PandoraPartyProject

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ブレイブメダリオン

色鮮やかな絨毯を踏んで、燭台と飾り鎧の並ぶ廊下をゆく。
 絨毯の踏み心地はこの世のどんな地面よりも優しく心地よく、足音すらも甘美であった。
 この絨毯一枚にかかった費用を思えば当然……否、当然を通り越している。そうで無ければ、報われない。
 王へと上がった貴族達の血税が、そのために一族永劫畑や牧場をいじる農民たちの汗が、どこからか連れられ生きた労働機械として購入された奴隷たちの生命が……人に踏まれるために使われたなどと。
 つまりはこれは、『踏みしめた側の責任』なのだと、花の騎士シャルロッテは沈黙の中で想った。
「王、お話が御座いま――」
「シャルロッテ、話がある」
 通路に敷かれたものよりも文字通り桁違いに高級な絨毯の上でワイングラスを傾けた美麗な男が、騎士の言葉を遮った。
 本来人の話を遮ることは無礼にあたるが、おそらくはこのレガド・イルシオン幻想王国内においてそれが一切の無礼にあたらない人物――『放蕩王』フォルデルマンが、空になったワイングラスを差し出していた。
 それが『空になったがおかわりは要らないので下げろ』の意思表示だと長年の経験から察したシャルロッテがグラスを受け取ると、その動きにまるで頓着しない様子で王フォルデルマンは話を始めた。
「我が偉大なる祖先――勇者王の盟友ウィツィロの伝説を知っているか」
「……はい」
 王が突然昔話を始めるのはなにも珍しいことではない。
 むしろどこからか見つけてきた化粧品や雑誌や、異国の妖怪騒ぎを話半分に語り始める事の方が多い日常からすれば、王が王らしい話をしている……と言えるのかもしれない。
「太陽の神翼ハイペリオンの卵を巡り魔の物と戦い、惨たらしくも命を奪われてしまった母なる神翼獣に代わり親としてハイペリオンを育て大空の旅に同行した……あの優しき戦士ポジトリ・ウィツィロ。古き吟遊詩人のうたにも語られた神の翼の物語だ」
「……はい」
 この話は何度目だったろう。シャルロッテはそんな風に考えながら、この先の展開を思い出していた。
 深緑のムーンキーが冬の王を妖精郷に封印した物語しかり、『勇者王のパーティ』が残した逸話は世界各国に眠っている。ポジトリ・ウィツィロにまつわる『神の翼の物語』は、その中でも特段ポピュラーな、絵本や演劇やくるみ割り人形になるような物語である。
 たしか、死した神翼獣の遺志をつぎ、新たに生まれた神翼獣ハイペリオンの親代わりとして強く賢くそして何よりも優しく育てたハンマー戦士ポジトリの物語である。その後勇者王と共に、ハイペリオンの背にのって大陸中を冒険したという話だったか……。
 流れは知っているが、王の暇つぶしがてら相づちを打つだけうとう。グラスを片手にそんな風に――
「で」
「はい」
「新世代の勇者を任命しようと思う」
「はい……はい!?」
 思わず手からグラスが滑り落ちた。
 これもまた結構な血税で作られた特注のグラスだが、桁違いの血税による絨毯がそれをやさしく受け止めた。
「ハイペリオンから授けられたメダルは後に勇者の証として我が国に残っている。残っているな?」
「は……」
 今度こそいいかげんな相づちは打てない。勇者の証(ブレイブメダリオン)は貴重なアイテムである。しかし政治の混乱のさなかで散逸したものであった。
 王はそれを覚えているのかいないのか……。よもや国民の誰かにそれを授与すると言い出すのでは。
 シャルロッテは一段と高まる動悸をおさえ、あえて話の続きを待った。
「いま、ローレットはこの国にはびこる奴隷問題を解決すべく東奔西走しているという。世界各国で残した功績も数知れぬことから、私は――」
 ローレットの誰かに授与するのか? 王の器を? シャルロッテの首から上が震え始めた。
 次の言葉がどうか穏便なものでありますようにと、世界の神に祈った。
「ローレットのイレギュラーズたちに広くブレイブメダリオンを配ろうとおもう」
「ンンッ…………!!」
 シャルロッテの記憶は数時間ほど途切れた。
 目覚めたときは、医務室であったという。

 王より、ある布告が成された。
 ――いまこのとき幻想王国中で起きている奴隷問題をはじめ様々な事件を解決したローレット・イレギュラーズには、解決するごと、解決に携わったすべての者に、『ブレイブメダリオン』を授与するものとする。
 ――王の定められる『約束の日』までに最もメダルを持ったものを、次世代の『勇者』に任命する。

 この布告によってローレット・イレギュラーズへ授与するためのブレイブメダリオンが新たにかつ大量に生産され、貴族達へと配られた。
 貴族達は依頼したイレギュラーズへその報酬とは別にメダルを授与していく。
 だがこのメダルは授与された者がまた別の者に譲渡することも許されていた。
 後に王が定めるであろう『約束の日』までに最も多くのメダルを持っていた者が次世代の勇者に任命される。
 つまりは

『ブレイブメダリオン・ランキング』――通称勇者総選挙の、開幕である。

これまでのリーグルの唄 / 再現性東京

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