PandoraPartyProject
根之堅洲國へ下る一夜
――夜は深く、『今宵に全てを賭ける』べきであると電話口の女は言った。
「貴女と、そして希望ヶ浜学園の皆さんに張り付いたお嬢さんの気配を使用して道を開きましょう。
阿僧祇はその為の道の用意と石神での下準備を、澄原は残穢を祓い去る為の治療法と手順を準備しました。
残るは音呂木の巫女が『路』となる事です。……危険な場所にご学友を送り込むことになりますが」
溜息を混じらせた声音はキーボードをタッチする音と共に聞こえてくる。どうやら、A-netを介して阿僧祇霊園と連絡を取り合っているのだろう。
「澄原先――」
「澄原は多く居ますから、晴陽で結構です。ひよのさん」
「晴陽先生、阿僧祇もそうですが澄原はどうして私達に協力しようと考えたのかを聞かせていただいても?
私が愚かにも皆さんを救い出したいが為に、何も考えずに其方に従えば叱る人も多く居ますから……」
ふ、と笑みを零した晴陽の声が鼓膜を擽った。aPhoneを握りしめるひよのは彼女の答えを待ち続ける。
澄原病院とは希望ヶ浜の総合病院だ。夜妖の専門医でもある。だが――『立場が中立すぎる』故に、イマイチ信用ならない存在である事も確かだ。
同様に、今回の渦中に存在する阿僧祇霊園は石神地区においては真性怪異に取り入られた社員たちがお嬢さんを使用して大量の怪異に触れたゾンビと称する存在を作り出していたではないか。
「……こうなった以上、阿僧祇には石神地区より手を引かせることとなりました。
夜妖の専門家である皆さんに阿僧祇の怪異によって変質した遺体の処理を任せることになります。
今回は希望ヶ浜学園の関係者を救う手をお貸しする代わりに、石神地区でのゾンビ退治を皆さんにお任せしようかと――貸し借りなしで非常に良い取引でしょう?」
「……それは、とても素敵ですね? ええ、それならば手を取り合いましょう。
まず、私は音呂木の――御途路来の巫女として異界であるダムの底に沈んだ筈の村『来名戸村』への道を開きます」
「そして、探索者を送り込んでください。希望ヶ浜の学生ならば貴女も信頼しているでしょう。
ただ、ひよのさんは入れませんよ。貴女は音呂木の血が流れて居ますから、来名戸の神が易々と侵入を許すはずがない。
ですから、貴女は只の路です。黄泉へ渡る為の道を開き、探索を行うものを送り込み、帰り道を示すために鈴を鳴らし続ける」
晴陽の言う事は尤もだ。音呂木・ひよの一人ではこの事態を収束させることはできない。
「……至急、希望ヶ浜の皆さんを呼び寄せます」
協力を得て、ひよのは直ぐ様に『希望ヶ浜学園関係者』へと連絡を行った。手順は容易ではあるが、それなりに危険は伴う話である。
阿僧祇霊園本社と澄原病院の協力を経て、音呂木神社では祈祷を行った。
神楽鈴を手にした音呂木・ひよのと共に10名のイレギュラーズが石神地区へと向かうこととなる。
ダムの底に沈んだ村――来名戸村への道が開かれるのは年に1度の秋祭りのみ。だが、此処までの経緯で得た『縁』を許に、無理矢理『路』を抉じ開けることとなる。
ひよのは入る事は許されない。神楽鈴を鳴らし続け、その存在を知らせ続けることとなるだろう。
「チャンスは今宵一度限り。連れて征かれた者も、迎えが来た者も、現世と繋がりのある今宵こそ――」
――失敗したら?
……勿論、すぐに何かがあるわけではない。
現に『直ぐに皆、戻ってくる』筈である。この夜の事は少しずつ忘れた儘。
それでも、神は強欲だ。真性怪異は見つけた存在の側に常に在り続けることとなるだろう。
だから、その手を逃れて来て欲しい――
……そうしないと、背中に、ほら。
*<希譚>石神地区での来名戸村からの救出が行われます。(一夜の出来事である為『<希譚>』での不明は解除されました。)
*<アアルの野>の探索が始まっています――
*混沌世界に新たな敵性存在『怪王種』が世界中で発見、報告されました。
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