PandoraPartyProject

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五分前の大切な想い出

「なあディアナ、我等は何なのだろう」
 生きるぬいぐるみ、ティファレティア・セフィルが呟いた。
「恋人達――ではございませんの? レティ」
「質問が悪かった。この記憶すら模造品であるならば、我等はこの世界でどういう存在なのだろうか」
「……」

 彼女等『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュとティファレティアは、この世界『ネクスト』では、旅人(ウォーカー)だという設定になっている。ウォーカーというのは他世界から召喚され特異運命座標(イレギュラーズ)となった者達の総称である。だが正確な意味でそう呼べるのはあくまで『無辜なる混沌』での話。ここネクストはその模造品に過ぎない。
 探求都市国家アデプトの国家事業によるProject:IDEAが産み出した、R.O.Oという仮想世界なのだ。
 彼女等はそれを情報として知り得、また自覚し、実感し、当然ながら信じてもいる。
 裏付ける物証は、山ほどあった。
 何より彼女等は『バグ』としての力を得ている。
 異常な情報増殖を引き起こした黒幕に近い存在でもあるのだ。
 以前は鋼鉄(スチーラー)に内乱を引き起こし、イレギュラーズが邪な計画を打ち砕いた。
 そんな二人(?)が、どうやら今度は正義(ジャスティス)に出現しているようだ。

「私の記憶は、想いは、誰のものだ。本物の所有物か。それとも私自身のものなのか」
 この世界の全ては混沌から歪にコピーされた代物であり、おそらく彼女の『本物』も『混沌』とやらに居るに違いない。自身が抱く『記憶』すらも模造品であるならば、自身等は果たして何者なのか。
「私達は私達で良いではありませんか」
 けれどディアナは、そんな疑問を意に介さなかった。

「いっそこの世界を、滅ぼしてみたくなった」
「赦しませんわ、そんなこと。決して。だって私達が望んだものは永遠の黄昏。宵闇の中で唇を重ね合い、その翼に抱かれてまどろむ飽くなき時間、理想郷――それが滅びてしまっては、元も子もないでしょう」
「……そう言うと思った。だからやらない。が――」
 彼女等が見据えるモノは、翼を持たない竜のような存在である。
 正義と呼ばれる領域に出現した、ワールドイーターと呼ばれる怪物の一種だ。
 この世界の情報を喰らい『はじめから無かったこと』にするという、恐るべき特性を持っている。
「放っておきますの?」
「――ああ」
「どうして!」
 ワールドイーター達が食ったのは、小さな町だった。
 廃墟が広がっている訳でも、炎上している訳でもない。
 そこは荒野ですらない――ただの『虚空』だ。
「我等の仲間には違いない」
「あんな醜い化物を? たまにレティの趣味が分かりませんわね。私はまっぴらごめんですわ。それに私あのピエロや物語の娘だって仲間なんて思ったことは、決して決して、一度たりともございませんし」
「感情や好みは別にして、陣営という意味では敵を同じくする共闘者だろう。それに――」
「それに?」
「物語の娘には親近感だって思わないこともない」
「浮気ですの!?」
「まさか。ところで、ディアナ。気付いて居るか?」
「のぞき魔。見せつけてやれば良いではありませんか。あなたがぬいぐるみなのが悔やまれますわ」
「来るのだろうな。『本物のイレギュラーズ』が」
「本物、偽物。ずいぶんこだわりますのね、レティ。例えこの世界が僅か五分前に出来たのだとしても、ここに生きる私の想いも願いも、紛れもない本物ですわよ。私にはあなたさえ居れば良いのです。ずっと側に居てくれるだけで良いのです。他には何もいらないのです。ただあなたと二人、永遠を過ごしたいと願っているだけなのです。あなたに魂を捧げた、あの日から……」
 ディアナはひとしきり愛をうたい、恍惚とした表情でぬいぐるみを抱きしめ、言葉を続けた。
「ところでレティ。戦ってよろしいですわよね? 私一人で」
「……無理はするなよ。せめてワールドイーターも利用しろ」
「それは気が進みませんが……致し方ないでしょう」

 ――この世界が『練達』とやらの物だとして、私達はどうすれば、私達自身であれる?

 R.O.Oの正義に世界の敵『ディアナ』出現したようです。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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