PandoraPartyProject

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帝都星読キネマ譚:黒翼徒花

 暗褐色のローズウッド製のドアが音を立てて閉まる。
 遠ざかっていく足音の余韻が聞こえなくなるまで、鹿ノ子はその場に立ち尽くした。
 何度こうして彼の背をを見送っただろう。
「今日も連れて行ってはくれないんッスね」
 目の前のドアに自分の声が跳ね返る。
 濃色のドアにそっと手を置いて鹿ノ子は寂しげに視線を落した。

 遮那が失踪して数年の間、鹿ノ子は彼を探し続けていた。
 ようやく見つけた遮那に追い縋り。手を必死に掴んだ。
 一度は振り払われたその手を、離すまいと。
 もう一度。
 しっかりと掴んだのだ。
 それを遮那は受入れてくれた。

 それなのに。
 遮那は自分を戦場には連れて行ってくれないのだ。
 鹿ノ子は彼岸花の瞳を伏せて溜息を吐く。
 遮那にとって自分は必要無いと言われているようで胸の奥に焦燥が渦巻いた。
「僕の方が月閃を使いこなせるっスよ……」
 零れた言葉は苛立ちを孕む。

 妖刀廻姫を手に入れた遮那は、その膨大な力を未だ制御出来ていない。
 黒松滝平次郎を斬った事件とて。
 男に憑いていた夜妖を祓おうとした剣先は、遮那の未熟さ故に命諸共を刈り取った。
 妖刀廻姫を制御出来ていれば、黒松滝平次郎は死ぬ事はなかったのだ。
 国の未来の為に妖刀の力を以て、犠牲になった者達の業をも背負い突き進んでいる。
 そんな遮那の力になりたい。其れだけの力を鹿ノ子は有している。
 けれど頑なに、遮那は鹿ノ子を『使おうとはしない』のだ。
 鹿ノ子に与えられるのは、毎夜溶け合うほどに囁かれる愛の言葉と温もりだけ。

 ――貴方が傷を負うならば代わりにこの身を差し出すのに。
 ――貴方が剣を振るう事を躊躇うならば代わりに相手の命を奪うのに。

 苛立ちと焦燥が募るばかりで。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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