『アドラステイア上層攻略作戦』は大詰めを迎えていた。
「……ん」
　濡れた布を手に、負傷した天義騎士の傷口を拭うラヴィネイル・アルビーアルビー。
　振り返ってみると、同じように負傷した騎士たちの姿がいくつもある。
　ここは上層を攻略するにあたって仮設した後衛拠点である。この場所に負傷者が多くいるというのは、それだけ苛烈な戦いが上層で行われていることを意味していた。
　そこへ、かなり疲労した様子でイレイサ（p3n000294）が戻ってくる。
　カンパーニレ内部、ヘブンズホールと呼ぶべき場所で『プリンシパル』アウセクリスたちとの戦いに勝利し、つい今し方帰還したばかりだ。
「……ただいま」
　イレイサの手を引いて、シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は柔らかに笑った。
　ハッと振り返るラヴィネイル。彼らの作戦は無事に成功したらしい。負った怪我の様子からして無事と言うのはやや苦しいが、命より重いものはないだろう。
「どうやら、他の作戦も成功したようですね」
　そこへヨハン＝レーム(p3p001117)が大勢の天義騎士を連れて戻ってきた。おそらくヨハンの功績だろう。騎士たちに大きな怪我はなく、多少の治療と補給だけですぐに戦場へ戻るつもりのようだ。
　今も未だ、疑雲の渓やヘブンズホールにおける偽神ファルマコンとその軍勢との戦いが続いているのだから。ヨハンたちとてその戦いに加わるという点で例外ではない。
　それでも戻ってきたのは、そうするだけの理由があるからだ。その理由を、ヨハンは笑顔で述べた。
「いいニュースです」
　彼らはバイラムに寄生されていたメビウスを相手にヘブンズホール内で戦っていた。
　その目的の一つに、イコル中毒者の治療方法を聞き出すというものがあったのだ。
　そしてその成果として……。
「皆さんの活躍で、治療方法をバイラムから聞き出すことに成功しました！」
　周囲の騎士たちやローレットの仲間達から『おお！』という声があがる。
　イコルはアドラステイアという独立都市が生み出した悲劇のひとつであり、おそらくはアドラステイアを陥落させたとしても消えない悲劇だ。
　主に錠剤の形で出回ったそれはアドラステイアの子供たちを中心に与えられ、多幸感と引き替えにひどい中毒性を持つ。イコル中毒になった子供は、たとえアドラステイアが無くなってもイコルを探して彷徨うだろう。
　彼らだけではない。既に捕まえ、禁断症状に苦しむ子供たちもまた救うことができるはずだ。
　そこへ、マザー・カチヤとソフィー・イザベル・オルジアスの部隊と戦っていたチームも戻ってきた。
「こちらも、作戦は完了だ」
　Tricky・Stars（p3p004734）の『稔』がそう告げた。
「まず、オンネリネンの新世界側の後ろ盾である、ソフィー・イザベル・オルジアスは無力化。
　現在は、騎士たちに護送を任せている。
　そして、実質的なオンネリネンの首魁であった、マザー・カチヤ……彼女は魔種だったが、こちらは討伐を完了した」
「つまり――」
「オンネリネンは壊滅した。もう二度と、子供たちが傭兵として、外で悲劇に見舞われることはない」
　ああ、と誰かが安どの声を上げた。もう、子供たちの涙は流れない。いや、もし流れるとしても、これからはきっと、喜びのそれに代わるのだろう。
「二か所の作戦は成功した、ということですね」
　ヨハンが言う。
「ああ。あとは……」
　稔がうなづいた。
　ファルマコンとの決戦。その戦いの決着を待つだけだ。
　吹雪は多少弱れどいまだ強く、強く、アドラステイアの地を包んでいた――。

　※アドラステイア上層攻略作戦が大詰めを迎えています！
　※イコル中毒の治療方法が判明しました！
　※オンネリネンの壊滅に成功しました！