PandoraPartyProject

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パラス・ルジエ

 一言で伝えるなら、そこは『お姫様のお部屋』だ。
 天蓋付きのベッドの下、シーツには多数の化粧品が転がってる。
 仰向けに横たわる『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュは、鷹揚そうに脚を組み替えた。
 彼女はリップグロスをつまんで眺め、興味なさげにシーツへ落とすと、ぬいぐるみを抱きしめる。
「結局、使えるのはザーバ・ザンザだけ。困ったものです」

 ディアナはここネクストにおける『バグ』の一人であり、それを明確に『自覚』する人物である。
 そして彼女の狙いは、この世界(ネクスト)の破滅だ。
 しかしそれは『この世界そのものを消し去る』といった類いのものではない。
 世界へ破壊と混沌をまき散らし、人類を根絶やしにして、永遠の王国を築くことを本懐とする。
「来訪者(イレギュラーズ)の皆さんは、おそらくここ(帝都)を目指すのでしょうね」
「ディアナ、急いては事をし損じると言うが」
「兵は拙速を尊ぶとも言いますわ、レティ」
 レティと呼ばれる『喋るぬいぐるみ』は、ディアナの伴侶にして共犯者――『宵闇の皇女』ティファレティア・セフィルという存在が肉体を失った際に、魂を保護したという設定になっている。故にもう一つの目的はぬいぐるみから生身の身体に戻すということ。
 彼女等は異世界から召喚された旅人(ウォーカー)であり、ならば無辜なる混沌において、『出身世界』は実存する筈だが、ここはその模造品――ネクストという情報世界なのである。
 彼女等もまた混沌側に存在する『何者か』の、模造品や何かに違いないということだ。
「別にどうでもよいのです。私やあなたが本当は何者であるかなど」
 所詮は『そういう設定の集積情報』であると、ディアナは自身の運命を諦観していた。
「けれど仮初の世界をどうしようと、私の勝手ではありますもの。例え私もあなたすらも、ただの偽物であったとしても。あなたと二人、永遠を過ごせるのなら、私はそれで構わないのです」
「そうだな」
 ディアナは愛おしげにぬいぐるみを抱きしめると、再び深い溜息を吐き出した。

「――ちょっと、いいですか?」
「なんですの?」
 隣室から呼びかけるのは、メイド姿――と呼ぶには些か頼りない衣装――の少女である。
 美しく波打つブロンドヘアも、細い身体を包む衣類も、あまりに装飾過多であった。
「紅茶です。あと軍閥ゼシュテリウスが帝都を目指して進撃を開始したみたいです」
 ティーカートに乗る温かな金属マグカップに、注がれた紅茶は二人分。
 ベッドから起きたディアナは、隣室にある窓際の豪奢な椅子へと腰掛ける。
「ずいぶん、黒いですわね。それにまともなティーカップはございませんの?」
 紅茶の色を眺めてディアナはしょげた。
「ごめんなさい。ガラスのやかんが全部われてて、鉄のしか。あとカップも……」
「鉄ならひしゃげるだけですものね。どこを見ても鉄と油ばかり……。本当に難儀な国ですこと」
「ディアナ、そう我儘を言うものではない。鉄に焼けたなら蜂蜜を入れよう。ありがとうエトリラ」
「あなたを責めている訳ではございませんのよ、エトリラ。はやくその力も取り戻したいものですわね」
「ありがとございます」

「それで――ゼシュテリウスだったな」
 どうやって紅茶を飲んだのか。ぬいぐるみのティファレティアが問う。
「ギアバジリカを色々改造して、ずんずん進んでるみたいです」
 結局、茶会に付き合わされたエトリラが答えた。
「町になど目もくれず、この城まで突き進むおつもりでしょうね」
「だろうな。至急、迎撃の用意をしなければならないだろう」
 鋼鉄では軍閥同士の抗争――内乱が繰り広げられており、帝都の奪取は簡単だった。
 バグを利用し、それなりの兵力は揃えているつもりだった。
 だが拡大したゼシュテリウスを迎え撃つには不安も付きまとう。
 何せ彼等にはイレギュラーズという強力な勢力が助太刀している。
 戦時となれば他軍閥の介入も予想され、生じる混乱は目的を利するはずではあるが、はて。
「幸い、弾薬類は多いが。エトリラならどう使う?」
「相手が機動要塞なら、機関車とかに火薬いっぱいのせて、そのままぶつけるとか?」
「なるほど、そうしよう」
「私は、あまり使いたくはありませんでしたが。あれを用意することと致しましょう」
「ならば四頌姫(フォリナー)はディアナに従い、パラス・ルジエの準備を頼む」
「はい!」
 力を振るいすぎるのは、ディアナとしては気が進まない。
 この場の死守はディアナ達の本意ではなく、鋼鉄帝国を我が物とするのは手段の一つに過ぎなかった。
 だがこの世界(ネクスト)でも強力な力を身に付けつつあるイレギュラーズをくい止めるのは、早いに越したことはないはずだ。このまま僅か数ヶ月もすれば、手に負えなくなる可能性とてある。
「けど、イレギュラーズはサクラメントからリスポーンするんですよね」
「ええ、本当に厄介ですこと。物語の娘やピエロは、どう考えておりますのやら」
「とにかく、試してみるほかにあるまい」
「分かっておりますわ。それはそれとして、レティ。あまりこの国(鋼鉄)に染まらないで下さいまし」
「……お互い様だ」

 ――鋼鉄の帝都にて、なんらかの儀式が開始されたようです。
 ――軍閥ゼシュテリウスが、帝都へ向けて進撃しているようです。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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