PandoraPartyProject

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Do you remember

 ある男の話をしよう。
 その男は強かった。ただただ只管に強かった。
 岩を砕くは容易、風すら置き去りに疾走し。
 数多の矛を浮けようとも決して倒れぬ不朽であった。
 その男は最強と称えられ――やがて国の頂点にまで上り詰める。
 絶頂であった。正に自らの全盛期にして、自らの最強ぶりを決して疑わなかった――

 故に、若さゆえの過ちも多かった。

 最強の男に惹かれる異性は多く、そして男も拒まなかった。
 それ故の行為がやがてどのような結果を生むかも一切合切放置して、だ。
 ……男は強かったが聡明ではなかった、という事だろうか。
 全てを喰い、全てを捨て。
 彼という人となりが落ち着いたのはそれから随分と酸いも甘いも過ごした千辛万苦の末。
 老いた男にかつての力はなく。
 故に求めしは次代の後継。曲りなりの皇帝としての責務――

「随分と勝手な話よねぇ。
 後で反省すればなにもかもが帳消しになるとでも思っていたのかしら」

 だがそんな事情など『知った事ではない』のだ。
 なんだソレは。なんだその殊勝な様は。
 ふざけるな。今更になんの顔を見せるというのだ――
 かつてのかつて『もういらぬ』とゴミの様に捨てておきながら、今更漁りになど来るな。
 ――憎悪。
 『ソレ』は生まれ落ちた時からきっと憎悪に包まれていた。
 鋼鉄が国の帝都。その城塞の一角にて崖下を眺めるはラド・バウが闘士ビッツ・ビネガー……『そのもの』だ。ビッツは皇帝暗殺の疑いをかけられ、また些かの事情により帝都を離れていた――のだが。
 ここにいるビッツはそのビッツ『ではない』
 かといって偽物でもない。
 もしもR.O.Oに個体ごとの登録名があるのならば、彼もまたビッツ・ビネガーとして表示されるであろう――完全なる同一個体にして完全なる別人。なにがしかの『事情』により生じたもう一人のビッツ。

 彼こそが皇帝暗殺の真犯人。鋼鉄の国を覆う混沌の原因。

「こんな国に価値なんてあるのぉ? ――いっそのこと潰れてくれた方がマシじゃない」
「ンフ。いやぁホントにその通りですよねぇ!」
「おだまり」
 瞬間。神速の手刀が、いつの間にやら背後にいて笑みを見せていた『ピエロ』に飛ぶ――
 さすれば絶大なる一撃は首を捻じ曲げ命を奪う……筈が、壁にぶちまけられたピエロは何故か平然としていて。
「あー私、死ぬかと思いましたよちょっと!! 酷くないですかねぇ、これから面白くなるっていう段階で演者が怪我で出演できなくなったらどーするんですか! 莫大な慰謝料払えるんですかぁ!?」
「煩いわねぇ。それよりも本当なんでしょうね――決戦が近いのは」
「えぇえぇ。あの優雅にキメてるお姫様もちょっとは動き出す頃合いでしょう。イレギュラーズ共が煩わしくなっているのは共通見解ですからねぇ――奴らが幾つ『クエスト』なんぞというものをクリアしたおかげで、このゲームが正常に進んでしまっている事か」
 お姫様、とはこの鋼鉄の国の裏で動いている『バグ』の一人だ。
 だがこのビッツにとっては彼女の思惑などどうでもいい。お姫様は混乱に伴ってこの鋼鉄の国を手に入れるなりするのが目的のようだが――しかしビッツの目的はこの国の破滅に在ると言っても過言ではないのだから。
 何故かって? ンフ。お判りでしょう?
「あの男が築き上げたものなんて何一つ残してやらないわ」
 そう! このビッツはぜーんぶ無茶苦茶にするのが目的だからデス!!
 この国が欲しいなら皇帝をぶっ殺した時に名乗り上げればよかった。
 そーれをしなかったのは、しなければこの国が群雄割拠になると思ったから!
 軍閥が立ち上がり、難民も生じて正義すら巻き込む壮大な一手ェ~~! ンフフ。
「そうそう頑張りましょうねぇ! あと一歩。ゼシュテリオンの連中を粉砕すればもう邪魔する者はいませんYO! お高く留まってなるべく騒ぎにならない様にしてる正義の国だって、収束しないと思えば黙っちゃぁいないでしょうしねぇ」
 故に、ピエロは言う。
 もっとだ。もっとこの国が壊れれば――軍閥が暴走し正義に侵攻でもすれば――
 決してあの高潔なる国は『最早放置できない』と判断するだろう。
 或いは闇に落ちたザーバがこの国を掌握する方が先か。
 ソレがこの国の消滅の時。
 少し前まであの男が背負い、発展させてきていた意味が何もかも無意味に帰す時。
 切望せし破滅の折はもう少しだ。
「邪魔はさせないわよ――誰であろうとね」
 死ね。滅べ。朽ちて果てて何もかもなくなってしまえ。
 数多を滅す色を瞳に宿しながらビッツは帝都を見据える――

 その隅では、陽気なピエロが面白おかしいように笑っていたとか。

 ――軍閥ゼシュテリウスが、帝都へ向けて進撃しているようです。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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