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星灯聖典
帳の降りるその光景に、あるいは似ていた。
現実が現実で無くなっていくような、上書きされるような、それは冠位強欲ルスト・シファーの権能によって起こされた現象に、よく似ていた。
違いがあるとすれば、規模。そして、願いだ。『悲願』だと言っても、いい。
更地になっていた筈の広い広い草地が塗り変わり、豪邸が姿を見せる。
「おお、おおお……!」
その様子に目を見開いたのはこの領地を治めていた領主の男だ。名を確か、ミハルトンと言った。
彼は祈るように、あるいは縋るように言葉を紡ぐ。
「本当に、戻ってくるのですね……失ったものが、なにもかも」
「ええ、その通りです」
『彼』はミハルトン領主の肩を優しく叩き、囁きかけた。
心に滑り込むような、包み込むような、不思議な声色だった。
「今はまだあなたの焼け落ちた家が戻っただけ。けれどいずれは、あなたの家族さえも戻ってくるでしょう」
皆が見つめるその前で、彼は――聖騎士グラキエスは杖を掲げて見せた。
「星灯聖典に来たれ、失ったものを取り戻そう」
――『星灯聖典』。
それは天義を中心にして静かに広がり始めた奇妙な新興宗教であった。
聖騎士グラキエスを教祖に崇めるその団体の目的はひとつ。
失ったものを取り戻すこと。
例えば財産。例えば家族。例えば故郷。
星灯聖典は下賜した聖遺物『聖骸布』をリソースにして、帳内の現実を部分的に上書きする力をもっていた。
本来失われたものは戻らない。例えば死者蘇生はならないというのがこの世界のルールだ。しかし上書きされた帳の内側であるなら、かつての死に別れた者たちと過ごすことも、失われた我が家に帰ることも、焼け落ちた故郷で暮らすことも叶うのである。
更には聖骸布と融合することで超人的な力までも手に入れることができるとも言う。
事実何人かの遂行者たちは多くの聖骸布を下賜され、人外の領域へと足を踏み入れいている。
多くの者はその教義をまやかしだと吐き捨てるだろう。
天義への不正義として断罪する者もいるだろう。
だが、どうしても取り戻したい家族がいる者や、故郷を失った者や、中間と死に別れた者たちは少しずつだがこの教えの元へと集い始めていた。
そして彼らは知るのだ。
神ルスト・シファーがこの世界を真に治めたその時は、自分達だけが失ったものを取り戻しているのだと。
そのためならば、天義の大いなる教えに弓を引くことも厭わぬと。
聖騎士グラキエスはもう一度、声を大きくして呼びかけた。
「星灯聖典へ来たれ! 失ったものを取り戻そう!」
その声に、歓声が応えた。多くの、とても多くの歓声が。
声は熱狂となって渦巻き、人々は少しずつ心を歪めていく。
聖騎士様より下賜された聖骸布。これさえあれば。これさあれば――と。
※天義にて星灯聖典の教祖グラキエスが動き始めたようです……。
※天義、海洋方面で遂行者の行動が続いています――天義は対応に動いている様です。
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