PandoraPartyProject

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遠き蛍火

 高天御所、禍の中心と化した白香殿より離れて。
 兵達に離れの部屋へ案内された夢見 ルル家(p3p000016)は本人の想いとは裏腹に今危機の最中にある天香遮那と面会する事は出来ずにいた。
(……巫女姫は拙者を遮那殿のお側仕えにしてとは言っていましたが……)
 ルル家の胸騒ぎは絶えない。愛しいアルテミア・フィルティス(p3p001981)を手中に収め、酷く上機嫌なあのエルメリアが完全な嘘を言うとは思っていなかったが、同時に『ただ』でそれが叶うと思う程、楽観的であるとは言えない。
(こうしている間にも遮那殿は――)
 噛み締めた唇から滲んだ液体は鉄の味がした。
 身動きの取れない時間は短くとも長く感じられるものだ。
 部屋に案内されたと言っても軟禁状態は変わらず、お役目を果たすと言った以上は状況に不満を示す訳にもいかない。
 当然ながら多勢に無勢で敵の最中にある以上、『唯静かに待つ以上に遮那を救い得る選択肢も無い』。捕虜の身の上であろうとも『こうして裏切ってみせようとも』自身の――そして彼の運命はあくまで敵が握っているのだと思い知る他無ければ、ルル家は少し敵の悪趣味を疑う気持ちさえもたげていた。『もしかしたら、彼等は自分に思い知らせる為に、ずっとここに縛り付けておく心算ではないのかと』。
「……長胤様が参られる! 決して失礼の無きように!」
「――――!」
 故に、暗鬱とした悲観的沈思黙考に入らざるを得なかったルル家は見張りのその言葉を聞いた時、少なからず安堵したと言っても過言では無かった。相手が魔種である天香長胤であるにも関わらずだ。記憶違いがなければエルメリアは『長胤にお願い事をした後でなら遮那の側仕えと認める』と言った筈だったから――
「まこと、無様なものよな」
 ――果たして兵を従え現れた長胤は一種の期待さえ込めて自身を見上げたルル家を見るなり軽侮の笑みを交えながらそう言った。
「はるばる異郷より我が神威神楽に土足で乗り込み、醜態とは。
 大志大望の何某かで働いておるのかと思えば、まさか男に懸想して仲間を裏切ろうとは。
 此の顔を見て、かような顔をされれば侮蔑の念の一つも浮かんでこようというもの。
 のう? 愚かな『神使』よ」
 扇で口元を隠した長胤にルル家は何も言わない。
 堪えて言わなかったというより、『何もかもがその通りで反論の余地さえ無かった』。
 そしてルル家は巫女姫の言った『長胤へのお願い事』とはやはり首輪をかける事なのだろうと確信した。
「……まぁ、良い。矜持を放り捨てて臨むのが愚弟への側仕えとは笑止千万じゃが。
 物の道理も分からぬ異郷人が選ぶにしては歯向かわぬだけまだしも賢明なる選択というもの。
 ……これならば、あの大うつけ――遮那めにも使いでがあったと言えるのであろうなあ――」
 自身のみならぬ遮那への侮蔑にルル家の顔が紅潮した。
 武装は取り上げられている。魔種たる長胤に飛び掛かった所で捻りつぶされるのがオチだろう。
 されど、もう少し――もう一言でも彼が余計な事を言ったならルル家は自分を抑えきれる自信が無かった。
「まぁ、良い」
 しかし幸運――或いは不運な事に長胤は深い疲労を感じさせる長めの息を吐きだして話を『本題』の方へと向けていた。
「勘のいい貴様の事じゃ。概ね麻呂の用件に見当はついておるのであろう?
 巫女姫様も麻呂も――敵であった者を手放しで信頼する程甘くはないのでなぁ。
 然るべき手段を用意してきた、という事じゃ。これが何だか、見覚えはあろう、娘よ」
「――それは――!」
 ルル家は思わず片方だけになった眼を見開いていた。掌の上で包み布を解いた長胤が彼女にこれみよがしに見せたのは緑柘榴の瞳――あの楠 忠継が烏天狗より奪い去りし右眼、ルル家にとっても因縁浅からぬ呪獣なる呪詛の依代であった。
「都合良き事に貴様の片目は洞と見える。『この眼を入れればさぞ良く見えるようになろうて』」
 奇しくもルル家のそれと同じ見事な碧は禍々しい気配を離れていても隠しはしない。
 そんなものを身体の内に入れたならば何が起きるか等、想像したくも無く――
「この呪眼は徐々に持ち主の身心を蝕む。深く根付いた宿主の隅々にまで呪いを巡らし――
 やがてそやつは考えるも何もせぬ唯の傀儡に成り下がろうよ。
 此が貴様につける首輪としてこれ以上素晴らしきものはないじゃろう?」
 ――想像する必要すら求めず、長胤は意地悪く事実を告げてきた。
「……それをつければ」
「……………うん?」
「それをつければ今度こそ――『今度こそ遮那殿の所へ連れて行ってくれますね?』」
 その言葉に表情を歪めたのは今度は長胤の側だった。
「……長胤殿は今『徐々に』そして『やがて』と言いました。
 つまり、拙者には時間があるとお見受けしました。それがどれ位のものかは分からないですが――
『遮那殿にも同じ位、時間が無いのは確かなのでしょう?』」
 ……それは少女の献身だった。
 誰に指弾されるまでもなく余りに愚かで、余りにも刹那的で。
 幽かに浮かぶ微笑みは、もうどうしようもない位の恋をした――一人の少女の意地だった。
「だから」と尚も言い募りかけたルル家に長胤は少しだけ遠い目をした。
「ぬばたまの 夏の夜に出る蛍火は――」
「――え?」
 ざわざわざわざわと俄かに逆巻く魔種の気配が揺れていた――



*カムイグラでの戦いが終結を迎えました――
*捕虜達への交渉が終了したようです。アルテミア・フィルティス(p3p001981)さんと夢見 ルル家(p3p000016)さんが巫女姫陣営に座す事となっています。
交渉を拒否したメンバーは自凝島に流刑される事となったようです。

*カムイグラ限定クエスト黄龍ノ試練が発生しています!
*カムイグラの一角で死牡丹 梅泉の目撃情報が発生しています――

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