＜英雄譚の始まり＞ゼロ・クール稼働試験

オープニング

●その少女、別人
「ふう、出来た」
　青い髪の少女は、そう呟く。少女の前にあるのはゼロ・クールと呼ばれるものだ。
　魔法使いと呼ばれている職人達の手で作られたしもべ人形であり、用途としては主に戦闘用。
　少女の目の前にあるのも、その戦闘用の１つだった。なんとなく秘宝種のそれにも似ているようにも見えるが、もしかするとその素にあったものであるのかもしれない。
　そう、此処はプリエの回廊（ギャルリ・ド・プリエ）と呼ばれる美しい商店街であり、少女はそこの職人である「魔法使い」なのだ。
　しかし、少女は少しばかり不満そうではあった。何故か？　その理由は簡単で、ゼロ・クールの機能にあったのだ。
　もう少し能力を上げられるはずなのに、素材の不足でそれを出来ていないのだ。
　それでも、現時点で出来るだけのことはしている。
「A-00ア号……貴方はまだまだこんなものじゃないはず」
「そのデータは入力されていません」
「そうかもね。私と貴方は似ている。必要なモノ以外は知る必要を感じていない」
「前提条件が異なります」
「ふふ、そうだね」
　少女はそう言って笑う。その姿は……何処かの誰かに似ているようで。しかし、全くの別人である。

●少女からの頼み
　R.O.Oには電脳廃棄都市ORphan（Other R.O.O phantom）と呼ばれる空間が存在して居る。それはネクストで語られる伝説都市である。
　ROO内に発生した大規模なバグによって生じた存在の集合体であり、バグデータ達の拠点となっている。その地へはネクスト各地より至ることが出来るのだ。
　そのORphan内部より『境界＜ロストシティ＞』と呼ばれる異世界への渡航が可能となっていることが確認された。
　混沌世界をR.O.Oが取り込んだ際に同時に『解明されていない土地（果ての迷宮）』を取り込んだことによってデータ欠損、不足データが発生し正常な実装が出来ずに廃棄されたものであるようだ。
『境界』という特異的な性質であるが故に、現実世界にもリンクしていたその空間において『ライブノベル』に綴られた世界を救う事に至ったイレギュラーズはその際に、一人の『パラディーゾ』より物語の欠片を譲り受けた。
　それこそがコレまで培われた『境界への親和性』――『境界深度』を駆使することで現実世界より渡航可能となった異世界。
　密接に混沌とリンクし、混沌の有り得たかも知れない世界として分離されたその地は、気付いた頃には混沌に飲み込まれて仕舞うであろう。
　境界図書館の館長を務めるクレカの故郷であり、混沌世界からすれば随分と遠い昔の出来事であり、本来ならば終ってしまった物語の別の側面でもある。
　魔王を倒し、『レガド・イルシオン』の建国の祖となった男『アイオン』とその仲間達が『勇者』と呼ばれることのなかった『IFの物語』。
　そして、そんな世界のプリエの回廊（ギャルリ・ド・プリエ）の１つの店……「青の珊瑚礁」で、1人の魔法使いの少女が集まった面々の前に立っていた。
「なんだか妙な顔。まるで死んだ人にでも会ったみたいな目してる」
　そう、その少女はもう死んだはずの少女……「覇竜侵食」事件で出会った少女、サンゴによく似ていた。
　しかし、あの狂気は感じない……よく似ているだけの別人であるのは確かだろう。
「私はサンゴ。この『青い珊瑚礁』の職人。今日、貴方たちに頼みたい仕事っていうのは他でもない」
　そうサンゴ……名前まで同じなその少女が示したのは、１体の機械人形だった。
　A-00ア号。そう番号を割り振られたゼロ・クールの１体だ。
　鎧騎士のような姿をしたそれは、一言も発さずにその場に立っている。
「この子は出来たばかり。だから、色々とデータが足りてない……だから、それを確かめたい」
　そう、それは素材集めであり、A-00ア号の稼働試験でもある。
「近くの草原にアーマーライノと呼ばれる全身鎧を着たサイみたいなモンスターがいるから、それを倒して一番固い部位である角を持ってきてほしい。３つもあれば足りるかな……おねがいね」
　

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●草原へ行こう
「どこか遠くで見たことがあるような人……気のせいかな」
「サンゴ……他人の空似というには似すぎですが、同位体が存在する事自体は可能世界ならではのものですね。恐らく混沌世界の同時代と全く同じでも無いのでしょう」
「そうっすね。なんだか複雑な気分っす」
　『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン（p3p000395）と『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア（p3p000397）はそう頷きあう。
　何処かで見たような人、何処かで見たような風景。けれど、違うモノ。あのサンゴという少女もまたそうだ。
　似ていても、決して本人ではない。そして……ゼロ・クールというモノ。
（今回のお仕事を通してゼロ・クールというのをより理解する良い機会かもしれない。元の世界に戻る切っ掛け……は無さそうけれどもとりあえず）
「一緒に頑張ろうっす！　A-00ア号さん！」
「ぶはははッ、姿は知ってるのに知ってる奴とは似た別人ってのも不思議な感じだねぇ！　ともあれきっちりお仕事させてもらうぜ！　よろしくな騎士さんよ！」
「頑張る、という機能は有していません。近似機能である最善を実行します」
　レッドと『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン（p3p002081）に、A-00ア号はそう返す。
　……ちょっと呼びにくい、とレッドは思うけども。そんな返答が返ってくるあたり、確かに理解する必要はありそうだ。
「ゼロ・クール……アンドロイドと考えても、単純に技術としての高さは見て取れる……とはいえ、魔獣の類を素材として使用するという事は、恐らくそれを上回る素材を自分達で製造する事が出来ていないという事。治金技術の類が足りていないのか……或いは、今は調達できなくなっているだけなのか。実際に製造された世界を文明としてみると、少々歪さを感じなくもないですね」
　アリシスはそんなことを考えるが、元の世界でも一部だがドラゴンの鱗などを使った装備品も出回っている。あるいは、そちら方面の技術……という可能性もありそうだ。どのみち、あちらこちらが違う世界だというのは間違いない。
「まあ、どちらにせよ商店街に「魔法使い」。ソレは我（アタシ）の親しき『隣人』だね。ヒヒ」
　『闇之雲』武器商人（p3p001107）の言葉に「隣人」というのはなんとも言い得て妙だとアリシスは思う。確かに、その表現が一番妥当な気もする。
「稼働試験ってことは何かA-00ア号さんの手本になる動きをしたり戦闘経験を積ませるってことっすか」
「稼働試験といえど、データ収集と蓄積も兼ねている以上は、実際にそれなりの事を実践させてみたいという事なのでしょうね。何処まで戦闘に耐えれるのか解らないので、加減は難しい所ですが……依頼は依頼です。少しずつ慣れる所から始めさせるのが良いでしょう」
　レッドにアリシスがそう答えれば、レッドは「戦いの構えはこう？　それともこう？」とA-00ア号に色々と話しかけ始める。
　そんなA-00ア号を見ながら、『運命砕き』ルカ・ガンビーノ（p3p007268）はそれを託したサンゴのことを思い出す。
（助けたいと思っていたサンゴと同じ顔を見た時は驚きを隠せなかった。別人だってわかっちゃいても、どうしても顔が同じだと何も出来なかった自分の無力ってやつを思い返しちまう……俺は演技が得意な方じゃないから顔に出ちまったかも知れねえ）
　いや、何でもねえ。知ったやつに顔が似てたから驚いただけだ。そうサンゴに言ったルカだったが、「こちらのサンゴ」は軽く首を傾げただけだった。違う人物……そうであるのは、分かっているのだけれども。
「ガーハッハッハ、中々に面白い場所であるな。混沌世界の仮想過去の様なものであるかな？」
　『ノットプリズン』炎 練倒（p3p010353）もそう笑いながらこの世界について考えていた。
「境界図書館、ROOに帳かそれとも他の何かによるものか又は複合要因が実に興味が尽きぬであるな。今回の依頼人のサンゴ殿もまだ勇者アイオン等がいる過去であるのに混沌世界の現代にいた人物と同じ顔と名前とは偶然かはたまた何か意味があるのか気になるであるが一先ずは依頼を果たすである」
　あるいはそれが「可能性」というものなのかもしれないし、世の中に似た人物は３人はいるというものであるのかもしれない。
「まあ、どのみち今は答えは出んやろなあ」
「で、あるな！」
　『晶竜封殺』火野・彩陽（p3p010663）に練倒もそう頷く。事実、今は答えは出ないだろう。
「……しかし、さんざファンタジーやなあとか思ってたけど……ほんまファンタジーやな？？　そういう気分で楽しめたらええんやろか。ん。よし。がんばろーー！　おー！」
　そう気合を入れた彩陽からは、わくわく感がにじみ出ている。
　ちなみに、A-00ア号に名前をつけようという話もあったが……『鋼鉄の冒険者』アルティアーロ（p3p011108）はかなり迷っているようではあった。
「名付け親ですか？　正直そういうの苦手なんですよねぇ。取り敢えず任された仕事を片付けてから改めて考えましょうか」
　そう、任された仕事。この先にいるというアーマーライノの角を持って帰らねばならないのだから。

●アーマーライノをやっつけろ
「まずはアーマーライノでしたっけ？」
「そうですね」
　アルティアーロはハイセンスとエネミースキャン、アリシスは広域俯瞰で視界を確保しハイセンスと超視力で索敵していたが……これには当然狙いがあった。
　より少数で行動してかつ他の群れからの乱入を受けない位置に居るアーマーライノを見つけようというのだ。
　可能なら単独のものを狙い、多数のアーマーライノと纏めて交戦になるのは避けるように警戒したいところだが……そう上手くいくかは分からない。まずは探してみないことには何とも言えないからだ。
「野生の動物ってのは匂いが強いから探すのにそう苦労することはねえだろう。複数見つけたら小さい集団から狙って戦うとしようか」
　ルカはエキスパートで強化したエネミーサーチと超嗅覚でアーマーライノを探していくが……そうした様々な捜索方法を重ね合わせることで、目標に辿り着くだろう。
　だから武器商人も広域俯瞰と超視力を併用し周辺を索敵していた。
　障害物があったら透視で遮蔽を無視するつもりだったが、そういうものもなく視界は良好だ。
　ゴリョウはプリエの回廊で仕入れたモンスター知識でアーマーライノの行動様式を皆と情報共有していたが、自身も広域俯瞰と温度視覚の併用で広い範囲の生物を確認していく。
　単体でなくとも群れのうち、ある程度『薄い』層の群れを狙って仕掛けることが出来ればいい。
「さて、上手く見つかるといいんだがな」
「アーマーライノの角は１匹で１つ取れるだろうから、出来るだけ必要最低限の数だけ倒してえな。俺達だけなら魔王の配下は出来るだけ倒した方が良いんだろうが、A-00ア号の安全もあるしな」
　ゴリョウにルカが頷けば、練倒も「そうであるな」と同意する。
「草原であるからそこまで起伏もないであるし超視力を持ってすれば十分に遠くから発見可能であろう。探すついでに吾輩のインテリジェンスに刻まれた自然知識でこの辺りの植生が混沌世界との違いがあるのか調べてみるである」
「３体位でええんやったらそれくらいの群れいないか探そうかなー……」
　彩陽も広域俯瞰と超視力を併用してアーマーライノを探していけば……見つかった。アーマーライノの群れ、そしてその中でも比較的小規模な群れだ。アーマーライノ自身は鎧を纏ったサイといった印象だが……確かに気味の悪い雰囲気を有している。
「あっちから突進して迫ってくるアレが今回の目標っすか！　アーマーライノ……名前から想像してたけど凄く硬そうなサイっすねー……と関心してる場合じゃない戦闘開始！」
「了解しました」
　レッドに応えるようにA-00ア号も剣を引き抜く。そしてまず一番最初に動いたのは彩陽だ。
「まずは相手の行動を制限する……そしてその間に敵を倒してもらお」
　ダニッシュ・ギャンビットを発動させてからのプラチナムインベルタ。
「よし、吾輩が壁役として足止めするである！」
　練倒が名乗り口上を響かせ、壁になるべく立ち塞がる。
「ガーハッハッハ、サイ如きの突進なぞいずれ竜に至るこの吾輩が受けきってみせるである」
　もっとも、ただのサイではないことには練倒も気付いてはいたが……それはそれ、だ。
「俺の戦い方は力任せだが、そういう戦い方もあるって見ておきな！」
「了解しました」
　ルカも黒犬（偽）を両手持ちに切り替えてクリムゾン・ジョーカーで叩き切っていく。
　憧れのディルクを思わせる赤い闘気を剣に宿らせて叩き斬る一撃だが……角は壊さないように注意していく。
　そして何よりも、A-00ア号の稼働試験ということを前提に教えた方が良い事もあるだろうからと、積極的に声をかけていた。
「俺の戦い方は力任せだが、そういう戦い方もあるって見ておきな！」
　A-00ア号自身も戦わせて、危ないようなら庇うようにするつもりだが、ゴリョウが護衛に入っているので然程心配はしていない。
「見て、試して、強くなるにはその繰り返しが一番だ。いろんな技を見せてやる。俺の剣はアンタのものに比べりゃちっとデケェがそれでも参考に出来る部分はあるだろ……まだ真似出来ねえかも知れねえが覚えておきな」
「データの収集、実施中です」
「よし」
　まずはそれでいい。ディルクは素直にそう思う。
「見た目通りなら十分硬ぇだろうが、まぁ折角だ。『守られる経験』ってのもしとくと良いぜ」
　ルーンシールドを展開したゴリョウはA-00ア号の護衛役として動いていた。
　護衛される側の動きを学ぶとか、そういう感じである。とにかくA-00ア号をかばうことを優先だ。
　護衛と戦線の維持を優先するべく動くゴリョウは全体の指揮役にも似ていて、確かに参考に出来るものは多そうだ。
　武器商人も衒罪の呼び声を発動させ、アーマーライノが散らばらないようにしていた。
（普通の動物だったら乱獲はあまり褒められたことではないが……これらは『滅び』の気配を纏っている様だからね。ならばあればあるほど良い部類の素材ということだろう）
　そんなことも考えていたが、確かに持って帰るのであればより良い素材のほうがいいのは間違いない。武器商人の鑑定眼が役に立つだろう。
「抑えは十分、私は攻撃に専念します」
　アンジュ・デシュからの七戒を放つアリシスはミストルティンの槍を放つチャンスをいつでも狙えるようにしていたが……無理はしない。それは今回アリシスがA-00ア号に伝えようとしていることでもあった。
「無理せずに動いて攻撃をする経験を積んでください。防御は人間でも素人には難しいものです」
　そう、それもまた重要なことで。レッドはそうした動きをA-00ア号が見ているのを感じながら攻撃に集中する。
「よく狙い定めて手痛い一撃発射っす！」
「はい！」
　自分側に近いアーマーライノから仲間が集中して狙う相手に向けて攻撃集中したソウルストライクを放っていく。
　そしてアルティアーロも３連装スーパーメーサーキャノンをつるべ撃ちするように放っていく。
　狙うのは一番立派な角持ち。きっと良い角だろう。
「ちなみにこれは「怒りに燃えて突進したいのに足止めで動けないままハメ殺す」状況を作り無傷で完封するのが狙いです」
　A-00ア号にそう解説する余裕すら出てくる中で、武器商人により厳選された３本をついに手に入れて。他の群れが来る前に撤退していく。これでもう依頼は成功したようなもの……となれば、A-00ア号の名前を考える時間である。
「名前は……無理ですね。しっくりくるのが思い浮かびません。ここに関しては皆さんに頑張ってもらいたいです」
　アルティアーロはそう仲間の良案に期待して。
「コライユ・カルマン……かなあ。依頼人の子……サンゴはんが作ったんやっけ？　違うんやっけ？まあいいや。その子と縁の名前がよくて。だから、縁起物の紅珊瑚から名前つけた。幸福の意味もある珊瑚。相手にあげる祝福の呪いやからね、名前って。せやから……どうかなあ？」
　彩陽がそう言って。
「貴殿の名前であるか、型番からしてAも００もアも全て最初であるのできっと最初の人形であろう。そうなると１を意味する言葉と貴殿の騎士風の格好を考えるとそこを組み合わせるのが良さそうであるな。よし、アイリなんか覚えやすいし良いのではないであるか」
　練倒もまた、負けないくらいに素晴らしい名前を提案する。
「まあ、皆のアイデアからサンゴの嬢ちゃんや騎士さんがピンとくるもん選ぶと良いんじゃねぇかな」
　ゴリョウもそう言いながら、１つの名前を提案する。
「ちなみに俺からは『アレニア』だな。A＝『ア』、00＝『レ』いが『ニ』個、『ア』って感じだな。見た目の割には可愛い感じだけどな！」
　なるほど、素晴らしい名前だ。武器商人も頷きながら自分の考えを表明する。
「名前は必要だよねぇ。型番だけだと認識しづらいから。型番から取って……エーレイアとか？　なんとなくでもいいから、これと思った名を選ぶといい」
「うーん……A-00ア号は呼びづらいし、えーれいおあ……エレノアさんなんてどうっすか？」
　レッドもそう提案するが、武器商人も言ったようにこういうのはフィーリングだ。
「そうだな、レクラ……なんてどうだ？」
　だから、ルカもそう提案してみる。
「まだお前さんは生まれたばっかりでこれから先どんな運命が待っているのかわからねえ。だけど、どんな事があったとしてもお前自身が自分の道を、運命を切り開いていける……だから開拓の意味を持つレクラメイションから取って『レクラ』。そういう願いを込めた名前だ。もしサンゴにファミリーネームがあるならその名前と合わせるのも良いと思うぜ」
「エイワース」
「何？」
「サンゴ・エイワースです。そう登録されています」
　その名前を、ルカは知っていた。「あの少女」と全く同じ名前。なんとも不可思議な一致だろうか。明らかに違うというのに。
「どの提案も素晴らしいものであったと私は評価します。その上で……」
　レクラ・エイワース。そう名乗ろうと思います、と。A-00ア号……いや、レクラは宣言するのだった。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

A-00ア号の名前が以後「レクラ・エイワース」となります。
どれも素晴らしい提案でございました……！