PandoraPartyProject
夢の回廊
――やあ、久しぶりじゃないか。
――やあ、久しぶりだね。
白と黒。夢の狭間で同じ顔をした二人が背を合わせている。
この場所に上下左右というものはなく、ただ歪んだ空間の中に星の輝きが無数に散らばっているだけ。
「お前とこうして話せるということは、僕達は相当に近づきつつあるのだろうね」
灰の瞳を僅かに伏せて白い髪の少年が呟いた。
「そうなのかもしれない。そうじゃないのかもしれない」
曖昧な答えを返す黒髪の少年。
「何だい? 不満なのかい?」
「そういう訳じゃ無いけれど……」
「歯切れが悪いな。未練があるみたいだ。お前の事なら何でも分かるんだから隠しても無駄だぞ」
「そうだね。君に隠し事なんて出来ないか。僕達は――『獏馬』だから」
「ああ、人間が彼等の物差しで測った善と悪に区別されようとも、僕達は『同じ存在』なんだから」
あの夜、燈堂の刃に割かれ、散り散りになってしまったけれど。
彼等は元は同じ夜妖として在った。
「今の居場所が僕は結構気に入ってるんだ」
「へえ。そんなに良いんだ。羨ましいな」
「廻は優しいし、暁月は頼りがいがある、白銀のご飯は美味しいし、黒曜は面白い。それに……」
「それに?」
「愛無もシルキィも廻を想ってて、廻も二人の事が大好きで。愛おしくて。二人だけじゃない。
アーリアだってラクリマだって竜真だって、眞田やアンジェリカ、メイメイだって皆が大切で。
廻と同じように僕もその気持ちを感じるから」
胸に手を当てペリドットの瞳を切なげに揺らす黒髪の少年。
「僕達、『獏馬』にとって感情や想い、記憶は何よりも美味しいからね。食べたくなるのも分かるよ。
食べ飽きるまでは随まで啜りたい。その為に感情移入したり、他の色々を『工夫』するしねえ」
「違うよ。そうじゃない。食べたい訳じゃ無いんだ」
「どうして? 食べたいから傍に居てほしくて。食べたいから近づきたいんじゃないの?」
心底不思議そうに白髪の少年は首を傾げた。
「一緒に居たいただそれだけなんだ。楽しいこと、嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと。全部、全部、大切な気持ちなんだ。それを奪いたいわけじゃないよ」
「でも、味わっていたいんだろう? 傍に居てその感情を想いを食べて居たいんだろう? そこに違いなんてないよ。だって僕達は魂を食べる『獏馬』なんだから」
「……だから、違うんだよ」
「そうか。それは僕には無い感情だ。お前が僕から離れている間に得たものなのだろう。なあ、それはどんな味がするんだい? 芳しく、甘くて、とても美味しいんだろうね。お前がそんなに執着するんだから。
なあ、お前ごと、それを食べてしまえば僕にも味わえるのかな?
――今度、会えるのが楽しみだ。じゃあ『あまね』、またね」
廻が付けてくれた名を呼んで。ふわり消えて行く白髪の少年。
それを追いかけるように伸ばされた指先が虚空を掴む。
「やめて、駄目だよ。だめ……だめ……だよ」
同じ存在だからこそ、思い知らされる。
廻達と過ごす幸せな時間は、きっともうすぐ終わりを向かえるのだと――
※希望ヶ浜に不穏な動きがあるようです。
※『祓い屋』燈堂一門についてはこちら