PandoraPartyProject

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パラディーゾの少女

「ふっふーん、ふっふふーん♪」
 鼻歌が響く。些か古めかしい正義国様式の街をスキップして歩く一人の女性。
 いわゆるギャル風のコーデのその女性は、両手いっぱいに紙袋を抱えて、上機嫌に歌いながら、喧噪冷めやらぬ街を眺めていた。
 得体のしれない煙を吸いながら転がっている男が街角にいた。
 腹を刺されて死んでいる女がそこらに転がっていた。
 その傍らで何事もないように店を開く男がおり、その商品を盗んだ子供を捕まえて、瀕死になるまで殴っている。窓から建物を覗けば、中にはけだるげにタバコを吸う裸の男女がおり、外には刺されただの殺すだのと言う絶叫が上がる。
 街のあちこちは暴力に包まれ、悪徳に包まれ、背徳に包まれ、堕落に満ちている。
 空は歪んだモザイクに覆われ、ドーム状の世界がこの街を包んでいる。
 ここは、R.O.Oの、ネクストと呼ばれる世界。
 その一角。正義国の北の地。人はかつて、そこを背徳の魔都ディウシムと呼んだ
 この街は、ワールドイーターによりデータを食われ、そしてワールドイーターによってつくりかえられたバグの地である。正義国の北にあったディウシムの史跡を喰らったワールドイーターによって創造されたこの『バグの世界』は、今、正義国を狙うバグの軍勢たちの本拠地と化している。
 そんな街中を、ギャル風の女性――パラディーゾ金星天の徒、仮称エイル・サカヅキは歩いているのだ。
 何をするでもない。買い物である。
 品物は、ワールドイーターによって生み出させられる。通貨も。タピオカミルクティーもだ。エイルにとっては天国のような場所だ……おっと、さっき捨てられて餓死した子供を踏んだ気がするが知った事ではない。
「ふっふふーん、ふっふー♪ らーららー♪」
 そのまま上機嫌に街を進んで、街の中央の教会にたどり着いた。神を信じぬこの地では、もはやただのデカいオブジェでしかない。外壁は荒れ果て、汚れ、この悪徳の街においてすら近づくもの好きは無い。そんな建物にエイルは入ると、ぱちん、指を鳴らした。
 すると、あちこちのポリゴンが集結して、どこへ続くかもわからぬ、長い登り階段が生まれた。エイルがそれを登っていくと、やがて景色が石造りのそれから、近代的なコンクリづくりのそれに代わる。そのまま階段を登っていくと、一枚の扉が現れる。それを勢い良く開いたら、コンクリートうちっぱなしのこじゃれた部屋が現れて、中に和装の少女が一人、椅子に座っていた。
「やほやほ、スティアっち! ただいま~」
「エイルさん、またお買い物?」
 和装の少女は、パラディーゾ原動天の徒、仮称スティアである。
「んー、おいしいタピ作ってもらったしさー。あ、あと七色のわたあめとかも。スティアっちもさぁ、外でよ? 体に悪くない?」
「有難う。でも、外には出たくないかな」
 スティアは微笑んだ。
「この街にいる人間は、本当に屑ばかりだよ。そんなのとおんなじ空気、吸いたくないなって。クズはクズなりに何か役に立つかとも思ってたけど、本当に、何の役にも立たないんだね」
 そう言う言葉は、オリジナルのスティアからは決して出ぬような言葉だ。そう言った意味でも、パラディーゾとは、オリジナルと全く同じ存在と言うわけではないということが分かる。
「ウケる、スティアっち辛辣じゃん」
 エイルはケタケタと笑う。
「アタシは好きだけどなー。皆今だけしか見てなくて」
「ふふ……まぁ、この国の人間の本質なんて、こんなものなんだよ。だから、こんな国、いくら綺麗に取り繕った所で……すぐに化けの皮が剥がれるんだから。
 自分たちが何をしてきたかを忘れて、改心しました綺麗です、なんて顔してる。許されるなんて、おかしいと思わない?」
「何スティアっち、親でも殺されたの?」
「ふふっ」
 スティアは笑うと、ぱたん、と本を閉じた。
「そんな事より、ゲームの方はどうなってるのかな?」
「んー、向こうも反撃開始って感じ?」
「そうか。じゃあ、精々お楽しみ、って所だね?」
 スティアが虚空に手を伸ばす。ポリゴンが集結して、湯気の立った紅茶の入ったティーカップを産みだした。それにゆっくりと口をつけると、
「そだねー。いっぽーてきにボコるのもあんな面白くないし?
 向こうも、負けてる所から反撃するの盛り上がるだろうしねー」
 ケタケタと笑うエイル。……エイルにとってこの世のすべては刹那の喜劇に過ぎない。
 所詮はゲームによって生み出された仮想の世界、自身たちもゲームによって生み出された仮想の生命でしかない。
 で、あるならば……何をこだわる。何を憂う。
 この世など、刹那にはじけて消える夏の花火であればいい。
 刹那笑って、楽しんで。後には何も残らない。それでいい。
「エイルさんは、刹那的だからね」
 スティアはふふ、と笑って、再び紅茶に口をつけ――そして、ふと、虚空を見上げた。
 目が合う。
「ふうん。アストリアさん、みてるね? そこまで術式を完成させたんだ」
 スティアが、虚空へと手を伸ばした。そして、そこにあった何かを握りつぶすようなそぶりを見せる。
 映像が暗転する。世界が暗転する。
 ブラック・アウト。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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