PandoraPartyProject
『ゲマトリア』の選択
「ご機嫌よう、ようこそ。我が薔薇の庭園に」
一同の前に姿を現したのは聖女ルル――カロル・ルゥーロルゥーであった。
彼女の言の通り、この地は聖女ルルが有する固有の領域そのものだ。季節を問わず薔薇の咲き誇るその場所にはガゼボが存在して居たが『招待客』の人数を鑑みてパーティー会場を整えていた。
青空の下に設置されたテーブルには可愛らしいレースのクロスが引かれている。
ティースタンドにはしっかりと軽食やケーキが準備されており、アフタヌーン・ティーを楽しむつもりだというのが見て取れた。
「あ、キャロちゃん。紅茶は何にします?」
そそくさと茶の準備を始める夢見 ルル家(p3p000016)は遂行者の纏う白を身に着けている。
その様子をじっくりと眺めて居たアーリア・スピリッツ(p3p004400)は愕然としたようにルル家を見て、ルルとツロの顔を見遣った。
「……どういうこと、かしら?」
アーリアの問いに答えず席に着いたツロは笑みを浮かべている。
「話はあのハゲから聞いてんだろ。
見たまんまだ、見たまんま。俺らとテメェらの仲良しごっこは終ったって話だ。それ以上も以下もねェ」
じらりと見遣ったグドルフ・ボイデル(p3p000694)の視線を受け止めてからアーリアは唇を引き結んでから敢て笑みを作って見せた。
「さて……趣味が悪い、と言うべきでしょうか? 貴方の『ご主人様』は随分な性格ですね、アドレ」
「……そこが良いんだろうに、お母さん」
「母ではないですが?」
軽口を交えた遂行者アドレに小金井・正純(p3p008000)は眉を吊り上げた。
「一先ず、この度はお招き頂きありがとうございます、とでも述べておきましょうか。
貴方の言葉は実に心地がいい。きっとこの場にいれば救われる。
星の声すら届かないこの場にいれば、きっと私はどこまでも楽になれる。そう思えてきます」
正純は嘆息してから首を振った。それでも救われるのは今、ここではないのだ。
「私はこの場に留まることを、遂行者たる貴方たちについて知ることを望みます。
その結果が貴方たちの言う通りならば、私は迷うことは無いでしょう。
……もちろん武器は取上げて構いませんし必要であれば、この義手も破壊しましょう。如何なさいますか?」
正純を見てからアドレは「傲慢で、嫌いじゃないよ。正純」と囁いた。
「アドレが嫌いじゃないだなんてよく言ったな。……それで、俺は君と話が為たくて呼び出した。どうだい? 『アリア』」
呼び掛けに、あなたとこんな風に話したくなんて無かったとアーリアの瞳が告げて居た。
いつ気付いたのか。いつ分かって仕舞ったのか。なのに、見て見ぬ振りを為たのは――
「……ティルス」
呼び掛けてからアーリアは目を伏せた。彼が自信に名乗ってくれたその名前。あんまりにも『あの人』に似ていたから。
(……ええ、あなたの語る世界はいつだって美しくて。
あの頃真っ白な服を着て「商人」の話を聞いていた私とはもう違うから、海洋の潮風も、鉄帝のオイルの匂いも、ラサの日照りも、なんだってもう知っていたのに。
それでも貴方の語る世界が、私は大好きだった。だから私は、貴方に名を告げた――アリア、と呼ぶ声が、堪らなく好きだった)
それは、恋じゃなかった。喪った時間を取り戻すような、幼いよくだった。
「……ねえ」
アーリアは、その人の本来の姿を見ることが恐ろしかった。
馬鹿だ。馬鹿だった。気付いて居たのに。女の子って馬鹿だけれど。
「ねえ、もう一度教えて。貴方の名前は?」
「……ツロ。預言者、ツロだ」
囁く男の声音にアーリアは傷付いたような顔をしてから唇を引き結んだ。
あなたに、着いていくことが出来たならどれ程に幸せだっただろうか。
「あーーあ。暗いわ!」
叫んだルルは「ねえ、そう思わない?」とタイム(p3p007854)に問うた。
「待って、ルル。――ツロ? 前に会った時は違う名前だったと思うけど。そう、あなたが預言者ツロなのね」
タイムはルルを制止してからツロの前へと踏込む。
「良い言葉だったわ。召喚された時、わたしは元の世界のこと全然覚えてなかったの。分かるのは『呼ばれた』ことだけ。
元の世界には大事な家族がいるかもしれない、って何度も考えたことがあるわ。……じゃあもし。帰りたいと強く望んだら、今すぐにでも帰してくれる?」
「此方について世界を滅ぼしてくれるならね」
「今すぐ、よ」
タイムは眉を顰めて言う。ツロは「せっかちだ」と肩を竦める、が。
「出来ないんでしょう? ならこの話はおしまい」
手をぱちりと打ち合わせてから「それからね、予想が当たったの。アーリアさんも呼んでた」と悪戯めいて笑う。
最初から、彼女が居る事を見越して此処に来た。『ティルス』とアーリアの間に何かあることは察して居たのだ。
優しくて頼れる彼女。傷付きやすいくせに『大人ぶってしまう』彼女は屹度、この場で傷付いてしまう。
「私のこと、此処に連れて来てくれてありがとう。それだけ言うわ。だって、放って置けないじゃない」
「……いいや、……『俺』こそ『ありがとう』と言っておこうかな」
穏やかに微笑んだツロを見て「何、この空気」とルルは呟いて居ても立っても居られないとエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の肩を叩いた。
「アーリア、タイム、座りなさい。それから貴女は? エクスマリアね、座って。リーベから聞いてるわ」
「……ああ。茶と茶菓子くらいは、期待したいところ、だ。生憎、土産物は用意する暇が無かった、が」
着席したエクスマリアはツロの名乗りを聞いてから、はたと顔を見る。
「お前が、預言者ツロ、か。名乗られた以上は、名乗り返すが、礼儀。
エクスマリア=カリブルヌス。鉄の始祖に連なる、神話殺しの業を継ぐ一人……この世界では、無意味な名乗りだ、が。
預言者直々の招待と勧誘は、光栄であると思っておこう、か。それに、故郷から突然連れ去られ、力も失ったのは、確かにそう、だ」
「それで?」
「帰りたいかと問われれば、無論帰りたいに、決まっている。
その上で、だ。それらについてのケジメは『偽りの神』とやらに、直接詫びを入れさせる。マリアは、そう既に決めている。
それに、この世界にも既に愛着が、ある。故に、滅ぼすつもりは毛頭、ない」
「ふむ、交渉は決裂だな」
頷くツロはルルに向かって「紅茶を頂けるかな?」と問うた。
楽しげに茶会の用意をするルル家に、どかりと腰掛けたグドルフ。そして――不機嫌そうな顔をした楊枝 茄子子(p3p008356)の姿が見えた。
「ねえ、茶会とかしてる場合?」
「茄子子、焦っちゃ駄目よ。『偽の預言者』……じゃなかった、貴方の愛しい人を拐かす作戦会議も必要じゃない。
本当は呼んだのよ。此処にいらっしゃいって。どうやら来なかったし、他のイレギュラーズをお迎えに来ようとして門を叩こうとしているのですもの!」
唇を尖らすルルに茄子子は「イレギュラーズ来るんだ」と呟いた。
……シェアキムが『此方に来ない』のは当たり前の選択だ。そして、彼がその招待状を駆使してイレギュラーズをこの地、テュリム大神殿に送り込もうとするのだって――当たり前だ。
(……まあ、まだ時じゃないって事か)
茄子子は口を噤んでから腰掛けて「ルル、お茶」と不遜に言った。
「それにしたって、驚いたな。其方に居るのはゲツガ・ロウライト卿では?」
マルク・シリング(p3p001309)の問い掛けにゲツガは「如何にも」と返す。
「あら、私のことは無視?」――と。ゲツガとマルクの間に割って入ったのは遂行者オルタンシアであった。
「……オルタンシア」
「あはっ♪ どうかしたの?」
にこりと微笑んだオルタンシア。彼女が魔種であろうとも、遂行者であろうとも、互いを敵だと決めつけ憎しみ、殺し合う関係性にはマルクはなりたくは無かった。
遂行者が狂信ではなく、ある種の信念を持っていることを彼女を通して理解した。故に、マルクが一番に気に掛けたのが彼女なのだ。
「私に招待状を送ったのも貴女ですか? オルタンシア。
……少々予想外のお誘いで舞い上がってしまいましたが。その誘いは……残念ながら今受けることはできません」
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は真っ直ぐにオルタンシアを見ていた。愛らしく微笑む『聖女』は「あら」と大仰に驚いてみせる。
「振られてしまったわ」
「乳のアピールがでかすぎたのよ」
「いつもながら、聖女らしからぬ言葉遣いね。カロル」
オルタンシアにルルがべえと舌を出した。アドレが「並」と囁くとルルが鋭くアドレを睨め付ける。
「……拍子抜けする会話ですね。一先ず、私は貴女たち全てを否定するわけではない。
私はまだ何も知らないと自分で考えていまして……その手を取るにしろ、弾くにせよ、今しばらく貴方達のことを知りたいと、そう考えているゆえにこの場に残りたいと考えているのです」
これが危険極まりなくとも彼等のことを理解するチャンスであるとも理解している。
「一先ず、茶会の席……だったな」
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は席につく。
彼は旅人だ。遂行者そのものに理解は示さないが、偽りの神が存在し、この地に縛り付けている理由というのが気に掛かった。
元世界からの強制召喚が成された理由や、存在そのものについてを理解したかった。
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は「お茶をする、んだね」と呟いた。遂行者マルティーヌは「そうよ」と返した。
「やっぱり、マルティーヌも、いたんだ」
リュコスはゆるゆると顔を上げてから彼女を見た。赤い髪を結わえた娘は「座りなさいよ」と着席を促す。
「どうするの?」
「難しいことはわからない。けど……君たちのせいで苦しんでいる人がいる。
遂行者のいうことを聞くなら、ぼくたち旅人が外の世界から来たのはまちがいだってことになる……」
全てが『まちがい』だと言われることは嫌だからこそ、首を縦には振れないが――
全てを否定できないならば対話を望む。それがこの機会だ。
「お兄様」
囁く星穹(p3p008330)にセナ・アリアライトは「着席しよう」と告げた。未だ予断は許さぬ状況であることは確かだ。
此度、此処に集ったイレギュラーズは『一つの課題』を熟しながら、帰還の準備を整えねばならないのだろう。
その課題は――『彼等しか知らぬのだろうけれど』
「ねえ、美咲」
くい、と裾を引いた遂行者テレサを振り返ってから佐藤 美咲(p3p009818)は「はい?」と声を掛けた。
「美咲、はじめに言っておくけれど――いまね、一番あぶないのは、あなたよ」
「……はは」
乾いた笑いを漏した美咲は言われなくともと唇に含んだ。どうにも、一番に疑われているのは確かだ。
聖女ルルを優先するルル家に、聖痕を受け入れたグドルフ、そして――『シェアキム』を持ち出した茄子子。ツロがイレギュラーズの一人や二人でも殺してこいと言ったのは信用を勝ち取れという言葉そのものだ。
テレサが美咲の顔を覗き込む。じいと真っ直ぐに眺めてから花咲くように微笑んだ。
「ごめんなさいね、ただおしゃべりしたかっただけなのだけれど。こんな目にあわせてしまって!
ツロはあなたを信用していない。殺されてしまうかも。
信用を勝ち取るのであればお仲間を殺せといっていたけれど、怖いわね。私、脚が震えてしまいそう。
――今、そうしてみる? 誰がいい? なんて。
でもね、私とあなたのよしみよね。そんなことをしなくても、良い子にしていたら、守ってあげるわ」
テレサはそう言ってから、ぱっと美咲から離れた。
「ねえ、ルル。ミルクティーにしてちょうだいね」
「大名に言って頂戴」
大名と呼ばれたルル家は「ルル家ですが?」と眉を顰めた。が、直ぐに微笑んでから「さあ、お席へどうぞ」と彼女を誘った。
※一部のイレギュラーズが『聖女の薔薇庭園』なる地へと招待されたようです――!
※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!
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