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シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>例え幸せを閉ざそうと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●偽りの地を呑む込む海嘯
 『遂行者』とは『世界再建』『預言の遂行』を行う者である。
 預言とは、『預言者ツロ』の言葉である。『遂行者』達に神のごとき言葉として伝えられるものだ。
「…………」
 遂行者サクは、預言者ツロの顔を知らない。ツロが言葉を授かっているという『神』の顔すら知らない。
 知っているのは言葉だけだ。自分達『遂行者』は、その言葉を『預言』として遂行――現実のものとすることが役割なのである。
 絶望の底にあったかつてのサクは、その預言に真実の神を見た。
 今度こそ、偽りでない神を。
 その言葉を発しているのが何者かなど関係ない。ただ、救われた言葉があった。
 この世界が間違いならば、直さなければ。自分が最後の一人となって、自分以外の全てを直さなければ。
 それでも――アドラステイアのかつての仲間達のような、罪なき子供達に苦しみを与えたい訳ではない。
 己の修復は、せめて子供には安らかであるように。
「……おい」
 預言の地に降り立ったサクは孤児院の護衛と管理に当たっていた騎士団員を退け、集まっていた子供達に声をかける。
「一度しか言わねえから聞け。苦しみたくないならできるだけ海に近い場所へ移動しろ。
 さもないと死ぬより苦しい時が来る」
「どういうこと――……」
 子供達が問い返したとき、サクの手には印が刻まれた小箱があった。小箱を目にした途端、子供達は各々頷いて海辺へと急ぐのだった。
「第三の預言……『水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう』。生きてても水が飲めないとか、地獄だろ。未だにこんな場所に残ってる奴らなのに」
 サクは更に小箱を高く掲げると、あちらこちらから人が移動していく。
 海へ、海へ。苦しみを逃れたければ海へ。
 その海に聳える大波は、海竜の如き怪物と影の天使達を連れてくるなどとは知らずに。

 ここは『旧アドラステイア』。偽りの神があった場所。
 そして遂行者は、まもなく『真なる神』の言葉を実行するのである。

●助けられるのは
(どうしよう……どうしよう……でも急がないと……!)
 サクと同じく元アドラステイアのオンネリネンの子供達であった少女トキは、サクが旧アドラステイアに現れた時点でイレギュラーズに助けを求めようとしていた。幸い、黒衣の騎士服の者を見つけるのは難しくない。
 しかし――躊躇いもあったのだ。これは、サクへの裏切りになるのではないかと。かつては同じオンネリネンとして苦楽を共にした、彼を。
(でも、このままじゃ……アドラステイアに残ってた他の皆も、死んじゃう……!)
 ぐっと目を瞑り、トキはイレギュラーズのいた建物の扉を開けた。

「サクが……怖いこと、しようとしてる……!」

GMコメント

旭吉です。
お久し振りのサク&立ち絵お披露目です!

●目標
 遂行者サクによる『第三の預言』成就の阻止。

●状況
 天義の『旧アドラステイア』地域。
 港湾都市であるアドラステイアは塀に覆われた城塞都市を出るとじきに海があります。

 トキと共にアドラステイアへ戻る頃には、既に水はニガヨモギで侵され飲めなくなっており、海からは海竜のような姿をしたワールドイーターと影の天使達が波と共にやってきます。
 ワールドイーターは相手の五感を奪い、影の天使達が子供達の命を刈った直後、波が全てを押し流すことでしょう。
 波は街もイレギュラーズも関係なく呑み込みます。
 最低限子供達が息さえしていれば預言が成就したことにはなりません。

●敵情報
 遂行者『終天』サク
  10代後半の少年。遂行者の白い制服の外套に消えない泥汚れが残る。
  ワールドイーターを創り出し、意思疎通する能力を持つ。
  手にしている小箱の能力は不明。
  状況が不利になると撤退する。
  ※聖痕について
   積極的に刻もうとはしませんが、万が一、彼の何かに触れてしまったなら。
   以降は彼の『協力者』となることでしょう。

 ワールドイーター×1
  10mほどの海竜のような姿をした巨体。
  五感を奪う噛みつき(貫)とブレス(範)が主な攻撃。
  基本的に影の天使がいる限りはダメージを与えない。
  このワールドイーターを倒すと奪われた五感が戻り、波も静まります。

 影の天使×20
  銃や槍、鎌など、レンジが長めの装備が多いです。
  倒せば消えていきます。

 アドラステイアの子供達×10
  武装はしていません。強い洗脳状態にあるようで、避難させようとすると海辺へ残りたがります。彼らの命が失われると預言の成就となります。

●味方情報
 トキ
  隠密に優れた元『オンネリネンの子供達』の少女。サクと同年代。
  アドラステイアの子供達を助けたいものの、まだサクを取り戻したい。

●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アンゲリオンの跫音>例え幸せを閉ざそうと完了
  • そこにある幸せを閉ざそうとも、救いたいのなら――。
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年10月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ


 アドラステイアに、遠くから波が迫っていた。
 白い飛沫を上げながらまっすぐ陸を目指す波。その到達を迎えるように、岸辺には子供達が集まっている。
「これも預言の遂行だと? どういうからくりで発生させてるんだ、あんな大波……」
「でも、どう見たって正気じゃないでしょあの子達」
 『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)と共にその様子を見た『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は、正直良い気分ではなかった。度重なる『遂行者』による事件に対しては、自分はそこまで戦闘が得意ではないから――と思っていたのだが。
(子供に限った話じゃあないけれど、正気を奪われたり催眠されたりみたいなの、やっぱり見ていて楽しくないもの)
「教えてくれてありがとう、トキさん。力でサクさんを止めるのは俺達の役目だ」
 礼を言う『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に応えながらもどこかまだ不安そうなトキに、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が問う。
「トキは……戦える……? 子供達を一緒に……守るために……」
「私には、皆やサクみたいな力は……」
「心配するな、俺達もいる」
 『消えない泥』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)が彼女の肩に手を置き、次いで陸に迫る影の天使達を見遣る。
「サクに取り返しのつかないことをさせたくない。その為にも、トキの力を貸して欲しい」
 その言葉に頷く少女トキ。少女の視界に映る波が大きくなる中、波よりも大きな海竜の如き首へ向けて『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が足止めのジャミル・タクティールを放った。
(彼は……既にやり過ぎたのではないだろうか)
 ワールドイーターを生み出す彼の能力は、既に少なくない被害を出している。 だが、彼を救いたいと願う仲間達がいるのもまた事実。それならば、その命をすぐに折る訳にはいかない。むしろ、救うための手を貸したい――などと。我ながら甘くなったものだと、胸中に悪くはない変化を感じていた。その変化と可能性も、生きてこそ、なれば。
「全く、生きてりゃ苦境のひとつふたつあるだろうに。苦しみを与えられたから真実の神じゃない、なんてのは信仰心が足りないんじゃないかぁ?」
「その辺りを深掘りする時間は与えてくれなさそうだ。だろう、ウェール」
 味方の武具の特徴を覚えさせた上位式達を空へ放つ『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が、遂行者の信仰心に疑問を挟む。しかし、今それを突き詰める時間がないことは彼自身も、彼に応えた十七号も理解している。
 そして十七号に問われた『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は――。
『聞こえるか遂行者。聞いておきたい事がある』
 迫る波を背に、彼を視界に捉える。アドラステイアの街から姿を現した白衣の少年へとハイテレパスで問いかけていた。

 少年は、希望の映らない眼を上げた。


『お前がなんで遂行者をするのかは知らん。でも、トキはこの世界でお前と生きたいと思っている。悲痛な顔で、裏切る罪悪感で心を傷つけながらも俺達を頼った』
 ウェールの話に知る名前があがると、遂行者サクは彼の背でイレギュラーズを手伝う少女に一瞬視線を送ったがすぐに戻す。
『トキが苦しいのは、間違ってるってわかってるからだろ』
『今抱えている苦痛を間違いだと決めつけて、なかった事するのが正しいのか!!』
 サクは、子供に対しては痛みを与えない信条を持つという。『痛みを与えずに命を奪う』のが彼のやり方だ。
 だが、肉体への痛みがなければ心の痛みは、涙を我慢する苦痛は無視していいのか。苦痛を抱えさせたまま殺してもいいのか――立て続けにそれらの問いがぶつけられる間も、サクの表情は微動だにしなかった。

 その頃、波の迫る海辺では。
「一塊になって行動しろ、茶色い人や白いお姉さん達から離れるんじゃないぞ!」
 海辺に集まった子供達となるべく視線を合わせ、茶色い人(マッダラー)や白いお姉さん(ヴァイス)を指しながら伝えると、その後を当人たちに任せ十七号自身は海へと向き直った。
「よし、私はあのワールドイーターとやらを止めに行く! マッダラー、やるべきことをやれよ!」
「心得ている。こんなバカげたことは止めてみせるさ」
「仕方がないから、私も相手になってあげるわ」
 マッドラーが応え、ヴァイスからも頼もしい言葉が返ると、十七号はウェールから付けられたファミリアーの鴉を従え駆けていく。既にアーマデルが先んじて足止めの一撃を放っており、錬が式符から鍛造した殻繰兵士も海にいるワールドイーターの進行を阻んでいる。あの『海竜』と波を、何としてでも阻止せねばならない。
「アーマデル、錬、待たせたな!」
 二人に声をかけ、なお駆ける。子供達から十分に離れたその先で、十七号は陸から『海竜』へ向けて刀を振りぬき衝撃波を飛ばした。
 波ごと切り裂いた衝撃波は海竜の姿をしたワールドイーターへ命中すると、かの怪物はその首を十七号へと向けるなり口を開いて咆哮した。目論見通り、子供達よりこちらを優先して向かってくるようだ。
「あっさり引っ掛かってくれるのはいいが、伊達に竜っぽい見た目はしてないらしい。気を付けろ十七夜」
 牽制させていた殻繰兵士の攻撃が弾き飛ばされたのを見て、錬は『海竜』が十七号へ近付き過ぎないよう空の上位式から注視する。
 アーマデルも『海竜』の動きは注視していたが、彼にはもう一つ気になっている事があった。
 この『水』だ。恐らくは周辺の川と同じく海も変質しているのだろう。
(ニガヨモギ……毒であり薬であるもの……今はただ毒であるのだろうな)
 ワームウッドとも呼ばれ、『呪い』を宿すとされるもの。地に満ちる苦しみをひとまとめに表すものとして、蛇であるとも言われる。
 このニガヨモギは――彼ら遂行者がこれまで各地で降ろしてきた『帳』ではなく、現実世界のものなのか?

「トキ。子供達と一緒に俺の後ろにいて、なにか動きがあれば伝えてくれ」
 ワールドイーターの狙いから外れても、影の天使達は子供達の元へやってくる。マッダラーはイズマと共に前衛へ出て背にしたトキへ指示すると、トキから短い承諾があった。
「サクさんに小箱を使われる前に壊したいな……その為にもこっちは極力早く片付けないと」
「一人として犠牲を出してなるものか。来い! 子供達の命は奪わせない!」
 吼えたマッダラーを目指して影の天使達が一斉に襲い来ると、イズマは彼から分散させるように距離を取って紅き月を目覚めさせる。かつてこの身を蝕んだ紅き結晶、吸血の衝動に近い力が解き放たれる――!
「こっちに来てもいいよ。その人数じゃあぶれてしまうよね?」
 イズマの名乗り口上に、マッダラーあぶれそうになっていた天使達が数人標的を変える。しかし槍や鎌を持った者はともかく、銃で武装した天使はここまで近いと銃を使えない。
「その辺り、落ちてもらうわよ?」
 そこへ、ヴァイスの暴風が吹き付け一気に海へと押し返す。それでも残っている天使には、レインのワールドエンド・ルナティックが紫の帳となって降ろされた。
「それ以上、こっちには……来ないでね……。トキ、そっちは……トキ?」
 子供達の様子を聞こうとしたレインの問いに返る声が無く、心配になって攻撃の合間に彼女へ振り返る。トキは子供達が海へ進まないようにしてくれていたが、後方でウェールと対峙したままのサクが気になるようだ。無論、彼女には彼らの念話は聞こえていない。
「……トキは、サクと一緒にいたいんだね……子供達とも……」
「え、あっ……ごめんなさい、こんな時に余所見なんて」
 それ以上彼を見ないよう改めて向き直るトキに、レインは目を細める。
「少し似てる気が……する……。サクも……トキも……」
 訝しげな彼女に、レインは感じたことを告げる。
 例えば、一人で何とかしようとするところ。
 例えば、一人を共有できると信じているところ。
 例えば、そのために苦しそうなところ。
「大切……好き……っていう気持ち……。それは……止められないだろうけど……。手を借りたらできる事……あったりしない……?」
「俺にも教えてくれないか、トキ。お前から見てサクは何に苦しんでいる」
 二人の話を聞いていたマッダラーが、自分から注意を逸らした影の天使を協奏馬の1体に阻ませて問う。しかし、トキの声は不安そうだった。
「……わかんない。私も、今のサクはわかんないことが多くて。一緒にいた頃のサクは、しんどいけど一緒に頑張ろうって……そういう人だった。大人達の言うことには従ってたけど、こんな、怖いこと……する人じゃなかったんだよ」
 ただ、わからなくなってしまっても。サクであることには変わりないから。
 少女トキが彼を諦めきれないのは、その一点だった。

 ウェールの耳にも、彼女達の言葉は現実のものとして届いていた。
 トキや仲間達がそれほど思うサクという少年の言葉が、今意識に届いているものなのかと思うと。
「……お前にも聞こえているだろう。お前の大切な人の言葉だ。屍で築かれた世界で、彼女達が幸せになると思っているのか」
 肉声で行われた問いへの答えは、悩む間もなく断言される。
「なる。神様がそうしてくれる。その為にオレがいる」
 答えるなり、サクがウェールとの間合いを一息に詰める。肉薄する程に迫る彼をウェールは実体化させた盾一枚で辛うじて隔てるが、サクの手に武器は――あの小箱の他には見当たらない。
「オレ、こういう戦闘スタイルじゃねえ筈なんだけど。体が動いたのはアンタの仕業か」
「至近距離はお前の間合いではないと?」
 ウェールが肉声に含ませた細菌による『標的改竄』。本人の意図でなくサクがウェールに迫ってしまった原因である。更に引き付けるようにウェールが指摘するが、サクの表情は鉄仮面の如く動かない。

「そうでもねえよ」
 呟きと共に、小箱が懐へ仕舞われる。その拳がきつく握られて――。


 アーマデルの足止めと錬の牽制、更に十七号の封殺と重ねられ、ワールドイーターの接近はかなり抑えられている。しかし、僅かずつでも進んでいた進行はいよいよその鱗の一枚一枚を視認できる距離に近付きつつあった。
「これ以上近付かれると奴の攻撃が当たるぞ。波を起こされても防げない」
「でもこの距離なら俺も本格的に妨害できる。こんな奴に好き勝手させないさ!」
 アーマデルの妄執の英霊によって抵抗力を削がれた『海竜』に、蛇巫女の後悔が更に不調を重ねる。そこへ錬も五行占陣で業炎や凍結などあらゆる属性の妨害を重ねれば、敵は苦しむように咆哮した――だけでなく。
「そろそろ来るか!」
 咆哮した口を開いたままこちらを睨む敵を見て、十七号がすぐに反応しバルバロッサを放つ。既に徹底的に抵抗力を下げられていたワールドイーターは噛みつこうとしていた体勢のまま動けなくなり、ただ唸るばかりであった。
 敵も少しずつ距離を縮めてきたが、こちらも攻撃を重ねてきたのだ。ここからは反転攻勢である。
「動きを止められている内に畳みかけよう。回復は任せてくれていいけど、最後まで気は抜かない方がいい」
「ああ。何としても海上で倒しきりたい」
 これ以上の接岸は許す訳にはいかない――錬の提案にアーマデルが応え、十七号も頷くと、三人はワールドイーターへの攻めを更に苛烈にしていった。

 子供達を狙いに行った影の天使達も、守りに専念したマッダラーと攻撃を展開するイズマ、レイン、ヴァイスの連携によりその数を減らしつつある。
 しかし、こちらはこのまま全滅させてしまうと良くないことが起きそうな予感のあったイレギュラーズだ。
「レインさん、ワールドイーターの方はどう?」
「ん……かなり……善戦してるみたい。でも……倒すのは、もうちょっと……かかりそう……」
 攻撃の合間にヴァイスが訊ねると、彼らの上空へ烏のファミリアーを飛ばしていたレインがその視覚を確認した。こちらが影の天使を討伐できるペースを考えると、あのワールドイーターが先に倒れる……という状況は少し考えにくい。
(ここからは……神気閃光に切り替えて……)
 残る天使が三体にまで減った頃、レインが攻撃の手を変えようとした時だった。
「すまない、後を任せてもいいかな。俺は子供達の洗脳を解きたい」
「洗脳……サクのところ……? この数なら、マッダラーもいるし……僕達でも何とかなる、かな……」
 イズマが前衛からの離脱を告げると、レインは頷いたマッダラーと共に了解する。
「子供達の洗脳が解けたら、私はワールドイーター戦に加勢したいわ。残りの天使を早く討伐するためにも」
「あちらが先に片付かんと、こちらを全て倒すわけにはいかないからな。こちらは俺達に任せてくれ」
 ヴァイスの申し出にも快諾するマッダラー。その視線はトキが押し止めている子供達へ。
 その次に――。

「……もうじきあのワールドイーターが岸に着く。そしたら終わりだ。アンタらが妨害してたらガキどもの感覚を止められねえだろ、痛い思いさせたいのかよ」
「ならばお前が退け。退かん限りは俺達も子供達を守る」
 サクが握った拳は僅かに発光していた。その光は先ほど、ウェールの盾を弾いたのだ。幸い、彼の盾は実物ではないため何度でもカードから実体化できるが、彼の攻撃手段があの光だけとは限らないだろう。
 ウェールの求めに応じる気が無いのか、サクがもう一度拳を構えた時に彼の動きが止まった。
「サクさん、小箱を持っていただろう。子供達に何をした?」
 イズマがウェールの背から歩み寄ってきたのだ。
「……『呼びかけた』だけだ。『苦しみの無い方へ』って」
「『苦しみの無い方』が、ワールドイーターに襲われる方向か。サクさんにとって、子供達が生きようと願う事は『苦しみ』なのか。全てが間違いだと言うのなら、どうすれば正しかったんだ?」
 その問いに、サクはフードの下から黒い目でイズマを見て、答える。

 ――いなくなること。ただ、それだけ。

「天義は、とっくに滅びてたはずだった。オンネリネンだったオレ達も、出会うはずがない。生きてるはずがない……。生きるはずがない世界を生きるのは、苦しい。だから、オレが在るべき姿にする」
「後悔しても絶望しても、一度きりを生きるのがこの世界だ。だから『唯一無二の生きた軌跡に間違いなんて無い』。
 俺達は預言を阻止して皆が生きられる未来を作るから。トキさんや皆の事も、サクさん自身の人生も、認めてやれよ」
 彼が『今』を間違いだと信じ込んでしまった発端は、彼自身が苦しかったからだ。『今』が間違いではないと示すことができれば、少しは彼に届くものがあるのでは――見据えた黒い瞳はしかし、色濃く絶望を映していた。
「その『一度』が、終わってないことが、間違いなんだ。間違ったまま生きて、間違った幸せを見つけちまう奴もいる。そしたらもっと苦しい……なあ、そうだろ、トキ」
「……ッ!!」
 呼びかけられたトキが、跳ねるように反応する。その様子に、レインは嫌なものを感じて急いで彼女を抱きしめた。
「トキは……間違ってないよ……」
「でも……わかっ、ちゃった……。間違って、そこで……幸せを、見つけたら……苦しくても、諦めたくなくなる……。間違いって、わかってても……っ」
 過呼吸を起こしかける彼女をレインが宥めるのをサクは見つめていたが、何かに気付いて咄嗟にその場から跳び退く。魔神の殲光が彼の腹部を掠めたのだ。狙ったのは、トキとの会話中に一瞬でサクの視界から移動したイズマだった。
「チッ」
「安心しろよ。今狙ったのはサクさんじゃない」
 イズマの言葉通り、殲光はその勢いに反してサクの肉体をほとんど傷つけていない。代わりに、懐に仕舞われていた小箱が落ちて砕けた。
「念話で懐だとは伝えていたが、よく狙えたな」
 ウェールからの感嘆にイズマが応えると、間もなく海辺に集まっていた子供達の表情が変化し始めた。
「あ、れ……なんで、海……」
「声が聞こえた気がするんだけど……」
 子供達は、自分達が海辺にいることを不思議に思っていた。続いて、未だ残っている影の天使達や陸に近付きつつ或るワールドイーターを見て恐怖する。
「大丈夫よ、あの怪物はもうすぐ倒れるわ。レインさん、トキさんをお願い」
 怯える子供の一人に言い聞かせると、ヴァイスは故宮が落ち着き始めたトキをレインに任せワールドイーターの元へ向かった。イズマも最後に一度だけサクの様子を見ると、海辺から退避させるべく恐怖する子供達の元へ向かった。
 そんな彼の背を忌々しげに眺めた後、ワールドイーターへ向けて何か話そうとするサクへ向けてウェールが再び『標的改竄』の言葉を掛ける。
「お前の相手は俺だ」
「……邪魔、すんなよ……」
 その拳に静かに光を宿らせながら、サクは再びウェールを襲った。


 攻め手が増えたことにより、ワールドイーターの戦いは更にイレギュラーズの優勢となっていく。
 主の支援を受けられなかった影響は特に大きく、海竜のワールドイーターはあらゆる不調から回復できないままついにその姿を海に沈めることとなったのである。

 ワールドイーターが沈むと、荒れていた波は見る間に凪いでいく。海が静まるのを見て残っていた影の天使達も討伐されると、ウェールに留められていた遂行者は彼と距離を取った。
「…………」
「サク、前の返事を聞けてなかったな。お前にとって、本当に一番大切なものがなんなのか、答えは出せそうか」
 子供達を守る務めを果たし終えたマッダラーが、静かに問う。
「お前がそれに気付くまで、俺はお前に付き合ってやる」
「そんなに付き合いたいなら、アンタが『こっち』に来ればいいだろ。……冗談だ。遂行はオレの役目だ」
 一度首筋の聖痕へ伸びかけた手は、マッダラーを拒むように払われる。
「……『苦しみが生まれない世界にする』。他の奴らにはさせられねえからオレがやる。それ以外の何がある」
「誰に、苦しんで欲しくないんだ」
 再び静かに、ゆっくりと問う。計画の失敗に苛立っているであろう彼を刺激しないよう答えを待てば、やがて「皆だ」と短く返る。
「間違ったまま生きて、幸せになる前に。苦しくなる前に」
「ひとつ、言わせてほしい」
 度々繰り返される『間違い』という言葉に、アーマデルが純粋に思ったことを口にした。
 仮に、彼の言う通り今の歴史が誤りであったとして――やり直した結果は、果たして望むものなのか。
「結局、ごく一部の者にとって『都合が良い』だけの結果になるのだろうと俺は思う。
 特異運命座標としてでなく、『俺』として。《死神》に仕える神官として。千の死を万の死で塗り替えるようなやり方はやはり『無し』ではないだろうか」
「苦しみを一人で背負うな。そのために人には誰かを思う心がある。『遂行』などという手段に頼らずとも、お前の苦しみを明かせば応えてくれる人間はいる。
 苦しいときは、泣け。サク」
 変えたいことが、苦しみがあるのなら。遂行者としてでなく人間として頼って欲しい――期待と希望を込めて、マッダラーは「戻ってこい」と呼びかける。
 サクの黒い目に、涙は――ない。
「……泣くって何だよ。それはオレの役目じゃない」
 彼の足元から黒い影が現れ、その全身を覆い尽くすと形を崩していく。
 溶けるように撤退する中、遂行者サクは言葉を残していった。
『オレは今の神様を信じてる。オレのしてることが、神様にとって都合が良いだけなんだとしても。何も悔いはねえよ』
「例え、それで新たな苦しみが生まれてもか」
『…………』
 マッダラーの最後の問いに、答える声は無く。
 遂行者の消えた海辺に残ったのは、静かに打ち寄せるアドラステイアの波音だった。

成否

成功

MVP

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼

状態異常

なし

あとがき

大変長らくお待たせしてしまい申し訳御座いません。
第三の預言成就は無事阻止されました。
ワールドイーター対策があまりにも入念で噛みつきすらできないとは。
あれで相当悔しかったのではないでしょうか。
称号は、希望を抱いてくださっている貴方へ。
ご参加有難うございました。

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