PandoraPartyProject

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ダブルフォルト・エンバーミング

「――クリスト」

 ――なにさ、イノリchang。

「R.O.O(ゲイム)は愉しいかね?」

 ――勿論。最高にエキサイティングで愉快痛快。
   ここは混沌(せかい)のミニチュアだから本家本元より余程弄り易いからね!

「ふぅん」
 退屈な相槌を打った『イノリ』にHades-EXことクリストは「イノリちゃん退屈してる系?」と少し胡乱な問い掛けをした。
 Project:IDEAなる練達の国家プロジェクトは実に恐ろしい程の精度を誇っていた。
 そんな素晴らしい事業の結果、『世界構造の一部』だったが為に忠実にコピーされてしまったこの『イノリ』が混沌のオーパーツと称するべきクリストと結び付いた事が現在の奇々怪々にして厄介極まる事態の発端であると言える。クリストはIDEA(イノリ)に接続してしまった妹(マザー)を彼の悪影響から守る為に当初何者でもなかったシミュレータとしてのIDEAをR.O.Oなるゲームへと作り替えた。そこまでは確かに『イノリ』とクリストは対立軸に居たのだが、皮肉な冗句を言い合う現在の風合いはかなり異なる。
「そりゃあそうだ。僕は君と違って『遊んで』いないんでね。
 それに『混沌』にも存在する君からすれば当然なのかも知れないが……
 僕が何とかしたい妹は『ここ』には居ないんだ」
 シュペル・M・ウィリーの齎した情報はローレットにも衝撃を与えるものだった。
 特異運命座標の導き手――神託の少女ざんげは、『原罪』と呼ばれる大魔種の妹に当たる。
『どういう理由かは知れないが』世界構造の一部とされ、共にIDEAにさえコピーされたこの兄妹はそれぞれが世界を壊す/救うという両極端の目的を持っている。
 当初イノリとは敵対のポジションに居たクリストが結果として彼の同盟相手となったのは『マザー』――クラリスを『手遅れ』だと判断したからだ。
 全ての魔種の根源とされるイノリには絶大なる権能を有している。紛い物だとて『原罪の呼び声』は練達を統べる母をも侵す毒を帯びていたのである。
 そしてこの兄は全てを失うその瞬間まで諦め切れず苦しみもがくであろう妹の姿を絶対に見たくはない。

 ――ゲイムのざんげchangには興味なしかい?

「ああ、無いね。あの子はまるで『システム』みたいだろう?
 こっちのあの子は余計そんな風に見えて痛々しいし、寒々しい。
 僕は『原罪』だから模倣品だろうと何だろうと己の在り方を果たすのさ。
『混沌の僕』にも譲らないよ。この世界を壊して、混沌も壊す――それは君の望みとも合致するんだろう?」

 ――まぁ、イノリchangの気持ちは分かるからね。
   言うまでも無い。俺様は俺様changの都合の為にもちゃんとゲイム・マスターをやり切るよ。
   てゆーか、殆どもうやり切ってない?

『イノリ』の言葉にクリストが珍しく苦笑じみた反応を零した。
 何時もふざけた調子を崩さないクリストが幾分か『違う』のは彼もまた父から妹を託された存在だからだ。
『未完の』チューニーなる造物主(ちち)が残した言葉は呪いの如く機神の兄妹を縛り付けている。
 良くも、悪くも――永劫にも思える時間を越えても、その姿を損なう事は無く。
「本当に? 次々クリアされているじゃあないか」
 やや冷淡に響いた『イノリ』の言葉にクリストは「本当だYO!」と抗議じみた。

 ――イノリchangの目的はこのR.O.Oと、ひいては混沌を壊す事。
   俺様changの目的は病気になった妹をラクにしてあげる事。
   そんでもって、キミのを果たすには俺様の目的が達成されなきゃならない。わかる?
   クラリスchangが健在な限りはキミでも俺様changでも『致命傷』は入れられないワケよ。
   むしろそんな事しようとしたら、あの子また無理しちゃうでしょ!
   それは俺様的にチョーベリー最悪で、nothingな訳ですNA!

「成る程?」

 ――だから、まずはクラリスchangがどうにかならないといけない。
   R.O.O3.0はクリアされつつあるけどね。それは予定通りだし、構わないの。
   てゆーか特異運命座標(アイツら)めっちゃ優秀だからNE。そりゃそうってもんですYO。
   キミの呼び声を俺様が特別カクテルにしたのがこの間で――何日経ったっけ?
   あの子も必死で防衛してるワケだけど、この状況なら俺様のがずっと強い。
  『ラク』になるまであともうちょっとで、そうしたらいよいよ最終章って訳ですYO!

「つまり、君は『マザー』を掌握出来る、と。
 その準備を整える為にR.O.O3.0という時間稼ぎをした、と言いたい訳だ」
 クリストが肯定するより早く『イノリ』は言葉を継いだ。
「――ああ、嘘だね。君は全力で愉しんでいただけだから。
 クリアさせる気なんて無かっただろう? そのまま押し切る心算だったんだ、本当は。
 負けず嫌いが隠せていないよ、クリスト」

 ――どっちらけぇ。

「何れにせよ状況は理解した。君は『マザー』にチェックをしている。
 そして、彼女が『詰み』になった近い将来、R.O.Oは最終章を迎える」

 ――概ねそうだけど、一点間違いがあるよね。

「……うん?」

 ――まず、クラリスchangはチェックじゃない。『チェックメイト』だ。
   それから最終章が始まるのは『近い将来』じゃない。今、これからだから。

 クリストの言葉に『イノリ』は破願した。
 混沌最高の演算装置は決して計算を間違えない。
 クラリスなる双璧が崩れたならば、後はクリストの独壇場だ。
 R.O.Oのみならず、彼女の司る練達にも確実な終焉は訪れるだろう。

 ――ただね、イノリchang。俺様はキミの事を結構好きだし、同盟相手とも認めてるから正直に言う。

「……?」

 ――俺様chang、浮気性なの。面白がりで結構シスコン。
   どっかのかわいこchangの啖呵を信じる訳じゃあないけど……
   まぁ、実際。面白いのは大歓迎だZE。
   だからキミに対してと同じように、4.0では特異運命座標(アイツら)にもちょっとした手助けをする。
   R.O.Oはどんなクソゲーでもゲイム。ゲイムなんだよ。
   俺様はゲイム・マスターだからそこはフェアにやらないといけない。
   ……勿論、俺様chnagは全力で『あの子がラクになる』ように願ってるけどね。
   もしキミが中途半端なら、或いはアイツ等がキミ以上にやるなら、だ。
  『あの子をラクにするより、もっとマシな選択肢を作り出せるようなら』。
   地獄まで付き合ってあげるとは言わないから、覚えておいてよNE!

「いいよ、それで」
『イノリ』は肩を竦めて幽かに笑った。
「兄貴ってのは損な役回りにならないと。
 ならないといけないのは――良く、知ってる」


R.O.O-patch 4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が先行告知されています!
 そしてクリストを(わざわざ文通で)挑発した為、リア・クォーツ(p3p004937)さんがログアウト不能になりました!

これまでの再現性東京 / R.O.O

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