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シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>百折不撓を成すは

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

『ツロの福音書』第一節――
 われわれは、主が御座す世界を正しさで溢れさせなくてはならない。
 ひとは産まれながらに罪を犯すが、主はわれらを許して下さる。故に、われらはその御心に応えるべく献身するのだ。

●第二の預言
 ――死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう。

 天義の巨大都市テセラ・ニバスを侵食した『リンバス・シティ』の顕現。
 そこから遂行者たちの暗躍が見られるようになり、今では世界各地に帳が出現した。ことは既に天義だけの問題に非ず。各国家も遂行者たちを警戒するようになった。
 そんな折、シェアキム六世の元に新たな神託が降った。
 神託はみっつ。どれもが遂行者の『行動』を予見するものであった。
 遂行者の行動を予見するものであっても、正しくどう動くかは解らない。
 ――のだが、最近、聖都内で見知らぬ白装束の者たちの姿を見たとの報告が上がっている。とはいえ、白装束であれば遂行者、とも一概には言えない。シェアキム六世を始めとした多くの聖職者は白装束であり、此処は聖都である。白装束は溢れているようなものだ。
 イレギュラーズたち自身が直接見て判断するのが良いだろうとのことで、一部のイレギュラーズたちは聖都内を巡邏していた。
 そんな折だった。

「チック殿、怪しい者を見たという報告が民から」
「……ん。わかった」
 チック・シュテル(p3p000932)に伝えると、物部 支佐手(p3p009422)は他の仲間たちに知らせるためにファミリアーを飛ばした。
「チックさん、支佐手さん」
「スティア殿」
 すぐ近くに居たスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が合流した。
「報告があったのはあっち、だよね?」
 家と家とが立ち並ぶ住宅街。三人で並んで走れるくらいには道幅があるそこを、三人は駆けていく。目的地は少しだけ距離があったため、その道中で他のイレギュラーズたちとも合流を果たした。
「……居た」
 チックが小さく呟き、イレギュラーズたちは距離を保って足を止める。
 その前方に、白装束たちが居た。皆フードを目深に被り、騎士風の男と何やら会話をしているようだった。
「チック……?」
 白装束の中のひとりがフードを取った。
 その姿にチックは息を飲み込んだ。
「ちと、せ? どうして、そこに……」
 先日、久方ぶりに会った友人――珠海・千歳。チックの声に、千歳は彼に瞳を向けること無く穏やかに微笑むのみだった。
 そして彼の隣に居た男も「おや」と声を上げてフードを降ろした。
「チック……? 君はあの子の……クルーク君の、『兄さん』?」
 クルークがいつもそう話しているからだろう。彼の呼び方で口にした男――氷聖が緩く首を傾げ、花が綻ぶように穏やかに微笑った。
「初めまして、君の弟を保護している者です」
「クルーク、の……!」
 クルークがいつも帰って行っている場所は『先生』の下。親しげな笑みに、兄としてクルークがいつもお世話になっていますと挨拶すべきなのか、チックは少し悩んでしまう。
「おんし、一度お会いしましたの」
「はて、そうでしたでしょうか」
 幻想の神の国で氷聖に遭遇したことがある支佐手が声を掛けたが、氷聖は笑みを崩さぬまま少し考えるような素振りを見せる。
「先生はお忙しい方です。日々沢山の信者に会われます」
 一度だけ。しかもほんの少し会った程度で顔見知りになったように思われては困る、と熱心な信者のひとりが口開くと、幾人かが同調する。
 氷聖がすっと信者たちの前に腕を差し出すと、その声は消えた。
「申し訳ありません、異端の方。――お会いしたことがあるのなら互いの紹介は必要ありませんね?」
「遂行者だね? 此処では一体何を? その人は?」
 スティアが他を省略し、聞いておかねばならないことを手短に尋ねた。
「知らない方々に詮索されるのは好みませんが……、そうですね。我々に非はありませんのでお答えしましょうか」
 勧誘をしていました。
 微笑みながら口を開いた氷聖に対し「勧誘ですと?」と支佐手が一歩前へと出た。
「ああ、いけません。君たちは何でも暴力で解決しますから……それ以上は近寄らないでくれませんか?」
 遂行者とイレギュラーズたちの間に子供くらいの大きさの影の天使たちが大量に現れ、道を塞いだ。
「俺はリシャール様と話がしたいだけです。どうぞ君たちはそのままお帰りください」
 リシャールと呼ばれた男は、ただ静かにイレギュラーズたちと遂行者たちを見ていた。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 遂行者たちが何やら動き出したようですね。
 OPに出ていること以外はPL情報となります。

●成功条件
 リシャールを敵の手に落とさせないこと

●シナリオについて
 遂行者たちは第二の預言が遂行される前に、陣営に欲しい人のスカウトを行い始めました。
 剣の腕があるリシャールは既に聖騎士をやめた身で、天義の信ずる神を見限っています。ならば真なる神に仕え、また自陣の戦力増強にちょうどいいと氷聖に目をつけられました。
 聖都内で遂行者たちが怪しい動きをしていないか巡邏していたあなたたちは、とある路地で白い集団を発見しました。遂行者たちと――見知らぬ騎士風の男性です。
 影の天使たちが召喚され、あなたたちを阻みます。
 20m以上は離れていますが、叫べば影の天使越しでも声は届きます。

●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●フィールド:聖都フォン・ルーベルグ
 ご存じ、天義の首都。白き都。清廉なる美しい場所です。
 街中での遭遇となります。家と家が両脇にある路地で、あまり多くの人が並んで武器を振るうのには適していません。

●『不屈邁進』リシャール・ベルトラン・カステル
 天義に仕えていた元聖騎士で、現在は『鬼閃党』に身を置いている男。
 正義に剣を捧げ、神の代行者たらんと清廉に生きてきたリシャールであったが、彼は彼の信じてきた神に見放されました。神を信じることをやめ、己の力のみを信じようと剣の腕を磨いています。
 女性や子供が斬られることに抵抗を覚えます。
 イレギュラーズという存在を知っていはいます、が――。

 ※彼の過去について現状知っているひとはイレギュラーズ側にはいません。
  (スティアさんは「こういう噂を聞いたことがある……」を知っていても大丈夫です。)

●エネミー
 遂行者(千歳・氷聖)を相手とする場合はHard相等の判定となります。
 氷聖は彼を動かしうる何かが無ければ動きませんが、千歳は信者も含めて何かあれば行動します。特に何もなければ(氷聖からの指示もなければ)静かに控えていることでしょう。

◯影の天使 20体
 祈る形に手を組んだ子供の姿の天使たち。
 イレギュラーズに対処すべく召喚されました。1:1ならイレギュラーズに分がある程度の強さです。BSが得意で攻撃力は低め、作りは堅めの盾役です。
 リシャール側とイレギュラーズ側では見え方が違うことでしょう。リシャール側からすれば遂行者たちを護ろうとしている天使で、イレギュラーズたちにとっては阻もうとしている天使です。

◯信者たち 数名
 氷聖へ何かしようとした場合、彼等が庇いに動きます。
 多くの場合は1:1では同等もしくはそれ以上の相手ですが、イレギュラーズの一撃で死んでしまうようなただ信心深いだけの一般人も居ます。そうした力無き信者にとっては、彼の刃になれぬのならば盾に……という気持ちがあるため、氷聖を護れて死ねるのならば本望です。

◯『蠱惑の聲』珠海・千歳
 先日ペルラ島でイレギュラーズたちと遭遇した、チックさんの友人。
 何らかの理由により魔種となり、遂行者にもなったようです。氷聖に刻まれた聖痕がどこかにあります。
 優先順位は、先生(氷聖)>チックさん、です。氷聖と出会ってまだ短い期間なはずですが既に彼に心酔しており、彼の言葉に素直に従います。氷聖へ何かしようとした場合、彼を守る刃となることでしょう。例えそれが友であろうとも。
 関連シナリオ:人魚と泡と

◯『救い手』氷聖
 いつもたくさんの信者たちに囲まれている遂行者。常に穏やかに微笑み、イレギュラーズに対しても柔らかな声で友好的に接します。
 しっかりと全国ツアーも行い、「俺はルル君と違って清廉潔白で真面目ですから」って言ってました。信者たちも「そうだそうだ」と激しく頷いていました。勤勉な努力家なようです。
 積極的に自ら戦闘をしないようです。信者たちに守られています。氷聖がそうしろと言ったわけではなく、彼等が自主的にそうしたいと願っているからそうさせているようです。
 此度『歴史修復への誘い』は、『イレギュラーズに対しては』無理を強いるようなことはしません。勧誘することはあっても、断れば残念そうな顔すらすることなく「そうですか」と引きます。……ですが、彼に会えば会うほど、あなたは彼に惹かれていっているような気が――。

 リシャールへ強制的に聖痕を付与できますが、彼の意思も尊重しています。誘えないと解ると「今日は引きましょう」と帰ります。
 別れ際、チックさんと支佐手さんに対し「雲英家の子を知っていますね」と話しかけます。質問ではなくただの事実確認なので、反応してもいいし無視してもいいです。それによって、何か言葉を残して帰ることでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <アンゲリオンの跫音>百折不撓を成すは完了
  • GM名壱花
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月24日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
観音打 至東(p3p008495)
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 さて、どうすべきか。
 イレギュラーズたちは顔を見合わせた。
 影の天使たちの向こうで氷聖が「いつも彼等には困っていまして」なんてリシャールに声を掛けているが、その声は普通の話し声のボリュームなためイレギュラーズたちには届いていない。
「遂行者が仲間を増やそうとしてるって話は最近聞いたけど、真っ当な勧誘をする遂行者もいるんだね」
「我らが天義の聖都内で、そんなことをしていたんですか」
 正直な気持ちを吐露した『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の声に、『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)が眉を寄せた。しかも相手は信者らしき者たちを引き連れているし、ネメシス正教会のシスターとして振る舞ってはいるがその実天義を愛のためにぶっ潰したい『羽衣教会の会長』という肩書きを持った宗教家でもある茄子子にとって、心の底から面白くない話である。羽衣教会への引き抜きではなく他所の宗教団体への引き抜きだなんて、不正義以外の何者でも無い。
「歴史修復ねぇ。早々賛同する人がいるとは思えないけど」
 遂行者たちは神が定めた『正しい世界』への修復を行っている……と耳にはしている『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が首を傾げた。
 神の告げる正しい状態――それは世界の消滅である。神託の乙女から告げられた絶対に外れない神託をどうにかするためにイレギュラーズたちは空中庭園に召喚されたはずである。イレギュラーズが動いてしまったせいで正しい状態からずれてしまった世界を何とかしようとしているのが遂行者たちなのだが……滅びに向かうことをハイそうですかなんて受け入れる人は居ないんじゃないかとオデットは思った。
「でも、敵の戦力が増えるかもしれないって状況で帰る訳にはいかないよね」
 リシャールと氷聖に呼ばれた騎士が受け入れる可能性がある以上、見過ごすことは出来ないと『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が眉を上げた。
「あのリシャールさんって人、私少し知っているかも」
 噂程度だけれどねとスティアは月光人形事件の時に辞めた騎士の話をした。
(もしも歴史が変えられるなら、俺と彼女の人生はもっと幸せな物になっていたのかもしれない)
 スティアの話を聞き、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)はそんなことを思った。彼女を聖女の務めから逃してやれて、ベルナルドも断罪されず宮廷画家の道を目指せる未来があったのなら……。だがそんな都合のいいことはある筈がないとベルナルドはかぶりを振った。……『それは正史なので変えられません』。そう言われてしまう可能性だってある。それでもこの僅かな希望は、とびきりに甘い毒だ。
「氷聖め……。此方も騎士殿――リシャール殿の説得をするしかないかと」
「そうですの。まずは話せるようにすべきでしょう」
 チラと『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)と『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の視線が子ども程の大きさの影の天使へと向かう。大声で声を掛けるのは可能だが、それは相手にも大声で返事をしてもらうという労を掛ける事となる。それに説得である以上、出来るだけ相手の顔見て話したいものだ。となると、やはり影の天使が邪魔なのだ。
「ふーむむ……。あれなる『敵』を斬って始末と思いきや、そう快刀乱麻には行かぬ雲行きと見ます」
「そうでござるなぁ」
「ですのぅ」
 斬ってしまうだけで終えられるのなら楽だったのに。相手が易易と斬れるものかどうかは別として、『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)が唸る。
 黒い影が如き見目ではあるが、あれは子どもの姿を取っている。必要とあれば斬ってきた至東だが、一応は斬るのに抵抗を覚える。至東でさえそうなのだ。嘗ては天義の聖騎士であったとスティアが言っていたリシャールが、これを良しとするとは到底思えない。
 だから困る。
「ひとまず、近寄ってみましょう」
 まずは出方を見るしかないだろうと、支佐手は影の天使たちとの距離を詰めた。

 イレギュラーズたちが近寄ろうとすると、明らかに影の天使たちは警戒の色を見せた。けれど近寄るだけならば通さないようにするだけで、攻撃はしてこない。攻撃スキルを使用しようとしたりと攻撃の意志を見せれば、また別だろう。
「私が怒りを付与して道を開けさせようか?」
「いや、それはしないほうがいいのではないか?」
 スティアの提案にベルナルドが首を振る。相手の攻撃を誘う【怒り】を付与するということは、攻撃を仕掛けるのと何ら変わらない。……自身がそれをされた際に攻撃行為を受けていないと言い張れるのであれば試してみても良いかもしれないが。
 例え其れが攻撃と見なされなくとも、影の天使たちを退けることは物理的に不可能だ。道幅は3名が並んで走れる程度。そして影の天使たちは20体。すり抜けられないほどにぎっしりと路地に詰まっている。
「一応、何が起きても大丈夫なように保護結界を張っておくわね」
「では私はオデットさんの結界の強化を」
 ここは家と家とが立ち並ぶ住宅街だ。もし戦闘が発生した場合には家々や無辜の民が犠牲となるためオデットが保護結界を展開し、茄子子がオルド・クロニクルで補強した。
 そんな中で、おず……と控えめに『ゆらぐこころ』チック・シュテル(p3p000932)が手を挙げた。
「おれ、ハイテレパス使える……から、説得する、してみたい」
 チックの提案は、翼のあるチックが影の天使たちよりも高く飛行し、ハイテレパスでリシャールへと声をかける、というものだった。
「それなら私も飛ぶわ」
「俺もチックの阻害となるものを退けよう」
 何かあった時に庇えるようにとオデットとベルナルドが。
「それでは私は、周囲の警戒に当たりましょうか」
 敵のファミリアーや式神対策をと、至東が広範囲の《妖精殺し込みのゼロ・ストリーム》を展開して奇襲や強引な誘拐の軽快に当たり、その他の皆――弁が立つ者は、チックがハイテレパスで話しかける間の氷聖の注意を引くことにした。

「――精霊たち、私の友人たち、側にいない?」
 精霊たちにはあの遂行者がどう見えているのか知りたくて、オデットはそっと精霊へと呼びかけてみた。
 だが、自然的な物が周囲にないせいか、時折頭上を風の精霊がキャラキャラ笑いながら吹き抜けていくだけのようだった。
(私にはなんだか怖く見えるのだけれど)
 優しげに見えるからこそ、そう思うのだ。奥が知れない、という言葉が一番合っているのかも知れない。
「ねえ、氷聖……さん、だっけ?」
 よく通る声を意識して、サクラがリシャールと話しているであろう氷聖へと声を掛けた。
「そっちが攻撃を仕掛けて来ないならこっちも手を出さない。自分達は話をするけど、貴方達は話をせず帰れ……は一方的過ぎるよね?」
 氷聖が動いたのだろう。影の天使たちの向こうで衣擦れの音がした。
 リシャールに断りを入れているのだろう。やや間を空けてから耳馴染みの良いよく通る声が返ってきた。
「いえ、そうは言っておりませんよね? 君たちの目的は俺、でしたでしょう? 俺が居るから来ましたね?」
 そうでしょう? と問う氷聖の言葉は正しい。イレギュラーズたちは遂行者が入り込んでいないか探し、目撃情報を得たから駆けつけたのだから。
 それに、イレギュラーズたちはいつも即座に殴り込んでくるからと『近寄らないで』と言い置いて影の天使を召喚しているし、目的も勧誘だと既に話している。
「ですので俺は『会話をするために来ただけで、今この地に何かをするつもりはない。だから俺の邪魔をしないのであれば、そのまま帰ってください』そうお伝えしました。それを勝手に捻じ曲げ、悪しざまに言われるのは酷く不快です」
「本当に異端者たちは都合の良いように解釈する」
「一方的なのはどちらだ」
 氷聖が傷ついた胸を抑えて溜め息を吐いたから信者たちが熱り立ってしまい、氷聖の声が少し困ったようなトーンに変化する。
「君たちの気持ちは嬉しいのですが、俺は争いたくはありません。ここは抑えてはくれませんか?」
「先生……何とお優しい……」
(うっわー、茶番)
 茄子子は心の中で悪態をついた。信者と教祖の正しい姿かもしれないし、羽衣教会の会長としてなら茄子子も信者たちにはそう接するだろう。……あそこまでは接するかな、どうかな。たぶん?
(言ってること、全部嘘くさい)
 宗教家らしい、とも言える。
 けれどももっと、同類を見つけたような気持ちとなった。
「そういう訳なので、君たちが何もしないのであればそこに居てくださっても構いませんよ?」
 ならばとすかさず茄子子が『よく通る声』で切り込んでいく。
「奇遇ですね。私達もリシャールさんに話があったんですよ。お先に失礼してもよろしいですか?」
 遂行者を探していたのであって騎士を探していた訳では無いし、騎士の名前を知ったのも今しがた。その上勧誘活動をしていると知ったのだってついさっき。それなのに茄子子はぺろりと悪びれもなく嘘を吐く。
「ふふ、君は嘘を吐きなれていますね。順番も守って頂けないのですか?」
 答えはノーである。しかし、駄目と言われてもイレギュラーズたちは先に話す気満々だ。
「そちらの騎士さんとお話をしたいから影の天使に道を開けて貰えないかな?」
「氷聖、そも拙者達が今まで帳に対して実力行使にでたのは完全に定着しては犠牲になった者達を助けられぬから。少なくとも帳を降ろしておらぬならば今回無理に戦う気はござらぬよ」
「何でも暴力で……何て、酷い言い草ね。私達にしてみれば降りかかる火の粉を払っているだけの事よ」
 サクラと咲耶、『未来を背負う者』朱華(p3p010458)が声を掛けながら一歩前へと出た。
 影の天使は動かない。
 だが、その向こうで動く気配は信者たちのものだろう。
「そこを退いて頂けますかの? おんしらの先生に手を出すつもりはありません。わしらは、リシャール殿と話がしたいのです」
 支佐手も声を届ける。その後にもスティアが続いた。
「話をさせてくれるのなら氷聖さんが帰る時に追撃しないって約束するよ。どう?」
「話をされるのは大丈夫ですよ。順番を守ってくだされば」
 リシャールを待たせているから、静かに待っていてくれれば氷聖は良いと伝える。
 だが。
「これは親切からの忠告ですが……俺に近付くのはあまりおすすめできません」
 ――チャラ。
 氷聖が手にしているクロスの鎖が鳴ると影の天使たちは二手に別れた。家々の壁に背を向ける形で立ち、路地にひとり――ないしはふたりが通れるだけのスペースを空けた。

 茄子子が話しかけた辺り――タイミングを見計らったチックはばさりと翼を羽撃かせ浮かび上がり、オデットとベルナルドもすぐに続いた。今から『会話』をする彼に害が向かないか、目を光らせる。
 チックは影の天使たちの向こうに居るリシャールへと視線を向け、言葉を送った。
『突然の事で、きっと凄く……吃驚させてしまってると、思う。おれは、チック。ローレットで依頼……『お手伝い』してる、特異運命座標の……一人。彼らの話を聞く前にどうか、おれの話……聞いてほしい』
 見上げてくる氷聖と視線が合った。彼は微笑むだけで、阻止しようともしない。天使たちの頭上を飛び越えないように阻止することも、天使たちを飛ばして視線を遮ることだって可能なのに、だ。だからこそチックは違和感を覚えた。
 くすっと小さく笑った氷聖は、傍らに控えている千歳に顔を寄せる。
 ――君の友人が今、狡い事をしましたよ。
 小さなその声は、チックにもイレギュラーズたちにも届かない。千歳は案じるように小さく唇を動かした。友の名の形に。
『今、天義を中心に……混乱を招いてる、『帳』の現象。リシャールは知ってる?』
 チックがハイテレパスでリシャールへ話しかける。
 氷聖はまるでその会話が聞こえているかのようにチックを見上げながら影の天使の向こうのイレギュラーズたちへと言葉を返し、クロスを指先でいじっていた。
 ――チャラ。
 クロスの鎖が鳴って、影の天使たちが動いた。
『君の目の前にいる、彼は。その『帳』を降ろせる……『遂行者』と呼ばれる存在。そして、『帳』が原因で……』
「チック、と言ったか」
 リシャールが口を開いた。ハイテレパスに応じて返さず、肉声だ。
「そこなる御仁が」
「氷聖です」
「……氷聖殿が、イレギュラーズが礼節をわきまえぬ、と言っていたことがよく解った」
 チックが息を呑んだ。氷聖は変わらず穏やかな笑みを湛えている。
 此度、リシャールからのイレギュラーズたちへの心象はマイナスから始まっている。それもそうだろう。対話をしようとしていたところに唐突に現れ、割り込んできているのだから。その状態から始まって――。
 氷聖が自衛のために出した影の天使を攻撃すればイレギュラーズたちへの心象が下がる。
 大声を出したりして会話の邪魔をすればイレギュラーズたちへの心象が下がる。
 先に話しかけている氷聖を蔑ろにして順番を待たずに話を進めればイレギュラーズたちへの心象が下がる。
 そして氷聖側が攻撃をする際はイレギュラーズたちが先に手を出している状態となるため、正当防衛となる。
「アンタがリシャール……だっけ? そいつとアンタが話をしたい様に私達もリシャールと話がしたいだけよ」
「なればこそ、後から来た貴殿等が順を守れば良いだけであろう」
 リシャールはピシャリと言い放つ。彼は誰の味方をするでもなく、ただ事実を見るために今まで静観していたのだ。朱華はその邪魔をしようと氷聖がしたと主張しようとしたが、それは筋が通らない。最初に来ているのは氷聖で、氷聖の邪魔をしようとしているのがイレギュラーズなのだから無理がある。
「氷聖殿は理由を先に述べている。だが、貴殿等はその言葉を捻じ曲げて告げている。今この場でどちらの味方をするか選べと言われれば……選ぶまでもないことだろう」
「待って、リシャール。おれはっ……」
「貴殿等の事情なぞ、私は知らない。――知りたいとも思わない」
 話しかけられる側としては、まず話しかけられること自体が時間も思考も奪われ迷惑なのだ。それを考慮するからこそ礼節は大切なのである。
「無礼をお詫びします」
「それを告げる相手は私ではないだろう」
 リシャールの視線が氷聖へと向けられる。イレギュラーズたちの視線もそちらへと向かった。
「ああ、俺へは結構ですよ。良かったですね、人には幾つになろうとも成長の機会が訪れます。学びとしていただければ、俺も悪し様に言われた甲斐があるというものです」
 意訳をするならば『イレギュラーズから謝られるなんて気持ち悪いのでいりません』と言ったところです。何名かは正しく彼の言葉を読み取って、殴りたくなるような気持ちを覚えたかもしれない。
「先にも言いましたが、リシャール殿への用があるならば話して頂いて俺は構いません。最低限の礼節を守って貰いたかっただけですが……まあそれも過ぎたことですしね。中座どころの話ではありませんし、もう先に話して頂いて構いません」
 リシャール殿が良ければの話ですが。
 氷聖が柔らかな表情を氷聖へと向ければ、この板挟みの面倒事を早く片付けてしまいたいと思っているのであろうリシャールが「氷聖殿がそれで良いのなら」と顎を引いた。
 全て氷聖の思惑通りに進み、そして器の大きさもリシャールに示すことも叶った氷聖は「彼と話さない方は暇でしょう? 俺とおしゃべりしてくれてもいいですよ」と気安く接してきた。

「まずはお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? 私はサクラ・ロウライトと申します」
 他の者たちが彼の名は呼んではいるが、礼を守ってサクラはそう尋ねた。騎士は礼節を重んじるものであることを、騎士たるサクラはよく知っていた。
「私が騎士になったのは善き人でありたかった、そして理不尽から人々を守りたかったからです」
 サクラの瞳は真っ直ぐで、リシャールには眩しかった。リシャールは眩しげに瞳を細めると「……俺はどうだったかな」と小さく零した。その実直な煌めきは、もう遠いところへ置いてきてしまった。
「――初めましてね。それと、騒がしくしちゃって御免なさい。貴方には私達の言葉も聞いてほしかったから。その上で貴方が彼等を選ぶっていうのなら止めたりはしないわ」
 朱華も改めて挨拶をし、その上で言葉を紡ぐ。遂行者のことに詳しくないことも、全て、素直に。
 けれどひとつだけ知っていることが在る。
「彼らは人を傷つける。どんなに綺麗事を並べても私にとっては彼らのやっていることが全てよ」
 それが嫌だから朱華は剣を取っている。皆の話を聞いてから決めて頂戴と朱華は下がった。
「もし遂行者の勧誘を受ければ、亡くした人ともう一度会えるかもしれない。でもそれはリシャールさんが知ってる人とは別の人だよ」
 あなたが月光人形事件の時に辞めたという噂を聞いたことがあるよと告げたスティアがそう言った。スティアへの反応は乏しい。それは別段彼は望んでいないことだからだ。
「そん男の誘いに耳を傾けてはなりません。そん男は救い手を名乗っとりますが、実際にはあちらこちらで騒乱を引き起こしとる厄介者の元締めです。わしの故郷では、そいつらの仲間が魔物を呼び出して暴れ回らせたために、危うく大勢が死ぬところでした」
 支佐手の言葉には、そうだったろうか? と氷聖が首を傾げた。だがそれだけで言葉は挟まない。お先にどうぞと許した以上、イレギュラーズたちとは違って順番を違えはしない。
「そのような連中の元へ降ったとして、おんしとの約束を守るとは到底思えません
少なくとも、結末は禄なものにならんでしょう」
「誘いにのるつもりか? その『歴史修復』と引き換えに、この世界の人々が犠牲になるとしても?」
 支佐手が言葉を紡ぎ、ベルナルドも続く。茄子子は――言わないほうが良さそうなことは言わない。
「俺は冤罪を着せられて、不正義と断罪された身だ。もう天義の神様を妄信的に信じちゃいない。だからこう考えてる。神様ってのは人間の都合のいいように出来てる物なんだって!」
「でもだからこそこの国をより良くしていなきゃって思ってるんだ。私と同じような想いをする子を少しでも減らす為に、皆が笑顔で過ごせるようにって」
 悲しみは人それぞれで、神様も優しくはない。
 けれど人の力でよくしたいし、困った人々に力を貸したいとスティアは思っている。
「確かに神は万能ではありません。世界は理不尽が溢れていて、いくら努力しても全てを拭い去る事は出来ない」
 けれど、それでも。
 拳を握って、リシャールの目を見て、サクラは真っ直ぐに自分の思いを伝える。
「それでも! 善き人であろうとする事、たったの一人でも理不尽から守れる事は、無意味ではありません!」

 結局イレギュラーズたちは氷聖とは距離を保って話している。中でも抵抗値が低い咲耶がほんの少し境界を越えただけで異変が生じたため、イレギュラーズ側が何もしないことを約束して彼に移動してもらったのだ。
「今までの強引な手法や信者の行いを放置し拙者等には実力行使をするな、というのは些か虫が良すぎる話でござろうな?」
「強引な手法……それは触媒の隠し場所についての話でしょうか? あれは毎回考えるのが大変なんですよ。君たちはハイエナのようにやってくるから」
 大いに危うさを感じた咲耶は、かなりの距離を保って言葉を吐いた。
 だが双方の正義は別のところにあるため、話は平行線にしかならない。
「さて話し終えたようなので、俺がリシャール様と話す番ですね」
 人の話はちゃんと最後まで聞いたほうがいいですよ、と氷聖が小さく笑った。
「俺は剣の腕のたつリシャール様に護衛をして頂ければ、と声を掛けさせて頂いています」
 イレギュラーズのアプローチでは彼の心が揺れないと解っていたから、先を譲ったにすぎない。
「異端者の方に誤解のないようにひとつ訂正をしておきましょう。リシャール様には先に告げてありますが、俺はリシャール様に『大切な人を生き返らせられる』等とは言いません。リシャール様の奥方が身罷られたのは流行り病。月光人形の事件よりももっと前ですので、正史です」
「ああ」
 リシャールもそれは心得ているし、再びともに暮らしたいという願いはない。彼等の別れはずっと前に済んでおり――けれども人形が現れたために彼は己の弱さと対面した。
 故にリシャールは己の心と腕を磨くために『鬼閃党』へと入った。正義か悪だなんてものは関係ない。『強きを良し』とする、それだけの集団だ。己が求道こそが全てで、気に入らなければ依頼主であろうと斬ることもある。そんな集団に属している男だ。その集団の中ではリシャールは比較的善なる者と言えよう。
 しかし彼にも求めるものがある。
 ゆえに氷聖が提示したのは――。
「俺のところにいれば、異端者たちと存分に死合えます」
 己が強さを求めるゆえに、強き相手を求める男への一番の餌だ。
 どうしますかと問う氷聖を、リシャールは真っ直ぐに見た。


 ――私はどちらにも着くことはないだろう。
 それがリシャールの答えであった。この先どう勧誘されようとリシャールは遂行者側にもイレギュラーズ側にも力を貸すことはない。――けれど要請に応じはしないが、その時の状況によっては一時轡を並べることもあるかもしれない。
 そう言いおくと、不屈邁進の騎士は己が研鑽を積むためにその場を後にした。
『貴方に助けられた人は、貴方に助けられたから今を生きていられるのです!』
 既に聖騎士ではないリシャールは剣の道のみに今は生きている。氷聖の手をつもりでいた。だが、年若い娘のその言葉に少しだけ思うところがあったのだ
「残念でしたね」
 皮肉を告げた茄子子に、氷聖は今日一番の『意外そうな』顔をした。
「……何か」
「いえ。ふふ、今日は数々の言葉を頂戴しましたが、一等面白い事を仰られたので」
 今日居るイレギュラーズたちの中では、君が一等俺のことを理解できると思っていたのに。
 買いかぶりすぎましたね、と微笑ましげに笑う顔が、茄子子を苛立たせる。わざとそうさせているのだと解るから、茄子子は其れ以上の反応をしてやらない。
(いつか討ち果たしますよ)
「――全て、予定通りです」
「氷聖……」
 咲耶が睨めつける。此度、この男には幾つかの目的があってきたのだろう。
「俺はか弱いので、確かに彼は護衛に欲しい腕でではありましたが……是が非でも欲しければ強制的に支配下におけますし、俺がそうしなかったということは優先順位が低いということです」
 氷聖の目的は既に達した。俺たちも帰りましょうと彼は信者へと呼びかける。
「……よもや背を向けた途端に刃を向ける、などと言った蛮行は行いませんよね?」
 スティアは約束を口にしていたが――と、チラと氷聖の視線が至東へと向かう。
 斬りたい気持ちをぐっと我慢していた至東の手は刀の上に掛かっていたため、ざわと信者たちが揺れた。何かあれば庇えるように動こうとする信者たちに、氷聖はまた少し困った顔をして笑った。
「……宥めるのは結構大変なので、あまりこの子たちを刺激しないで頂けると助かります」
(あ、これは本当そう)
 氷聖の言葉は気に入らないことが多かった茄子子だが、教祖的な立場の苦労は少しだけ理解できるものがある。

「ああ、そうだ。君たちは雲英家の子を知っていますね」
 外套のフードを被り直しながら、ただの世間話のように氷聖がそう口にした。
「雲英家?」
 知らぬ者にはピンと来ない家名。
「雲英家の? ……どういうことですかの。翠雨殿に何か?」
 だが、心当たりのある者の声の温度を下げるのには充分だ。
 支佐手が剣呑な響きで問うた。もうひと反応した――チックは、息を飲んで瞳を丸くする。胸に『まさか』という気持ちが膨らんで。
「何と言うことはありませんが、或れも在るべき場所は此方側です。今日は来てくれると思ったのに来なかったので、伝えておいてください」
 ――『ウルワシ』が呼んでいた、と。
 伝えるか否かも好きにして良いと瞳を細めて。
(なるほど、だから特定暴力集団である我々が来るとわかっていて、目立つようにぞろぞろと)
 会いたい者がいるから、わざと目立つ行動をしていたのだ。今日の何処までが彼の手のひらの上なのかと至東は考えて、きっと全ての行動に意味があったのだろうと思い至った。
「此方側、とは」
「あの子は俺のものなので、俺の元が『正しい』のですよ」
 支佐手と氷聖のやり取りに、チックは胸の前で手をぎゅうと握った。不安が膨れ上がるのに、上手く言葉にできない。
「そういったことでしたら、伝言は預かれませんの」
「伝えて頂けなくても構いませんよ。迎えに行くだけですので」
「……おんし、ええ性格をしとるとよう言われとらんですか」
「ええ、よく言われます。人徳でしょうね」
 ハハ。ふふ。
 空々しい笑みが重なった。
「まあ自由にしてください。俺も自由にしますので」
 伝言も頼んだし用事は全て終えた。では、と氷聖が帰還するべく動く。
「――――待って!」
 身を翻した氷聖へ、チックが奔った。
 すかさず彼の周囲の信者たちが動き、大人しくしていた彼が突然行動したため驚きながらもイレギュラーズたちも動く。
 チックは無意識に、氷聖へと手を伸ばした。危害を与える気も、服の裾を掴む気も、ない。ただ聞きたいことが沢山あった。道を塞ぐように前へと出た千歳のこと、それから弟のこと。でもそれだけではなくて――。
「――君も来ますか?」
 そうすれば、知りたいことは何でもこたえてあげる。
 クルークからの誘いを断っているチックはすぐに首を振った。
「君が来てくれるとクルーク君も千歳君も喜ぶのですが……残念です」
 チックの肩には反応が一番早かったサクラの制止の手が掛かっており、氷聖も信者たちがチックに危害を加えないようにと手で制して下がらせた。
 いつもならごめんねの言葉を仲間たちへと紡ぐのに、チックの気持ちは逸って己の言葉を優先させた。
 どうか違って欲しいと心が逸って、祈るように心が叫んだ。
「その、角……君は――あなたは……!」
 その声に氷聖は楽しげに瞳を細めて。
「これですか?」
 再度フードを外し、黒髪を飾るサークレットへと指をかけ、取り外す。嵌っている紫水晶めいた石が角のような、サークレットだ。指にかけて回し、角ではありませんよと告げてから装着しなおした。
「それでは」
 氷聖は水色の瞳を柔和に和らげて微笑み、背を向ける。不可視のゲートのようなものを出現させてあるのだろう。信者たちとそこへ入り込み消える――その瞬間に、一言だけ言葉を残した。
「死に損なうのって、とても苦しいって知っていました?」
 待ってと伸ばした手の先で、遂行者たちは姿を消したのだった。

 この無辜なる混沌における死は、絶対だ。
 それは冠位魔種でさえ覆せない。
 死は誰の元にも平等に訪れる。
 死んだと思っている者が魔種になっていようと生きていたのなら、それこそが生の証左である。死に損なったか、死を観測した者が何らかの理由で記憶を違えているのだろう。
 チックが考えた『紫水晶の角』の持ち主。白髪灰目に宝石めいた角を持つ『雲の一族』の青年。彼は刑部に残っている記録には『帰らなかった』とのみ記されており、その後何年も経過した昨年、角のみが遺族の元へと戻った。
 その死を観測した者は――いない。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

なし

あとがき

お話しのみとなったため、ヘイトアゲアゲ回でした。
ノーマルなので……という感じです。

MVPは彼に何かを思わせてくれたあなたへ。
文字数の関係で全てを描写することは難しいのですが、どの言葉もとても素敵でした。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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