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シナリオ詳細

きみの故里を聞かせて

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●回顧録
「君たちの、故郷の思い出を語ってくれないかね?」
 考古学者ローレンス・アーキンは自身のアトリエにあなたを招き、そう依頼してきた。
 なぜそうなったのかを、まずは語っていくことにしよう。

「ようこそ、我がアトリエへ」
 アルム・カンフローレル(p3p007874)と古木・文(p3p001262)は高名な考古学者ローレンス氏のアトリエへと招かれていた。
 アトリエには様々な者が雑然と置いてあり、その中には以前アルムたちがある遺跡から獲得してきた古代の石像も置いてあった。
 ローレンス氏は老齢を感じさせるシルエットこそしているが、猛禽類のような鋭い目をした老人で、杖を手に立つ姿はどこか凛としている。
 彼は、このように語った。
「君たちに以前依頼して手に入れた古代アンシエント族の遺物だが、その性質が明らかとなった。
 これはいわゆる記録装置なのだ。人々の思い出を残しておくための。
 おそらくは滅亡を悟ったアンシエント族が自分達の暮らしを記録しておくため、この石像を作り遺跡の奥深くへと収めたのだろう。
 魔術の知識を持ち、勇敢な後世の何者かがそれを手に入れ、いつか紐解いてくれる人を夢見てな」
 ローレンス氏の眼差しは、どこか優しい。
 古きことへ想いをはせる楽しさか、あるいは思い出を残そうとした古代アンシエント族のことを想ってか。あるいはその両方か。
「実際にこの石像から『思い出』の抽出を行っているのだが、どうやら思い出を抽出するには条件があるらしいことがわかった。
 まずひとつ……この石像を交え、新たな思い出を語り聞かせること。
 その思い入れや深さに応じて、石像は内包した情報の抽出に応えてくれるようになる。
 思い出を語るのは何人でも構わないが……今回君たちを呼んだのはそれが理由なのだ」
「へえ、僕たちが故郷の思い出を語ると、そのお返しをくれるってことなのかな?」
 文は楽しそうに石像を見つめる。ローレンス氏は頷いてこたえた。
 かわった仕掛けだ。かわった仕掛けだが……わからないこともない。
 この石像自体は、知識を交換しようと言っているのだ。はるか古代の遺物であるなら、現代の故郷の話は充分に刺激になるだろう。
「内容はどんなものでも構わない。家族の思い出や、子供の頃のエピソード、自分がこの道に進むキッカケ……君たちのように多くの冒険を経た者であれば、語ることもまた多いだろう」
 アルムが『そうだね』と頷いた。
「特に俺たちは異世界からの来訪者だ。新鮮な話を聞かせられるんじゃないかな。それも、お互いにとっても、ね」
 文とアルムは顔を見合わせ、だろうねと肩をすくめる。
「うむ、話は決まりだ」
 ローレンス氏は椅子に腰掛け、その対面にある空の椅子を指さした。

 さあ、思い出を語ろう。
 内容はなんでもかまわない。
 君の暮らしていた場所のこと。
 君が子供の頃に出会ったエピソード。
 冒険に出るキッカケとなった話。
 それは古代の秘密を開くための鍵となり、また新たな知見へ繋がるだろう。

 さあ、椅子に腰掛けて。キミの思い出を語ってほしい。

GMコメント

 思い出を語りましょう。
 内容はなんでも構いませんが、困ったら自分の暮らしていた場所のことや家族のことを語ると良いでしょう。
 異世界から来た人は、その世界のことを説明してもいいかもしれません。
 内容は自由です。プレイングにキャラクターの思い出を書いてください。
 おそらくネタ被りはしないとは思いますが、相談の際に「こんな話をする予定だよ」と言っておくと安全かもしれません。

 ※記憶喪失などで故郷について覚えていない方は、これまでの冒険の思い出や印象深かった出来事を話してみてもよいでしょう。

 さあどうぞ椅子に腰掛けて、思い出話を始めましょう。

  • きみの故里を聞かせて完了
  • 「君たちの、故郷の思い出を語ってくれないかね?」
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2023年10月05日 22時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
古木・文(p3p001262)
文具屋
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

リプレイ

●『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)の故郷のはなし
 考古学者ローレンス・アーキンのアトリエには奇妙なものが沢山ある。
 どこかの部族が信仰しているという彫像や、ひたすらに古いトースター。はたまた踊る妖精を封じ込めた水晶などだ。
 このあらゆる文化文明が混ざり合った混沌という世界において、考古学とはかくも広い分野なのである。
 そんな中で、チャロロは出された紅茶にちびちびと口をつけ、そしてシュガーポットから角砂糖を二つ三つカップへと入れた。
「まずは君の話から聞かせて貰おうか。名前は確か……」
「チャロロ! チャロロ・コレシピ・アシタ! ふるさとの思い出を話せばいいんだよな?」
 そう問いかけるチャロロに、ローレンスは鷹揚に頷いてみせる。
「君は確かウォーカーだったと思うが」
「うん! オイラの故郷、トゥスクルモシリは魔法で動く機械『魔動機』が普及したところなんだ」
「魔動機。それは、君が手にしている剣や鎧と同じものかね?」
「だな! 魔法を機械化したもの……って言ったらいいのかな。オイラも実は詳しくは説明できないんだ。
 当たり前の技術として使われてたぞ。料理するのに火の魔法を込めたコンロがあったり、冷蔵庫に氷の魔法が込められたりな」
「練達では『電気』や『ガス』で動く道具だったな。このあたりでも使っている人間がそれなりにいると聞いたことがあるが……」
「オイラもそんな動力があるなんて知らなくてびっくりしたよ」
 チャロロは笑って続けた。
「オイラの国は土地も実り豊かで農業や畜産も盛んだった。けど」
「けれど?」
「けして完全に平和な場所じゃなかった。
 どこからか現れた魔獣たちによって世界中が襲撃されていて、トゥスクルモシリも例外じゃなかったんだ」
「ほう……」
 ローレンスは両手を組み、少しばかり身を乗り出すようにして尋ねた。
「その魔獣が、君の世界の脅威であったと」
「うん。オイラも魔獣絡みの事故で死にかけたけど。
 ハカセが魔動機のサイボーグに改造してくれたことで命を繋いだ。
 それがえらい人にバレたことでいろいろあったみたいで、ないしょにするかわりにオイラは秘密の組織に所属して魔獣と戦うことになったんだ」
 その時のチャロロの表情は、笑顔のような、すこしだけ悲しいような、複雑なものだった。
「表向きは人間の小学生、裏では魔獣を退治するヒーロー……。
 二重生活はけっして楽じゃなかったけど正直ちょっとワクワクしてた
 アイツにボコボコにされるまでは」
「アイツとは」
「人と魔獣のキメラ、イペタムってやつだ。
 オイラを倒すために現れて。何度も交戦することになったよ」
 懐かしむように目を閉じる。
「お互い決死の戦いの中、必殺技をぶつけあった瞬間に、なぜか光に包まれて気がついたら混沌にきてたんだ」
 目を開き、チャロロは笑う。
「イペタムもこっちにきてて、最初はまた対立してたけど。
 共通の敵を相手にいつのまにか背中を預け合う仲間になってたんだ。
 そういえばしばらく会ってないけどアイツも元気にしてるかな?
 また会ってみたいな」
「なるほど……良い話を聞かせて貰った。きっと、アンシエント族の遺物も喜んで吸収していることだろう」
 ローレンスは例を言うと、では次に……と隣に座っていたゴブリンに目を向けた。

●『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)の故郷のはなし
「いいぜ、この派遣会社ルンペルシュティルツ社長、キドー・ルンペルシュティルツの華麗なる前歴について教えてやろう――なあんてな」
 高級なスーツを身に纏ったゴブリンことキドーは、椅子にもたれかかってからからと笑った。
「嘘。嘘。冗談だよ。俺ァケチな盗賊の単なるキドーさ。ルンペルシュティルツなんて長ったらしい姓は自分で付けたモンだ」
「ということは、元々の名前は『キドー』だったと?」
 ローレンスの問いかけに、キドーはこくりと頷いて見せる。
「……名前か。名前といやあ俺の故郷には面白い風習があるんだよ。そいつを教えてやろう。
 俺の名前は極々ありふれた名前だ。というか、ゴブリンは生まれた時に付ける名前ってヤツに拘らない」

 そう切り出すと、キドーは自らの故郷にあった名前に関する風習を語って聞かせた。

「……ふむ、興味深い話だった」
 ローレンスは椅子に一度もたれかかり、アンシエントの遺物へと目を向ける。
「実は、アンシエント族にそのような呼び名がついたのは、発見者に由来するところがある。つまり彼らはアンシエントという名前ではなかったのだな。
 しかし考古学の世界のなかで名前は定着し、いつの間にか真実として語られるようになる。
 誰もがこの単語からこの部族を思い出すのだ。
 キドー君。君がこの世界で自ら名付けたという『ルンペルシュティルツ』もまた、私にとっては『あの』ルンペルシュティルツさ。きっと名前が真実を帯びるようになるだろうね」
 では……と、ローレンスは紅茶のポットに手をかざし、そして自らのカップへと注ぐ。
 魔法によって操作されたそれは洗練された優雅さで、『おかわりは?』と尋ねる表情にもどこか優雅さがあった。
 それでは一杯、とカップを差し出して……眼鏡の青年は自分の故郷の話をするのだった。

●『結切』古木・文(p3p001262)の故郷のはなし
「えっと、僕が前にいたのは日本という名前の国でね。
 海に囲まれた大きな島で、水が豊富で、神様の子孫が未だ国の中枢を担っているような場所だよ」
 文がそう切り出すと、ローレンスは『ほう』と興味深そうに身を乗り出した。
「神の子孫かね。それは、身近に神が存在しているということを?」
「どうかな。証拠を見たことはないからね。けど皆そう信じていたし、信じているなら、それが神様ってことでいいんじゃないかな」
 どこかドライに言う文に、なるほど確かにと頷きを返すローレンス。
 実際豊穣のように神がすぐそばにいる国もあるのだが、それとは違うのだと理解したらしい。
 文はおかわりをもらった紅茶に口をつけると、椅子にゆっくりともたれて宙空を見つめた。
「生まれた場所は山の中で……自然豊かだったよ。良い意味でも、悪い意味でも。
 実家から少し離れた所に鳥居と滝つぼがあって、小さい頃は、よく其処で過ごしてた」
 目を瞑ればその光景が蘇る。
 思い出であり、望郷だ。
「水の流れる音が好きだったし、近くの木々は四季によって色を変えるし、あと食べられそうなものが見つかりやすかったし。昔はあの山にも、人がたくさん住んでたのかもしれないね
 僕が生まれた頃にはうち以外には誰もいなかったけど、実家は変な家だから近くに人がいなくて本当に良かったと思う」
「変な家、かね?」
「そう、変な家さ。僕が家出した時には兄弟姉妹が18、19人くらい居たからね」
「ふむ……」
 それは確かに多い。文化によっては子供を5~9人ほど作って維持することも珍しくはないが、その倍となると養うことすら難しくなってくるだろう。
「君は、その家を出たのかね」
「うん。それから、つてをたどって、人が沢山いる町という場所で仕事を探した
 そこで、色んなモノやヒトを見たよ」
 それこそ、目を瞑れば思い出す光景だ。
「同じ国なのに使っている言葉も名前もまったく違ったり、見たこともない奇妙な道具があったり。
 未だに新しい道具に挑戦するのは苦手だけど、出来るだけ避けないようにはしてるよ」
 確かに文はウォーカーでありながらこの世界の道具に躊躇がなく、そして器用だ。
 その器用さは冒険にも現れている。
「細かい何かを整備するのが好きだから車という乗り物の運転手見習いとして雇われたよ。
 本当は運転するより整備する方が好きだったけどね。
 そこのお嬢さんに一目惚れして……まあ何とか彼女と結ばれることができたよ。
 娘も二人できた。双子で、来年高校に入るんだ……」
 と、そこまで話した所で文は話をぱたりととめた。
「ああ、少し、話しすぎたね。これが僕の故郷の話」
 どうかな? と手を広げてみせると、ローレンスは頷いてみせた。
「ありがとう。面白い話だった。人の人生を覗くというのは、やはりいつでも心が躍る」
 次は……と顔を廻らせたところで、ハイッと小さな手が上がった。

●『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の故郷のはなし
「フォルトゥナリア・ヴェルーリア! 今日は、私が着てるこの服の話をするからね」
 ぽんっと自らの胸に手を当ててみせるヴェルーリア。ローレンスがきょとんと目をまるくした。
「服、かね?」
「ただの服じゃないよ。この服には戦闘を含めたどんな場面にも対応できるようにデザインされていて、それはつまり私服としても、礼服としても、戦闘に際しても全局面に対応できるようになっていて、それを可能にするだけの祈りと力が込められているの」
「ふむ、つまり……君の着ている服は『小さな教会』であるということかね」
「おっと?」
 かわった言い回しが出てきてヴェルーリアは目を瞬かせる。
「そうかも。言われて気付いたけど、この服は最小単位の教会(対魔族の安全地帯)としての機能があるかも。でもそれはね、必要があってついたものなんだよ」
 ヴェルーリアは手を広げて見せた。
「何故そうあれかしと作られたのか、それは街の中ですら魔物の襲撃があってもおかしくなかったから。どんな場所でも安全ではなかったし、恐怖は誰にも平等だった。
 どこに居ても安心できないからこそ、着ている者にとっての安全地帯であることが求められ、かといって動きやすさや顔が見えなければならない。
 勿論そういう都合を考えて作られたから、製作は難航したんだよね」
 えへへと苦笑するヴェルーリア。
「そしてその問題を、人々の祈りと大地や海といった自然、そして空の星々の神秘的な力を合わせることで、どんな場所でも何かしらに力を借りたり、その全てがなくても事前にそれを充填するという形で解決したのが今私が着ている服。無事を祈ってくれる人々の祈りと想い、依って立つ大地の力、時に荒れ狂う海の力、空からの星の輝き。その全てが私の思い出」
 どう? ともう一度服を叩いてみせるヴェルーリア。
「なるほど興味深い。初めは服の話と聞いて驚いたが、これは充分に価値のある話だった。いずれ、考古学のひとつになるかもしれないな」
「ならよかった! 実際、故里の話でもあったしね」
 紅茶を飲み干してにっこりと笑うヴェルーリア。隣を見ると、こくんと魔法使い風の青年が頷いてみせた。

●『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)の故郷じゃないはなし
「次は俺の番……なんだけど、困ったな」
 アルムは頭をかりかりとかいた。
「どうかしたのかね?」
「うん。俺には語れることがないんだよなぁ。
 俺はいろんな世界を転々としてるみたいなんだけど、この世界に来る前のことは何も覚えてないんだよね。
 緑がいっぱいだったのか、高度な文明が栄えていたのか、
 どんな人々がどんな生き方をしていたのか……
 そもそも明るかったのか暗かったのか、ってことすらわからないんだ」
「ふむ、召喚にあたって記憶をなくすといケースは聞いたことがあるな。君もそのパターンということかな?」
「多分、ね。どうしよう。予想で話す?」
「いいや、必要ない。この遺物が求めているのは『情報の交換』だ。君の……そうだな、印象に深かった冒険の話でも聞かせてもらえないかな?」
「そういうことなら、お安い御用だよ。丁度いい思い出話があるんだ」
 声を弾ませて、アルムは話を続けることにした。
「この前ね、夏休みに海に遊びに行って……覇竜の依頼で仲良くなった友達を数人誘って。
皆でスイカ割りをしたんだけど、そしたら一人が間違えて別の友達の頭をフルスイングしちゃって……」
「ほう……その友人は大丈夫だったのかね?」
「慌てて治療したんだけど、聞いたことない悲鳴上げて、皆で大笑い」
「なるほど、大丈夫そうだ」
 イレギュラーズには色々な人間がいて、スイカ割りの代わりに割られても平気なやつもきっといるだろう。
「水着を着ないまま走り出したり、それを追いかけたり、たくさんお酒を持ってきてくれた友達もいて……。
 皆でお酒飲みながらいっぱい遊んで、とっても楽しかった。
 あんなに笑ったのは、本当に久しぶり……って言うのも、可笑しいんだけど。
 俺が今持ってる記憶の中では、それが一番……かな」
「なるほど。君は記憶をもたず召喚されてきたが、それでもこの世界で『思い出』を作り、第二の故郷にしようとしているということなのかもしれないな」
「かも、ね。実際懐かしさや思い出っていったら、混沌に来てからのことばかりだしね」
 さ、次は誰かな? そう問いかけたアルムに手を上げて見せたのは、ペストマスクの医師だった。

●『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の故郷のはなし
「私の世界は、混沌で言う所の幻想に近い場所だった」
「王国の貴族社会だったと?」
「ああ、そう解釈してもらって構わんよ」
 ルブラットは頷くと、『ただし』と指を立てて見せた。
「混沌とは違い、人知を超えた事象も、奇跡を起こす力も存在しなかったがね」
「それは……不便ではないのかね」
「知らなければ不便さは感じないものさ。いずれにせよ人は生き、文明を刻む。新しいもののほうが優れているというわけでも、決してないのだから」
「ふむ、それは確かにその通りだ。別の世界の別の話。混同してはいかんな」
 ローレンスが頷いて椅子にもたれかかって見せた。
 同じく椅子にもたれかかってから手をかざすルブラット。
「ある日、突如として世界に災厄が訪れた。まあ、先の鉄帝でも想像してくれたまえ。
 私は医師だから、災厄たる疫病に抗わなければならなかった。
 思い出話はここからだ」
 そしてふと、ルブラットのマスクに影が差した。
「あの時、私は死に瀕した患者の治療をしていた。彼は天使を視るまでには衰弱していたが、それでも諦め切れなかった」
「君は治療を行っていたと?」
「ああ、労力を惜しまず、いるかもわからぬ神にすら祈ってね。
 最終的に、私の優秀な技量と彼自身の意志の力によって、彼は見事回復した
 彼の笑顔を見て、涙が溢れ落ちそうになったよ
 苦難ばかりの世界だけれど、運命は我々を見放していなかったのだと確かに実感できたのだ……。
 お互いにこの奇跡に対する喜びを分かち合って、そして別れた」
 だが、とルブラットは天井を仰ぎ見た。
「翌朝のことだ。彼は路傍にて独り寂しく死んでいた。
 くだらない喧嘩を吹っ掛けて殴り殺されたとのことだった。
 ははは! 笑えるだろう?」
 手を広げてみせるルブラットに、ローレンスは眉間に皺を寄せる。
「……振り返ってみれば、こんな思い出ばかりだ。
 けれど、私は故郷の地を愛しているよ。あの世界に生きる人々も、死も、全てが唯一無二のかけがえの無い存在だったんだ」
「そうか。君にとって命とは……世界とは、そういうものなのだな」
 語ってくれてありがとう。そう告げると、ローレンスはアンシエント族の石像へと視線を移した。
「もう充分だろう。見せてくれたまえ、古代の暮らしというものを」

●アンシエントの物語
 ある、文明があった。ある部族があった。
 部族の名は知られておらず、発見者の名からアンシエント族と呼ばれている。
 魔導文明に優れたその一族はしかし、僅かな遺跡だけを残して滅びてしまっている。
 そんな彼らの暮らしぶりが、石像から浮かび上がる幻影として映し出されていた。

 広い畑の風景だった。
 畑には麦が実り、それを奇妙な道具をもった男が刈り取っていく。
「どうやら、魔法を使った機械が発達した一族であったようだな」
 ローレンスが呟くと、風景が変わる、魔物との戦いの様子だ。
 鎧を纏った戦士風の男たちが、炎を発する剣や氷に包まれた斧を用いて魔物と戦っている。
 魔法は機械によって自動化され、戦いにも用いられたのだろう。
 だがその風景は、やがて『人と人』の戦いへと発展していった。
 物資を求める近隣部族の対立。戦い。そしてその戦いは、酷い損耗を互いに与え合うという最悪の結果をもたらした。
 やがて彼らは魔物による襲撃にも耐えられなくなり、自衛の力すら無くし滅び去っていった。
「これは、過ちの記録……か」
 ローレンスは呟き、石像を撫でる。
「遺跡を攻略するだけの知恵と力を持った者たちが現れた時、決してそれを自滅のために使ってはならぬという……」
 ローレンスの呟きと同時に、石像からのぼった幻影は消えた。
 最後にひとりの女性がこちらに語りかけるような様子を映して。
 何を語りたいのかは、言葉がなくともわかった。
 くり返さないで。
 ただ、それだけ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――アンシエント族の記録を読み取ることが出来ました

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