PandoraPartyProject

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私には認識できない

 R.O.Oの正義国、その首脳陣は揺れていた。先日、正義国大司教アストリアが視た『未来』についてだ。限定的な未来予測システムを構築したアストリアが見た未来とは、虚無に食い荒らされ、『未来を失った』正義国の国土であった。
 既に、敵の侵略ははじまっている――その実情を調べるため、大急ぎで各地に正義騎士団が派遣された。だが、その報告は驚くべきものであった。
 ――異変は認められず。
 ――領土内に、敵侵略の後認められず。
 正義国は平穏である。それが、現地調査チームの出した結論であった――。

 場面を移そう。正義騎士団の一団が、街道を進んでいる。その本隊には、正義騎士団副団長レオパル・ド・ティーゲル、同騎士団所属のリンツァトルテ・コンフィズリーイル・フロッタ、そして正義貴族の名門であるミルフィール家長女、アンナ・シャルロット・ミルフィールの姿があった。
「副団長殿。今回は調査との事ですが――」
 リンツァトルテが声をあげる。
「ええと。なぜ、その、ミルフィールの令嬢のご同行を……?」
 視線を送ってみれば、意気揚々とハンマーを手に行軍する、アンナの姿がある。その隣には、それをはらはらとした様子で見守っているイルがいた。
「……信じられないかもしれないが。これも、異変の調査のためなのだ」
 レオパルは真剣そのものと言う表情でそう言った。ある種鬼気迫るその表情に、リンツァトルテは思わず息をのむ。
「到着いたしました! ここがポイントのはずです!」
 と、戦闘の聖騎士が言う。レオパルが頷き、リンツァトルテ、イル、そしてアンナに視線を向けて、ついてくるように促した。
 石畳の街道を、騎士たちの間を通ってゆっくりと進む。果たしてそう時間を空けず、リンツァトルテとイルの前に姿を現したものは、あまりにも奇妙な光景だった。
「これは……なんだ? まるで、無数のキューブが折り重なり、景色をぼかしているように見える……?」
 イルが声をあげる。彼らの前に広がっていたのは、数十メートルにも及ぶ巨大な『モザイクの塊』であった。イルには、いわゆるモザイク加工の知識は無いだろう。故に適切な表現方法をもな無かったが、みるものがみれば、巨大なモザイクの塊が世界を侵蝕しているように見えたはずだ。
「そ、そんな……此処にはノックレンの街があったはずです! 住民たちはどうなっているのですか!?」
 リンツァトルテが叫ぶのへ、レオパルは痛ましい表情で頷いた。
「そうか。貴殿らにはそう見えるのだな? そして、ここにはノックレンなる街があったのだな?」
 何処か確認するように言うレオパルに、イルはたまらず叫んだ。
「な、何を悠長なことをおっしゃっているのですか!?
 これだけの異変、どうしてこれまで放置されていたのですか!?」
「私には、見えない」
「――は?」
「私だけではない、ここにいる、他の騎士達にも――貴殿らの言う、異変が『見えない』……認識できないのだ。我々には、ここは『平穏な街道』がある様に見える。それに、ノックレン……そのような街があったという記録すら、我々には認識できていないのだ」
 リンツァトルテが、喘ぐように口をパクパクさせた。
「嘘、でしょう?」
「貴殿らがそう言うのも仕方ない。だが、これは事実だ。恐らく我々は――大半の国民は、この異変を認識できぬようにされているのだ。恐らく、それこそが、敵がここまで隠密裏に攻撃を成功させた理由だ」
 つまり――正義国がここまで侵略を許してしまったのは、そもそも敵の攻撃の結果を、誰も『認識できなかった』からなのだ。仮に町が一つ消滅しても、『町は元から存在しなかった』と認識が変えられてしまう。まるで『復元力』が働いたかのように。ゲームがバグっていることを、ゲーム内のキャラクターが気づけないように。
「だが、貴殿らのように、この異変を認識できる人間も、ごく少数ながら確かに存在する。リンツァトルテ、イル。貴殿らや、そこのアンナ嬢のようにな」
「だから、常々申し上げておりました。この国に、悪が迫っていると」
 アンナはふわり、とスカートを揺らし、ハンマーを強く突き出した。
「エルベルト様も認識できてはいませんでした。地図と資料を照らし、街が消えた、と申し上げても、『ここに街などは無かった』とおっしゃるのです――ええ、これこそ悪の策略なのです」
「この地点の調査も、アンナ嬢の進言により行われたのだ。イル、リンツァトルテ。貴殿らが、『視える者』で良かった。貴殿らのおかげで、我々は反撃に転ずることができる」
「わたくしたちでは……残念ですが、わたくしたち正義国のものだけでは、この異変には対処できないでしょう。ですが、わたくしたちには、勇者様が――イレギュラーズ様達が、います」
 アンナの言葉に、レオパルは頷いた。
「うむ。我々はこれより、イレギュラーズ達へ、正義国領土奪還を依頼することになるだろう。その仲介役となるのは、イル、リンツァトルテ、貴殿らのような『視える者』達だ。
 貴殿らの双肩にかかった期待と責任は重い。だが、正義の騎士として、責務を全うしてほしい」
『はっ!』
 リンツァトルテとイルが、敬礼と共に返事をした。アンナはそんな様子を満足げに見つめながら、
「ふふ。これより行われるは正義の仕置き。
 悪人の皆様、正義のハンマーの裁きにあうお覚悟はよろしくて?」
 そう言って、ハンマーの頭を愛おしそうに撫でた。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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