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神代の記憶

神代の記憶

 昏い地の底で水面に揺蕩うように眠り、気まぐれに目を覚ます。
 遠い昔に焦がれた『白き蛇』は、己の腹の中で混ざり合い一つとなった。

 北の凍てつく大地で産まれた『黒き蛇』は、子である『光の神』によって故郷を追われた。
 砂の国へと身を寄せた黒き蛇は信仰という名の力を得る。
 このまま乾いた砂の上で人々を見守りながら緩やかに朽ちていくのも悪く無いと黒き蛇は思った。
 されど人々は争い、黒き蛇の恩寵を持ってしても簡単に命を落した。

 往く宛てもなく彷徨い、ようやく辿り着いた先で黒き蛇は『邪神』とされた。
 その身から染み出る毒は人間にとって『害悪』であるには違いなかった。
 悲しみと怒りが黒き蛇を覆う。この世に自分の居場所など無いのだと嘆いた。

 やがて、人々の祈りと共に『白き蛇』がやってきた。
 彼は『善神』であることを望まれ、黒き蛇を喰らうために送り出されたのだ。
 己の存在を賭けて戦った。二柱の神の戦いによって多くの人が死に絶えた。
 人々の嘆きと祈りが微かに聞こえた。

 いつしか、黒き蛇はその戦いが楽しいと思う様になった。
 何時までもこうして戦っていたいと思う様になった。
 対等に渡り合える白き蛇という存在は黒き蛇にとって救いであった。
 焦がれるような恋があった。地の底よりも深い愛があった。止め処なく溢れる情があった。
 此処が求めていた居場所なのだと黒き蛇は悟った。

 されど、白き蛇は『善神』たれと人々に願われていた。
 共存という道は無かったのだ。
 だから黒き蛇は白き蛇を喰らった。

 ――もう、二度と離れぬように。

 白き蛇へ託された願いごと全て喰らった黒き蛇は、『邪神』でなければならなかったのだ。
 自分の身を挺して人々を守ってくれた『善神』の尊厳を挫くわけにはいかなかった。
 人々の願いが白き蛇を善神にし、黒き蛇を邪神に押し込めたのだ。
 それでも、人々が安寧を享受できるのなら構わなかった。

「懐かしい夢だ。なあ……キリよ」
 己が喰らった半身に言葉を投げれども、昏き地の底には自分の声だけしか響かない。
 それが、少しだけ寂しいのだ。

 ※祓い屋で何か動きがあるようです。



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