なさから来る恐怖とは言い切れぬだろうとは考えて居たが、その通りなのだろう。
 あの透明な獣に対してイヴが感じたのは底知れなさだ。何処へ行くのかも分からず、目的も定まらない。ただ、『全てを滅ぼすために蠢く存在』をどう受け入れようか。
「そなたたちは何処へ向かうのか、何処を目指すのか」
 人語ではなく呻き声が返される。夢心地はそれでも『先程より』何らかの反応を示しているのだと認識していた。
「イヴ! 一歩下がれ!」
「うん」
 上空より隙間縫い、出鱈目に放つ弾丸をイヴが避ける。その傍らに降り立ってから「どう思う」とルナは囁いた。
「夢心地の声、届いてた。あいつら、言葉を学んでいるかも」
「学んでる、か。成程なァ……。生物が産まれて作られてる最中だってんならそれも否定できないか」
 ルナは「どう思う?」と次はラダに聞いた。大凡の『予測』はついていたがイヴの意見を聞けばそれが正しいと思えてくるのだ。
「獣じみた奴等に言葉が通じているとは思えないが、あの立ち上がりそうな動き。
 今この時にも成長しているのか、妙な感じがするな。
 真似は学習の始まりだ。敵の動きに注意し、我々の真似でも始めた個体がいれば速やかに倒そう。
 ……不毀の軍勢とかいう奴等も出てきている。もしこいつ等があんな風になるなら、知恵ある敵が増えるならちょいと厄介だ。もしくは――」
 そう、もしくは全く別個の存在である可能性だってある。ラダは「一枚岩とは言えないだろう」と付け加えた。


「大丈夫、大丈夫……私が支える、私達は戦つのだわ! 私が、神にそれを誓うのだわ!」
 繰返す。華蓮にとっての一番に必要な仕事とは、アタッカーを支え、そして護る事だった。
 ルカやラダを守り抜く為に敵の眼前へと立つ。それらは底知れぬ、何かも分からぬ物だった。華蓮は引き攣った声を飲み込んでから平常心を取り戻す。
「あなた達は何処から来たのだわ? あなた達は何処を目指すのだわ? あなた達は何を望むのだわ?」
「ア―――ア―――」
 躙り寄る獣を前にして華蓮は先程と反応が変わっていることに気付いた。分り合えるなら一番だ。けれど、分り合える相手ではないのだろう。
(……嫌な気配がするのだわ)
 追い風が背を押した。向き合うだけの勇気はそこにあるけれど、向き合ったとて『分り合えやしない』気配だけがひしひしと感じられる。
 神罰の一矢を華蓮に与えた女神は『それが分かり合うことの出来ない存在だ』と告げるかのようだった。
「話そうとしているのかしら」
「少しずつ此方の言葉を理解しているのかも知れませんね」
 正純はゆっくりと一歩を踏み出してから声を張り上げる。「ここで止まりなさい。これ以上先に進ませることは出来ない」と、疎通出来てイルかも分からないが獣達は喉置くから声を絞り出す。
「正純! 聞くが良い! そやつらは麿達に攻撃をして強行突破するつもりじゃぞおおおおビィィィィィィィム!」
 勢い良く攻撃を仕掛けた夢心地。殿的存在としてその在り方を理解したいが、民草を害するというならば許して矢置けない。
 臆病者には臆病者の戦い方があるのだと傍で告げたルナは「イヴ、こっちだ」と声を掛けた。此処で戦法に磨きを掛けて相手が何者であるかを察すると共にイヴを更に高みへと押し上げる事を目指すのだ。
「アイツらは言葉を理解し始めてる。つーことは急激に『人らしい戦法』を取ってくる可能性があるって事だ。どう思う?」
「……きっと、あいつらは沢山居る。沢山、私達のことを吸収しようとしてる」
 恐ろしいことだとイヴが呟いた。嗚呼、全くその通りだと愛無は考える。そうして全てを取り込まれてしまえば何も残らないではないか。
 ラダの弾丸を追掛けるように風牙は走った。
「イヴ、敵に囲まれるのだけは絶対に避けろ! 常に周囲に気を配れ!」
 イヴに近付かんとする敵を払い除ける。歯を食いしばり、槍を振り上げてから叫んだ。
「行かすかよッ! てめぇらは此処で終いだ!」
 榛色の髪が揺らぐ。華奢な足が地を踏み締めて、彗星の如くその体は終焉獣に近付いた。
 と、その刹那に『獣』があんぐりと口を開けた。「風牙」とルカが呼ぶ声に反応し、風牙は槍の穂先に気を集中させて炸裂させる。
 頭と呼ぶべき場所が破裂する。その背後でその一部始終を見ていた獣は目も、鼻も、そう呼ぶ部位は見て取れぬが確かに『声』を発していた。

 ――腹が減った。全てを取り込まねば。

 それだけが聞こえたことに愛無はぴくりと肩を揺れ動かした。ああ、奇遇ではないか。実に可笑しい位に『同じ事を考えて居た』。
 全てを払い除けるようにルカが両手で剣を握り薙ぎ払う。問い掛けた何処を目指すのかは答えやしない。だが、先程の言葉だけで理解出来た。
(ナニカがいるなら、そいつはおそらく終焉獣が可愛く思えるぐらいの厄介事だ――だが好きにはさせねえ!
 ナニカってのはこいつらの大元だろう。なら、『デッカくん』なんざ呼ばれてたヤツが出てくる可能性もある)
 ルカは顔を上げた。斯うして知識を蓄え、全てを食らい付くし急激に成長する終焉獣が居る。それだけではない。
 他にも様々な滅びの気配が西より出てこようとするのだ。其れ等を此処で食い止める。正しく境界線(ボーダーライン)だ。
 払い除けた終焉獣は霧散する。命の輝きをその腹に蓄えていた終焉獣達を両眼に映し華蓮は「もう少しなのだわ!」と声を上げた。
 華蓮に頷いてラダは引き金を引く。
「成程、急ぎの用事というのは空腹だったか。けれど、それ以上はいけないことだな?」
 ラダの弾丸が獣の腹を貫通して行く。夢心地が「天晴れ!」と叫び、正純の矢は周囲を包み込む。
 獣達はそれらを甘受していた。避けることもなく、此処で終っても仕方が無いとでも言う様に。
 ただ、霧散したそれがナニカに吸い込まれていく様子だけを正純は見ていた。
「これは……」
「まだ、始まり、なんだね」
 イヴは小さく息を吐く。そうだ。滅びが迫ってきているとはずっと聞いていた。だが、それが直接攻撃を仕掛けてきたのは――
「……これからだ。備えなくちゃな」
 ルカはゆっくりと剣を降ろして呟いた。
 しん、と静まり返った空間でイヴは小さく息を吐いてからはためいた外套を押さえる。
「……『観測者』として、影の領域の観測は続けなきゃ。
 きっと、あいつらにも種類があって目的だって違うんだ。……目を離せないね」
 イヴは此の儘、影の領域へと向かい境界線で情報を収集しながらラサの危険を未然に防ぐために尽力するのだろう。
「心配掛けて、ごめん。……南部砂漠コンシレラは、少し行けば人里もあるから、まだ、私が戦うときは来るかも。もう少し、鍛えなきゃ」
 剣を確認してからイヴは小さく息を吐く。愛無は「何かと気負う事も多いだろう。同じラサに住む者としてサポートしよう」と頷いた。
「また、呼んで良い?」
「水くさいな、イヴ」
 からからと笑ったルカに顔を上げたイヴはぱちくりと彼の顔を見た。華蓮は「不安なら、仲間が居るのだわ?」と振り返る。ラダやルナを確認してからイヴは指先を擦り合わせて「ええと」と呟いた。
「可愛い子には旅をさせよ、と言いますが少し心配です。何かあったら、直ぐに呼んでくださいね、イヴさん」
 微笑む正純にイヴは頷く。沢山の敵を倒して、情報を集めて。ラサの火の粉を払うが為に。
 切り揃えていた髪も長く伸ばし始めた。戦うための決意だってした。だから、あとは――
「ありがとう。私も、これから頑張る」
 ちょっとだけの勇気を添えれば、何にだってなれる気がしていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 イヴにとっての大きな一歩。まだまだ、皆さんには追いつけないけれど、一つずつ頑張って行く事でしょう。

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