PandoraPartyProject

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月眩の国

「ご機嫌よう、麗しの女王」
「そんな気取ったご挨拶、必要ないけれど」
 頬杖を付いたままリリスティーネ・ヴィンシュタインは『博士』プスケ・ピオニー・ブリューゲルを眺めやった。
 眼前の男は何時だって楽しげな笑顔を浮かべている。いや、最早男と呼ぶべきではないのだろうか。肉体は継ぎ接ぎだらけ、様々な人間のパーツを楽しげに組み合わせた『ご機嫌ボディ』の持ち主だ。
「そう言わずに。私の現状はご存じだったかな」
「ええ。ここ……古宮カーマルーマはその名を大精霊から取った、んでしょう?
 本来は其処に居たはずの大精霊をあなたがお腹の中に閉じ込めてしまった。何時かのファルベリヒトの力を使って」
「ああ、話したことを覚えてくれて居るだなんて、光栄だな」
「ちょっと、どう言う意味」
 唇を尖らせれば、やや幼く見えたリリスティーネは拗ねながらふかふかとした椅子に埋もれるように凭れ掛かった。
 長く伸ばした桃色の髪が椅子から垂れ下がり地をなぞる。『博士』はその様子を眺めながらも「綺麗な髪だなあ」と何気なく呟いた。
「あげない」
「これ以上貰うと『番犬(エルナト)』に叱られてしまう。余剰に血を貰っているのだからね」
「……」
 博士はリリスティーネの『血』を拝借していた。腹の中にいる大精霊カーマルーマ、リリスティーネの血液、それから言葉にするも悍ましいような数々のモノを混ぜ合わせて作り上げた『紅血晶』はどうやら効力が強すぎて、人間を異形に変えて仕舞ったが、失敗もツキものだ。仕方がない。
 だが、『烙印』は少しばかり違った。リリスティーネの『血』の配合量を変えたモノは人体に適応した。
『偽』反転状態を作り出すことが可能だった。徐々に、烙印を浸透させるように緻密なコントロールが必要だ。で、なくては人体が変化に足られない可能性があるからだ。
 そのコントロールのために駆使したのがリリスティーネが告げた『大精霊カーマルーマ』である。
 カーマルーマをファルベリヒトの力を駆使して己の中に閉じ込める。
 死と再生を司ったその精霊の力を体内でコントロールすることで、烙印の進行速度を緩めることが可能だった。
「今、ローレットのイレギュラーズと呼ばれた『君のお姉さんのご友人』達は血が花に転じ、涙が水晶になった程度だ。
 けれど、私がカーマルーマを呼べば、一気に変化が現れる。暫くは停滞し『烙印をばら撒く』事を目的としたけれど……そろそろ頃合いだ」
「どうして?」
「月の王国に引き入れたんだ。足を踏み入れた『烙印』を持ったイレギュラーズ達の『烙印の進行度』を一気に加速させる。
 そうして、此方の手駒にする準備が出来る。カーマルーマもそろそろ我慢の限界だからね。力を解放してあげなくては私の腹が破裂してしまう!」
 面白いことでも言ったつもりか。博士は腹を抱えて笑い始める。一頻り笑っただろうか。醒めた目で視ているリリスティーネに気付いてから涙を拭いて、ふと首を傾いだ。
「彼は?」
「……ああ、『赤犬』なら王宮の中で勝手にして貰ってるわ。どうせ、外には出れないもの。
 カーマルーマの防衛魔法は便利ね。外からは壊すことが出来るけれど、中は『護っているから好きには出る事が出来ない』のだもの」
「だから、連れてきたのさ! 『赤犬』に普通に暴れ回られて出て行かれても困るし、邪魔だてされても困るからね」
「……もし、防御魔法を破られて王宮にイレギュラーズが踏み入れたら?」
「ご対面だ!」
 ぱちん、と手を叩いた博士にリリスティーネは苦虫を噛みつぶしたように「くそ」と呟いた。
 一番に避けたいのは執着とも呼べる歪な感情を向ける『姉』が『姉の好いた男』に会うことだ。
 何が恋だ。何が愛だ。何が、好きな人だ。
 莫迦らしい。貴女がそんな感情を向けるだなんて、許せない。
 貴女は、始祖種ではないか。貴女は生まれながらの王だったではないか。
 仮初めの、武力ばかりの王にうつつを抜かすなど―――!
 呪縛(ツュッヒティゲン)が囁いた。

 ――ねえ、することは、分かってるだろう?

「黙って」
 リリスティーネは首を振る。
 博士は「どうしたんだい」と声を掛けたがリリスティーネは応えやしないままだった。
「ねえ」
「どうかしたかい?」
「いっそ、『偽』反転状態で『呼び声』を拒絶した人間は花にして散らしてあげるのはどう?」
 リリスティーネの問い掛けに博士は「それも素敵だねえ」と微笑んだ。
「それじゃあ、我らの女王は『王宮』を頼んだよ。私は、夜の祭祀に行ってこよう。丁度、『はじめて』烙印を与えた子達が折り返しに入るからね」
 烙印の残日数が進む度に、変化はその身を襲うだろう。
 太陽に不快感を覚えるだろう。狂気はその手を僅かに鈍らせるだろう。強く、強く腹が減ることだろう。
 ――女王に焦がれ、愛おしくなるだろう。リリスティーネ、己の『血』の源を、深く愛するだろう。
 心酔さえすれば一時的な命の保証は出来よう。否定すれば彼女の言う通り花に変化させ散らしてしまえばよいだろう。
「私は、ただ、知的好奇心さえ満たされればそれで満足だからね」
 博士はにんまりと笑った。招待状は配布した。
 カーマルーマは『死と再生』を操るが如く、烙印の進行速度を高めてくれるだろう。その為に、祭祀を完遂させなくては。
「ご覧あれ、紅の女王。君に、楽しいダンスパーティーを披露しようではないか」

 ラサに存在する『月の王国』にて大規模な儀式が行なわれています。反撃し侵攻しましょう――!


 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)


 ※覇竜では『ラドンの罪域』攻略作戦が行なわれています――!

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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