PandoraPartyProject
夢果ての黄金林檎
クローディス・ド・バランツが『彼ら』と知り合ったのはいつの事だったか。
大奴隷市やブレイブメダリオンの偽造と言った悪事にも平然と手を染める彼が怪しげな団体と接触しうる機会など――まぁいつでもあったのかもしれない。
或いは。彼にとっての主君とも言えるほどに心酔しているベルナールが亡くなった妹を模し始めたのが始まりであったか? 死者をそこまでにも慈しむというのならばと、主の為に思案した事もあったろう。
そしてだからこそ、あのお方の為にと奔走した際に……
「ふん、そうかい――レアンカルナシオンの連中は成功したのか。
リルの奴はクソの役にも立たなかったが、アンジェロの奴はゴミなりにやるじゃないか」
死者の記憶を蘇らせる――とする技術を有するレアンカルナシオン。
奴らとの接触の機会が生まれたのかもしれない。
クローディスが己の配下より報告を受けているのは、ミーミルンド派が潜伏している拠点の一つで、だ。幻想国内では――少なくとも主要なる貴族の中では――リーグルの唄における動乱を巻き起こした罪としてミーミルンド派の排斥の流れが生まれている。
故にこのような事に加担したミーミルンド派は隠れ潜んでいる訳だ。
いざなるかな、幻想軍との決戦の準備を進めながら。
――そうして今、乾坤一擲の打開策が一つ彼の下に報告として齎された。
これでいい。
『尊き血族』と『王権の象徴たる角笛(レガリア)』が揃えばこの状況からでも逆転しうる可能性は残されている。この国はどれほどの腐敗を見せても――伝統と歴史、そして血を重要視する『貴族の国』だ。
ここ暫くクローディスはイレギュラーズなどにより己が策略が妨害され続け非常にイラついていたのだが……今日と言う日は珍しく上機嫌である。まぁ、常日頃からヒステリック気味な彼にとっては比較的気分が良い、という程度だが。
「これは早速ベルナール様に報告に行かねば――」
「あら。その話なら聞いたわよ、アンジェロが『やった』んですって?」
瞬間。歩を主の下へ進めようとしたクローディスの所へとやってきたのは。
この事件渦中の人物である――ベルナール・フォン・ミーミルンドであった。
「記憶の復活……転写、だっけ? フレイスネフィラの使う『記憶の投射』と似てるような気がするけれど――さて繋がりがあるのかしらね?」
「恐れながらそこまでは。巨人共が最近まで封印されていた事を考えると、直接の繋がりはないと思われますが……」
レアンカルナシオンの持つ技術。
フレイスネフィラが持つ『記憶の投射』を行う術――どちらも似ている。
これらは似ているだけか、只の偶然か、或いは根元を同じとする技術の『枝葉』か。
それから風の噂に聞いたが貴族の娘が古の記憶を体感したという噂は、あれは本当なのか。
……いずれも今この場で分かる様な事ではないが……まぁミーミルンド派にとっては事情の根幹はそう重要ではない。それよりも『ある人物』の記憶転写に成功したアンジェロが間もなくこちらに帰還するという事。
……そして。
「同時に。これでマルガレータ様の復活も見込めるという訳ですね――」
ベルナールと巨人――イミルの民の長であるフレイスネフィラは一つの盟約を交わしている。
それはかつて喪ったベルナールの妹、マルガレータの蘇生だ。
幻想王国を討ち果たし、フレイスネフィラの悲願を叶えた先に。
ベルナールは渇望し続けた――あの子をもう一度手に入れる事が出来るのだ。
「……」
「ベルナール様?」
「そうね。もう戻れやしないのだから――後は前にだけ進みましょう」
ずっと過去を求めていた。
ベルナール・フォン・ミーミルンドにあったのは過去だけだった。
愛しきマルガレータとの日々をもう一度と。
何度も過去を振り返った。何度もあの日を見続けた。
――生きている己はずっと前に進むしかないと分かっていても。
振り払えぬ羨望だけがずっとこびり付いていて。
「アンジェロの帰還と同時に始めるわよ――さぁ、勝ちましょう」
語る言葉にどれ程の意味と重みがあるのか。
己自身も不明瞭なままに――ベルナールは言葉を零していた。
これまでのリーグルの唄(幻想編) / 再現性東京 / R.O.O
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