シナリオ詳細
<美徳の不幸/悪徳の栄え>コールタール・ラヴァーズ
オープニング
●悪辣二人
何事も机上の空論と実戦は異なる事が殆どだ。
どれ程に水も漏らさぬ計画を練った所で、経過の全てがコントロール下に置かれる事は多くない。
現場で予定外の事態に出くわす事は数多く、有難くない想定外は或る意味においては想定内であるとも言える。
「――――」
だが、今日この日。
らしくもなく自らが先陣に立ち、らしくもない乾坤一擲の計画を発動させた冠位色欲ルクレツィアが見た光景は多少の想定外なる事態に非ず、まさに彼女が欠片さえも想像もしていなかったものだったに違いない。
「ようこそ」
落ち着き払ったバリトンは異常過ぎる邂逅に僅かな驚きさえも見せてはいない。
「淑女(レディ)なんだろ? 洒落た挨拶の一つも見せてくれよな」
思わず絶句したままのルクレツィアの視線の先にはまさに今日の彼女が狙いを定めていたターゲットの男が居た。
「お喋りは嫌いかい? 噂もあてにならねぇな」
人の悪い笑みを浮かべた彼――レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)は、謂わずと知れたローレットのギルドマスターにして『蒼剣』の名で知られる世界的冒険者である。十年と少し前、個人での冒険を『引退』した彼がローレットを差配し、混沌に跨る特異運命座標の物語を『サポート』してきたのは間違いのない事実である。『特異にして類稀なる英雄性を有したイレギュラーズが何より重要なのは言うまでも無いのだが』彼が自他共に認める混沌救済のキーマンの一人である事もまた確かな事実と言えるだろう。
「話をしようぜ。どうせ大して長い時間にはならないんだし」
「……っ……」
煽るように言葉を続けたレオンにルクレツィアが舌を打った。
そう。レオン・ドナーツ・バルトロメイはこの物語における重要人物の一人だ。
Bad End 8なる新参にいいように場を荒らされ、討って出るを余儀なくされたルクレツィアが立てたこの計画がメフ・メフィートの完全制圧――イレギュラーズ勢力の機能不全であるならば、このローレット襲撃は当然の話である。『使えない他の誰にも任せず、流儀を曲げてまで自分自身が赴いた』のもこうなれば必然と呼ぶ他は無い事実であった。
「良く回る舌をお持ちですわね?
それに――その割には随分と寂しい風景ではありませんこと?」
『異常なのはやり返したルクレツィアが見たローレットの中がまるでもぬけの殻であった事である』。
「ギルドマスターは前線に立たない、イレギュラーズに守られる存在かと思っておりましたけれど。
随分とお寒い人望なのかしら。それとも日頃の行いが?」
「まぁ、どっちも否定はしねぇけどな。『連中』が居ないのは俺がそうしたからだよ」
「おかしな事を仰いますわね? その口振りではどうしてか――私がどうする心算か分かっていたように見受けられます。
それなのに、こうして空っぽのローレットを作った? いいえ、そこまではいい。
私を空振りさせようというのなら合理的ですらあったでしょう。問題は」
ルクレツィアは形の良い眉を神経質に動かしてレオンを真っ直ぐ見つめている。
「貴方が一人でここに居る事の方ですわ。説明位は頂きたいものですわね、貴方が紳士だと言うのなら」
「生憎とオマエと違って俺は自分が紳士だとは思わないが。
まぁ、リクエストに応えて言うなら――オマエ、俺にちょっと似てるからね。
何となく同類のしでかしそうな事なんて予想がつく、それが一点目。
ここだけじゃないね。メフ・メフィート中でオマエの計画が今まさに苦労してる方の理由。
ローレットには非戦闘員も多いからな。一時的に本拠機能をここから外へ移動した。
まぁ、妥当な話だろう? 事件対応の真っ只中に招かれざる冠位の殴り込みなんてぞっとするから」
「……貴方がここに一人で残った理由は?」
「『報告書』を読んだからな」
「……?」
「オマエとイレギュラーズが遭遇した時の話。
オマエって奴は兎に角慎重で狡猾な女らしい。
冠位なら冠位らしくもっと傲慢に豪快に攻めてくればやりやすいのに。
疑わしい事には手を出さない、危険には敏感と『あるまじき』性質をしてやがる。
……で、まあ。理屈は兎も角、そんなオマエなら俺の場所位にはあたりをつけてるんだろうと思ってね。
俺がここに居なかったら、オマエはここに来なかったんじゃないの?」
「……」
「図星だな。後一つ。そんなオマエはついでに言うなら詰めが甘い。
『俺の所在は確認してもそれ以上をきちんと調べるような女には思えなかった』からな。
危ないのが嫌いなら徹底すりゃあいいのに、それも出来ない。
俺がここに居る理由は実際それで十分なんだが――つくづく中途半端な女だよ、オマエって奴は」
「……危ない、ですって?」
レオンの軽侮にルクレツィアの眉が吊り上がった。
「イレギュラーズ総出ならいざ知らず――いえ、それでも踏み潰してやる心算でしたけど!
言うに事欠いて冠位を相手に唯の一人の人間が危険ですって!?
身の程を知らない。うすら寒いまでの妄言ですわね。そして、当然聞き捨てなりません」
「まあ、そう言うだろうとは思ったが、捨てたもんじゃないよ。今日ばかりは」
激するルクレツィアに対するレオンは相も変わらず温めのままだ。
他者にではなくまず自己に向く冷笑は表に見える彼らしくはなく、そして何時も以上に彼らしかった。
「冷静になれば分かるだろ、ルクレツィア。
こっちはこれか近しい何かを想定して準備万端手ぐすね引いて待ってたんだぜ?
それに――いや、オマエ実際問題『数が多い方』が良かっただろ?」
ルクレツィアはこの問いには答えない。
彼女の権能はより多勢を従え、大勢の敵を相手にした時に致命的な効力を発揮するものである。作戦の都合上、自らが一人で乗り込んできた事と、ローレットがレオン以外空っぽであった事の双方が権能の優位を消している。
「勝てるとお思いなの?」
「さあね」
肩を竦めたレオンはしかし口角を持ち上げる。
「だが、このローレットは蝶を捕まえる蜘蛛の巣だ。
偏屈な神に嫌って程頭を下げて、死ぬ程の仕掛けを用意したオマエの為の檻なんだ。
お得意の転移でバイバイ、なんて無理な相談だぜ?
精々急いで俺を倒しなよ。時間が経って、オマエの仲間が『失敗』したら、他の奴も戻って来るかも知れないからね。
オマエが人間だの俺だのイレギュラーズだの、軽く見るのは好きにしたらいいけどよ。悲観主義に塗れてる『元・世界一』の冒険者は冠位を殺せる心算でここに居るんだ。そこんとこ、くれぐれも間違ってくれんなよ?」
- <美徳の不幸/悪徳の栄え>コールタール・ラヴァーズLv:95以上、名声:幻想100以上完了
- 果たして誰が『悪辣』か――
- GM名YAMIDEITEI
- 種別EX
- 難易度NIGHTMARE
- 冒険終了日時2024年01月27日 00時00分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費250RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●蒼剣vs色欲
「オマエが人間だの俺だのイレギュラーズだの、軽く見るのは好きにしたらいいけどよ。
悲観主義に塗れてる『元・世界一』の冒険者は冠位を殺せる心算でここに居るんだ。
――そこんとこ、くれぐれも間違ってくれんなよ?」
元々人を食ったような所があるレオン・ドナーツ・バルトロメイは他人を煽らせたら実に見事に巧みにこなしてみせる妙手である。生来の戦い方も意地が悪く、対戦相手をコントロールしてその術中に嵌めるような所があるのだからさもありなんという事だ。
「……ッ、この、人間風情が……!」
果たして冠位色欲たるルクレツィアは短気で神経質な女である。
冠位魔種の例外に漏れず、傲慢で自分の力に絶対の自信を抱いている。
故にこの対戦で彼女が取る『初動』なんて知れていた――
「ブチ殺して差し上げますわ――!」
怒気を吐き出したルクレツィアは不敵さを崩さないレオン目掛けて真っ直ぐに飛び込んだ。
元来搦め手を得意とする彼女だが、別に暴力に自信が無い訳でもない。明らかに罠を張って待ち構えている『技巧派』に対して力押しを選択したのは半ば本能的なジャッジだったのかも知れないが、そう間違っているとは言えなかっただろう。だが、しかし。
「……っ!?」
鋭い剣のように伸びたルクレツィアの爪がレオンの虚像だけを掻き切っていた。
全く手応えの無かった一撃は揺らめく像が唯の幻影であった事を示している。
「『単細胞』」
「――――!?」
まるで別の方向から飛んだその声にルクレツィアが視線をやったのと足元から強烈に何かが噴き出したのはほぼ同時であった。
「砕いた魔素の塊だ。豪華なシャワーを愉しみな」
指をパチンと弾いたレオンに応えルクレツィアの周りに飛散した『粉』が誘爆して火の手を上げる。
彼女が『粉塵爆発』に防御姿勢を取ったかどうかに関わらず、レオンは青いバスタードソードを抜き即座に間合いを詰めている。
「久々にやったけど上手くいくもんだねェ」
「……こ、の! つまらない細工を……!」
「何だい、不足かい。まあ、仰る通り『つまらない』細工さ。
だが安心してくれていい。こんな『つまらねえの』ならまだ山と残ってるし、もっと面白いモンもある。
いやいや、遠慮するなよ? 冠位色欲。おもてなしは全部持って帰りなよ」
ノーモーションで続け様に繰り出された青い軌跡をルクレツィアの赤いそれが迎撃している。
(……面倒な男……!)
人間を侮るのは冠位の仕事のようなものだが、事これに到ればルクレツィアも臍を噛まずにはいられまい。
至近距離での打ち合いだが、不意を討たれている分だけ魔種の分が悪い。
パワーのスペックでは無論ルクレツィアが勝るが、技量でレオンを超える者はそうはいない。
それより何より『互角以上の相手と殆ど出会った事の無い、或いは戦った事の無い冠位魔種は、元々実戦を良く知っている個体が少ない』のだ。あのバルナバス・スティージレッドやアルバニアのような者ならば兎も角、実際の所、冠位の強さは殆どが生来の力に頼ったものである。
一方で。
(……成る程ねェ)
内心だけで皮肉な嘆息を吐いたレオンの側もまた『待ち望んだ』冠位戦の難しさを理解していた。
先制の一発(ウェルカム・ドリンク)は確かに数多ある仕掛けの一つに過ぎない。
されど、レオンが手持ちの高額なマジックアイテムを磨り潰して、シュペルの設計させた罠は並の相手なら仕留めるに十分な悪辣な必殺性を帯びた自信作である。
十分な準備をしたとは言え、久々の実戦のぶっつけ本番で完璧に仕掛けを使いこなし、そんなものを浴びせて見せたレオンもさる事ながら、ダメージらしいダメージが多少怒らせた程度でしか確認出来ないルクレツィアという女の『強度』こそ成る程、人間が相手にするには無理があるものと言う他は無いのだろう。
結局、問題はこのルクレツィアを相手に決定的打撃をお見舞い出来るかの部分にある。
(さて、この男。どうして縊り殺してやりましょうか――)
(――さァて、どうやってぶっ殺してやるかな)
ルクレツィアとレオンの考えは奇しくもこの時、全く同じく重なっていた。
立場は違うが、相手を仕留めたいのは同じである。
逃れる気がないのも、その必要が無いと思う傲慢さも全く等しく一致している!
「貴方は私に仕掛けた己が愚かさを知るべきですわね――!」
ルクレツィアの爪が虚空を伸びてレオンの頬を掠める。
跳ねた鮮血に凄絶に微笑うルクレツィアの衣装をほぼ同時に蒼剣の切っ先が切り裂いていた。
「『冠位色欲』としちゃ、世界一の男にやられんのも本望じゃねーの?」
流れた血をぺろりと舐めたレオンの脚が酷い足癖でルクレツィアの腹部を前に蹴った。
「『酷い』なのか『良い』なのかは知らねぇけどな」
戦いは始まったばかりだった。
この緒戦で構えたレオンが先手を取ったのは彼にとっての既定路線だ。
ルクレツィアとて、そんなもの最初から問題にもしていないだろう。
「――は!」
数メートルも退がったルクレツィアはそんな打撃等無かったかのように、鼻で笑う。
しかし、彼女の美貌は不愉快の色に染まっている。
不遜な敵の物言いに――彼の想定する通り――その柳眉を吊り上げてもいる。
「――その余裕、何時まで持つか楽しみですわね!?」
●時限式現局
「何となく嫌な感じがして来てみたが――こりゃあ大正解って訳か」
「どうやら当たりだ。戻って来た自分を褒めてやりてぇな」
『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)に『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)――
『彼等』が一時的にその機能を他所に移した『ローレット』に向かった理由はあるようで無かったのかも知れない。
「俺の鼻も捨てたモンじゃねえ。臭えと思ったんだよ、覚えのあるドブ臭さじゃねえかよ」
唯、重要な事実はルカに零した貴道のそんな言葉が過不足なく告げていた。
虫の報せ、直感、或いは単にそうしたくなったから――
理由なんてものは概ねどうでも良く、同時にそれを思った判断は限りない正解に近いものだったと言わざるを得ない。
「あちこち黒い穴だらけの大事で……久々にローレットで状況を聞こうかと思えばこっちも一大事って訳か。
まぁ、とりあえず魔種共をどうにかしなきゃならんことだけが分かれば十分だけどよ」
苦笑いを浮かべた『放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)の見渡す街並み――平和なメフ・メフィートの姿は降って沸いた混乱と恐怖にまるで様変わりの姿を見せていた。幻想の首都はローレットのお膝元である事もあり、これまではここまで大きな混乱に見舞われた事は無かった筈だ。数年前、キング・スコルピオなる盗賊王の企てで激震が走った事はあったが、その時もこれ程の状況には到っていない。
「それでよ。『レオンの旦那は今ローレットに居るってのはマジなのかね』」
「レオンが――『あいつ』のお気に入りが狙われてるなんて。
……良く懐いてたもんな、あいつ」
放っておいても殺しても死なないような男だが、相手が冠位魔種ならば話は別だ。
『百合の好敵手』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)の脳裏に過ぎった『可愛いドーベルマン』の屈託のない笑顔はどうしたって彼を奮い立たせる。
「別に『代わり』って訳じゃないけど――『オレはそんなの聞き捨てならないよな』」
「……っ……」
バクルドとプリンの言葉に仲間達の何人か――特に『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)や『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)――の表情が強張った。『お喋りで口が軽い上に大した事が無い魔種』が口にしたものであったり、総合的に状況を判断してそうであると考えたりだとか、情報の確度は何とも言い難いが、ローレットへの道を急行する一同の行方を阻む邪魔が多い事からもやはりそれは納得の行く話ではあった。
何よりも大きいのは――
「自身を囮に大物狙いとはレオンさんも中々に『男の子』な事を致すものですね」
――端的に淡々と『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の口にしたその一言が如何にも『らしい』事である。
良きにつけ、悪きにつけ、五年も六年も付き合いがあらばあの分かり難い男が相手だとしても多少なりとも見えてくるものはあろう。
「……」
「……………」
無論、親しさもレオンの解像度も個々人でまるで違うが、先述のドラマや華蓮の顔を見れば分かるだろう。
この所暫くの『違う』様子も含め、ヘイゼルの言葉は実に如何にもな納得感を帯びていた。
「麿の髷がこの程からビビビと震えておった故。まさに、これは凶兆。
可能性として考えられるのはふたつ。
リア・クォーツが金鹿ハムの加工工場へ向かうトラックに誤って積載された……か、ローレットに何かあった、かのどちらかの筈であった。
リア・クォーツがここに居る以上、これはローレットで決まりぞえ!」
「ころすぞ」
恐らくは意図的なものも多分だろう。
どんな時でも持ち前のユーモア(?)とマイペースを崩さない『殿』一条 夢心地(p3p008344)に『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)が旦那(ガブリエル)に見せられない顔をする。
「……ったく! それにしてもよ!
やる気出すのはいいけど、どうしてこういう出し方するのかしらね、男ってヤツは!」
圧迫感を伴う急行を敢えて笑い飛ばすようにリアはドラマの肩を叩く。
「そんな顔するんじゃないわよ」
「どんな顔だと言うのですか」
「『そんな顔』よ。
あんたのお陰であたしの方は何とかなりそうだし――ま、伯爵置いてこっちに来ちゃったんだけど!
いい機会よ。思い知らせてやんなさい。冠位色欲とアホギルマスの両方の顔面に思い切り『アレ』でも叩きつけてさ」
「名案に、腕が鳴りますね」
あまりと言えばあんまりな表現ではあるが、ドラマとしても異論はない。
「ドラマさんには正念場となって参りましたが……
今回は私事よりドラマさんを手助けする為に居る心算です。
なので、いつもよりも少々、気張って参らせて頂きませう」
「……ありがとうございます!」
ともすれば冷淡にも見える独特な友人(ヘイゼル)の珍しいとも言える積極的な友人甲斐にドラマの表情が幾分か緩んだ。
深緑に居た頃は孤独を愛し、書庫に篭って生きてきた。殊更に積極的に人と関わるようなタイプでは無かったのだけれど――検めた外の世界は痛くて悲しくてそれでも時に温かだ。『どちらが良かったかの結論はきっと永遠に出ないけれど、少なくとも彼女は生涯この場所を後悔する事は無いだろう』。
――可愛いね、デートしよう?
嗚呼、何たるや。
嗚呼、ままならぬ。
そんな実もならない軽薄な何時かの言葉がどうしてこれだけの重みを生じてしまったのか!
(……レオンさんの傍に居たい、結局はそれだけの事なのよね)
始まりは本当に些細でどうでもいいやり取りに過ぎなかったけれど、人生の1/4ばかりも費やした恋の重さは戦う事を嫌い、誰よりもいい子過ぎた華蓮を大いに強かにした筈だ。以前の自分ならば誰かに妬く事なんて無かった。燃えるような気持の為に『敵』を蹴散らそうなんて思いもしなかったに違いない。だが、タイプは全く正反対ながら華蓮もまたドラマと同じく迎えた『正念場』に並々ならぬ覚悟を決めている。
「覇竜のために少しでも情報を…と思ったら。
だいすきなひとを案ずる気持ち……すごくわかりますし。
これだけの事をされて黙ってもいられません。道を開くため行くだけです!」
『竜域の娘』ユーフォニー(p3p010323)の声に応じるように急行するパーティの勢いと速力が上がる。
行方を阻まんとする有象無象を蹴散らして、一直線に目指すのは謂わずと知れたローレットだ。恋だ愛だの悲喜こもごもは兎も角、冠位色欲ルクレツィアの仕掛けはメフ・メフィート――ひいては幻想(レガド・イルシオン)の命運を分ける一大事には違いなく。グレート・カタストロフなる未曽有の危機に晒される混沌の民において、この国が崩壊する意味は余りにも大き過ぎる。
だからこの戦いは恋の為であり、世界の為であり、誰かの為であり、何よりの己自身の為になる!
「さあ、おいでなすったぜ!」
猛然と先頭を走るルカが犬歯を剥いて獰猛な声を上げた。
実にラサらしく、薫陶を受けた赤犬を思わせる黒々とした大剣を抜いた彼の視線の先には二体の魔種らしき影があった。
「油断すんなよ。お前等に言うのはあんまりに馬鹿馬鹿しいけど、な」
貴道の鋭い視線がゆらりと前に出る敵の一挙手一投足に注がれている。
「おうおう! 景気がいいねェ。魔種連中も大歓迎でござい、ってか!」
口調だけは軽やかに、その癖バクルドに隙らしい隙はまるで無い。
これより相対するそれが鎧袖一触、パーティがここまで蹴散らしてきたような雑魚とは明らかに違う『大いなる敵』である事は明白だった。
幸か不幸かローレットの中でも最もと言ってもいい位に戦い慣れた面々は間近に迫る危険の性質を見誤る程、青くはない。
おおおおおおおおおおお……!
人ならざる声、声ならぬ『音』に空気が震える。
殺気が爆ぜる。悪意が、踊る。
「『全力で突破しましょう』。
こんな色が求める結末は、どうしたって惹かれませんから!」
ユーフォニーの言葉に面々は散開して戦闘態勢を取っていた。
当然と言うべきか強い敵対姿勢を取った魔種達とパーティの戦いが勃発するまで残された暇は殆どあるまい。
「――ああ、もう急いでるのに!
シュペル! アンタ少し位は手を貸しなさいよ!」
シュペルの僅かな『気の緩み』は天敵(リア)に通信能力を持たせていたが平然と居留守を使う彼は今日も彼女に応える心算は無いらしい。
不遜、尊大、神経質、勿体ぶる、案外お人好しだが基本的には人間嫌いで孤高である――
彼の思考は知れないが、彼にはどうしても譲れない一線があるのは想像に難くない。
『シュペル・M・ウィリーなる混沌の神が己を曲げて幾度ローレットに特別な手を貸したかを考えれば品切れ自体は頷け過ぎる』。
尤も、これが例えばそれを強請ったリア自身の話ならば、彼はこの世で一番嫌そうな顔をしてお節介を焼かずにはいられないのかも知れないが――
「ああ、もうこの捻くれ者!
聞いてるでしょ! せめてアンタから見てレオンに増援が必要だと思ったら何か合図は頂戴よ!」
――阿呆か、お前は。
もう一度大声を重ねたリアに応じ、シュペルの心底呆れたような溜息が響く。
――相手を考えろ。そんなもの今この瞬間に決まっている。
必要か不要かで言うのなら常時必要で、別に十秒後アレが死んでいても小生は驚かん。
……いや? レオン・ドナーツ・バルトロメイが余程の無能で間抜けで無ければ小生の仕掛けで多少はもつか。
しかし、まぁ結論は同じだ。これまでもこれからも危機ではない瞬間なぞ無い。
つまり、お前達の思考は間抜けて腑抜けているという事だ。
お前達が仮にどうにかしたいのなら一秒でも早く現場に到着する事だな?
無論、小生は御免被る! お前達だけの力で、だ!
「こいつ等ぶちのめしたらとっちめてやる!」
……返答した事自体が特別サービスのようなものなのだろうが、悲しいかな。
自称姉(ぼうくん)はそんな繊細な機微を理解すまい。
完全にチャンネルを閉じたシュペルは当てにならないのだろうが。
(それでも!)
どうしようもない孤独と絶望の中、手を差し伸べてくれた仲間達が居た。
友人達は冠位色欲と父の造り出した黄金の劇場でリアに先行きを示してくれたのだ。
特にあのドラマは――やはり特別な友人だった。
『何は無くとも彼女が運命に破れて泣く姿なんてものは見たくない』。
「上等よ……!
リアの短い気合はそこに居る誰もの代弁だった。
「人の恋路を邪魔する奴は――馬に蹴られて死ん……大泣きしちゃえばいいのだわ……!」
『物騒』な言葉を少しばかり彼女らしく言い換えた華蓮の瞳に決意が燃える。
「覚悟しなさい!」
何時になく華蓮は強い。
『取り得る手段は全て取る』。
この一戦ばかりは譲れない。今日こそが――最大最強、百花繚乱に乙女が咲き誇る決戦なのだ。
『嘆き嗤う』ララメント、『枯渇姫』Noël=Réplique――強力無比(Very Hard)の魔種複数が相手であろうと彼等が退く選択肢は何処にもない!
●蒼剣vs色欲 II
技巧的な戦闘はレオンの得手である。
柔良く剛を制するとは戦いの格言であり、金言の一つでもある。
(だがねェ――)
元がつくとは言え世界一の冒険者はそもそも『力押しをした所で後れを取る相手なんて殆ど居なかった』。
究極にまで極まった最高峰の戦いにおいて『最強』なのは決して技ではない。もっと本質的な力なのだと承知していた。
「……っ……!」
伸びた赤い軌跡に蒼い閃光がぶち当たる。
柄を握ったその手が痺れる位の衝撃感にレオンの顔が僅かに歪む。
『決して力押しが得意なタイプではなかろうに、冠位魔種とのフィジカル差はやはり甚大であると言わざるを得ない』。
「馬鹿力め」
「貴方の体躯がこけおどしなのではなくて?」
「その胸で言われたかねーよ」
悪態を吐いたレオンにルクレツィアの攻め手が厳しさを増した。
(やれやれだ)
相手が戦い方を碌に知らないお嬢さんでなかったなら、この勝負はもっと厳しいものになっていただろう。
しかしながらこの戦い方を碌に知らないお嬢さんはこの短期間の間に恐ろしい勢いで戦い方を覚え始めていた。
ルクレツィアという隙の多い女はその実極めて優秀な能力を持ち合わせている。
高すぎる自意識に引きずられてそれが表に出難いだけで――人を見るにはまあまあ敏なレオンはそれを痛い程痛感している。
「手品は品切れでして!?」
「いや、まだまだ」
飛び退いたレオンに応えるように四方八方に生じた鏡面体が拡散する魔光を乱反射する。
酷く変則的かつ悪辣に自身を狙った新たな手品にルクレツィアは薄い笑みを浮かべていた。
直撃、轟音、そして――平然。
「私、気付いてしまいましたのよね」
「……何がさ」
「効かないと言えば嘘になる。痛くないかと言えば腹立たしい程度にそれは感じる。ですが――」
殺気を増した彼女は嗤う。
「『こんなものじゃ私を殺す事は絶対に出来ないと、ね』!
ええ、ええ。お付き合いいたしますとも。いいでしょうとも。
塔の神が仕掛けた手品を好きにお使いなさい、『蒼剣』レオン。
私は全てに対処する事は出来なくとも、最後はきっと貴方を捻り潰します。
それまで無為な時間を精々楽しむ事ですわ!」
●時限式現局 II
「そう甘くはない、という事ですか」
使い魔のリンクが『消失』したユーフォニーが臍を噛む。
枯渇庭園による影響か、それとも道中の危険が為か。
ローレットの様子をつぶさに知ろうとした試みが難しいのは知れていた。
「まぁ、一筋縄で許してくれる日じゃあねえよな、今日は!」
バクルドが不敵に笑う。
ローレットでルクレツィアと戦っているらしいレオンの元に急行するのは今日の『本題』ではあるが、そこに到るまでの困難も決して小さなものではない。
聳え立つ壁を踏み倒した上で最悪とも呼べる冠位との対決を制さねばならない――
考えるだにそれは不可能状況を何重にも重ねたような要求だが、可能性の獣たる特異運命座標にとってはそれは怯む理由にはならないという事だろう。
「――ああ、だが関係ない。一気に行くぞ!」
プリンの放った気合の一声と共にパーティが動き出した。
十人のイレギュラーズは何れも十分に戦い慣れた存在だ。
ローレットの中でも特に実戦経験の多い精鋭達は相対する敵の性質から動くべき方向を瞬時の内に見出していた。
(状況は関係ない。それでも、あいつに並べるとするなら――今日しかないんだよ!)
「揺蕩う風に揺籃と寝息の音が溢れてる。この時間を人は静かと呼ぶのでしょう――」
万華の如く世界が揺らめき、さざめく色彩がユーフォニーを包み込む。
「覚悟するが良い! 不逞の悪者! 麿のツアーの錆びにしてくれる!」
「主役におっさん共は不似合いだろうがよ?」
駆け巡る夢心地の衝撃にバクルドが変則的な一撃を重ねる。
「相当な使い手なのは見れば分かる故! なれば、何もさせず削り切る」
「同感だ。だが、目の前の試合を譲る程、ボクサーは謙虚じゃないんでな!」
ルカのプロトコル・ハデスが夢心地と競うように前に出た貴道の背を押す。
「そんな目立つ『脇役』はいねぇだろ」
更に速力を上げた彼は姿勢を低く彼我の間合いを潰している。
文字通りプリンの『引っ張った』面々が必要に応じて動き、必要に応じて備えていた。
「――まずは『枯渇姫』からなのだわ!」
華蓮の視線の先、飛び込んだ貴道が真っ直ぐに目指していたのは『枯渇姫』Noël=Répliqueである。
「おおおおおおおおおらああああああッ――!」
獣のように咆哮し、幾重の闘気を纏った貴道の黄金の両拳が乱打のようにNoëlの小さな体に吸い込まれた。
先に動き出したユーフォニー、夢心地、バクルド等の『攻勢支援』を従えた貴道は、
「厄介な報告書の個体、全く――こんな時に現れてくれなくても良いのですが、ね。
この歩みの邪魔をするなら、打ち払います!」
更には小蒼剣(リトルブルー)を携えたドラマは然程防御に優れない『彼女』に猛然と攻めかかっていた。
「全く頼りになるんだから」
口の端に小さな笑みを浮かべたリアは実際の所、この戦いの困難が攻撃だけにない事を強く理解していた。
(……問題はこの先。でも、支え切るしかない)
(少なくとも、アレを早く抑え込まなければそれも不可能になるのだわ!)
リアと華蓮の共有する『危機感』は二人が十分に習熟した支援役であるが故である。
ローレットの報告書でも異常な攻撃力が確認されているNoëlの脅威は特に巨大なものだ。
変則的かつ悪辣な攻撃を仕掛けると想定されるララメントと組み合わされれば手練れのパーティでもどんな事態に陥るかは分からない。
『フロントで大いなるリスクを背負って攻めかかるのは前衛だが、彼等を十分に機能させる責任の重みは彼女達が背負うものである』。
レオンの救援を考えてもこの戦いに長期戦は厳禁だ。
プリンを起点にした高速の連鎖行動はイレギュラーズが仕掛ける得意の――そして渾身の電撃戦であった。
おおおおおおおお……!
「おっと」
パーティの動きに怨嗟と怒りの声を上げたララメントの目前を即座にヘイゼルが阻んでいた。
「申し訳ありませんが、少々輪を外れて頂いて――私と踊って頂くのですよ」
広域攻撃能力を誇り、厄介な状態異常を振り回すララメントを自由にさせる事も多勢で当たる事も良手とは呼べまい。
なればこそ、それを食い止めるのは平素の通り、端正な顔立ちに読み難い表情を貼り付けたヘイゼルが適任だったに違いない。
誰が称したか『鵺のような』女は元来受けに優れ、『時間を稼ぐと決めたのなら兎角最初から最後まで徹底する事を済ませている』。
リアや華蓮からの支援のみならず、自己完結も念頭に置いて溢れんばかりの『光輝』を纏い、長期戦闘への準備に余念がない彼女は最初から己が攻め手に期待は向けてはいないのだ。
「この『原っぱ』で存分に」
鬱陶しそうにしなったララメントの鞭のような一撃がヘイゼルを掠める。
頬から僅かに出血した彼女の向こう側で地面がぱっくりと割れていた。
「これは、中々タフな『試合』になりそうなのです」
果たして、Noëlやララメントは一手やり合えば分かる強敵であった。
パーティの目線が先のルクレツィアを見据えるのばかりはどうしても否めないが、実際の所今回のメフ・メフィートを襲った苦難の大半の中でも、彼女等の相手は頂点付近に位置するような難題である。
貴道の肉弾凶器を全身に浴びても小柄なNoëlは吹き飛びすらしていない。
幻影のように捉え所のないヘイゼルをララメントは初手で『掠めた』。
約束された死闘との遭遇は、折り紙付きの悪運である事は誰の目にも明らかだった。
猛然と始まった緒戦はその続きの明示に過ぎず。
イレギュラーズ陣営、魔種陣営。
救おうとする者、滅ぼそうとする者。
全く正反対を向く争いは互いの援軍を巻き込み、凄絶な削り合いを繰り返していた。
「……っ……」
必死でこの場を食い止める華蓮は唇を噛む。
幼かった頃ならばいざ知らず、今の彼女は戦う意味を知っている。
彼と出会う前ならばこれ程に押し通そうとする事はきっと無かっただろう。
どれだけ頑張っても、どれだけ尽くしても彼女の掌は小さく、届かない腕は余りにも短い。
(……それでも……!)
犠牲の無い戦いが無くとも、失われるものがあろうとも。
譲れないものがあるのなら。
「……何度だって、何だって! やってやるのだわ……!」
華蓮の点す運命の小さな輪は無惨に崩れかけた均衡を立て直すのだ。
「ヘイゼルさん、まだいける?」
「お陰様でもう少し位は」
文字通り危険を至近距離で掻い潜るような戦闘を繰り返すヘイゼルを強力に支えているのは華蓮であり、このリアでもあった。
「結果として随分責任重大な話になっているのです」
「お互い様にね。もう少し――もう『大分』頑張りましょ、お互いに」
激励し、自身を賦活するリアの力ある言葉と力にヘイゼルは小さく肩を竦めた。
求められるは多いが、さりとてそれを厭うような風でもない。
相変わらずの技巧派は、厄介な局面を愛好しているようですらある。
(さて――)
乱戦は乱戦、安全な場所等何処にも無いが少なくとも彼女等『要』がNoëlの暴威に晒されるのは下策中の下策になろう。
ヘイゼルがそう言った通り彼女はララメントの抑えをこなすと同時に、リアや華蓮への直撃をも凌いでいるのだった。
「余りそういうタイプだとは知らなかったけど――流石ドラマの友達だわ」
「まぁ、どうあれもう『大分』頑張るのです」
パーティは何にも構わず振り切って――止まらない。
誰かの心を、想いを、願いを。 護り、届け、叶える為に。
「これで――」
最早、手段さえも問うべくもなく。
らしい光に、時には闇に。変華に瞬くユーフォニーの光彩がNoëlを捉え、大きな隙を作り出す。
誰あろう想いは強く無明に輝く。
――先陣は万華の光。
より燦然に、絢爛に。
希望の千彩よ、咲き誇れ!
届かないそれがあると知りながらも、少なくとも少女はその幻想を諦める事は無い!
「上等だぜ。却ってやる気になるってモンだ――」
俄然に獰猛な笑みを見せたルカが、
「――とっとと死んで貰うぜ!」
猛然とその憤怒を堪えないNoëlに突き刺した。
『普通ならば手応えは十分、いや。十二分』。
(……は、押し切れちゃいやがらねえ!)
ルカの目が見開かれた。
凶悪にして猛烈な威力の渦が少女のなりを引き裂かんとするも、『それ』は力づくでその威力の余波を抑え込んでいる。
お返しと伸びた細い左腕がルカを捉えれば、引き裂かんばかりの膂力は彼の端正な顔立ちを酷く歪めていた。
刹那の後に、枯渇の庭園の広がる地面に彼の身体が猛烈に叩きつけられている。
「は――こ、の馬鹿力がよ……!」
息が詰まりそうになりながらもそう嘯く。
『かつて』なら簡単に敗れていただろう。
ルカが――イレギュラーズがこれ程までの歩みを続けてこなかったのなら、それは到底敵う敵で無かったに違いない。
だが、違う。『今は違う』。
「『負けるかよ』」
明滅する意識を手放さず、ルカは血の味が滲む程に口を噛んだ。
「ああ、同感だ。調子に乗んな。ここに侮っていい相手は誰一人いねぇんだよ」
Noëlの追撃をバクルドの隠し弾が即座に阻む。
技巧的なその攻めはR.R.I(絶対の一撃)に繋ぐ小手先の技に違いないが、暴れるだけの子供に比して彼はやはり老獪だった。
「そこを『退け』よ」
唯、目指す場所へ。
澱み無く何もかも踏み抜いて。
そんな意思の力はどれ程に傷付こうと傷もうとプリンの身体を前へ前へと突き動かした。
胸の奥をちくりと抉るもう戻らない彼女を思い出す程に、極限まで高められたプリンの一撃は重く、強く、『疾く』なる!
音さえも置き去りにして空間を『支配』した渾身の一撃に、根が生えたように揺るぎをみせなかったNoëlが後退した。
おおおおおおおおお……!
魔種同士に仲間意識等というものがあるのかどうかは知れないが。
呻くように怪音を発したララメントの魔性が辺りを覆う。
「……このっ!」
「少し、待てってんのだわ!!!」
楔として見事な役割を果たしてきたヘイゼルは傷付いており、これをリアや華蓮がフォローしている状態だ。
「ここまででハーフタイムなのです」
ヘイゼルは堪えない。
虎の子(ヴォルフヴベーカリー)は失せて、まだこれから。
加速を始めた戦いの天秤は右に左にゆらゆらと揺れる。
それは確かに勝機を示し、逆に余りにもあっさりとその逆さえをも意味していよう。
しかし、強さを増すララメントの魔性に割り込んだ黄金の光は、彼女に自由を許す心算は無いようだった。
「BS付与の使い手のようじゃが、麿には効かぬ――」
一見するだに大真面目には見え難い。
それでも味方にしてみれば、気持ちの意味でも何と頼りになる事か――
「――神格位を帯びたお正月よりおめでたい、このシン・シャイニング・夢心地にはの」
一時後退を余儀なくされたヘイゼルに代わり、夢心地がララメントを食い止めに掛かっていた。
「強力な疫病の使い手らしいが、片腹痛いわ!
見よ、麿が両手に携えるは、ゼシュテル鉄帝国の聖女より賜りし神衣。
一年半熟成させた、ヴァレーリヤのゲ……聖遺物なるぞ。
そなたの疫病と、麿のVGS二刀流、どちらが上か……いざ尋常に、勝負なり!」
言葉程には余裕が無い。鉄火場にも変わらぬ在り様程には余力はあるまい。
激戦の中で誰もが傷付いている。誰もが追い詰められている。
魔種にしても、幻想の騎士達にせよ。何人もを倒し、斃され。それでもこの戦いは終わらない。
「……っ……」
刻一刻と残酷に過ぎる時間にドラマの小さな胸は潰れそうな不安を抑え込む事は出来なくなっていた。
(レオンさん……)
どれ程に願おうと『進めない』状況に華蓮はどうしようもない焦りを感じずにはいられなくなっていた。
『状況は時限的現局である。タイムリミットが存在するのは魔種よりもイレギュラーズ側なのだ』。
……分かり切った事実は重圧となり、時の砂の一粒は気付けば鉛の塊のように重くなる。
イレギュラーズは強力だが、魔種もまた同じだった。
だから、どうしようもないのは間違いが無かった――『本来』は。
だが、運命を変え得る雷鳴のような一撃は前触れもなく訪れる。
おおおおおおお……!?
しなるララメントの怪腕に無数の傷が刻まれた。
イレギュラーズを傷付けようとするそれに待ったをかけたのは蒼薔薇の無数の軌跡。
「……誰に断って、彼等を傷付けようというのです?」
持ち前の豪奢な美貌を尊大な不機嫌さとどうしようもない愛らしさに染めた『暗殺令嬢』リーゼロッテであった。
奇妙なまでの偶然は――恐らくは最早必然と言うべき運命だった。
「――随分とのんびりしてンだな、ええ? ルカよ」
「兄貴!?」
攻防で吹き飛ばされたルカの身体を片手で受け止めたのは狼狽える彼に構わず正面を見たままのディルク・レイス・エッフェンベルグその人だった。
「何でこんな所に。ラサも大変だった筈でしょう?」
「そりゃあねえ。現在進行形で大変だから俺が自らここに居る。
何でここに居るかって方についちゃあ――そこの『一見清楚で大人しそうな秘書ちゃん』に聞いて御覧よ」
新手の闖入に仕掛けたNoëlをディルクのマントが包み込んだ。
外したそれに視界を遮られたNoëlが次の動きをするよりも早くディルクは摘まみ上げたルカを地面に降ろしていた。
「……複雑なんスけど」
「俺としちゃ、レオン(あいつ)の弟子がそこの可愛い子ちゃんで俺の弟子がお前なのも十分複雑だ。教えてねぇけど」
「こりゃあ、大変なキャストじゃねえか」
バクルドが笑う。
「……初めまして、素敵なラサの傭兵王」
「ああ。名前位は聞いてるぜ、暗殺令嬢。だが聞いてる以上に美人だな?」
極上の薔薇と砂漠の砂嵐の存在感は格別だ。
青くなったり赤くなったり忙しい従者(レジーナ)はまあ、さて置いて。
「さあ、どうするよ。『クライアント』。さしずめはこいつ等ぶっ殺しにかかるのが俺の役目かね?」
「……」
「……………」
誰となくディルクの示した華蓮に注目が集まる。
「……あの、えっと」
華蓮は少し気恥ずかしそうに続けた。
「や、雇っちゃったのだわ」
「……つかぬコトをお伺いするのですが」
ドラマが問う。『赤犬』ディルクは名にしおう傭兵王。
世界一の傭兵。しかも此方は現役バリバリ――その名声はあのどうしようもない師匠と同レベルだ。
「……一体、おいくらで?」
「……………」
ごにょごにょと口の中で言った華蓮は少し経つと意を決したようだった。
「に、2805000Goldなのだわ……」
「……」
「……………」
衝撃のシーンは深堀すれば何処までも出来そうなものだが、まぁ実際の所はそこまでの余裕は無い。
「皆さんはローレットへ行きたいとのこと。
まあ、この連中は中々厄介ですから――ここは手を分けては如何?」
「そりゃあ確かに合理的な話だ。俺とお姫様が入れば数を減らしても何とかならぁな。
子守じゃねえし、相手も相手だ。それでもまあまあ面倒臭いのは確かだろうがよ」
「気が合いますわね、ラサの王」
「同感だな、薔薇の姫様」
……二人のやり取りは兎も角、最終的に戦力を分けてでもローレットに届かせるのはパーティの算段の内であった。
「仕方ねえな。せめてNoël位は仕留めたかったが、『御二人さん』を加味するなら妥当な所だろ」
貴道の言葉に仲間達は頷いた。
「レオンの旦那に伝えとけよな。
ざんげのやつ、俺と話す時でも二言目にはレオンレオンってうるせえんだ。
……本当に、本当にうるせえんだよ。
あんまりあっちにばっかりいい格好させたかねぇんだけど――兄貴の手前、ここはきっちり任されるぜ。
だからまあ、しっかりやれって。何であんなの――なったんだか」
「うむ。結果としてお膳立ては十分にもなろう。
ドラマ・ゲツクがわんわん泣いて頼むから、仕方なしじゃ。
今回ばかりはそなたらに見せ場をくれてやろうというものよ!」
「行って来いよ。ここの魔種共なんざすぐにぶっ殺して追いついてやるからよ。勝ってこい!」
後半は独白めいたルカが溜息を吐き、夢心地の言葉にドラマが咳払いをする。そしてバクルドがわざとらしい位に不遜にそう言った。
「ドラマさん、華蓮さん」
ユーフォニーが彩の花のように淡く微笑む。
「みんなへ繋ぐのが私の役目。
今日という日を、きっと絶対未来へ繋ぎましょう
恋路の先は誰も欠けず共に在ってこそ――御武運を祈ります」
「まあ、大してやる事は変わらないというものなのですよ」
ヘイゼルはやはり何時もと変わらない調子で云う。
「レオンさんと性悪女のデートは、特にドラマさん達には一大事かと。
何時までも楽しく、では沽券に関わるというものでせうから――」
●激動
「――レオン君!」「レオンさん――!」
ローレットの扉が開かれる。
呼び声と共に派手な登場を見せたのは言わずと知れたドラマであり、華蓮であり。
「本当に世話が焼けるんだから、弱るわよ」
「これで死んでたら承知しない所だったぞ」
彼女等と共に一足早くローレットに随伴したリアであり、プリンであった。
「……何で来るかなあ」
随分と襤褸になったレオンが頭を掻く。
「また愚かな事。唯の数人位現れて――私を一体誰だと思っておいでなの?」
予定外の――そして或る意味で予想通りの闖入者に冷たく視線を投げたルクレツィアがせせら笑う。
彼女の様子はと言えばやはりレオンに比べれば随分と余力が残っている。
少なからぬダメージがあるようには見受けられるが、倒す倒さないの領域にはまだ遠い。
「知るか」
応ずるプリンの言葉は短く、絶対的に強い響きを持っていた。
「お前が誰だろうと、知った事か」
「は……?」
「あいつのお気に入りに、手を出すな」
強敵を前にしたプリンの全身に膂力が漲っていた。
『蒼穹』という最強を前に一歩も退かず、永遠に届かない場所に到った『彼女』はどんな風景を見ていただろうか。もし、この少数で冠位を破る事が出来たならば――それはプリンが望み決して叶わないかに思われた『彼女の景色』を見られる事に等しいようにも思っていた。
「素直に感動して打ち震えたらいいわよ」
「……何で来るかな」
リアの言葉に応じるというより、そう言ったレオンはドラマを、ないしは華蓮の方を見ていたように思われた。
「知らないのだわ。いいえ、『レオンさんは知っているのだわ』」
「……」
「知らないなんて言ったら、もう知らないのだわ。
……覚悟はいいのだわ? 言い訳はもうなしなのだわ。お礼も言い訳も結構なのだわ!
良く甘やかしすぎって言われるけど、今日の私はちょっとだけ本気なのだわ!」
唇を尖らせた華蓮にレオンは「イイ女過ぎるだろ」と苦笑いをする。
一方のドラマもまた「知りません」と応じている。
「オマエはさあ――」
「――うるさいですよ、レオン君。
師匠のあなたが勝手なので、弟子も勝手にします。
諦めの悪さは何処かの師匠譲りなので、諦めてください」
「第一」とドラマの口は堰を切ったかのように早口になる。
「馬鹿です。大馬鹿です。
何にも相談してくれなくて、こんな勝手なコトもして……
いつも勝手ばかり。レオン君なんか嫌いです。
大嫌いです。最低です!」
「だからもういいって……」
「最低で……でも、だいすきです」
「……」
「会いに来るコトに理由なんて要らない。諦める理由なんて最初から無い。
貴方がどんなに最悪でも、貴方がどんなに優しくたって――私はそんなもの、構わないし、望んでない。
私が勝手にあなたを愛する事に――『今更』貴方が何かを言える資格は無いんですから!」
『好き勝手』なやり取りにルクレツィアの怒りの色が強くなる。
「いきなり現れて人の獲物で何をぎゃあぎゃあと騒がしい。
いい加減にして頂けます事? 冠位を前に貴方達は何を――」
「――この糞ドブ川女ァッ!!!」
言い募るルクレツィアをドラマの見た事もない位の怒鳴り声が遮った。
「自分が上手くいかないからって、人の男にちょっかい出しているんじゃぁないのですよ!
クソ鴉の件(パラダイス・ロスト)は兎も角、双竜宝冠でも黄金劇場でもこそこそと!
好い加減、決着を付けるにもいい頃です!」
「華蓮さん!」と水を向けたドラマに頷いた華蓮が、
「悪いけど……私達の恋路から退けて頂戴、ルクレツィア!」
何時になく強い調子で赤棘の連弾を解き放った。
悪意らしき悪意を知らない華蓮の数少ない『許せないこと』は目の前の女にばかり向いていた。
舌を打ったルクレツィアが飛び退がり、雄叫びを上げたプリンが猛然と間合いを詰める。
(……馬鹿なの? こいつ等……)
プリンの神速豪打をいなすルクレツィアは内心で考える。
『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイは現在の人類圏の最高峰の一人だろう。
その彼が十分な準備をして冠位には届かないのだ。
だと言うのに、この連中は一体何を考えているのだろう?
恐らくは外で麾下魔種と一戦交えてきたであろうイレギュラーズは然したる余力を残していないのに。
逆立ちしたって冠位魔種ルクレツィアに及ぶ筈も無いのに?
(一矢を報いる心算……いえ、そんなに殊勝な連中ではありませんわね?)
慎重かつ狡猾なルクレツィアは『大した事の無い連中』の事を良く考えた。
七罪最強のバルナバスはどうして敗れたか。長兄のルストは何故敗れなければならなかったのか。
(……特異運命座標は追い込まれる程、理不尽な『奇跡』を起こす)
裂帛の気合と共に閃いた青い閃きがルクレツィアの肌を切り裂いた。
(妬ましいのだけれど……)
ドラマは華蓮(じぶん)とは違ってレオンに『教わる』事が出来たから。
(……でも、美しいだわね)
でも華蓮(じぶん)も恐らくドラマに無いものを持っていると信じる事が出来るからそう思う。
「やっちまえ! ドラマ! 恋する乙女同盟は何時だってアンタを全力応援したげるから!」
「……この、女共!」
リアの言葉に舌を打つ。
「私の信ずる蒼剣はその程度でしたか?
……だったらそこで弟子の戦いを、指を咥えて見ていると良いのです!」
銀色の髪を振り乱し、強気な双眸でドラマは敵を射抜いている。
レオンには視線をやらず、その癖誰よりも彼を信じて――見つめている。
(……でも、違うでしょう?
私は、あなたの物語を、あなただけの物語になんてしてあげない。
『私達』の物語は、まだまだこれからなのですから!)
気力の充実に技がこれまで以上に冴え渡る――そんなドラマにいよいよルクレツィアは確信した。
――戦力で言うのなら、こんな程度で遅れを取る事は有り得ない。
だが、こうなった以上は短時間で目的(レオン)を刈り取るのは難しい。
蒼剣の技量もさる事ながら、乳のでかいシスターの女が厄介だ。
あの女を先に仕留めようと思っても、どうせ次々に邪魔が入るに決まっている――
(……それに、まだ鬱陶しい仲間連中も居ると考えるべき)
五人だ十人だは殺し切れる。
まあ、数がその倍になっても問題とまでは言えない。
けれど、お得意の『奇跡』が重なれば万が一、億が一の話はどうだ?
『敗れはしないがリスクを殺し切れていない』。
冠位らしからぬルクレツィアの思考は彼女の無自覚の『悪癖』だ。
更に後退した彼女は『知らぬ間』に自身の撤退を阻む結界が消失している事に気が付いた。
『都合のいい事態がレオンの仕掛けであるなんて事には微塵ばかりもその思考を向けてはいない』。
「……もう沢山。ヒステリーのクソ女にこれ以上付き合っていられるものですか!」
ルクレツィアの咄嗟の判断は何時もと同じ。
その指先で黒い渦を作り出し、その肢体を闇で包む。
『空間転移で安直な逃げを打つのは何回か繰り返した彼女の習性のようなものだった』。
だから、こそ。
「――いや、本当に『単細胞』で助かるぜ」
奥の手は最後まで残すもの――実戦経験の差と戦いの悪辣さの差でこの瞬間、レオンは確実にルクレツィアを上回っていた。
奇跡を持たない凡百の――そのポテンシャルが特異運命座標の真似事のように燃え上がる。
『伝説』を冠した切り札は、瞬間的に自身の力を可能性の極限まで引き出す財宝だった。
『冠位魔種との対決を望みながら、叶わなかった全盛期より、可能性を信じない男が握り続けたJOKERだ』。
(まぁ、初めてカミサマとやらに感謝してやるか)
蒼く燃えた奇跡はレオンに残る幾ばくかの可能性、ルクレツィアを破り得る未来の残滓を匂わせる。
「――――!?」
退きかかったルクレツィアは急激にスピードを増し、その神速で間合いを潰し切ったレオンの動きに対応出来ない。
「オマエ、やっぱ弱いよ」
リミット・ブルーがルクレツィアの胸を貫く。
勢いを増したレオンが血を吐いたルクレツィアの身体を強く押し込む。
「この、この、この――ッ!」
ジタバタと暴れるルクレツィアの爪がレオンの肩を切り裂いた。
血の色がローレットの床を汚し、それでも食いついたレオンは離れない。
何十年と待ち望んだ『選ばれなかった男』の執念は、決してルクレツィアを離しはしない。
「ドラマ、華蓮」
逃れようと再び濃度を増す転移の黒に、振り向かないレオンは声を零した。
「飽きたっての、撤回しとく。
ありがとも無しらしいけど、言わせといてよ。
まぁ――多分オマエ達は俺にとっての『特別』だから」
ブン、と。
耳障りな音がして、その場より『二人』が消え失せた。
「……レオン君」「レオンさん……」
必然のようにドラマと華蓮は同じようにその名を呼んで。
その呼びかけには当然唯の一言も返りはしない。
――ねぇ、運命。
ぐうたらな王子様が、やっと本気になったのに。
うまくいかないなんて、そんな物語嘘でしょう?
物語の娘はそれを信仰しているから。
「HAPPY END位、見せてくださいよ……!」
ぺたんと床に崩れ落ちて、思わずそう漏らさずにはいられなかった――
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
18000位書いてしまいました……
そういう訳で、ルクレツィアは逃れました。
撃破はしていないので失敗です。
が、ララメントとNoëlはその後撃破されている為、名声を20加算しています。
総じてかなり良い結果と言えましょう。
PPPもこれよりクライマックスモードに差し掛かりますが、是非お楽しみ下さい。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
こんなんばっかりだな、ルクレツィアさん。
以下シナリオ詳細。
●依頼達成条件
・『煉獄篇第七冠』ルクレツィアの撃破
※レオン・ドナーツ・バルトロメイの生死は不問です。
●『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ
ローレットのオーナー。元・世界一の冒険者。
どうやら『拗ねている』ではなく『柄にもなくやる気になっていた』模様。
負けない戦いを得意とし、兎に角執拗で性質の悪いやり方を好んでします。
遅延戦術、妨害戦術、嫌がらせ、精神的摩耗のエキスパート。
潤沢に用意した事前準備と相まってまあまあ健闘します。『まあまあ』です。
●『煉獄篇第七冠色欲』ルクレツィア
冠位魔種。色欲。
『繰魔操心』という権能と『起源増幅』という権能を持ちます。
所謂『戦闘タイプ』ではないとの事ですが、まあ戦ったって負けません。
強度の高い疫病バッドステータス付与に加え、伸ばした爪で殺傷力の高い近接戦もこなします。
精神系、行動不能系のバッドステータスは効きません。
またHP割合減算系のダメージバッドステータスはターンダメージが一定値でカンストします。
だって冠位ですもの。
●ローレット
戦闘現場。
冠位襲撃を予見したレオンの仕掛けで事件勃発の前後と共に一時的に本部機能(連絡他)を外部に移転しています。
これはルクレツィアとの戦闘の余波と権能『繰魔操心』を警戒しての措置でした。
レオンは同時に彼女が自分を的にしているであろうと類推し、自分だけが残る事で彼女をおびき出しにかかっています。
尚、劇中で触れられている通り、このローレット自体がシュペルとレオンが共同制作したルクレツィアを仕留める為の罠の塊です。
少なくとも転移禁止は現状で機能しており、レオンはルクレツィアを逃がす気はありません。(その逆も然り)
レオンは過去最も品が無く彼らしい戦いをやる事でしょう。
●参加シチュエーション
PCの皆さんは話の内容柄、ローレットには居ません。
皆さんは好きな理由を選んで良いです。
・何となく胸騒ぎがしたから(旧)ローレットへ行く
・お喋りな敵がルクレツィアの事を口にしてしまったのを聞いた
・レオンの様子が気になった
まあ、そこは枝葉なので自分で決めて良いですし何でも良いです。
兎に角、皆さんは各々の理由で動き出し、仲間と合流しました。
しかし、外部からローレットへ辿り着く必要がありますが、これに邪魔者が居ます。
●邪魔者
・魔種『嘆き嗤う』ララメント
色欲麾下のネームド魔種。
正面に泣き、後頭部に嗤いの面を張り付けた異形の女。
異常に長い手足、痩せぎす色白な姿は茫洋とした幽鬼を思わせます。
伸縮する両手から繰り出される薙ぎ払いと毎ターン頭に自動付与してくる凶悪なバッドステータスが特徴です。
・魔種『枯渇姫』Noël=Réplique
多次元型突発性枯渇現象、通称『Noël』……と呼ばれたものの『本体』。
兎のぬいぐるみを抱いた薄汚れた少女のなりで、経緯は不明ながら反転している事から元は純種だった模様。
特徴は枯渇領域と呼ばれるフィールドを展開する事で、彼女の半径二十メートルに存在する全ての生命体は敵味方の区別なく毎ターンダメージを受け、AP消耗を余儀なくされます。又、攻撃力が『死ぬ程』高いです。
・魔種(雑兵)
数ターンに一度雑兵が敵側に合流します。
タイミングは1d6ターン後、数は1d6/2(端数切捨て)ランダムです。
雑兵と言っても魔種なので普通にそれなり以上には強いです。
・邪魔者ではない援軍
数ターンに一度同様のルールで友軍が来る可能性があります。
加えて内容はランダムで薔薇十字機関、レイガルテの私兵、幻想を守ろうとする実直な騎士等です。
左に行く程当たりで、彼等はそこそこ多少の足しになります。
しかし、死んだりもします。全てがハッピーにはならないでしょう。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
●やばくない?
はい。やばいです。
最大の難所はルクレツィアですが、そもそこまでたどり着くまででもVery Hard相当です。
尚、これに関連する幕間のお話はTOPやSS等で展開予定です。
以上、宜しくお願いいたします。
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