シナリオ詳細
<lost fragment>五分前の大切な想い出
オープニング
●
「なあディアナ、我等は何なのだろう」
生きるぬいぐるみ、ティファレティア・セフィルが呟いた。
「恋人達――ではございませんの? レティ」
「質問が悪かった。この記憶すら模造品であるならば、我等はこの世界でどういう存在なのだろうか」
「……」
彼女等『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュとティファレティアは、この世界『ネクスト』では、旅人(ウォーカー)だという設定になっている。ウォーカーというのは他世界から召喚され特異運命座標(イレギュラーズ)となった者達の総称である。だが正確な意味でそう呼べるのはあくまで『無辜なる混沌』での話。ここネクストはその模造品に過ぎない。
探求都市国家アデプトの国家事業によるProject:IDEAが産み出した、R.O.Oという仮想世界なのだ。
彼女等はそれを情報として知り得、また自覚し、実感し、当然ながら信じてもいる。
裏付ける物証は、山ほどあった。
何より彼女等は『バグ』としての力を得ている。
異常な情報増殖を引き起こした黒幕に近い存在でもあるのだ。
以前は鋼鉄(スチーラー)に内乱を引き起こし、イレギュラーズが邪な計画を打ち砕いた。
そんな二人(?)が、どうやら今度は正義(ジャスティス)に出現しているようだ。
「私の記憶は、想いは、誰のものだ。本物の所有物か。それとも私自身のものなのか」
この世界の全ては混沌から歪にコピーされた代物であり、おそらく彼女の『本物』も『混沌』とやらに居るに違いない。自身が抱く『記憶』すらも模造品であるならば、自身等は果たして何者なのか。
「私達は私達で良いではありませんか」
けれどディアナは、そんな疑問を意に介さなかった。
「いっそこの世界を、滅ぼしてみたくなった」
「赦しませんわ、そんなこと。決して。だって私達が望んだものは永遠の黄昏。宵闇の中で唇を重ね合い、その翼に抱かれてまどろむ飽くなき時間、理想郷――それが滅びてしまっては、元も子もないでしょう」
「……そう言うと思った。だからやらない。が――」
彼女等が見据えるモノは、翼を持たない竜のような存在である。
正義と呼ばれる領域に出現した、ワールドイーターと呼ばれる怪物の一種だ。
この世界の情報を喰らい『はじめから無かったこと』にするという、恐るべき特性を持っている。
「放っておきますの?」
「――ああ」
「どうして!」
ワールドイーター達が食ったのは、小さな町だった。
廃墟が広がっている訳でも、炎上している訳でもない。
そこは荒野ですらない――ただの『虚空』だ。
「我等の仲間には違いない」
「あんな醜い化物を? たまにレティの趣味が分かりませんわね。私はまっぴらごめんですわ。それに私あのピエロや物語の娘だって仲間なんて思ったことは、決して決して、一度たりともございませんし」
「感情や好みは別にして、陣営という意味では敵を同じくする共闘者だろう。それに――」
「それに?」
「物語の娘には親近感だって思わないこともない」
「浮気ですの!?」
「まさか。ところで、ディアナ。気付いて居るか?」
「のぞき魔。見せつけてやれば良いではありませんか。あなたがぬいぐるみなのが悔やまれますわ」
「来るのだろうな。『本物のイレギュラーズ』が」
「本物、偽物。ずいぶんこだわりますのね、レティ。例えこの世界が僅か五分前に出来たのだとしても、ここに生きる私の想いも願いも、紛れもない本物ですわよ。私にはあなたさえ居れば良いのです。ずっと側に居てくれるだけで良いのです。他には何もいらないのです。ただあなたと二人、永遠を過ごしたいと願っているだけなのです。あなたに魂を捧げた、あの日から……」
ディアナはひとしきり愛をうたい、恍惚とした表情でぬいぐるみを抱きしめ、言葉を続けた。
「……ところでレティ。戦ってよろしいですわよね? 私一人で」
「……無理はするなよ。せめてワールドイーターも利用しろ」
「それは気が進みませんが……致し方ないでしょう」
――この世界が『練達』とやらの物だとして、私達はどうすれば、私達自身であれる?
●
「――以上じゃ」
短期未来予測術式の映像が、一行に見せたのは、そのような様子であった。
おぞましい怪物が大地を食い破っており、それを『バグNPC』が眺めて、何やら喋っていた。
「サンディ、これより勇者殿等を案内してさしあげよ」
「かしこまりました、猊下。私は正義聖銃士サンディ・カルタと申します。以後お見知りおきを」
そう名乗った男は、無辜なる混沌における仲間(イレギュラーズ)サンディ・カルタ(p3p000438)の、ネクストにおける模造品らしい。猊下と呼ばれたアストリアは、混沌では魔種として猛威を振るったが、こちらでは驚くべきことに、清廉潔白で知られる大層立派な枢機卿らしい。果たしてバグの黒幕は、皮肉な逆張りでも好むのだろうか。
「しかしなんじゃ、そのアバターとやらは。あやうく祓いそうになったわ」
アストリアがふくれ面で頬杖をつく。
(……ヨリニヨッテ、カ)
Gone(p3x000438)はちょっとした不運に見舞われ、格好良い騎士のアバターを作ったつもりが、なぜかネクストに発生するモンスターのような外見になってしまったらしい。眼前に現れたサンディの纏うのは聖銃士の装束であり、この国では一応、聖騎士に相当するというのだ。Goneの心境や如何に。
「あー、まあ。なんかその、手違いらしくて……なんかすいません」
フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)が弁解する。
「分かれば気にすることもないが」
(………………)
R.O.Oでの異常は、いよいよ現実世界にも影響を与え始めている。
ネクストはあろうことか『原罪』をも再現してしまっているらしい。
そんな代物と接続されているマザーに発生した異常は、練達の都市機能を著しく低下させていた。
イレギュラーズにとって最大の問題は、『ログアウト出来なくなる』という痛ましいケースだ。
どちらも速やかに解決せねばならない、重大な課題であった。
それはさておき。
枢機卿からの依頼は、エルカークという町を滅ぼしたワールドイーターなる怪物の退治だった。
この存在は食ったデータを『はじめから、なかったこと』にする、恐るべきバグである。
正義国の領土は、このところワールドイーターによって虫食いのようにデータ消失が発生していた。
「妾はエルカークを覚えておらん。故に、そなたらイレギュラーズが頼りじゃ」
たとえば町がまるごと消えてしまう。その町の名を誰も覚えていない。
覚えているのは練達のデータと――偶然知っていればだが――イレギュラーズだけだ。
「恥ずかしながら、私も覚えていないのです」
サンディもそう続け、Goneはどこか、むずがゆさを覚えた。なんという口調なのだ。
それからエルカークの町が存在したとされる地域の近くに、他の問題も発生した。
バグの黒幕に近いとされる二人の姿も観測されたのだ。
「ぷえ。あれってフレアちゃんの創作物だったっけ……でしたっけ?」
わー(p3x000042)はこのバグ、ディアナの行方を調査しており、このクエストを発見したのだ。
「一応そうっぽいです。細かくは三つ仮説がありまして」
「みっつ」
わーがフレアの言葉を繰り返す。
一つはフレアの中の人――普久原・ほむら(p3n000159)の創作物に似た、元世界とは別の世界が発生した。
もう一つは、ほむらは元世界で、異世界の物語を受信か何かし、それを元に創作した。
つまりこの二つは彼女等はウォーカーとして無辜なる混沌に現れ、ネクストがそれを模倣したというパターンである。そして最後の一つは、ネクストがほむらの妄想を取り込んだというものだ。
「一つ目か二つ目が有力で、最後のはないなって思うんですが。けど……」
ほむらが言葉を濁す。いずれにせよネクストの彼女等はバグであり、つまりは敵である。ほむらが彼女等にとってどんな存在であるかは、あまり問題にはならない。
彼女等と話す際のヒント程度にはなるかもしれないが、はてさて。
「それでは行きましょう。皆様、ご案内を務めさせて頂きます」
サンディが丁寧に礼をし、ワールドイーターなる魔物の観測から得た情報を示す。
同時に、アバターのウィンドウにもまたクエストのタイトルと情報が提示された。
――『シークレットクエスト:五分前の大切な想い出』が発生しました。
(何ダ、コノタイトルハ)
「シークレット?」
「ぷえ。あの二人に関わったりです? というかフレアさんは危険なのではないですか?」
ディアナはほむらを『憎らしい創造主』といった風に呼んでいる。
どうも彼女等は自分が被造物だというような認識をしており、『物語を面白くするため』などという事情で生じた皮肉な運命を恨んでいるそぶりを見せたのだ。
やたらと狙われたりする危険性もある。デスペナルティの増加は、例の『ログアウト出来ない事件』に良くない影響を与えると推測されていた。
「えー、うーん……ただまあ、分かることあるかもしれませんし……」
Goneとわーの言葉に、フレアが小さく唸る。
「どうもディアナ達は自身が創作物出身であると認識しているみたいですよね。そうすると」
世界五分前仮説。それは「世界は実は五分前に始まったのかもしれない」とする仮説で、これを完全には否定出来ないという思考実験だ。世界が五分前に、そっくりそのまま出現し、それ以前の過去も皆『覚えている状態』で出現したようなケースを指す。
物語の世界が過去を持ったまま出現するというのは、ひょっとすると『本物の彼女等』が体験したことであり、ネクストに発生した彼女の模造品が持つ記憶でもある。そしてネクストもつい最近『発生』した。それらはつまり、どこか重なるような気もすると。
「それ自体はどっちでもいいと思うんですけども、ディアナ達は、何か感じる所とか、あるのかなって」
フレアは、なんだか難しいことを言いだしたものだ。
とは言えフレアの言う通り、それ自体は本件の枝葉にすぎない。
そうした些細な事情にどこまで深入りするかは、どちらでも良い所だろう。
本題はあくまでワールドイーターの討伐である。
それにディアナ等と交戦する可能性もあるが、その場合には少なくとも撃退せねばならない。
バグの元凶へ迫り、練達のマザーを解放するために。
なによりも、そうすれば『原罪』の秘密さえ、解き明かすことが出来るかもしれないのだ。
無辜なる混沌を滅びから救う可能性への、最大の手がかりを――
「あ、わーさん。そういえばこの前はありがとうございます。チョコ」
「ぷえええええっ!」
今、言うのか。それ。
- <lost fragment>五分前の大切な想い出完了
- GM名pipi
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月17日 22時10分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
ふわりと『妖精勇者』セララ(p3x000273)の視界が開ける。
「おー」
つい今し方まで見えていた正義の街並みが、一面の荒野に変わった。
寂寥感のあるメロディーがバックグラウンドに流れ始める。ネクストへログインする起点となる、サクラメントという仕掛けはワープポータルとしても機能するようだ。
「お待ちしておりました」
手のひらを胸に当て、丁寧に腰を折るサンディ・カルタは、混沌における同人物を模した存在だ。
「ぷえ」
「……ですね」
そんなサクラメントを使わずに、サンディが正義からここまで『どうやって移動したのか』という問いは、『こういうものへの知識』を持つ、セララや『ほむほむと一緒』わー(p3x000042)、『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)、あるいは『ステルスタンク』ミミサキ(p3x009818)辺りにはなんとなく説明出来る。要するにゲーム的な『仕様』というやつだ。
仕様といってもクエスト毎にまるで統一されておらず、各自の設定やらMODやらも合わせれば完全にめちゃくちゃなのだが、それはさておき。
「準備は大丈夫ですか? ここは今のところ安全ですので、最終確認出来るかと」
そう述べたサンディは、まさかの正義聖銃士(セイクリッド・マスケティア)であり、いわばアストリア枢機卿直轄の聖騎士のようなものだ。本物とはずいぶん違う人生を歩んでいるらしい。
「……」
奇しくも居合わせるのは『遍在する風』Gone(p3x000438)、アバターの中身は本物のサンディである。
「いい? サンディ、ここで大人しく待ってなさいね」
「え、あ。はい。皆さんの邪魔にはならないようにしますが」
「あんたって女の子の前ではすーぐカッコ付けるからね」
「え、ちょ」
思わず口調が崩れたサンディを尻目に、『いとしき声』P.P.(p3x004937)は目元を緩ませ、いたずら気を含ませた視線を『心紡ぎ』Siki(p3x000229)へ送る。
「そうそう、だからサンディ・カルタくん、君はそこにいておくれね?」
そう述べたSikiが言葉を続けた。
「君ってばすぐ無茶をするんだから。P.P.もそう思うでしょ? ね、Gone?」
(……)
押し黙ったGoneが顔を逸らす。
というか意思疎通も一苦労なのだが、このアバター。どうしてこうなった。
「あーえー。いやでもなんかお二人とも、というか。そこの魔物アバターの方も含めて全然他人の気はしないんですが。もしかしてそちらの世界? で、知り合いとかだったりします?」
「……まあ」
(……余計な事を言うナ、り……ピーツー!!)
Goneは今にも吹き出しそうな表情のP.P.を牽制する。
とはいえSiki達は、こちらの世界のサンディ――別世界の親友にも頼もしい所を見せたいといった所。他意がないのはGoneにも分かっている。
ただ気恥ずかしさばかりは、どうしようもないではないか。
「……? これは?」
「ちょっとした好奇心ってやつさ。ふふ」
そう答えた『大樹の嘆きを知りし者』リラグレーテ(p3x008418)は、サンディの感情へ働きかけてみた。
清廉な青白い花が顕現し、仕事を真面目に勤め上げようという意思を強く増幅する。
これで慌てて飛び出すなどということはなさそうだ。
(『サンディ』。どうせ「アストリア」の「夢」になルと決めたロウ?)
「なんか、考えてることとか、あらかじめ全部バレてんのって変な感じですね」
Goneの問いにサンディが苦笑する。
しかし『世界五分前仮説』、ネクストがわずか数ヶ月前に誕生したという問いは、この不思議な新世界に生きるサンディには、些か刺激的すぎるものかもしれない。注意は払っておこうとGoneは思う。
(アレでも『サンディ』ダ。亡霊同然の俺とテ、守らねバなるまイ)
上手くやったであろう反面、辛酸が培ったメンタルタフネスには不安が残る。
「あなたは遠距離から支援や攻撃をお願いね」
「あー、はい。わかりました」
一行は雑談交じりに作戦をおさらいしつつ、装備やデータを確認している。
足元に見える紫色に光る線を踏み越えれば戦闘開始だ。
そのようなアナウンスも表示されており、なるほどまさに『ゲーム』である。
戦闘ではワールドイーターというデータを喰らう怪物と、『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュというバグNPC――この世界がめちゃくちゃになっている元凶の一人と対峙することになっている。
この世界のゲームはひどくアンバランスかつ悪意に満ちている。フレアあたりに言わせれば『クソゲー』だが、これまでの経緯からゲームのルール自体が正常に機能することだけは、信用して良さそうなのだ。ゲームマスターを気取る悪意の主――ハデスだろう――は、あくまでゲームマスターらしくある心算らしい。
「……」
P.P.が光る線を眺め、それから遠くへ視線を移した。
だから、視界の向こうで空間を喰らうように渦を巻いているワールドイーターは、一行がここでこうしてゲームに臨む限り、あれ以上の動きはしないだろう。
「あ、そうだ。これもっててね」
セララがフレアに何か紙人形のようなものを手渡した。
「これは?」
「式神。誘拐されるかもだから、警戒&追跡用だね」
「……あー」
ディアナと接触する場合は移しても良い。そうすれば本拠地が特定出来るかもしれないから。
「誘拐、するでしょうか?」
ディアナの目的はいくつかあり、どうもぬいぐるみになってしまったティファレティアの身体を生身に戻すことも含まれているようだ。ならば外見がティファレティアにそっくりなフレアは、研究材料にでもされる可能性は、確かに考えられる。
「たしかに怖いですね……」
そしてR.O.Oには、ログアウト出来なくなるという凄惨なバグも仕込まれていた。P.P.のように――
「ところでフレア氏」
「なんでしょう?」
問うたのはミミサキだ。
件のディアナ、そして――今回は登場しないらしいが――いつも一緒にいるティファレティアというのは、アバターのフレアを操作するプレイヤー普久原が中学二年生の頃に創作した存在に酷似しているという。
「フレア氏は三つの仮説のうち、どれだったら良いと思いまス?」
一つ。偶然にも創作物に似た、元世界とは別の世界がある。
二つ。元世界で、異世界の物語を受信か何かし、それを元に創作した。
三つ。ディアナ達の世界は存在せず、ネクストは普久原の空想を直接取り込んだ。
「そうですねえ、なかなか難しい所です。一つ目は気が引けますし、三つ目は可能性低い」
「私しては二つ目の『異世界の物語を受信』ってのだけはちょっと嫌っスね」
「そうです?」
「だって、自分が考えたものが実はよそから持ってきたものだったって。そんなの切ないじゃないっスか」
「それは……たしかにそうかもしれません。こうなった以上は、一番気は楽かもしれないですけど……」
微かに表情を曇らせたフレアに、ミミサキは話題を変えた。
「……ま、私が元の世界で書いてたのは二次創作メインなんスけどね!」
「あ、いいですね。まあ私ペンタブ何年も動かしてないんですけど。ドライバは入れてても。あ、は、は」
表示されているクエスト名は『五分前の大切な想い出』。
わーが発見したシークレットクエストというものらしい。
おそらくゲームの胴元にとって『予定にはない状況』ではあるのだろう。
「――世界五分前仮説、ね」
空を仰いだ『ノスフェラトゥ』ヨハンナ(p3x000394)が呟いた。
ほんの数ヶ月前に誕生したネクストと、ディアナやサンディのようなNPC達。つまりディアナが持つ『それ以前の記憶』は混沌における旅人(ウォーカー)ディアナの記憶を『取り込んだ』と推測される。そしてディアナはそれを自覚したという状態らしい。
「例え本物でも偽物でも、今、この世界で生きていてる。今抱く感情は『自分自身』のものだ」
ヨハンナの断言に、セララとわーが頷き答えた。
「ボクだってそう思うよ」
「例え世界の全てが五分前に創られたのだとしても……」
わーが続ける。
「『今』と『これから』は私達自身が掴み取るものです!」
「ああ」
それにヨハンナにとっては『弟子(わー)が頑張っている』のだ。それを助けない師匠など居ない。
いくらか考え込み、言葉を選んだのは『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)だった。
「……うーん。私にとってのディアナさんは鋼鉄の事件を引き起こした元凶だけど、フレアさん達にとってはそれだけじゃないんだよね?」
ここへ来る前に短期未来予測術式の映像が一行に見せたのは、ディアナが思い悩む姿だった。
けれど当人の気質や考えがどうあれ、鋼鉄に内乱を発生させ多くの犠牲を生み出したのは事実である。
そして今も尚、ディアナは敵だ。
けれど――
「だったら、私は皆が少しでも彼女と話せるように頑張るだけだよ」
「なんか、その。ありがとうございます」
「勿論、ワールドイーターの退治もね!」
そんな話を聞いていたセララが、ふと首を傾げた。
「ディアナは旅人(ウォーカー)なんだよね?」
「これまでの状況や経緯から、そうなんだと思ってます」
厳密には、無辜なる混沌の旅人ディアナの『ネクスト版』が『バグった』ということになる。
「この世界を救おうって思わないのかな。それともネクストには神託がない?」
「うーん、いっそ聞いてみてもいいかもしれませんね」
「それでしたら、ありますよ。神託」
首を傾げ合うセララとフレアに、サンディが答えた。
とはいえディアナ当人が知っているかどうかや信じるかどうか、更にはどう行動するかは別の話だ。
やはり直接聞くのがよさそうではある。
「レティ、だっけ?」
「はい。ティファレティアだと長いので、ディアナはそう呼びます」
「いやさぁ、僕も気持ちはわかるんだ」
ぽつりと零したのはリラグレーテだった。
「このネクストに住むもの全て、このROOの全ての痕跡をブッ壊してやりたいと……そう思わないかと言えば、正直ね。何でもアリってことは、どうでもいいってことなんだから」
「なんとなく分かります」
「そりゃバグだって生まれるさ。……まあ練達まで滅ぼす訳にもいかないし、そうもいかないんだけど」
「あ、は、は……」
「さあさあ。お話は終わりまして?」
竹槍の穂先で指し示すように、『なよ竹の』かぐや(p3x008344)が力強く微笑んだ。
「それじゃ。とりあえず、せめて蔓延る虫の掃除くらいは済まそうか!」
「クリスタルワームをブチ転がしますわ!」
リラグレーテとかぐやの言葉に、一同が頷く。
●
かぐやが光の線を踏み越えた途端に、BGMは緊迫感と爽快感を煽るものへと変化した。
同時に、身体がふわりと宙を浮く。
「月の子たるもの、空中浮遊のひとつやふたつ出来ぬ道理はございません」
身体で即座に理解して飛び上がったかぐやに、一同が続く。
空弾倉のリボルバー、その銃口をこめかみにあて、リラグレーテが引き金を引く。
――御伽に繁しロゼッタネビュラ。
顕現した空想弾は頭を吹き飛ばす代わりに、その身を薔薇飾りに包み込んだ。
一行は宙を蹴り、巨大なワールドイーター『クリスタルワーム』へと肉薄する。
ワームの、三十メートルにも及ぶ巨体が陽光を遮り大きな影を落とした。
「ぷええええ!」
魔弾の射手――わーが薔薇の杖をくるくると振るう。
水晶のような鱗を、無数の光弾が穿ち貫いた。
「フレア、貴女もあたし達から離れないでね」
「あー、まあ、ええと。できるだけ」
「また、試着室で着せ替え人形になりたくなかったら、いい子でいてね?」
「ちょっ!」
頬を真っ赤に染めたフレアがわたわたと慌て、わーが「ぷえ」と鳴いた。
SikiやGoneが前線に出ている手前、P.P.としては気が引ける所もあるが、ともかくわーやフレアと連携すること、それから姿を現すであろうディアナへ警戒するに越したことはない。
「このまま頑張っていこう!」
舞う刃――Sikiの舞龍一刀が鱗を切り裂き、深々と食い込んだ。砕けたエネルギーの粒子が宙を舞う。
大鎌を振りかざすGoneの袈裟斬りが、剥き出しになった肉を寸断した。
「そんなもんっすか?」
箱に食いつかれた怒りのまま、ミミサキへ向けて突進するワームだが、いくらその身を打ち付けても、粉々に砕けた途端に復元する映像のような破壊することが出来ていない。
眼下を見下ろせば、辺りには巨大な水玉のような虚無が広がっていた。
そこには本来『町』があったようだが、データごと食われて抹消されている。
サンディのようなこの世界の住人にとっては、その記憶すら残らないらしい。
「健啖であることは実に結構ですわ」
ひどく悪食なワームの巨大な口先へ向け、かぐやは宙空を突進する。
「しかし世界ばかり食べていては胃がもたれてしまうことを懸念致します。猫が猫草を食むように、ワールドイーターもわたくしの竹を味わうことをオススメ致しましょう」
逆光を浴びる影が交差し、突き込まれた穂先がワームの口腔を顎まで貫いた。
かぐやはそのまま踵をワームの鼻先にぶつけ、一気に飛び上がる。
怒りの咆哮をあげたワームが食いつこうと巨大な顎を閉じるが、間に合わない。
虚空を噛み、のたうつワームの巨体へ、イレギュラーズは立て続けに猛攻を叩き込む。
だが、こじあけた傷口が、ふいにいくらか塞がった。
「こんな場所までようこそ、皆様方。けれど好きにさせる訳にも参りませんので」
「……」
「それに、本当に見た目だけは、良く似ているのですよね。創造主。即刻消えて頂きたいほどに」
宙に浮かんでいたのは、頬に両手をあて、歪んだ笑みを湛えるディアナだった。
「プランはいくつかございましたが、さすがに読まれているご様子」
ディアナはフレアを一瞥すると、小さな溜息を一つ。
「こっちとしちゃ、見過ごせねぇからなァ」
ヨハンナの端正な面持ちが、勝ち気な笑みに彩られる。
可愛い弟子と、その大事な人が傷つくなど、見過ごせるはずもない。
「アレが述べていた通り、油断も隙もあったものではありませんわね」
一行の作戦は、フレアを守りつつ、まっさきに巨大なワームから仕留めるというものだった。
「……もう少しマシなコマが欲しかったものです。本当に使えない」
小さな方――といっても身体より大きいが――は、予想通り大地のデータを喰らうことを優先している。
ディアナのぼやく通り、作戦は功を奏しはじめている。
立て続けに叩き込まれるイレギュラーズの猛攻を前に、ディアナの回復魔術はまるで追いつかず、戦況は敵にとってジリ貧を強要しつつあった。
何より。
「ヨハ太郎師匠!」
「ああ。──さぁ、咲き誇れ彼岸の華よ。獲物を蝕め」
わーが放つ光弾の合間を縫うように飛翔するヨハンナが拳を握りしめ、血液を放った。
魔陣が顕現し、瘴気の霧と化した毒素がワームの巨体を蝕む。
「これは戦術を変えねばなりませんね……」
蝕まれる傷を、ディアナは癒やすことが出来ないでいる。瘴気を解除しても、回復出来なければジリ貧は加速してしまうという訳だ。
「理不尽なものですね。あなたがたは、死することすらないというのに」
「理不尽でいえば、お互い様だろ」
「……それはそうですわね」
ヨハンナに答えるディアナは、やはり妙に素直な所がある。
いわゆる『良い子』とは少し違いそうだが、おそらく『曲がったこと』があまり好きではないのだろう。
広大な戦場を動き回れば小さなほうに近付くこともあるが――
「それなら、こうだよね」
リラグレーテが引き金を引き、絶対殲滅の空想弾が炸裂した。
――だったら。リラグレーテ答えは明快だ。巻き込んでしまえばいい。
「ほらほら、こっちだよ!」
数匹の小型ワールドイーターを牽引するように、ネイコが空を駆ける。
小型のほうはこちらを能動的に狙わない『バカなAI』ではあるが、どうも一度近付いてしまった場合、イレギュラーズをターゲットに攻撃しようとする『ヘイト』のようなものがあるらしい。攻撃行動が発生した敵の数は徐々に徐々に増えていった。けれどそれならば、ネイコは妖刀を振りかざし、アピールする。白色のエフェクトがワールドイーター達を包み込み、仲間へ噛みつこうとしていたのをやめてネイコへ向かう。
幾度かかわし、幾度かは爪や尾にその身を弾かれるが、しかし妖刀の加護は彼女を戦場に踏みとどまらせ続けていた。ネイコの尽力によって、混戦への突入は回避出来ている。
●
戦闘は続いていた。
「こっちはこのまま任せとくっスよ」
一方で巨大ワームの壁役を買って出たのはミミサキだ。
アタッカー組と挟み込むように、自身を狙わせ続けている。
無尽蔵とも思える巨大ワームの体力は、いくら傷つけても先が見えないではないか。
対する一行はいくらかのリスポーンを経験したが、ネイコとかぐやは一度も落ちていない。
役柄上、一度はリスポーンさせられたミミサキだが、巨大ワームに『仕掛け』を判別する力はないらしく、ディアナもまたミミサキ達へ対処する術を持たないようだった。
心配そうに見守るサンディが、思わず参戦しないよう注意しておくのも忘れない。
イレギュラーズはリスポーン出来たとしても、NPCはそうはいかないのだ。
とはいえ作戦自体は実に順調である。敵はジリ貧のままだ。
しかし一行側も未だ決め手には欠いていた。
「これが埒が明きませんわね」
かぐやがぼやいた。
竹槍があれば水晶の鱗など容易く穿ち貫いてみせる――そう言いたい所ではあるが。
さすがにある程度攻める場所を絞りたいところ。
「ならばこちらを狙ってくださいまし!」
黒筆で描いたバッテン印。
相手が通常の生物の枠外なら、これで一点をゴリ押しするのが最適解。
「有用な殺り方ではないかと見ておりますわ!」
作戦に頷いた一行は、集中的な打撃を加え続ける。
「これでそろそろ、どうにか出来るんじゃないかな」
「それじゃ合わせなさいよ」
「あ、えっとはい」
「ぷえええ!」
空想弾を穿つリラグレーテに続いて、機会をうかがっていたP.P.が肉薄。大鎌を振りかぶる。
巨体を蹴りつけ飛び退いた瞬間、フレアの黒羽が縫うように突きたった。
バツ印の中心へ吸い込まれるように放たれたわーの光弾を追うように、黒炎を纏う斬撃がワームの身を一気に切り裂いた。Goneが、のたうち振るわれるワームの尾を避けると、再びミミサキが巨体へ食らい付く。
敵の持つ質量の暴力は、有効に作用出来ていない。
ディアナは幾度か刃を振るい、魔術による攻勢を仕掛けてもくるが――どこか及び腰にも見える。
ならばチャンスは今だ。
風に乗るGoneと、跳躍したSikiが交差し、ワームの身を縦横に切り刻む。
開いた深々とした傷にディアナが眉をひそめるが、ヨハンナの瘴気があり満足に癒やすことも出来ない。
「そろそろ仕掛けますわよ! 乾坤一擲の大勝負!」
大地に降り立ったかぐやが竹槍を天高く掲げ、腰を落として腕を引き絞る。
「うん。合わせよう! ギガ! セララ! ブレイク――ッ!」
腹部を一気に膨らませたワームの鼻先を、小さな小さなチョコレートの剣がちょこんと打ち付けられる。
その瞬間、雷撃を伴う強烈な衝撃にたたき落とされたワームが、顎を大地に打ち付けた。
大小の理不尽をねじ伏せる斬撃の余波に大岩が爆ぜ、ワームの絶叫が迸る。
その心臓を真下から貫いていたのは、一本の竹槍だった。
●
「それじゃあ、そろそろ全部けちらそうか!」
小型を引き付け続けていたネイコに、一同が頷いた。
「ご安全に!」
低空を駆けるネイコとすれ違い様に、Sikiはふと小さく吐息を吐く。
放たれた青く輝く炎に、小型の数匹が一気に飲まれた。
「結末を刻もう」
勇猛と希望を抱くリラグレーテの空想の弾丸が、小型の一体を撃ち貫き消滅させた。
宙を駆け、時折岩肌へステップを刻むネイコを追うように、数匹の小型ワームが迫る。
ネイコが右の岩を蹴りつけ飛べば、岩をワームが食い破る。
着地点をもう一度蹴り、ネイコが立っていた場所が情報質量を失い虚空へと転化する。
兎を追う肉食獣のように襲い来るワーム達を、ネイコは懸命に翻弄し続けている。そこにヒヤリハットはない。ネイコはそのまま振り向き、バックステップを踏んだ。
「それじゃあ今度は、こっちからもいくよ!」
強気な笑みが煌めき、かざした刀が煌めいた。
「プリンセスストライク!」
今の彼女はプリティ★プリンセス。そう、必殺技は叫ぶもの。
虹色の煌めきが戦場を駆け抜け、ネイコは輝く刀身を目一杯に振り抜いた。
「ディアナさんは、今、此処にいる事。生きること。深く考えるから難しくなっちゃうんだよ、きっと」
だから。
「こっちは任せて! みんなは思いをぶつけるんだ!」
「そうだね。聞きたい事はあるよ」
(そノ気持ちに嘘が無ければ、五分モ五百年モ変わらんのダ)
リラグレーテが頷き、Goneが呟く。
「……ねぇアンタ、集中できてないんじゃない?」
「……」
P.P.が言ってのける。
「戦うつもりが無いなら大人しく引いてくれると有難いのだけど。アンタは『この世界に生きている』んでしょ。あたし達は死んでも蘇るただのデータだけど、アンタは違うんでしょ」
「世界が5分前に始まったとして。悪魔の証明、挑戦する必要無いよね」
リラグレーテが問いかける。
「感情こそが認識の全て。欲するもの、直接聞きたいんだ」
「あなたの行いは、その幻想纏いは恐ろしいものです。ですが、そうですわね……。感情というだけで括るのであれば、今の私はこの世界の滅びは望みません。救いたいとまでは思いませんけれど」
「そもそも!」
かぐやが声を張る。
「迷いがあるなら、喧嘩に加わるべきではありませんわ!」
こちとら趣味でバトっている所。つまらない顔をしている者が混ざるなど、興ざめも良いところなのだ。
「……緑の機体の……かぐや様。違いありませんわね。私には、この場に立つ資格はありません」
ディアナは神妙な表情で俯いた。
「ああ、それから。フュラー姫が会いたがっておりましたわよ」
「アンタは本物なんじゃないの?」
畳み掛けるようにP.P.は言葉を続ける。
「だから、そんな目をしている人を殴るのも気が引けるのよ、わかってよ」
「わかりましたわ。今は剣を納めましょうか。あれをやめさせることは私には出来ませんが」
「それは物理的にスか?」
ミミサキが問う。
「物理的に、ですわ」
「じゃあ、そうスね……。ぶつける感じじゃないですが、この機会に聞いておきたいんスけど――」
小個体の相当に推移した所で、ミミサキはディアナへと問う。
「なんでしょう?」
「クエスト:ザーバインパクトでNPC佐藤美咲を焚き付けたのってアンタっスか?」
正直にいえば、回答は期待していない。
なにせ『選択権』があるのはディアナ側だけ。その選択に介入して喋らせる術は持たない。
一瞬だけ考え込んだディアナが答える。
「述べた所で信じていただけるかは疑問もありますが、それ自体を私は存じ上げません。私はあのまま鋼鉄から撤退したのです。二度と行きたいとも思いませんし、関わりたくもないのですから」
ディアナは続ける。
「敗北の傷痕を見つめ続けられるほど、私は強くありませんの。そう『設定』された被造物ですから」
微かな自嘲を感じる口ぶりは、正直な心境の吐露にも感じられた。
嘘はないだろう。ミミサキは職業柄『こういうこと』に詳しい。
おそらくディアナは、直情的なタイプだ。嘘をつくとしても、ひどく下手くそに違いない。
「被造物だとかいう点にも思うことはあるっスけど」
ディアナの回答を聞いたミミサキはちらりとフレアを振り返る。フレアの視線に裏付けを得たミミサキは、言葉を続ける。
「結局のところ、今、私達の前にあるのは『本物の敵対関係』だけ。
なら、深く考える必要はないんじゃないスか?」
「……」
「本物とか恋人の考えとかでなく、自分の考えで動けばいいでしょう。
私は『わたしの思惑』でそれを防ぎまスから」
「ずいぶん、明快に言ってくれますね」
ディアナが微笑む。そこに悪意のようなものは感じられなかった。
「自分が創作物出身だとして、それが何? って感じだよね」
セララもまた続ける。
「だってボクらは生きてるし毎日楽しいもの!」
「楽しいですか。楽しいことも、ありますわね。けれど私は私であるとう自信を持つことが難しいのです」
「この世界が5分前に始まったとして、それでボクは何も変わらないよ」
ワールドイーターの顎をかわし、斬撃を叩き込んだセララは語る。
「そんなのは全然、大事じゃないんだ」
「……」
「大事なのは日常を、そして未来を守れるかどうかだと思うんだ」
問うのは、あり得たかも知れない別の未来。
一度は違え、しかし戻る事も出来るかもしれない今、この瞬間のこと。
「混沌世界には破滅の神託があって、ボクらは世界の滅びを回避するためにパンドラを集めたり魔種を倒したりしてるんだ。このR.O.Oにも魔種がいるなら破滅の神託は存在するんでしょ?」
「……ええ。存じております」
「ディアナはこの世界の滅びを回避するために行動しないの?」
仮に道が交わるのであれば、セララは友達にだってなれる。そう信じている。
「仰りようは理解出来ますわ。けれど私は――わずか数ヶ月前に生じた私という個は、その女を憎き創造主と呼び、己が怒りに任せ、バグなどという力を受け入れ、鋼鉄という国を、住まう人々を破壊しました」
ディアナの言葉に、ネイコが鋭い視線を送る。謝れば済むような話ではない。
「行ったことを覆すことは出来ず、バグに抗うことも出来ない。今の私は『ゲームのエネミー』なのです」
――
――――
「来るよ!」
警戒していたネイコの鋭い声に、一同が身構える。
「そう構えてくれるな。戦う気はない。その様子を見れば」
「レティ! どうして」
「余りに遅いのでな。大方の状況は理解した。我の魂はディアナと一つであるゆえに」
現れたのは宙に浮かぶ小さなぬいぐるみ――ティファレティアだった。
「けどさ」
掃討を終えたSiki達が集まってきた。
「存在の証明なんて私だって知らないよ。それでも『君達が誰であるか』の証明を君達以外に求めるなら……君とレティが傷つくと、フレアは悲しむのだろうさ」
Sikiの言葉にディアナはフレアを一瞬だけ睨み付るが、その表情は長くは続かなかった。
「厳密には、私達の創造主ですらありませんものね」
「けど、君らはフレアが愛し生まれてきた代わりのいないディアナとレティだ。その心に本物も偽物もないと、私は思うけれど」
「……正論なのでしょう。なかなか、美味しくはいただけないお味ですが、しかし……」
そんな時だった。
ヨハンナにトンと背を押されたわーが、ぎゅっと目を閉じた。
「わたしは!」
そして決意を籠めた瞳をひらき、拳を握りしめて語り始める。
「元々ティファレティア様のファンなんです! ぷえ!」
唐突な主張に、ぬいぐるみとディアナが怪訝そうな表情でわーを見据えた。
気圧されるが、それでもわーは懸命に見つめ返した。
「ディアナさんともお友達になりたいです!」
わーは本気だ。大マジだ。ディアナが息を飲み、フレアが目を見開いて赤面した。
重大な話なのだが、うろ覚えの黒歴史が暴かれまくっている感覚である。フレアの泳ぐ視線から、P.P.とミミサキが目をそらした。助け船を出すべき場面ではないのだと言外に含ませ、あえて突き放す。
「あ、あーー……」
「それは、その。いや……何も言うまい」
「それで、どうなさりたいのです?」
「このままでは二人の王国が遠のく一方、機を見て此方を利用しませんか」
「なるほど、一理ある」
そう言ったのはティファレティアだった。
「しかしこの対話さえ裏切りに相当する可能性もございますわね。この際どうなろうと別に構いませんが」
「我々の心情としては吝かではない。というよりしでかしたことの大きさを鑑みれば、破格の条件とも思えるが。現状の目的が合致するのは理解出来る」
この世界は、滅ぼうとしている。間違いなく。
それはこの後すぐ明確になるのだが、さておき。
「私、終焉の獣を解き放つことにも、一枚噛んでおりましてよ。それも最早、過ぎたことですが」
ディアナが吐き捨てるように述べた。
「……終焉の獣?」
ネイコが眉をひそめる。
「近く、事が動き出すでしょう。私からはそれしか申し上げられませんわ」
「我々としても、先方の考えは図りかねるのだ。これだけ強大な力を与える存在なのだから。粛正や人格介入などされては、さすがに恐ろしい。我々は生きている自覚を持つが、データではあるのだろう?」
ティファレティアが述べた。話は通じる相手のようだ。
一行は対話を続けるうちに、理解出来たことがある。ディアナ達はハデスの考えが理解出来ておらず、またその力を恐れているようだ。この対話すら傍受されているかどうかに気を配っているようだが、半ばやけくそのような感情もあるのだろう。仮に傍受されているのだとすれば大きなリスクになる事も承知している。
(……パラティーソ、モカ)
「言う事を聞かせることが出来る、程度にしか分かりませんわね」
Goneの呟きにディアナが答えた。
「知っていて泳がされる可能性もあるな。だいたいピエロ共がどの程度連携しているかも不明だ」
「ええ、私達にとっても、その程度には未知なのです。あれらは」
「我等二人とて、統率されている訳でもないしな」
そもそもバグNPCとて信用されていない。あるいは、信用する必要すらないのかもしれない。
ともかく、わー達の提案はいくつかあった。
共存を選ぶのであれば、協力は惜しまないこと。
ならば邪魔をするつもりもないし、バグの修正を試みることも可能かもしれないこと。
「何故なら推しカプですもの」
それと。
「あと。フレアさん、あれ。今です。ぷえ」
「……はい。あの。お二人の物語に過酷な運命を背負わせて、申し訳ありませんでした」
「それはもう、どうでもいいですわ。混沌世界の私達に出会ったら、言っておあげなさいな」
ぬいぐるみを抱えたディアナが一行に背を向けた。
「思う所もありましょうが。お互い、上手くやれれば良いですわね」
「大丈夫だよ。だって今日からボク達は友達だから!」
手を振るセララに答えは返らなかったが、それでも信じることは出来るから――
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼お疲れ様でした。
少なくとも心は通じ合い、対話も成功したのだと思います。
MVPは小型ワームを引き付け続けた方へ。被害めっちゃ少なくなりました。
それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
ワールドイーターとかいうヤバイ魔物を退治しましょう。
アフターアクションにて、わー(p3x000042)さんが発見した、シークレットクエストです。
●成功条件
ワールドイーター『クリスタルワーム』の撃破。
●ロケーション
エルカークという小さな町がありました。今は『虚空』に飲まれています。
『道中』サクラメント
喋ったりなんか出来るかもしれません。特に用がなければ現地パートだけでも良いでしょう。
近くに、いかにもな光のサークルが広がっており、そのエリアに踏み込むと戦闘開始になります。
『現地』
踏み込んだ戦闘エリアです。
空間自体に黒い虫食いのような球を合わせたようなものが大小多数発生しており、まともに歩くことも出来ません。その代わり、なんだか浮遊して移動することが出来ます。
飛行だとか、あるいはバランスを整えたりするような装備や非戦闘スキル的な効果があれば、この移動制御は有利になります。
●敵
・ワールドイーター『クリスタルワーム』×1
水晶に覆われた翼のない竜のような魔物です。30メートルぐらいあります。
空中を這い回ります。強靱なタフネスとヤバい攻撃力があります。ちょいと遅め。
闇雲に暴れ狂っています。
噛みついたり、巨大な尾で攻撃してきます。扇形のブレスも吐きます。
色々スゲー範囲攻撃です。
・ワールドイーター『タイニークリスタルワーム』×10
こっちは3メートルぐらいで、同じく食い荒らしています。
噛みついたり、尾で攻撃してきます。扇形のブレスも吐きます。
・『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュ
剣と攻撃魔術、回復魔術等を行使します。詳細な能力は不明です。
一応の交戦意思はあるようですが、色々と微妙に迷いがある雰囲気です。
なんとなく撤退しそうです。
いつも一緒の生きたぬいぐるみ『ティファレティア』の姿は見えません。
●同行NPC
・正義聖銃士サンディ・カルタ
道中の案内人です。サクラメントが使用出来ない――かと思いきや、現地近くのサクラメントに行くと、なぜかちゃんと立っています。ゲームだからか!?
なかなか強いですが、戦闘はあまりに危険なため直接は参加はしません。
『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)
希望ヶ浜からのログイン組で、皆さんの仲間です。一応イレギュラーズ。
物理と神秘のバランス型近接アタッカーで、遠距離単体神秘攻撃と、回復もあります。
●サクラメント
現地近くにサクラメントがあり、いくらかのタイムラグで戦線復帰出来ます。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O3.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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