PandoraPartyProject

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内紛

 此処に閉じ込められて、幾日が立ったか――と、アストラ・アスターは思案する。
 上質でもない石で作られた床と壁から察するに、おそらくはかなり古代の遺跡の残滓を再利用した場所なのだろう。目の前には急ごしらえの木の扉があって、小さな明り取りの窓から月が内部を照らしている。
 この場所では、日は昇らない。常に、月がその顔を見せていた。この場所は、永遠の夜の場所なのだ。月の王国と呼ばれる、その場所では。
(この地に潜伏して幾日か。敵からの襲撃がないのだするならば)
 アストラは思案する。
(我々は脅威とみなされていないか、あるいは『直に内部崩壊する』とみられているということか)
 敵というのが、この場合ローレットを指すのか、あるいは『月の王国の陣営』を意味するのかといえば、後者である。ローレットは、様々な思惑からこちらに……『エーニュ』に手を出してくるはずだ。アストラは、そのように理解していた。
 ここでエーニュとはと説明すれば、簡潔に言えば『幻想種のみで構成された民族主義的なテロリスト』である。とりわけ、その構成員は先のザントマン事件の被害者が多く、必然、ラサに恨みつらみを持つものが大勢参加していた。そのため、『ラサへの攻撃』に当たる今回の遠征に反対する者はいなかったし、実質的な『組織の再起をかけた一発逆転』に乗らざるを得なかった、という事情もあった。この一発逆転というのが、ラサの民がため込んでいると目される(そして実際にラーガ・カンパニーが運用していた)『オラクル=ザントマンの遺産』の奪取であるわけなのだが。
「結局、我々がラーガこそがザントマンの後継者だと感づいたときには、月の王国に逃げられていたわけか」
「いや、リッセは騙されていたわけじゃない」
 そういって、部屋に入ってきたのはティーエ・ポルドレーという男だった。その顔が義憤に彩られているのは、アストラを敵だと思い込んでいるからである。
「ラーガを追い詰めるために、利用されたふりをしていたわけだ。問題は、そこにお前のような裏切者がいたことだよ」
 ティーエのそれは、半分は正解で、半分は自己正当化のための偽りだった。リッセら上層部が、ラーガを信用していなかったことは事実。とはいえ、動きにのせられたことも事実。そして、アストラは消極的な厭戦派ではあったが、組織の裏切り者というわけではない。
 アストラが危惧していたのは、ローレットとの完全衝突による、自分の部下たちの消耗だった。それを避けるための暗躍は行い、損耗を最小限に抑える企てはした。ティーエは阿呆なので確実に騙せてはいたが、問題は、その上の人間たちは、存外に阿呆ではなかったということである。
 組織に疑われていたアストラは、まずその部下を拘束されていた。アストラにとって、部下=患者は、いずれ救うべき存在であったから、それを抑えられては抵抗できるはずもない。そして、如何にこちらが言葉を尽くそうとも、既に『アストラは敵である』という事実形成によって動き出したエーニュは、もはや当事者からの言葉程度では止まらぬ暴走列車と化している。
 簡潔に言えば、絶体絶命、と言えた。
「まさか敵と内通していたとはね。烙印を付与したものたちを、アジトに送り込んだのも君なんだろう?」
 そう、小ばかにしたように声をかけるのは、ティーエとともに入り込んできたもう一人の男だった。神経質そうな表情をしたその男へ、アストラはあきれた声で、
「そちらでは、そんなことにまでなっているのか? ペニンド・パーマランベ
 そう言った。
「冷静に考えたら、私にそんな余裕と時間ないことくらいには気づくだろう?」
「僕はそう思うけどね。でもほら、魔女狩りってやつでもさ、一致団結にはやる必要はあるし、そういう時は魔女は必要だろう?」
 ペニンドは笑った。
「魔女がいなけりゃつくりゃあいいんだよ」
「組織の末路だな。そうやって内部から壊死していくんだ」
 そういいつつ、アストラは思案する。どうやら、今回の遠征の大失敗判断そのものを、アストラの裏切り行為のせいだということで組織は留飲を下げたいらしい。まさに人身御供に祭り上げられたわけだ。
「ふざけるなよ、魔女が」
 ティーエが激高したのへ、アストラは笑う。
「リッセがそういったのか? あの病床に臥せっている女が?」
「リッセが烙印に付したのはお前のせいだろう!」
 ティーエが、アストラの頬を殴った。腕が縛られているので、ろくに受け身も取れない。冷たい石床に、全身が叩きつけられるのを感じた。
「この裏切り者が! 俺は優しいが、お前ばっかりには、それを向けたいとは思わない!」
「まぁ、それはいいんだが」
 ペニンドが、ティーエを制する。
「魔女にもほら、最後まで役に立ってもらわないとさ。で、これ。なんだと思う?」
 そういって、ペニンドが、赤い液体を湛えた注射器を取り出した。
 嫌な、予感がした。
「……吸血鬼の」
「ご名答! 血! まぁ、正確にはそうじゃない。色々と、継ぎ足してある。僕の科学を総動員した、イータに続く大発明だ!
 烙印の力をそのままに――それを打ち消し、力にすることができる。たぶんね」
「たぶん?」
「それをこれから実験するんだろうが。というわけで、まぁ、せいぜいしばらく死なないでくれ。裏切者なんだから、最後くらい貢献しなよ」
 ゆっくりと――ペニンドは、アストラへと、その針を近づけた。

 ラサ、月の王国にて何が動きがありそうです……。


 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)


 ※覇竜では『ラドンの罪域』攻略作戦が行なわれています――!

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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