PandoraPartyProject

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ヨトゥンヘイムからの聲

「相も変わらず、この国はぐずぐずに腐った苹果のようで愉快ですわぁ」
「相も変わらず、オーナーは『趣味が悪い』」
 終焉(ラスト・ラスト)の澱は変化なき停滞を過す。気紛れな彼女は彼の国の出来事を他人事のように眺めて居られる程に我慢強くなかった。
 歪みと苛烈が禍々しく交差する七罪の座で『煉獄篇第七冠色欲』 ルクレツィアは幻想王国を取り巻く一連の騒動をそう称した。
「まあ。リュシアンだって莫迦らしいと思うでしょう?
 ……ああ、恋しい人の為に身を擲ったのは貴方も同じですものね。小馬鹿になどしては居られないかしら」
「……いいえ、オーナーが楽しいなら俺も楽しいすよ」
『趣味が悪い』さえも褒め言葉として受け取っていたルクレツィアの反撃に、彼女の側近として付き従う魔種――リュシアンは眉を顰めた。
「楽しんでいますことよ。人間とは斯くも争う生き物ですものね。
 ええ、ええ。私だって、オニーサマの為に『オーダー』を叶えようと尽力していますのよ」
「オーダーはこの混沌を蝕み、予定通りに神託を成就させる事、でしたっけ。そうですね、オーナーは何時だって一生懸命だ。
 カムイグラに眠りの呪いを放ったり、深緑で『怠惰』様の手伝いをなさったり……けど、今回は『予想外』だったでしょう?」
「まあ」とルクレツィアは友人ブルーベルを思い出すリュシアンの顔を覗き込んだ。
 大魔種はそれぞれ己の縄張り、謂わば『担当』を有している。ルクレツィアはそれを無視して様々な国家に『ちょっかい』を掛けるきらいがあるのだ。
 その手先であるリュシアンが実行犯になるのは当たり前の事だが、ローレットと共闘する事にまでなった己は非常に立ち位置も曖昧だ。他の大魔種にケチを付けられても文句も言えまい。……そうならないのは気紛れにもルクレツィアの『お気に入り』であるからだろう。
「さてさて、演目の主演はイミルのフレイス……それから、サテュロス・ミーミルンドだったかしら」
「それは祖先の話でしょう。当代はベルナール・フォン・ミーミルンド。イミルの民のフレイス姫さえ生者や人間の『括り』ですらない、唯の魔物でしかない。
 イミルの民の伝説なんて俺も寝物語でしか聞いたこと無かったのに、よく動きましたね」
「私の『遊び場』で余計な事をしているお莫迦さんがいるみたいですもの。リュシアンは何方かご存じ?」
 ルクレツィアの言葉にリュシアンは小さく頷いた――『レアンカルナシオン
 それが色欲の大魔種である彼女が担当する『幻想王国』にて暗躍する集団の名だ。ミーミルンドの忠臣であるクローディス・ド・バランツと繋がりが在る事をリュシアンは把握していた。
 彼が何時どの様にして彼等と知り合ったのかは知る由も無いが、其れ等の手を借りて『フレイスネフィラ』と呼ばれる化物が今世に舞い戻ったのは確かなことである。
「オーナーの玩具に手出しするなんて、酷い奴等ですね」
「思っても居ないでしょう?」
「……まあ、頭がとち狂ってないと魔種なんて遣ってませんから。『傲慢』でしょう、彼等」
 その言葉に、ルクレツィアの眉が釣り上がった。
 大魔種達にも『性格』という者は存在して居る。例えば、纏め役となっていた『嫉妬』アルバニアや全てに対して関心を示さぬ『怠惰』カロン。そうした兄弟の中でも彼女とソリが合わないのは『傲慢』の長兄である。
「……なんですって」
 面倒くさいことを教えてしまったか。だが、後の祭りだ。
 彼女が何を言い出しても良いようにとリュシアンは身構えたが――
「リュシアン。私、素敵な事を考えましたわ。聞いて下さる?
 勇者だとか英雄だとか、御伽噺には魔女は付き物ではなくって。うふふ、貴方みたいな息子(オトモダチ)が居て良かった」
 女の唇が楽しげに言葉を踊らせた。彼女にとっては人の営みなど、地を這う蟻の列と同義だ。蹴散らすのは易く、罪悪感すら浮かんでこない。
 故に、乙女は動き出す。
 長兄に好き勝手されるのも彼女にとっては我慢ならないことなのだろう。御伽噺の魔女よりも、凶悪な笑顔を浮かべた女はいつも通り『最悪』だった。
「此度の役者に、私からご褒美のキスを差し上げましょう。
 屹度、もっと愉快なことになりますわ。ええ、だって――幻想王国(このくに)は私の遊び場ですもの」

これまでのリーグルの唄(幻想編) / 再現性東京 / R.O.O

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