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我等が祖国のために

　美しい町は焼け焦げ、黒くくすんだ大地が広がっている。　
　ここは鳳圏。ヴィーザルの東に位置し、通常ありえない規模で拡大と成長を続けていた自称国家（ミクロネーション）。
　だがそれは、三つの意味で失われた。
　都市は破壊され、王は死に、そして魔種であった普天斑鳩鳳王の魔力によって供給維持されていたエネルギー資源も失われた。
　ある者はここに鳳圏はないと言うだろう。
　だが、我々は知っている。
　『祖国』とは土地でも王でも資源でもないことを。

　血だまりと死体が草原地帯を塗り染めている。
　ここは鬼楽。鳳圏の北に位置し、ありえない軍事力によって鳳圏の侵略に対抗し続けていた自称国家（ミクロネーション）。
　だがそれは、二つの意味で失われた。
　国家の政治基盤であった真経津家率いる『鏡派』が一斉離反し、軍事的な基盤であった強力な般若兵たちが過去の英雄たちによるアンデッド兵器であったことが発覚し、そしてそれらは全て土の下へと弔われたのだ。
　魔鏡の呪いによって昏睡状態にあった女王は目覚めたが、もはや政治力を維持することは不可能。兵力を持っていたとはいえ、鉄帝国からの併呑を受け入れるか領内の混乱によって自滅するかの二択が迫られた。
　だが、我々は知っている。
　『祖国』とは政治でも兵器でもないということを。

　見渡す限りの墓地が埋め尽くしている。
　ここは伎庸。鳳圏の西に位置し、圧倒的な武力によって侵略されかけていた集落群。
　だがそれは、失われたといっていいだろう。
　民の大半は侵略によって殺され、憎しみの種であり元凶たる普天斑鳩鳳王を討ったことで彼らは決定的に再生と創造を要求されたのだ。
　失ったものは戻らない。死んだ人は蘇らない。
　だが、我々は知っている。
　『祖国』とは過去にも死者にもないということを。

「――随分、鉄帝軍は早く動いたのォ」
　『鬼楽の女王』鬼城 蒼華は、焼け野原となった都市に立っていた。
　消火活動ははるか前に終わり、遺体の回収や葬儀も済んでいた。
　されど空にかかる暗雲は、彼らの心が未だ晴れていないことを訴えるかのようだった。
　蒼華。青い肌と額から伸びた角はゼノボルタにも似ているが、違う。異界よりやってきた旅人（ウォーカー）であり、鬼の一族である。
　もとより荒野であった土地に住処を作り、はぐれものとなった戦士たちを受け入れ、やがて巨大な『家族』となった鬼楽の母にして女王。
「ローレットの者が、手引きしたのじゃろう？」
　彼女の口ぶりにはどこかさっぱりとした雰囲気があった。してやられたという様子と、おかげで助かったという様子と、これからが大変だという様子がないまぜになった複雑な形で。
　そして複雑さの中に、隠しきれない後悔があったことを……横に立つ男は感じ取った。
　顔に大きな傷をもつ男。柔和な表情と落ち着いた物腰。しかし一切隙の無い様子から、彼が名のある軍人であることがわかる。多くの者を育て、そして多くの者を失った人間がはなつ独特の空気というものである。
　彼の名は榛名 慶一。鳳圏陸軍大佐と呼ばれていた人物である。
「ローレットには、鬼楽の関係者も、鳳圏の関係者も、そして鉄帝陸軍の関係者も在籍しているからね。彼らが対等の立場で向き合ったなら、落ち着くべき所に落ち着くさ」
　口調には彼らしく落ち着いた様子があったが、しかし何かのしがらみから解放されたかのような雰囲気も確かにあった。
　元女王蒼華と元大佐榛名。それまで接点を持たなかった二人は、互いの様子を感じ取りあい、そして苦笑を浮かべてどちらかともなく手を出し合った。
「我々の敗北だ」
「鬼楽、鳳圏。どちらものぅ」
　かわされた握手は、これまでの戦争の終結を意味していた。
　そんな様子を、離れた所から眺めていたのは伎庸の長をつとめていた及川という男である。
　伎庸に決定的な支配者はいない。彼の役目は伎庸各小集落の顔を繋いでバランスをとることくらいだ。だが今は、その仕事も殆ど無い。
　ローレットという英雄によって、伎庸の集落群はひとつに纏まったのだから。
「これからは、あなた方に託すことになるでしょう」
　振り返り、及川は被っていた帽子を脱ぐ。はげ上がった頭を撫で、そして榛名たちと同じ苦笑を浮かべた。
　視線を向けた先は、加賀・栄龍（p3p007422）やローレットの仲間達であった。
「戦争は終わりました。未来を、頼みます」
　それぞれがそれぞれの想いを胸に、表情や言葉にする中、栄龍もまた彼らしく……踵を鳴らすほど勢いよく敬礼をして言った。
「必ずや――我等が『祖国』のために！」

　――＜鳳圏戦忌憚＞が完結しました。
　――領地に『鳳自治区』が追加されます！
　（領地システムにて『鳳自治区』を獲得することで鳳圏、鬼楽、伎庸の跡地を管理運営することができます）

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