PandoraPartyProject
Rapid Origin Online
探求都市国家アデプト、首都セフィロト。
「これは……」
『その場所』に通された時、仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は思わず乾いた声を上げていた。
薄暗い室内には無数の電子光が瞬いている。室内のスペースは驚く程に広く、天井は高かった。
部屋全体には蛇のように無数のコードがのた打っており、低い稼働音は壁床天井、目の前のオブジェクトのどれから発されているか区別もつかない。
それは兎も角巨大であり、それは兎も角異常であった。飲み込むかのような存在感を醸して――『世界』はただそこに鎮座していた。
「……これは、一体何だ?」
尤もすぎる汰磨羈の問いにマッドハッターが幽かに笑う。
「これがアリス達をここに招いた理由なのさ。名前はRapid Origin Online。
Project:IDEAの中核にして練達の悲願が形になった姿さ。
ちなみに私達はこれを『ウサギの穴』とも呼んでいるよ。
RapidとRabbittをかけた唯の言葉遊びだが、二つの『O』がまるで穴のようだろう?
それに君達(アリス)にはとても相応しい名前とも言える」
(な、何が何だか分からない! でもそれを言っていい場合なのか何なのか!)
他人を化かすようなマッドハッターの言葉に楊枝 茄子子(p3p008356)は混乱を禁じ得なかった。
そもそもが練達は混沌の異物である。混沌法則に真正面から挑むかのような彼等の領域は純種たる彼女にとって圧倒的に理解の外だった。
現代は飛び越え、近未来さえ過ぎ去り、遠未来に片足を突っ込んだかのような『SF』は成る程、ファンタジーの住人には馴染深くはない。
「よ、良く分かりませんが、皆さんはメイ達にこれを見せたくて呼んだですか?」
ナウでヤングなシティガールはこんなものまで理解せねばならぬのか――そう思ったかどうかは定かではないが、気を取り直したメイ=ルゥ(p3p007582)が問うた。
練達の科学者達が己が成果を見せびらかしたがる事件は良くある事だ。もし、これが――三塔主によるそんな話であるならば平和には違いなかったのだろうが――
「――残念ながら、そんなに楽しい話じゃない。
今回、諸君等を招喚したのは正式に我々三塔主からの依頼を伝える為だ。
レオン氏には既に伝えているが、事態が少しややこしい。より正確に理解して貰う為にも、今回はイレギュラーズから代表して君達三人にも同席を頼んだ。
汰磨羈君、茄子子君、メイ君。君達は練達に詳しいだろうからね、当然の帰結として選ばれたという訳だ」
操の言葉を受け自分の顔を見たイレギュラーズにレオンが一つ目配せを送る。
つまりはそういう事らしい。三塔主が依頼してくるという事は『国家的規模』であるのは間違いない。
「つまり、それで……Rapid Origin Online――つまりこのシステム? 構造物? が依頼の肝となる訳か」
汰磨羈の言葉にカスパールが「その通り」と頷いた。
「諸君に正しい説明と理解を求めるにはまず我々練達――三塔主が『何を望んだか』を伝える必要がある。
探求都市国家アデプト――つまりこのセフィロトの興りと目的は理解しているか?」
「えーと、確か混沌に流れ着いた旅人達が集まって出来た国、だっけ?」
「はい! それで混沌法則を打破してお家に帰るのが目的なのです!」
茄子子とメイの言葉に今一度カスパールは首肯した。
「その為には『混沌法則』が何処から何処まで働くか――起動した時どういう結果をもたらすか、それを全て調査する必要がある。
しかしながら、練達の叡智、その総力をもっても物理的に覆しがたい現実はある。
多大な資源、人員、時間を注いで混沌法則の発動と性質を研究するには自ずと限界があった。
生じるかも分からぬ法則の気まぐれを測る為に、それら全てを生贄に捧げ続けるのは非効率が過ぎる。
全ての選択肢を虱潰す物理的なトライ&エラーを繰り返すのは現実的ではないと気付いたのだよ。
時に、レオン・ドナーツ・バルトロメイ。そういった時、貴公ならばどう解決を取らんとする?」
「『机上で空論する』」
「……皮肉な男だな。だが、間違っていない。
『想像』は『実践』の前段階だが、ことこの『探求』には必要不可欠であった。
……つまる所、我々は発想を逆に転換したのだよ。実践から想像に遡り――探求に到った。
この混沌で無限のリソースを注ぐ『実験』が出来ないとするならば、『別の場所』での実験を夢想した。
それが『Project:IDEA』――我々の切り札であり、その産物がこの『Rapid Origin Online』という事だ」
「?????」
小首を傾げるイレギュラーズに対してレオンは合点がいったようであった。
「ははあ、アンタ達すげぇ事考えるな。そりゃあ、つまり――『世界を作っちまった』って事だろう?」
「如何にも。Rapid Origin Onlineは練達のネットワーク上に生み出された混沌世界のコピーだ。
運用上、一部の事情や状況は異なるが……計算が確かなら、混沌世界と同等の世界法則を有している。
練達の叡智は世界をネットワーク上に構築し、『プレイヤー』を極めて現実に近似的にアクセスさせる手法さえもを完成した。
我々はRapid Origin Online(もう一つの混沌)の上で無数の並列実験を実施する予定だったのだ。
あの忌々しい混沌法則を打破する為に」
詳細は分からないまでも余りにも突拍子の無い夢物語にイレギュラーズは嘆息した。
俄かに信じがたい話ではあるが、練達には良くある事だ。それも最高権威(カスパール)が断言したならそれは現実に他ならない。
「だが、予定は未定に変わった――」
汰磨羈の声に三塔主が苦笑した。
今回の最大の問題は彼女の言う通り三塔主が依頼をして来た部分にある。
この大掛かりな『世界創世』に生じた『何かの失敗』が穏やかざる現実である事は想像に難くない。
研究の成果を外部に開示する事を嫌うセフィロトが『心臓部』までローレットを踏み込ませた現実がそれを雄弁に物語っていた。
「――何をさせたい?」
「結論から言えばアリス達にはウサギの穴に『ログイン』して貰わなくちゃいけない。
実はウサギの穴は『何か』のトラブルで今暴走状態にある。我々『ゲームマスター』の権限の一部を無効化し、情報の自己増殖を始めてしまった。
……君達にはウサギの穴でこの原因を探して貰うのと同時に、人質を助けて貰わなくちゃならない」
「人質?」
「我々、練達の研究員さ。彼等はログインしたまま『戻ってこれない』状態にある。
かなり十分な安全対策を施していた心算だったけど、状況は予測を超えてしまった。
強制的なログアウトで幾らかの人員はサルベージ出来たが、不思議の国で迷ったままの子達も多いんだ」
「……え、その、それって会長達も戻ってこれないんじゃ……!」
ごく当たり前の想像に茄子子の顔が青くなった。
ログインなる状況がどういう状況を示すのかは知らないが魂を抜かれてはたまらない。
「そこについては一先ずは安心してくれていい。
安全対策はこれでも山ほど準備していたんだ。オートマがダメならマニュアルさ。
私達三塔主が総力を挙げて君達のアクセスをモニターする。
バックアップとしてフルサポートを行い、ログアウト――つまり退路を確保する。
勿論、出来るかどうかは信じて貰う他は無い。絶対の保証はしかねるが、R.O.O自体は現在小康状態でね。
それはこうしてきちんと説明している時点で少しは信じて貰っても良いとは思わないか」
操の言には一理ある。確かに嘘を言って騙す事は容易い話である。
イレギュラーズが囚われてしまえば、ローレットは動かざるを得ない。協力以前に可否の判断足る情報を伝えて来る辺りは、少なからず存在する自信の表れと言えるのかも知れなかった。
「まぁ、アリスの心配も尤もだ。カスパール君、これはもう仕方ないよね?」
「……うむ。やむを得まい」
マッドハッターはカスパールの承諾を受け、イレギュラーズに向き直る。
「私達だけでは心配だという話は尤もだ。
そして同時に我々は諸君等への信頼の証として、最大の味方を紹介しよう」
言葉と同時に室内の気配が変わる。
ヴン、と重いノイズが走り、一同の目の前に――
※探求都市国家アデプトで『何か』が始まっているようです……!
これまでのリーグルの唄 / 再現性東京
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