PandoraPartyProject
真夏の恋のおまじない I
アルティオ=エルムに広がる広大な迷宮森林には、時に迷い人が現れることがある。
そんな不運な人々を保護するのが、このアンテローゼ大聖堂なのでった。
美しいステンドグラスから光零れる礼拝堂は、しかし物々しい空気に包まれている。
「そう、スノウリーホワイト……大変だったのね。けどレインボーシプレー」
ローレットの情報屋『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)の弁は、この日も酷く分かりにくいものではあるが、要約するならば大凡『常春の国アルヴィオン』に関する一連のあらましであった。
アルヴィオンを蹂躙した魔種達の狙いは様々で、イレギュラーズは奮闘によりいくらかを阻止し、いくらかを許してしまう結果となった。
魔種ブルーベルは妖精郷に封印されていた『冬の王』を『封印していた力』を、そして協力者であったクオン=フユツキは『冬の王の力』の多くを奪い、姿をくらましたのだ。
アルヴィオンは結果として、『冬の王』と呼ばれる大精霊の影響を受けてしまった。
ローレットの情報屋達は、大聖堂の司教フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)や『迷宮森林警備隊長』ルドラ・ヘス (p3n000085)等と協力し、アルヴィオンに残る魔種と『冬の王の残滓』を打破するために最終決戦の準備を続け、また行方をくらませた魔種達の足取りを探っていた。
妖精郷の町エウィンでは、戦える妖精達と迷宮森林警備隊、それからイレギュラーズによる防衛線が布かれ、凍える大気の中で進撃の時を今か今かと待っている。
イレギュラーズを模したアルベドに続く、キトリニタスと呼ばれる新たな怪物等、様々な情報を取り纏めながら――
迷宮森林警備隊の協力もあり決戦準備は順調であったが、足取りのほうはまるで手がかりが掴めない。
ならばと情報屋は迷宮森林に咲く幻灯花という過去を映し出す不思議な花に頼ってみたのだ。
情報屋達は幾人かのイレギュラーズと共に、さながらプロジェクターのように映し出される光景を、食い入るように見つめていたのである。
さほどの情報も得られぬまま。
今夜は休むかと、誰かが立ち上がった――そんな時であった。
「みんな今日はもうお休みするの!?」
騒々しいやつが入ってきた。
「んしょんしょっ、今日はこれで、みんな優勝するの!」
アルヴィオンの住人にして、イレギュラーズをついてまわる飲んだくれの妖精、ストレリチア(p3n000129)である。彼女はバスケットに詰め込んだ酒瓶を祭壇(!)に並べると、幻灯花の光景を指さした。
「何見てるの? あ! これ! わたし知ってるの! みてみて、女王様がお姫様だった時のなの!」
――
――――それは遠い、遠い昔のお話。
二十年以上も昔の、ある真夏の出来事であった。
ストレリチアは女王様が好き。
妖精達は、みんなみんな女王様が大好き。
女王様になる妖精は、みんななんとなくわかる。みんな――大好きだから。
だからきっと、次の女王様はファレノプシス様なのだ。
女王様は妖精郷から絶対に出たらいけないから、女王になる子は外の世界で遊んだりする。
今日はファレノプシス様が、もしかしたら最後の『外遊び』する日かもしれなかった。
なんとなく、誰もが分かっていたのだ。
「こんなのぜったい怒られるのです」
「しーっ、なの。見つかっちゃうの。静かにするの」
ストレリチアは唇の前に人差し指をたてて、フロックスにお願いする。
もうすぐここを、妖精姫ファレノプシス様が通るはずだった。
「どうしたのです、フロックス。おや、そちらは」
「は、はい、です!」
「やばいの、見つかっちゃったの、えいなの!」
ストレリチアは、手に持っていた小瓶をファレノプシスへと振りかける。
これは『好きになる薬』らしい。
最近ファレノプシス様が、構ってくれないから。
寂しかったから。
「全く……何をするかと思えば。いたずらはほどほどになさい」
「は、はいです。ごめんなさいです」
「ごめんなさいなの」
それは惚れ薬ではなかった。ただの飲み薬――いわゆる万能薬である。
だから何も起きなかった。
何も起きないと思っていた――
「……おや?」
妖精姫ファレノプシスの視線の先に、一人の少年が尻餅をついていた。
人里離れたこんな森の奥深くで、人間の雛が一体何をしているのだろうか。
「う、うわ。え、化物!? 違う、よ、妖精、か……?」
良く見れば茶色の髪をした、少し気弱そうな少年である。
「驚かせてしまい申訳ありません。お怪我はありませんか?」
「怪我とかは、してないけど、びっくりして……」
「ここは人の雛には危険な森。なぜこのような場所へ。迷い人ですか?」
ファレノプシスは酷く怯えた少年を起き上がらせ、事情を尋ねる。
どうやら少年は、身体の弱い姉の為に薬草を採りに来て、迷ってしまったようだ。
少年の姉は病気がちで、たびたびいくつかの薬草を必要としていたようだ。
ファレノプシスはその配合を、虚弱体質者のための滋養強壮の薬であると判断した。
「この森は、人が迂闊に立ち寄って良い所ではありませんが――ストレリチア?」
「は、はいなの!」
「先程の薬は、まだ残って居ますか?」
「好きになる薬なの?」
「好きに? 何を言っているのですか。これは滋養強壮の薬です」
きっと薬の身体がぽかぽかになる作用を、誰かがふざけて教えたのだろう。
だが簡単な病であれば、良く効いてくれるはずだ。蜂蜜も入っていて栄養もある。
「人の子よ。驚かせたことを謝罪しましょう。
妖精郷の霊薬です。半分ほどしか残って居ませんが、姉君に飲ませてあげなさい」
「う、あ、ありがとう、ございます……!」
「そしてこのことは、誰にも喋らず、秘密にしているのですよ」
女王はそう説き伏せるが。
もっとも人間などというものは、そんな口約束を守らぬことを知っている。
こんなものは、言っておくだけ、言っておいただけなのだ。
少年は何度か振り返り、それから一目散に走って行った。
「……それから、ストレリチア」
「は、はいなの!」
「もう、このようないたずらをしてはなりませんよ」
思わぬ人間に見つかってしまったのは、あまり良いことではない。
妖精郷の住人達は、出来るだけ限られた人とだけ交流するように言い伝えられていたから。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
――
――――ごめんなさい。
ごめんなさい……ごめんなさい……
映像が途切れた時、ストレリチアは蒼白な面持ちで床に両手をついていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」
……ごめんなさい。
……ごめんなさい。
……ごめんなさい。
……ごめんなさい。
震えながら、謝罪の言葉を繰り返している。
「なんだ、どうした。アルコールが足りないのか?」
誰かが茶化した。
「違う。違うの。いままで忘れてたの。ずっと気がつかなかったの」
震える声で続ける。
人というものが、あんなに早く老いる生き物であるなど、思いつきもしなかったのだ。
妖精達は皆、ストレリチアも、フロックスも、ファレノプシス自身さえも。
あの日に出会った少年の事など、すっかり忘れていたのだ。
あの日に出会った少年が。人間というものが。
まさかたった二十年あまりの僅かな間に、青年になっているなど!
「さっきのあの子……きっとタータリクスなの」
辺りがしんと、静まりかえる。
――だから全部、私のせいなの!!!
連動シナリオ<アイオーンの残夢>の結果により、妖精郷に冬が訪れました……。
目的を達成したブルーベルとクオン=フユツキは姿を消しました……。
妖精郷エウィンの町では、イレギュラーズ達が決戦の準備を進めています。
妖精郷アルヴィオンは――滅亡の危機に瀕しています……。
※サミットの結果、各国に領土が獲得出来るようになりました!
キャラクターページの右端の『領地』ボタンより、領地ページに移動出来ます!
→領地システムマニュアル