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シナリオ詳細

<フィクトゥスの聖餐>王国の崩壊

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カチヤとソフィー
 世界はままならないものだ、とカチヤは思う。初めてそう思ったのは、まだ子供のころ。神学校の寮で同室だった彼女……イレーヌ・アルエに対する、この国のあまりにも悪辣な態度を目にした時だった。
 イレーヌ・アルエは才能があり……カチヤも、まったく、勝ち目がないと思うほどの聡明さを持ち合わせていた少女だった。ゆえに、大人たちは彼女を恐れ……時に不正義の烙印を押し付けるような嫌がらせも行い、叩き続けた。
 なんとも醜いのだろう。この国は、まったく、この国は……悪意と汚泥に満ちていた。白く清くを謳う白亜の都は、とっくの昔に泥にまみれた黒の都に違いなかったのだ。イレーヌをこの国に召し上げていたならば、きっとこの国はもっと早く変わっていただろうに。
 カチヤにとって天義国とは、もうなんとも、価値のない存在にすぎなくなっていた。こんな馬鹿どもの巣食う国など、救う価値などはないのだ……。
 その絶望が頂点に達したのは、先の天義の大異変の際だった。冠位魔種による策謀。アストリアという悪物による暗躍。それを自らの力で排除できない無能ども。
 絶望だった。あのイレーヌを追いやって、それがこのざまだった。その絶望は、彼女を人でなくしてしまうほどには深いものだった。

 カチヤにとっては、天義国を滅ぼせるなら、手段は問わないものだった。だが、先の戦いで冠位魔種が敗れたことも知っている。自分一人では、天義国の崩壊までは持っていけないだろう、という冷静さをカチヤは持ち合わせていた。ゆえに、彼女はアドラステイアに潜伏することを選んだ。天義国の崩壊という点で、彼らとカチヤの思惑は一致していた。カチヤは自らが『動きやすくなるように』、ソフィー・イザベル・オルジアスと接触し、彼女の事業である『オンネリネン』の成立に協力した。そしてその首魁に自分を置くことで、都市における一定の発言権と地位を得た。
 順調にいけば、アドラステイアを切っ先に、天義国を崩壊に導ける……そのはずであった。

 ソフィー・イザベル・オルジアス。反・旅人(ウォーカー)主義者たちのギルド新世界に所属する。才覚のあった彼女は研究者としての道を志していたが、生来の『正義感の強さ』から周囲とはうまくコミュニケーションが取れなかったとされる。物語の勧善懲悪を好む彼女は、世界にもそれを求めた。
 ある時、旅人(ウォーカー)の存在による世界への悪影響を記した研究書を読んだ彼女は、その内容にのめりこんだ。その姿勢をいさめる友は彼女にはいない。やがて『旅人(ウォーカー)は世界にとっての悪である』と確信した彼女は、旅路の果てに新世界のメビウスにスカウトされる。
 彼女を語るなら、とカチヤは思う。間違いなく、『善人』であるのだろう。彼女にとって『旅人(ウォーカー)を討つ』ことは正しく、正義の行いだった。そして、その悪を討つために子供たちを鍛え、戦力とすることも、彼女の中では正しい行いだった。
 彼女は勧善懲悪の物語の中の、善であることを望んだ。善なる存在が、彼女の思う悪を討つ。それは夢の物語だった。だからカチヤは、彼女を『夢見がち』と語っていた。
 自分を善性だと思うものは、常に気を付けなければならない。誰があなたの善性を保証するのか。結局のところ、世間から見ればソフィーは悪だろう。だが、新世界という閉じたコミュニティの中では、彼女は善性の人間であり、その行いは善であることは間違いなかった。
 自らを由とするということは、つまりそういうことであった。常に自分が『何を行っているのか』を自覚しなければならない。そうでなければ、人は自ら静かに狂っていくだけなのだ。ソフィーは、自らの善性の由を、新世界に頼ったともいえた。彼女は幸せだろう。自分は間違いなく、善きことをしていると信じている。だがそれは、狂気に陥っているのと何が違うのだ。

「結局のところ」
 カチヤはつぶやく。
「誰もみんな静かに狂っているだけなのかもしれませんね」
 がちり、と爪を噛んだ。いらだちの発露だった。ソフィーはこの期に及んでも、自分の善性を信じていた。吐き気がする。あの時壊そうと思った天義そのもののような女だと思った。
「そんなことはありません」
 ソフィーが言った。
「旅人(ウォーカー)が世界に悪影響を及ぼしていることは事実なのです……多少の毒をもってしても、それを制しなければ」
 正義感の強いやつだ。だがその正義感が暴走したときに、こうもなるのだな、とカチヤは思う。とはいえ、翻って自分を顧みられないところが、彼女の限界か、あるいは彼女が『魔である』所以であるのかもしれないが。
「悪いのは、ローレットなのですから」
 ソフィーが言った。ある意味では、彼女も哀れなのかもしれない。孤立した彼女を救ったのは、世界のゆがみに対する正義感なのだろうか。
「いずれにしても、ローレットは来るのでしょう」
 カチヤが言った。
「迎撃は必要です。おそらく、この場で彼らを迎撃できなければ、新世界も終わりでしょうし」
「そうなれば、この世界の終焉でもあります」
 ソフィーが言った。ふぅ、と息を吐く。正義の剣。正義の銃。ソフィーの武器は、今はこれだけがすべてだ。
「ローレットを迎撃します。世界を救うために」
 その瞳に迷いは嘘偽りはなかった。きれいなものだ。だからこそ吐き気がした。
「ええ、そうですね」
 カチヤがうなづく。自分が追い詰められていたことは自覚した。外は吹雪いている。ひどい吹雪だ。だが、戦闘の混乱の中、魔種が一匹消えた程度、誰も気づかないかもしれない……。
 カチヤはまだ、この期に及んで生き残るつもりだった。生きぎたないといえば全くその通りだが、しかし人は生きてこそだという信念が、カチヤにはあった。

●吹雪下の決戦
「カチヤは魔種だ」
 言葉を上げたのは、Tricky・Stars(p3p004734)の稔だ。吹雪の中、イレギュラーズたちは進撃する。目指すは上層奥。決戦の地だ。
「奴を逃がすわけにはいかない」
「そうだね。情報によれば、カチヤは新世界のソフィーのもとに逃げたんだったね」
 Я・E・D(p3p009532)がそう告げた。得られた情報によれば、カチヤはソフィーのもとにたどり着き、応戦の準備を整えているはずだった。
「新世界ね」
 キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が鼻を鳴らす。
「バスチアンが出資してた連中か。ま、奴には悪いが、このまま新世界そのものも破壊させてもらうか」
「……そうだな。いずれにしてもアドラステイアを運営していたような連中だ」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)がうなづいた。
「カチヤも……ともに倒してしまうのが一番だろうな」
「カチヤ、ですか……」
 マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が、わずかに顔をしかめた。あの、奇妙な女。
「大丈夫ですか……?」
 アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)が訊ねる。マリエッタは頭を振った。
「はい、大丈夫。大丈夫、です」
 微笑む。ただ、何か……ざわざわとしたようなものが、胸の内に走るような感覚があった。
 それは、この激しい吹雪のせいだろうか? 一寸先も見えない、不安の象徴のような吹雪。でも、それとは違う気もした。ただ、それの正体が何かを察する間もなく、吹雪の中に、二人の人影が見えたのは確かだった。
「ローレットですね」
 長髪の女が言った。
「ソフィーですね?」
 アリシアが訊ねる。
「その通りです。悪しきローレットの旅人(ウォーカー)たちよ。あなたたちの野望はここでついえるのです」
「だ、そうです」
 カチヤはそういって、下卑た笑みを浮かべた。
「私もいい加減、本気で戦わなければなりませんね。追い詰められていることは事実ですから。
 ですが、オンネリネンのガキどものように、たやすく御せるとは思いませんよう」
 カチヤから巻き起こるそれは、間違いなく魔のそれであった。恐ろしい、おぞましい、魔種の気配だ。
 イレギュラーズたちは武器を構えた。吹雪の下での決戦が、始まろうとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 アドラステイア決戦。重要人物二名を討伐します。

●成功条件
 ソフィー・イザベル・オルジアスおよびマザー・カチヤの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ついにアドラステイア上層での決戦が開始されました。
 皆さんは、ソフィーおよびカチヤを討伐する少数精鋭部隊の一員として、上層に突入しました。
 激しい吹雪の渦巻く中、皆さんは目標のソフィー、およびカチヤに遭遇にします。
 多くは語りません。ここで確実に撃滅し、新世界とアドラステイア、そして『オンネリネン』の息の根を止めてください。
 作戦結構タイミングは吹雪の中の夜。周囲は暗く、視界はあまりよくないです。

●エネミーデータ
 ソフィー・イザベル・オルジアス
 ギルド・新世界に所属する女性です。
 基本的にはインテリ系の働きをする女性ですが、戦闘能力も決して劣ったものではありません。
 オンネリネンの『後ろ盾』であり、彼女は『薬物汚染されていない子供たちによる、正しい対・旅人攻撃部隊』のためにオンネリネン部隊の結成しています。
 手にしたブレードによる近接戦闘、および銃器による中~遠距離戦闘をこなします。体術は得手としているようで、素早い速度からの連続攻撃などに警戒してください。
 回避率も高いため、集中攻撃をするなどして確実に攻撃を当ててやるのがいいと思います。

 マザー・カチヤ
 アドラステイアにて、オンネリネンを実質的に指揮していた女性です。また、魔種でもあります。
 己の野望である『天義国崩壊』のために、アドラステイアを利用する形で身を寄せていました。生きぎたないため、今も逃走を狙っている気配を感じます。的確にブロックなどして、足を止めてやるのがいいでしょう。
 基本的には術者であるため、遠距離攻撃術式を得手とします。また、復讐や背水など、追い詰められてから本領を発揮するタイプでもあります。カチヤを先に沈めるか、足止めにとどめ、ソフィーを先に沈めるかは作戦次第となります。ただ、どちらにしてもカチヤは魔種です。強力な相手になるでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <フィクトゥスの聖餐>王国の崩壊完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年01月20日 22時45分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●吹雪の決着
 吹雪が、あたりを包んでいる。
 暗闇の中、二つの影がたたずんでいる。
 ソフィー・イザベル・オルジアスは、こちらに対しての明確な嫌悪感や敵対心をあらわにしていた。悪しきものを見る、正義の者の目だった。
 その心に、己が『まちがったことをしている』意識は一切ないのだろう。曇りや後悔もないのかも知れない。
 であるならば――彼女は真実、狂っているのだろうか? いや、それはいわゆる狂気的なものとはまた違うのかもしれない。盲信、であろうか。信じたものが違う、あるいはそれがより邪悪なものであった、とするのであれば、ソフィーは狂っているのではなく、正気のままに道を踏み外した、というべきだろうか。自覚のない悪は最も邪悪であるともいえる――ならばソフィーは、真実、悪であるのだろう。少なくとも、この世界においては。
「あなたたちが」
 ソフィーが口を開いた。
「ローレット・イレギュラーズですね。実際にこうしてお会いするのは初めてです」
 ゆっくりとそういう。
「どうも」
 『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)が警戒を解かずにそううなづいた。
「初めまして――というべきなのかな。でも、わたしはあなたという個人を知らなくても、あなたという存在はずっと追っていたんだと思う。
 この街を、子供たちを利用する何かを、ずっと――わたしたちは追っていた」
 追っていたが故に、多くを傷つけた。
 助けられない子供たちを、撃ったこともある。
 手を差し伸べて、助けた子供たちもいる。
 そのすべてが、Я・E・Dや、かかわったイレギュラーズたちの心に、体に、何らかの痕を残している。
 そんな出来事の、大元が、首魁が、ソフィーであるとするならば、イレギュラーズたちはきっとずっと、ソフィーを探していたのだ。
 この現実を、変えるために。
「悪しき旅人(ウォーカー)たち、といったね」
 Я・E・Dが言った。
「つまり、旅人害悪論が、あなたたちの根底にあるんだ――ああ、カチヤは多分違うんだろうけど」
 カチヤが小ばかにしたように笑みを浮かべて、「そのとおり」とでも言いたげに肩をすくめた。Я・E・Dの言葉には頷いたわけで、小ばかにした相手は、Я・E・Dではなく、ソフィーなのだろう。つくづく、このカチヤという女も、性根が腐っているものだな、と思う。
「そうですね」
 ソフィーがいう。
「あなたたちは、存在するだけで、この混沌世界に悪しき影響をもたらすのです。
 あなたたちを……混沌世界は、そのすべてを使って、排斥しなければならない」
「それが」
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が言った。
「未来ある子供たちを、使いつぶすかの如く利用してきたいいわけでありますかッ!」
 怒っていた。アドラステイアのやり口は、まったく、容認できるものではなかった。
 子供が戦う、ということもある。ローレットにおいても、『そうせざるを得ない』子供たちは確かに存在する。
 だがそれも、ローレットが主導したわけではない。様々な理由から、子供たちは今を生きるために、運命にあらがうために戦うのだ。
 だが、アドラステイアにおいては違う。ソフィーが考案し、カチヤが指揮したオンネリネンにおいても違う。子供たちはその心を体を侵され、鎖にからめとられた状態で命のやり取りを余儀なくされる……それが健全で正しいはずがない。
「いいわけにもなっていない! あなたは何を考えてこんなことをッ!」
「あなたのような『旅人(ウォーカー)』のせいでしょう!?」
 ソフィーが叫んだ。
「あなたたちは世界を侵す猛毒。なれば世界のすべてを以て、その存在を倒すべきなのです!
 子供たちもいずれ、あなたたちを倒すべく、戦いに身を投じる可能性があります。ならば、今からその戦う力をつけさせてあげるのは正しい行いです!」
 ソフィーが叫ぶ。その目は正気であったが、狂気的であった。
「確かに、ファルマコンの血液に子供たちを汚染する……これは私もよくないことだと考えました。
 だからこそ、ファルマコンに汚染されない、心から信じあい、愛し合い、そして旅人を憎む子供たちを作りたかったのです。
 それが、『オンネリネン』……心から家族のために『旅人(ウォーカー)』と戦う、幸せな子供たち――!」
 なにが、と、ソフィーが言った。
「何が間違っているというのですか?」
「そんな」
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が言った。
「『そんなこと』のために、あの子たちは」
 アーマデルが、わずかに奥歯をかみしめた。
「ミーサ殿は、本当に……『家族を心配していた』のだぞ……!?
 覚えている、ラサで、各地で出会った子らを……!
 寄る辺なき子らの屍の山を築き、それが……そんなことを、あなたは……!」
「よい子のようですね」
 悪びれもせずにソフィーが言った。
「その家族から引きはがしたのは、やはりあなたたちではないですか!」
「偽りの鎖で雁字搦めにして、それを正当と名乗るなら、やはりあなたたちには相いれない……!」
 アーマデルが叫ぶ。『社長の視察』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が、ふん、と鼻を鳴らした。
「ああ、ああいうのはめんどくせぇんだ。キラキラしてるだろ、目が。自分が正しいと疑って信じねぇ……夢見がちな奴の目だよ」
 皮肉気に、くちもとを吊り上げてやる。
「ま! 悪しき旅人ってのは否定しねェなあ! ギャハハハ!
 こちとら目的の為なら合法非合法に限らず手段を選ばないんでね。

 でもなあ、旅人なら全部同じと引っ括めて白か黒かの杓子定規な考えは良くないぜ?
 この世界はそんな単純じゃない。
 だから俺も起業して社長業出来てる所あるんだぜ?」
「……あなたのようなものを見ていると、メビウスさまの理論は正しかったと確信できます。やはり、この世界に旅人(ウォーカー)は不要なのです」
「己が善で己が正しく、故に殺めた命に後悔など微塵もない。
 反省とは無縁の人でなしが特に多いパターンですねえ。殺していいのでは?」
 あきれたように言うのは、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)である。
「いいえ。きっと、己の手が血に塗れていることにも気づいていないのでしょう。
 あなたの一言が、あなたがサインした書類が。どれだけの命を奪い、どれだけの悲劇を生み出したか。
 それも理解しないまま、正しい行いだと信じ、自分の手はキレイだと錯覚する。
 あなたが、子供たちを殺し、破滅へと追い込んだのです。
 ああ、反論は結構ですよ。2パターン予想しています。
 『心は痛むが、大義のためにはどうしても犠牲は出る』。『その子供たちを殺したのはお前たちだ』。
 どうせどっちかでしょう? こういうことを言われた小悪党は、だいたいこういうことを言うのです」
「……」
 ソフィーが、ぐ、と歯をかみしめて、瑠璃をにらみつける。どうやら想像通りの言葉をはこうとしたのだろう。
「ああ……理解できたような気がするよ。
 どうして子供達にあんな酷い事を平気させる事ができたのかと思っていたけれど。
 それが貴方にとっては『正しい事』だったから何だね」
 Я・E・Dが納得したように言った。
「だからといって、許せることではないけど。ここで止めさせてもらうよ。こんな悲劇は」
「ソフィー、貴女の理想が人々の溝を深めるのなら、過去の私と同じ道を歩むなら止めなければいけない」
 Я・E・Dの言葉に、『双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)が続いた。
「この混沌世界はすべてを許容する。そんな風に、私は思う。だから、外の世界から『旅人(ウォーカー)』も、この世界の一員。
 貴女の理想は間違っている。だから、ここで、潰えてもらう。それから」
 す、と目を細めていった。
「私の白き焔の魔法書、返して貰うわよ」
 ソフィーもまた、目を細めた。吹雪がごう、と一層強くなったような気がした。あたりの暗さが増したような、そんな感覚。絶風の中に、因縁と、決着を求めて、我らはいる。
「というわけで、オンネリネンの後ろ盾、スポンサー、全部の大元はあっちです」
 カチヤが小ばかにしたように声を上げた。
「なので、私は無実です……とはいきませんかね? もちろんジョークですが」
「笑えない冗談だな」
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)の稔が言った。
「ソフィーにも言いたいことは多少あるが、俺達の目的は特にお前だ、マザー・カチヤ。
 随分と後ろを気にするじゃないか。逃げる気なんだろう?」
「バレバレですか?」
 カチヤが肩をすくめた。
「まぁ、そうです。ぶっちゃけこんなところで死にたくはありませんからね」
『反省しねーし、隙あらば逃げようとするし! 本当どうしようもねぇ奴だな!?
 そうやって独りよがりだから神様もお前のこと見放したんだよ!』
 虚がそういうのへ、カチヤは鼻で笑う。
「見放した? いいえ、私はここまでこうして生きてきました。まだ先に目はある。私の目的は、まだ潰えていない」
「アドラステイアのそれと目的が一緒ならば、天義への攻撃があなたの目的なのかな?」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)がそういうのへ、カチヤはうなづいた。
「ええ、そうですよ。あんな国、存在を許していいわけがない」
 じわり、と何かがにじみ出てくるのを、イレギュラーズたちは感じていた。それは、おそらくカチヤという個人に根差す、強い憎悪のようなものだった。
「彼女を排斥した国に。そのあとの惨憺たる状況を見るに。あの国は、もうずっと前から間違っていたのでしょう。ならば、消え去ってもらう必要性があります」
「どいつもこいつも、身勝手な自分の欲望のために、子供を利用しすぎだ」
 モカが吐き捨てるように言った。
「大人のやることか、それが……!」
「子供なぞ、大人に利用されてなんぼでしょう」
 吐き捨てるように、カチヤが言う。
「そうすることで世の中回っているのでしょう? アドラステイアだけが異常というわけではない」
「カチヤ……あなたは」
 『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が、ゆっくりと口を開いた。
「あなたは――何を思っているのでしょうか。
 ……底抜けの悪意、純然たる害意。真っ暗で、真っ黒で……理解も、救いも見いだせないほどの……。
 貴方を知りたいと思って、理解できたものはこれだけでした」
「ならば」
 カチヤは言った。
「そういうものなのでしょう? お察しの通り、私は魔に堕したものです」
 平然とそう言う。
「ならば……相互理解などは不能なのでしょう。根本的に、私たちは違うものなのですから」
「いいえ、違わない。あなたにも、人の心が残っているはずです!」
 マリエッタが言った。
「貴方は生き延びてまでしたいことがあるのですね、カチヤ……!
 理解できずとも、その想い……ええ、ええ……奪い取りましょう、死血の魔女が。
 そして、在るべき場所へ……もちろん、私の意志の元に、連れて行きましょう」
「私の想いをあなたのもとへ? ハッ!」
 カチヤが鼻で笑った。
「お断りします、傲慢な魔女さん。私は、私のものですよ。
 ……ついでのようですが。私もあなたに分かったことがあります。
 血の臭いの消えない、可哀そうな善人気取り。
 それがあなたですね?」
「……だとしても――!」
「それは一生ついて回りますよ。あなたがそれを直視しない限り。
 ああ、ごめんなさい。これでも聖職者を目指していたことは事実なので、説教くさいことを。
 意味がないですよね。あなたはここで死ぬのですし」
「そうはさせないわよ」
 『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が声を上げた。
「オンネリネン。子供達による傭兵部隊。
 それに『新世界』。反・旅人組織……。
 どっちにしてもわたしとは相容れないわね。

 だから、ええ。わたしは魔女。魔女のセレナ。
 旅人を悪と断じる新世界(あなた)も。
 子供達を利用し、穢す魔種(あなた)も。
 魔女として、悪として、滅ぼしてやるから」
「残念。この都市では、魔女は谷から落とされるのですよ」
 カチヤが言った。
「いいえ、魔女は飛ぶのよ。ほうきに乗って、月明かりの下を。自由にね」
 セレナが言った。
「だから――この都市の子供たちも、自由な空へと連れていける」
「やってみなさい」
 カチヤが言う。
「さて、ソフィー・イザベル・オルジアスさん? 状況は変わりませんよ。
 彼らは悪しき、ローレットなれば。
 ここで潰えてもらいましょうか?」
「そうですね。あなたが、どうも背信をもくろんでいることは後に追求しましょう」
 ソフィーが言った。
「悪しき旅人(ウォーカー)たちよ。その悪行はここで終わります!」
 ソフィーが構えた。カチヤも、ゆっくりとその力を開放する。悪しき、力だ。魔の力だ。魔種としての力を解放したそれは、強敵に違いあるまい!
「やるぜ、このくせぇ都市ともこれでおさらばだ!」
 キドーが言った。仲間たちも構える。
 吹雪の中に、決着の時が訪れようとしていた。

●吹雪に消えゆく
「私が前に出ます。カチヤ、あなたは後ろから援護を」
「ええ、その方がよさそうです……ね!」
 カチヤが下卑た笑みを浮かべてその手を振るう。手に輝く闇色の光は、まるでカーテンの様に吹雪の世界を照らした。
「世界を包むは信仰の魔。down(落ちて)、down(堕ちて)、down(這いつくばれ)――!」
 ぐわぁり、とイレギュラーズたちを圧殺するような強烈な圧力が世界を包み込んだ! カチヤの魔術式だ! 神秘のヴェールはまるで物理的に押しつぶされたかのような痛みを、イレギュラーズたちにたたきつける!
「ちぃ! あの糞アマ、やってくれるぜ!」
 キドーが舌打ちを一つ。
「やつぁ、俺が『見る』! とにかく怪しい動きはさせねぇつもりだ!」
「了解!」
 ムサシが叫んだ。
「カチヤは自分が押さえるであります!」
 ムサシが痛みをこらえながら駆け出す――そこに飛び込んできたのは、ブレードを手にしたソフィーだ。
「させませんよ!」
 振るわれる、斬撃! のど元を狙うそれを、ムサシは身をそらして回避した。ちっ、と寸前を刃が走る音が聞こえた気がした。コンバットスーツを着ていたとしてもただではすむまい。そう思わせるような鋭い斬撃。ムサシは体勢を崩しながら、倒れこむように前方に転がった。そのまま、力強く地面を腕で戦い、上体を無理やり起こして立ち上がる。
「瑠璃さん、先に!」
「任せてください」
 そのすきを突くように、瑠璃が走った。抜き放つ黒の刀身。刃が白き吹雪を切り裂くように走る。それはカチヤを狙い、速度をのせた一撃をぶち込んだ。カチヤがぱちん、と指を鳴らすと、暗闇のヴェールがその斬撃を受け止める。じじじぃ、と何かが焼けつくような、そんな音とともに、ヴェールが表層を切り裂かれている。
「おっと、残念」
 カチヤがあおるように言うが、瑠璃は意に介さない。
「あなたは、どちらかといえば私と同じタイプのようで」
 瑠璃が言う。
「問答は無用でしょう。言葉を介せば、お互いが隙を探るだけ」
「なるほど。あなたとのお茶会は楽しそうですね」
 カチヤが腕を振るった。闇のヴェールはその裾を鋭い刃の様に変貌させて、瑠璃に迫る。瑠璃は黒刃を振るいそれを受け止める。同時に、ムサシは駆けだした。
「マザー・カチヤッ! 未来ある子供を私利私欲のために利用し、あまつさえその子供達を尖兵として利用した事、断じて許さんッ!」
「こっちは暑苦しいですね! 何やら得体の知れない炎をもらっているようですが、だから余計に暑苦しいのですか!?」
 レーザーコーティングされた警棒を振り下ろすムサシ。カチヤは闇のヴェールでそれを受け止めた。カチヤの得手は遠距離術式。距離を詰められれば、それを振るうのは難しくなる。
「あなたたちは相性はよくないようですが、お互いの距離を相互補完している……それを止めさせてもらう!」
「相性の良くないやつとの方が仕事ができる、というのは、世の中はままならないものですよね?」
 カチヤはヴェールを振るうように手を薙ぎ払う。闇の術式が、ムサシの体をたたいた。僅かにひるんだ隙を、カチヤは後退に使う。
「させないで!」
「もちろん」
 瑠璃がそれを追い、進路をふさいだ。くぅ、と上空でフクロウがなく。瑠璃の『目』。
「逃がさないつもりか……やれやれ……!」
 それ以外にも、キドーが戦いながらもこちらを注力していることが分かった。撤退の気配はすでに悟られていたようだが、どうやら本当に全く、イレギュラーズたちはカチヤを逃がすつもりはないらしい。
「残念ですねぇ! これではあなたたち全員を殺すしかない!」
「やってみろ!」
「そういう悪党は、例外なく負けてきましたよ」
 ムサシ、そして瑠璃が構え、カチヤを抑えるべく奮戦する。
 一方、ソフィーは残るイレギュラーズたちと相対していた。相互補完の相手となれば、まず倒すべきはメインの攻撃を担当しつつ、魔種でないが故に比較的御しやすいソフィーとなるだろうか
『俺達で戦線は支える!』
 虚がそう叫んだ。
『だから思いっきりやってくれ! 俺達を信じて!』
 俺達=Tricky・Stars。ここで戦線を支えよう、『一役(ふたり)』で。吹雪を照らすような聖なる歌をその背に受けて、イレギュラーズたちはソフィーを倒すべく、決死の攻撃を仕掛ける。
「ソフィー・イザベル。
 あなたを捕らえるのに、あなたを捉えるのに、こんなにも長く、かかってしまった」
 Я・E・Dがそういう。ばたばたと、吹雪がその頬と赤ずきんを叩いた。
「もう逃がさない」
 轟! 強烈な閃光が、Я・E・Dの手から放たれる! 魔力砲撃の閃光! それがソフィーを狙い、宙を駆ける――!
「ですが!」
 叫び、ソフィーが懐から術符を取り出した。使い捨ての、防御術符である。強烈な閃撃を、一時とはしのげる結界を展開。耐える。
「足を止めたわね……!」
 セレナが叫んだ。雪積大地を駆けて、疾走! しゅっ、とその指先で魔法陣を描いた。ぱち、と陣が起動し、その指先を漆黒の光で包み込む。
「蝕むは新月――光を落とし、翳に閉ざせ――!」
 突き出した指先、それがソフィーを蝕むべく漆黒を描いた。ソフィーが閃撃に耐えながら、身をそらす。ちっ、と、その指先がソフィーの体をわずかにかすった。刹那。触れたその一転から、新月の闇が体を侵食していく――!
「これは……!」
 虚無の一撃は、ソフィーの体を二度穿つ! 月が闇に満ちるように。新月へと。染まる様に。
「くっ……!」
 身を蝕む新月の闇に痛みをこらえつつ、ソフィーは飛んだ。防御結界に抑えられていたЯ・E・Dの魔砲は解き放たれ、吹雪の世界に終わりを穿った。ぼうん、と雪が舞い上がる――その衝撃を利用しつつ、ソフィーが跳躍。ライフルをバーストモードに切り替えて、連射撃を行う。銃弾を受け止め/回避しつつ、イレギュラーズたちは次の一手を狙う。
「自由にはさせない!」
 モカが叫んだ。
「やっとあなたたち(アドラステイア首謀者たち)を追い詰めた。
 今まで騙し、殺してきた子供たちへの罪を償ってもらおうか!」
 突き出される、残影の百手。その手がソフィーのサーベルを狙い、振るわれる。手刀はまるで本物の刃の様に、サーベルを打ち払った。
「いいえ、彼らはあなたたち悪しき旅人(ウォーカー)の犠牲者です!
 そもそもあなたたちが居なければ、彼らが孤児となり迷うこともなかったはずです!」
「そんなことまで押し付けられてはたまったものではないな……!
 あなたは旅人が嫌いなようだが、私たち旅人だって好んで混沌世界に来たわけじゃない!
 私はこの世界が好きになったが、好きになれなくたって帰る手段が分からないんだ。
 そんな状況であなたたちみたいな旅人嫌いに命を狙われるなんて、踏んだり蹴ったりだ!」
 叫びつつ、今度は鋭い蹴撃を見舞う。振るわれた足に、イレギュラーズたちの連続攻撃を受けて隙をさらしたソフィーは対応できない。その一撃をまともに受けつつ、ソフィーは距離をとることも兼ねて、跳んだ。
「逃がしませんよ、ソフィー!」
 叫ぶ、アリシアが叫び、その手を振るった。紅の光が、その手の軌跡を描く。同時に、無数の魔力弾が解き放たれ、ソフィーを穿った。アナイアレイト・アンセム。
「ソフィー、あなたたちの考えは間違っている!」
 アリシアが叫ぶ。
「旅人(ウォーカー)を世界が呼んだのならば、その変化は世界が望んだ変化のはずよ!」
「私たちは、そんなものは望んでいません……!」
 ソフィーが叫んだ。
「旅人(ウォーカー)の存在は、文化・世界への浸食は! 本来あるべきものを超え、害悪となっています! それを見逃すわけにはいかないのです!
 それゆえに、私はあの方に師事した……!」
「その結果が、子供を利用して目的を達成することなの!?」
「旅人(ウォーカー)は、世界が一丸となって排すべき存在です! そこに子供も大人もないはずです! だってそれが、正しいのですから……!」
「そんなことを……!」
 もう一度、腕を振るった。強烈な魔力弾幕は、ソフィーを穿つ。
 でも、届かない。
 言葉も、力も……打ち倒すには。
 今ここで、ソフィーの考えを打倒することはできないのだろう。ソフィーを真に『打ちのめす』のは、ソフィーの考えが根本から間違っていたことを見せる必要があって、それはここでその命を奪うことではなかった。
「皆、とどめを!」
「任せろ!」
 キドーが叫んだ。ぱちん、と指を鳴らせば、二頭の妖精狼がその牙を、ソフィーの足に突き立てる。
「もう逃がさねぇぜ。バスチアンの野郎に不審がられたのが運の尽きだったな」
 はん、と鼻で笑うキドー。
「別に、慈悲なんてくれてやる気はないけど」
 Я・E・Dがそういった。
「……色々と後始末をする必要があるからね。
 貴方は罪を償うべきだ。たとえ貴方がそれを罪だと思っていなかったとしても」
 その手に、光が集った。Я・E・Dが、それをソフィーへと叩きつける。慈悲の光が、その命ではなく、意識を刈り取った。
「そんな……私たちの……理想は……」
 呆然とつぶやく、ソフィーが、その意識を手放す。どさり、と吹雪の中に、その体を投げ出した。

「あら、やられてしまいましたか」
 カチヤが、ふん、と鼻を鳴らす。そのすぐ近くには、披露したムサシと瑠璃の姿があった。ほぼ二人で、この魔を止めていたのだ。仕方のないダメージだといえるだろう。
「困りましたね。ええ、ええ。つくづく、世の中は私の思う通りにはいかない」
「お前の思い通りになる世界など」
 アーマデルが言った。
「存在しないということを思い知るといい」
「子供たちも、そうだ」
 稔が言う。
「お前たちが好き放題にしていい命など、この世界には一片たりとも存在しないと知れ。
 お前達の言う正義は、自分が不快だと思うものを殺したいが為の方便だろう。そんなくだらない自己満足の為にどれだけの命が犠牲になったと思っている?
 まぁ、良いさ。これでお前達の面を見るのも最後だと思うと清々するよ」
「随分と嫌われてしまったようですね」
 あはは、とカチヤが言う。
「こちらの宇宙保安官さんにも、先ほどから随分とお説教を受けていますよ」
「お前は……何十の、何百の、何千の子供の命を奪っていった?
 私利私欲のために、彼等の未来を奪っていった罪は何よりも重い……!
 今ここで、引導を確実に渡す! それまでは自分は絶対に倒れない!」
 ボロボロになりながらも、ムサシが言う。瑠璃がゆっくりと構えなおした。
「私のようなものがいる以上、旅人全てが善であるとは申せませんが、
 では彼女やアドラステイアの正義とやらは、一体誰が保証してくださるのやら。
 正義を謳う人殺しのひとでなしなど、何処の世界にも居るものです。
 それこそ、掃いて捨てるほど。
 貴女もそうでしょう。
 天義が悪い、憎いとさえずりながら――結局は、その程度」
「ふふ」
 カチヤが笑った。
「そうかもしれませんねぇ。でも、ほら、あれですよ。むかつくやつがひどい目に合うとすっきりするでしょう? そういうやつ」
 カチヤが肩をすくめた。
「私が受けたのは、そういう、絶望と憎悪だ。ええ、それを与えてくれた奴らがもがき苦しむさまが見たい。個人的なものと言われればその通り。
 世界が滅ぶのならば、私がそれを導いて見せる。天義が滅ぶのであれば、私の手がそれをなして見せる。
 大義も理想も正義もいるものか。そういったものを踏みにじってきたのが天義ですから、そういう個人的な激情の果てに消え去ってほしい」
「そうだな」
 アーマデルがうなづいた。
「わずかに同意するよ。
 正義も良識も関係ない、寄る辺ない子供達を搾取するそのやり方が気に入らない。
 いつからそうなのかは知らないが、あんたが魔種で良かった。
 心置きなくぶちのめせるからな……!」
「ええ」
 カチヤがうなづいた。
「やれるものなら、どうぞ」
 ぱちん、とカチヤが指を鳴らす。強烈な負のヴェールがあたりを散らす。自分をまきこむこと、命中も度外視の、無理やりの術式展開! ばちん、と降りるヴェールがイレギュラーズたちを強烈にたたく! これまでの戦いで特に披露していた瑠璃とムサシは、その強烈なダメージにパンドラの箱をこじ開ける羽目となっていた。
「いったん下がってください!」
 マリエッタが言った。
「あとは、一気に畳みかけます! セレナ、力を貸して!」
「まかせて」
 セレナがうなづく。
「家族の絆を語り、子供達を洗脳して、薬で、化け物にして――!
 絶対に許しておけないのよ、アンタだけは!」
 セレナが翔ける。その手にした、新月の黒。振るうそれが、カチヤを狙う!
「甘いですね」
 ぱちん、と闇のヴェールがそれを防いだ。反撃の術式を見舞うと、セレナの体に黒の痛みがほとばしる!
「くっ……!」
「まったく、魔女なら魔女らしく、谷底で餌にでもなっていればいいものを」
「分かるわよ。アンタとは下手に言葉を交わすものじゃないと!」
 切り捨てるように言いつつ、セレナは距離をとった。同時、マリエッタが血の大鎌を振るい、カチヤへと迫る! セレナの一撃で足を止めていたカチヤは、それをまともに受ける形なる。斬撃が、カチヤの肉を裂いた。鮮血が、ほとばしる。
「その瞳……金色の」
 カチヤが言う。
「それがあなたの本性ですか? 血の魔女。その残罪を晴らせないあなたは、結局本質的には私と同じなのでしょう?」
「なにを……!?」
「あなたが私の本質を見抜けないのだとしたら、それは貴女の悪しき本質のせいでしょう。
 ええ、そうでしょうね。人間が最も不愉快になることは、自分自身を余すところなく見せつけられることなのですから」
「はったりよ!」
 セレナが叫んだ。
「聞かないで!」
「同感だ」
 稔が言う。
「真に受けるな、奴は詐欺師だ」
 稔の描く聖なる術式が、聖歌となって仲間たちを鼓舞する。
「さぁて?」
 カチヤがそれを打ち消さんばかりに、闇のヴェールを下ろした。風にそよぐカーテンのようなそれは、しかし邪悪な魔術の力である。放たれたそれが、イレギュラーズたちの体を叩いた――これまでよりも強力になっている。
「追い詰められて実力を発揮するタイプと見たね」
 キドーが言った。
「わかったか? 奴は実力を発揮してるが、追い詰められてるやつだ! ギャハハ! つまりな! もうちょっとであいつは死ぬってことだよ!」
 挑発と戦況確認を兼ねて、キドーが叫んだ。確かに、奴は本領を発揮ている。だが、それは死の淵に片足を突っ込んだのと同義だ! これまでのイレギュラーズたちのいくつもの攻撃が、執念が、ついにオンネリネンの首魁に王手をかけたのだ!
「だとして」
 カチヤが言った。
「私は生き残って見せる! 人は生きてこそだ!」
「それには同意するが」
 アーマデルが叫んだ。
「子供たちのそれを奪ったのは、お前だ!」
 蛇鞭剣の一撃が、カチヤを捕らえる! 打ち上げるように、打ち放たれた、鞭。一撃。カチヤの体が、浮いた。斬撃。それによって。
「撃ち落とすんだ!」
 Я・E・Dが叫んだ。
「それで終わりだよ!」
「叩き落とす!」
 モカが叫んだ。打ち上げられたカチヤを、疲労とダメージにより身動きの取れなくなったそれを、モカは跳躍して追った。
「これで……!」
「まだ、まだ……!」
 カチヤが叫び、身をひねった。反撃――だが、それはかなわない。背に受けた一撃が、その力を消滅させていた。
 一撃。黒刃。瑠璃の一撃。
「終わりですよ、小悪党」
「クソが……!」
 カチヤがその顔をひどくゆがめた。同時に、モカの空中からの拳の一撃が、カチヤの顔面に叩き込まれてる。そのまま、大地へと叩きつけられた。ぐしゃ、とひどい音を立てて、それが大地に落下した。
 白の聖衣は、血に汚れてボロボロになっていた。腕はあり得ない方向に曲がっているが、もう痛みを感じることもできないのだろう。
「ごほっ」
 カチヤが血を吐いた。
「はっ……魔に落ちても……死ぬときはこんなにも間抜けか……」
 カチヤが自嘲気味に吐き捨てる。
「終わりでありますよ」
 ムサシがそういった。
「これで……終わりであります」
「でしょうね」
 カチヤが言った。ぎり、と最後の力を振り絞って、奥歯をかみしめた。憎悪を感じた。底知れぬ、世界への恨みだった。マリエッタが感じた。純粋な敵意とか悪意とか、そういうどす黒いもの。それはきっと最後まで消えなかっただろうし、カチヤとはそういう女だった。
 やがて、その力が、す、と抜けた。途端、まるではちきれるように、その体がばつん、と黒い煙になって消えた。体に押さえ込んでいた魔としての力が、抑えきれずに爆発して世界に溶けていくようだった。それが、魔に落ちたものの末路なのかもしれない、と思った。
「ソフィーは生きてるわ」
 アリシアが言った。
「彼女には、罪を償わせる。絶対にね」
 その言葉に、仲間たちはうなづいた。
「終わったな」
 キドーが言った。
「ああ」
 アーマデルがうなづく。
「終わりだ」
 吹雪は少しだけ、威力を弱めていたけれど、まるでいろいろな感情を追い隠すように、まだ強く、強く、あたりに吹き盛っていた。

成否

成功

MVP

Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 オンネリネンは、これで完全に崩壊しました。

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