PandoraPartyProject

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虚空の未来

 『現実』と『虚構』の同時侵略が行われていたその裏で――。
 R.O.O、正義国。首都である、聖都フォン・ルーベルグにある大聖堂。その一角に設えられた特別室に、アストリア、そしてその従者にして最大の友人であるサンディ・カルタ、ベーク・シー・ドリームの姿があった。
「ついに完成したんだな、アストリア……!」
 興奮気味に言うサンディを、窘めるようにベークは言った。
「まずいですよ、サンディ君。公の場だと、従者として接しないと……!」
「かまわぬ。今日はこの場には、この三人しかおらぬしのう」
 アストリアは楽しげに笑うと、特別室の中心へと向かった。特別室は広く、ドーム状の天井が設えられた、些か薄暗い部屋だ。見るものがみれば、その光景はプラネタリウム施設を思い起こさせただろう。実際、アストリアが向かった先には、プラネタリウム設備を思わせる大きな投影機のような機械がある。アストリアはそれに手を触れると、言った。
「そうじゃ! ついに完成したのじゃ! 構想数年、試作すること数十回! この度、特異運命座標たちからもたらされたヒイズルなる国の『渾天儀【星読幻灯機】』の情報をもとに作り上げた、いうなれば『アストリア式渾天儀』! 名を、『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』じゃ!」
「カレイドスコープ……万華鏡ですか。星々と未来を覗く万華鏡……! やりましたね、アストリア君!」
 感激のあまり、ベークも砕けた口調で声をかける。【偽・星読星域】の完成には、事実アストリアの悲願と苦悩があった。未来を見通す、とは誰もが一度は見る夢た。アストリアにとって、未来を見るとは、民の安寧を守る事。正義国の絶対的繁栄と人々の安寧のために、アストリアは未来を見る事をひたすらに研究し続けていた。最も近しい従者であり、友でもあるサンディとベークも、アストリアの苦労と苦悩を身近で見、そして共に苦労を重ねていた。その何年物努力が、今ここに結実したのである。
(……けど、妙だ。何年も失敗してきた術式が、突然成功するものなのか……?)
 サンディが小声でそう言うのへ、ベークは頷いた。
(ヒイズルなる国があるのは確かに知識として知っていました。ですが、ここ最近急に、その詳細な情報が入ってくるようになったきがします。
 まるで、つい先日に『突然現れた(アップデートされた)』みたいに……)
 些かの、世界に対する不安の種を、サンディとベークは共有する。だが、とにもかくにも、これまでの努力の成果が表れたのは事実だ。そこは素直に喜ぶべきなのかもしれない。
「それで、アストリア。これ、どうやって動かすんだ?」
 サンディが尋ねるのへ、アストリアはにこりと笑った。
「うむ! まず、この投影機に妾の祈りを注ぐ! 聖なる力が原動力となって、このドーム状の天井に、星域の図を現すのじゃ。もちろん、正義国の地図をそこにあわせることもできる。そして、その星の動きから、未来を妾が読むのじゃ!」
 まるで新しいアクセサリを得た少女のように喜ぶアストリア。
「まだ短期的な未来しか覗けんが、すぐに遠い先の未来も見通して見せよう! ……さて、御託はここまでじゃ。早速じゃが、使ってみようではないか!」
「いいですね! どんな未来が待っているのか楽しみです」
 ベークの言葉に頷きながら、アストリアは投影機に設えられた座席に座った。それから瞳を閉じて、ゆっくりと祈りをささげる。ほの明るい光がアストリアを、投影機を包むと、そこから天へと向けて、無数の光が解き放たれた。光は天井のドームに点と線を描く。これが、星なのだ。現れた星図を、アストリアが読む。輝く星々のごとく、正義国には輝かしい未来が見えるのだろう。
 そのはずだった。
「……なんじゃ?」
 アストリアが、不安げな声をあげる。気づいたサンディが、声をかけた。
「どうしたんだ、アストリア? 変な未来でも見えたか?」
「いや――見えん。なにも、見えない」
「失敗ですか? ……アストリア君?」
 尋ねるベークは、アストリアがわずかに震えているのに気づいた。その顔は、酷く青ざめている。怯えている。彼女のこんな表情を見るのは初めてだ。
「アストリア君?」
「見えんのじゃ! 未来が見えん! 酷く虚ろな虚空が、何もない空間が……虚無が、正義国を覆っておる……! 失敗ではない、見えないのではない! そうじゃ!
 ――『この国には、未来がない』……!」
 アストリアが、怯えたように己が身を抱きしめた。サンディが、落ち着かせるようにその身を抱く。
「アストリア、どういうことだ? 何があったんだ?」
「サンディ君! 空を――」
 ベークがそう言うのへ、サンディは空を見上げた。正義国の地図が、星図の中へ投影される――刹那、虫食い穴のように、正義の地図のあちこちに黒い影が現れる。
 黒い影は、街を覆った。森を覆った。山を覆った。街道を覆った。平地を覆った。覆った。覆った。覆った。覆った。覆った。
「あの黒い影は、虚無じゃ」
 アストリアが言った。
「何故気づかなかったのじゃ!? ああ、なんという事じゃ……正義と言う国は……とっくの昔に、『食い荒らされて』おったのじゃ……!」
 それを現すかのように、国土の六割以上を黒い虫食いにされされた天義の地図が、星の海の中に不気味に映し出されていた。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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