PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

売れ残りのケーキ

「……アイツ等、絶対に許しませんわ……!」
 実力で言えば間違っても負ける事等無かっただろう。
 多少のトラブルはあったとしても、計画は途中から完璧だった筈だった。
 しかしながら、現在の状況はどうか?
「……絶対に!」
 冠位魔種としての本質を――魔性を燃やすルクレツィアは『色欲』でありながら、さながら兄のように『憤怒』していた。
 焼け焦げたお気に入りのドレスは破いてしまった。
 決して軽微とは言えないダメージを受け、とっておきのプランを台無しにされた。
 口ばかりの長兄(ルスト)が結局は失敗したのを聞いたのは多少は胸がすいたものだが、自分もこの有様では大いに笑ってやる事も出来やしない。

『兄姉の悉くが失敗したからこそ、冥王公演が成功すれば自分は違うと証明出来たのに』。

「……ッ……!」
 思い出すだけで胸が悪くなる特異運命座標(クソ)共の横槍にルクレツィアは歯ぎしりをした。
『最愛のお兄様』は兄姉の失態に――自分の失敗に何を思っただろうか。
 怒る事はすまい。声を荒げるような事もしないだろう。
 しかし、優しい彼の美しい面立ちにもし失望が浮いたなら――そう思えばルクレツィアは『敵』をどうしても許せない。
(敵。そう、敵ですわ。癪ですが認めてやります。最初からそう思って相手にしていれば、あんな連中――)
『色欲』が『傲慢』も兼ねると笑っていたパウルの言は成る程、正解だ。
「――あらあら、随分と荒れているようね」
 この期に及んで漸く結論を得たルクレツィアに『声』を掛けたのは彼女にとっても予想外の人物だった。
「――――」
「――配下(した)の子達が怖がっていたわよ。
 駄目よ、ルクレツィア。そう感情的になってはいけないわ。
 貴女はイノリの子供なのでしょう?」
「『売れ残りのケーキ』が何の用かしら?」
『子供』の一言を聞くだけでも十分。
「酷い事を言うわね?
 シャイネン・ナハトに祀り上げたのは他の人間だし……
 ケーキを食べる風習なんて、何かの間違いで広がった冗談だわ。
 ……恋人達の日、なんて呼ばれているのは悪くは無いけれど」
 そして重ねられたその言葉が『何処』を向いているかを考えれば億分にもなる。
 特異運命座標ならぬこの女――『黒聖女』マリアベルは秒で確定する『敵』に違いない。
「それで、何の用も何も。負けたみたいだから慰めにきてあげたのよ」
「……負けた覚えはありませんけれど?」
「負けた子は皆そう言うのよ。きっとベルゼーもルストも同じだったでしょうね。
 ……尤もベルゼーは『本当にそんな心算じゃなかった』かも知れないし、何なら勝った気分も本当だったかも知れないけど。
 ルストと貴女は違うでしょうね」
「『殺しますわよ』」
 犬歯を剥いたルクレツィアをマリアベルは「あら、怖い」とかわしてみせる。
「貴女が怪我までしたと聞いたからお見舞いをしようと思ったのに。
 その調子ではあまり必要はないみたいだわ」
「分かったなら帰りなさいな。幾らオニーサマのお気に入りだからって――
 七罪(オールド・ワン)ですらない――『人間上がり風情』が余り調子に乗らない事ですわね」
 常人ならば――否、並の魔種でも震え上がり逃げ出すようなルクレツィアの威圧にもマリアベルは微動だにしていない。
 その存在感は否が応無くルクレツィアを苛立たせるものに他ならなかった。
「はいはい、分かったわ。
 お邪魔みたいだから私はこれで帰るけど――忠告だけはさせておいてね」
「……何を」
「『あんまりちょろちょろしないでね』」
「は――?」
「私が引き継ぎましょうか、と言っているのよ。
 七罪も最後の一人になってしまったのだし――
 下手にローレットを突いて、イノリが悲しむ結果は見たくないじゃない?」
 幻想はルクレツィアの『担当』だ。
 それは何年か前、イノリと七罪で話し合って決めた事だ。
(それを、今。何と言った? この女は!
 あろう事か、人間上がり風情が冠位の仕事を引き継ぐ、ですって……!?)
『まるで自分が敗れると言わんばかりのマリアベルに、ルクレツィアは我慢の限界を振り切った』。

 おおおおおおおお……!

 爆発的に増大した殺意が吹き荒れる。
 粘つく闇、冠位の居場所すらもが『震えている』。
「本当に短気ね。貴女達は」
 もし、マリアベルの姿が消えたのがあと少し遅かったなら――大変な修羅場は避けられなかっただろう。

 ……まぁ、継母は連れ子には好かれないものだものね?

「……クソ女が……ッ!」
 最後に余計な一言だけを残したマリアベルにルクレツィアは今日一番の憎悪の声を漏らしていた。

 ※プーレルジールのステラから、混沌のステラの存在を告げられました。


 ※『プルートの黄金劇場』事件が終幕したようです……!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM