PandoraPartyProject

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太陽の都ネフェルスト

 彼女が何を思ったのか、それは最後までは分からない。
 彼が何を思っていたのか、それも狂気というヴェールの下では霞んでしまった。
 旅人は反転しない。だが、蝕む狂気は遁れ得ぬ病のようなものであったのだろう。
 砂塵の彼方へより来たる異邦の者達が居所とした古宮カーマルーマは巨樹によって覆い隠された。
「周辺には砕けた紅血晶が霧散しています。最期まで、『博士』とはそうした人間であったのでしょうね。
 ……ですから、入ってはなりませんよ。烙印と同様の外見的変化が訪れる可能性がありますからね」
 そうは言いながらも内部へと二人、少年と少女が立っていることをイルナス・フィンナは識っていた。
 見逃したのは、今の時点で『揉め事』を増やすつもりがなかったからだ。それに、彼は利用価値がある。ラサとして――『終焉』に隣接する共同体として。
 嘆息しながら煎じられた『月の雫』を口に含んだ。肌に刻まれていた烙印は薄れはしたが、未だその存在を主張している。
 ファレン・アル・パレストは幾人かの『烙印』症状を確認してから、後遺症の答えを得たという。
「ファレン曰く、狂気症状は消失していますね。
 外見変化も……人それぞれであるかも知れませんが、大凡は元に戻ったのではないでしょうか。
 私は流れる血が……ほら、この通り。
 花弁の儘ですが時間が経過すれば何れは症状も緩和するのではないか、と」
 狂気状態が抜け落ちたことは前提として第一だ。実はそうした精神的変化に対して強く効能を表したのだろう。
 太陽への不快感、吸血衝動に関しては人それぞれとも呼べるらしい。
 特に外見的変化の効き目は差が大きく、イルナスのように外見の変化は大凡存在していないが血潮のみが変ずるパターンもある。
「イルナス、実はある程度採取できただろうか」
「ええ。赤犬も戻ってきたのでしょう?
 正直、のこのこと着いて行った事へ腹が立つので殴らせて頂けませんでしょうか」
 何処か吹っ切れたような顔をして物騒なことを言うイルナスへファレンは肩を竦めた。
 リリスティーネという一人の娘が生を終えた。
 彼女の義姉であり『唯一』は、呪縛より解き放たれその姿を本来のものへと転じさせたらしい。
 博士と呼ばれていた旅人が生を終えた。
 彼の所業は赦されるものではない。人体錬成を、不老不死を、死者蘇生を、混沌では許されぬ法則の穴を見付ける事が目的だったと言えよう。
 当たり前のことだが、命を作ることも、永劫に生きることも、死した者を取り戻すことも出来ない。
 この世界では遍く命は一度きり。もう二度とは戻ることはなく、仮初めであれど事実の命と成り得ないものだった。
 男が残した研究の結果は分かりきっている。
 反転とは『混沌法則』の上で、回帰出来ぬものであった。しかし、綻びを見つけ出せたのは冠位魔種が滅ぼされ、その数を減らしたからだろう。
 ――冠位魔種を打倒し、そして最後に存在する『原初』たるを討つ事が出来たならば。
 世界の法則が大いに乱れ、無数の可能性が満ち溢れる可能性もある筈だ、と。
 そうだろう、『特異運命座標』。可能性(パンドラ)を帯び、特異なる運命に選ばれた者達よ。

「それにしたって、仮想反転か……。『彼』はなんと?」
「自らが遣える冠位色欲がイレギュラーズの前に初めて魔種を送り込んだ際に繰り出した手法であったと」
 魔種『ジャコビニ』は色欲の魔種であった。だが、ルクレツィアと呼ばれる娘の小細工が彼を『多重』に反転させたのだという。
 それは冠位魔種にしか遣えぬ手法なのであろう。より強大な力を手にする魔種の肉体が『耐えきれるように』と冠位魔種達も加減が出来るようになったならば。
「……脅威と成り得ましょう」
 イルナスはそっと顔を上げた。
 深緑とも、覇竜ともとれぬ『空白地帯』
 それこそが、終焉。立ち入ることも許されぬ『影の領域』――
「これより警戒は続けて行くべきでしょうね。もしも、あの影が漏れ出したならば」
「そう……、最初にその被害を被るのはこの熱砂の地でしょう。さて、その為に英気を養うとしようではないですか」
 ファレンは自身の屋敷に料理は準備していると常と変わらぬ顔色でそう言った。
 イルナスは乾いた笑いを浮かべる。ああ、何時だって、この人はイレギュラーズ達を信頼しているのだ。
 何があったって、彼等となれば乗り越えられると。商人の勘は当たるのだと笑っている。
「イルナスが気に入っていた深緑のフルーツも取り寄せておきましたが」
「……成程」
 一先ず今は、休息の時だ。
 イルナスは目を伏せる。魔種は二度とは戻らない。それが世界の法則だった。
 妹が目の前で死に、反転した母を受け入れる事も出来ずに殺してしまった己は間違いではなかったと、そう思えた。
 あの人が、生きていたって苦しみ続けただけだろう。

 お母さん、貴女が生きた証を――このレナヴィスカを守り抜く。
 影も、滅びも、何もかも。貴女が愛したラサの地を護るが為に生きていくから。 
 明けない夜はないと言うけれど。
 陽の光が此程までに美しいと、感じられたのは初めてだったかも、知れない。

 ※<月だけが見ている>の決戦に勝利しました!
 ※烙印状態が解除されました。
 ※烙印の後遺症には個人差があり、現在ラサ上層部が調査中です――


 ※海洋王国方面にも『帳』が降り始めたようです! 神の国に渡り対抗しましょう――!
 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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