PandoraPartyProject

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いつともわかぬ恋もするかな

いつともわかぬ恋もするかな

 ――高天御所 白香殿。

 堂々と座す『巫女姫』エルメリア・フィルティスは歓喜に濡れる瞳をイレギュラーズへと向けていた。
 捕えた捕虜の交渉が滞りなく終了したと彼女は告げる。『宮内卿』八咫姫に任せた捕虜は直ぐにイレギュラーズの元に出陣した――彼の心中などエルメリアはまるで興味も無いが八咫姫が裏切られようと裏切られまいと痛くはない。
 彼女は傍らで蹲るように背を丸める銀髪の娘を見遣る。アルテミア・フィルティス(p3p001981)――双子の姉、そして、エルメリアが恋情を寄せる相手だ。
「アルテミア、聞いて? 私の『交渉』に一人だけ答えた者が居るわ。誰だと思う?」
 エルメリアの言葉にアルテミアは応えない。虚の眸は不安げに瞬かれる。一人――宮内卿との交渉を行ったヴォルペ(p3p007135)と自身を除いた内の誰か――は拒絶すること無く交渉の舞台に立ったという事なのだろう。
「巫女姫様、連れて参りました」
 静かな声音が響く。楠 忠継によって巫女姫の御前まで引き連れられてきたのは夢見 ルル家(p3p000016)であった。
「ルル家、さん――」
「……アルテミア殿」
 互いに安堵する。生きていることに。だが、ここが敵陣の真っ只中で、至る所に魔種が存在しているのだ。
 エルメリアは「聞きましょう」とゆったりと笑みを浮かべる。

 ――遮那くん……。

 ルル家の掌はじっとりと汗で濡れていた。心中に浮かぶのは巫女姫側に捕らわれている天香 遮那だ。
 現状で言えば長胤の軟禁状態が捕縛されている中では一番良い状態であることは分かる。しかし、そうしている内に遮那の記憶は薄れ――最悪の場面が頭に浮かぶ。魔種に、肉腫に、世界の敵に。
(駄目だ……誰かが、誰かが支えないと遮那くんは救えない――
 でも仲間になる事を受入れて、それを簡単に信用されるとは考え辛い。何かの枷を付けられ何かが出来る可能性だって低い)
 それでも、ルル家はこの交渉の場に出ることを選んだ。巫女姫様と彼女に深く頭を下げる。
「御役目に望みがあります。それ次第と申し上げましょう」
「良いわ。申してみなさい」
 エルメリアの眸に喜色が浮かぶ。アルテミアの心を支えている糸は綻び始めていた。ヴォルペ、ルル家――そうして離反する仲間をエルメリアは敢えてアルテミアに見せているのか。
「拙者を天香遮那殿のお側仕えにして頂きたい。
 拙者は遮那殿に懸想しております。故にその傍にいたい。その望みが叶うならば貴殿に力をお貸ししましょう」
「――――ふうん」
 その身が果てようとも遮那を肉腫から、魔種から解放してみせるとルル家はそう願った。助け出すのは自分で無くてもいい。きっと、彼を助けたいと願う者は居るから。願うように、震える掌に力を込めて、ルル家は巫女姫を見た。喪われた孔が疼く。そこに眸はないと言うのに――酷く、気色悪いほどにそこから頭の中を覗かれている感覚がする。それが、魔種の狂気か。
「……貴女も、あの子供のことを言うのね。長胤に『お願い事』をしてからなら傍仕えを許してあげる」
 頭を下げたルル家はその腕を捕まれ、退出する。長胤への『お願い』は後でいいだろうとエルメリアは傍らのアルテミアに微笑んだ。
「ですって」
「……」
「アルテミア、言ってたわよね。心が折れた貴女を支えようとしてくれた仲間が居たって。
 仲間を護ろうとして私に立ち向かってきたシフォリィさんの姿を見て『一緒に居たい仲間達がいた』って」
「……ええ」
「それを護る価値はある?」
「ッ――あるわ。もう一度言うわよ、エルメリア。一緒に居て欲しいというのなら居てあげる。
 口付けを――それ以上の事をして欲しいというのならしてあげる」
 睨め付けた。唇を震わせて、アルテミアは首を振る。
 ヴォルペやルル家のように自身が遣るべき事を見つけた者が居る。だが、自分のために捕らわれた者が――誰かを護る為に身を挺し戦った者が居る。
 くい、とアルテミアの顎が持ち上げられた。美しい月の色の瞳が笑って此方を見ている。
「だから……シフォリィには、皆には手出ししないで……っ」
 鼻先がぶつかり合う距離でエルメリアは悔しげに「酷いお姉様だわ」と呻いた。
 ――何処まで行っても貴女を愛してる、とは言ってくれないのね。

 震え、気丈にもエルメリアを睨め付けるアルテミアの頭が酷く痛む。
 まるで脳内を掻き回すような、苛立たしい程のその気配。

「……他の者を自凝島に流刑になさい。畝傍・鮮花を此処へ。
 彼女に全権を任せます。助けを待つだけでは死んでしまうかもしれないけれど、構わないわね。
 だって、私は彼女たちには手を下していないんですもの。
 ――ねえ、アルテミア。一緒にシフォリィさんを愛しましょう? 私達二人で彼女を愛せば……全てが丸く収まるわ」
 ああ、酷く、酷く頭が痛いのだ。心が悲鳴を上げている。
 アルテミアとて、分かっていた。彼女が自身を手に入れる為ならば何だってすることくらい。
 それが姉妹で、双子で、今、この体を苛むギフトの成果なのだから。
 


*カムイグラでの戦いが終結を迎えました――
*捕虜達への交渉が終了したようです。アルテミア・フィルティス(p3p001981)さんと夢見 ルル家(p3p000016)さんが巫女姫陣営に座す事となっています。
交渉を拒否したメンバーは自凝島に流刑される事となったようです。

*カムイグラの一角で死牡丹 梅泉の目撃情報が発生しています――

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