PandoraPartyProject

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皇帝が三倍いれば三倍エキサイティングだろ!

 空から舞い散る花吹雪。
 行進する鼓笛隊。
 スチーラー鋼鉄帝国の首都スチール・グラードには、これまでに無いほどの人だかりができている。
 城から続く最も荘厳な大通りにできたパレードへの見物客たちだ。
 催されているのはここ数日の間続いていた鋼鉄皇帝総選挙。そのフィナーレイベント。
 城に到着したゴンドラを迎えるように、ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズを初めとするゼシュテリウス軍閥の最高幹部たちが並んでいる。
 軍閥を代表したヴェルスは宣言台の横に立ち、宣言書を差し出す。
 階段を上り、注目する観衆の前に立ったのは――。
「拙者は夢見・マリ家(p3x006685)。この国の新たなる皇帝です!」
「わたしは『かつての実像』いりす、この国のあたらしい皇帝になります!」
「私は『雷神の槌』ソール・ヴィングトール。スチーラーの新皇帝に選ばれた!」
「「……!?!?!?」」

 ――なんか、三人いた。

 集まった市民たちの顔が、一斉にヴェルスに向き、そして一斉にショッケンへ向いた。  今回の選挙管理委員を務めていたショッケンは、額に手を当てて目を瞑った。
「今回の選挙方法をガイウス殿に頼んだのだが……『名前を刻み込んだ鉄砲丸を巨大なバケットに全員でなげこんで一番重かったヤツが皇帝』という投票ルールを作っていた」
 なんでそんなルール? と思うイレギュラーズとは対照的に、鋼鉄民は『玉投げ楽しかったな!』とすげーいい笑顔で口々に言っていた。そりゃあ史上初の選挙である。何かしら歪んでもおかしくない。
「その中で……このマリ家殿、いりす殿、ソール殿の三人のバケットが、同じくらい一番重かったのだ」
 これで終わりではないから、今ここに三人の皇帝が並んでいるのだろう。
 とりあえず続きを聞いてみよう。
「この件でヴェルス殿やガイウス殿、ビッツ殿たちと話し合った結果……多忙なイレギュラーズがあちこちに出かけた際にも、できるだけ皇帝が鋼鉄国に居る状態をつくれるよういっそのこと三人誰かが鋼鉄国にいればよいという状態にしてはどうかということになった。そもそも、政治の実行は我々文官が行うもの。国の顔である皇帝が三人いるという状況は、むしろ都合がよい」
 ショッケンがなにやら長い文章を喋っていたので、市民のひとりが『つまりどういうことだ?』と呟いた。それは集まった多くの者の代弁ですらあった。
 なので、ヴェルスが三本指を立てて、空に掲げる。
「皇帝が三人になれば三倍エキサイティングだろ!」
「「なるほど三倍か!」」
 市民はいきなり納得した。

 非常に接戦となった鋼鉄帝国史上初の皇帝選挙。その中で最も多くの市民から支持を得たのはマリ家、いりす、ソールの三人となった。
 まずマリ家のこれまでの貢献や応援者たちの数もさることながら、なによりも彼女の公約に掲げた内容や政治方針にそつがなかったことが高く評価されていた。
 目玉となったラドバウのエンタメ化や各地にテーマパークを建設するという姿勢は市民の注目や共感を得やすく、未来に夢を持てる内容であった。
 三人は自らが皇帝の座に就いたことを宣言すると、会場に集まっていた他の候補者たちの顔をそれぞれ見た。
「拙者に投票してくれた皆さん、ありがとうございます!
 その期待に応えられるようにこの国を、更に良いものにしていきます。
 それに、拙者とこの座を競った候補者たちの考えに賛同した人達も大勢いるはずです。
 拙者は彼らのことも称え、考えをできるだけ尊重していきたいと思います」
「それはわたしも同じです。この国にきてまだ日は浅いですけど……戦いだけで国を興していた帝国に、戦い以外での豊かさを提案していきたいと思っています」
 マリ家同様に支持を得ることが出来たのは、イレギュラーズたちによる盛大な応援もさることながら、彼女の思想がこれまで鋼鉄帝国の中でもあまりスポットのあたってこなかった層からの支持を強く得たからに他ならない。
 前皇帝ブランドは強者による強者のための国家を作っていた反面、そうした人々へのケアは非常に弱かったのだ。国家としての結束を、いりすはその代表となることで高められると周りも判断したようだ。
 いりすは頷き、隣のソールへとマイクを渡した。
「私が君たちにわたすものは、シンプルにたった一つだけ……『夢』だ」
 冒険と浪漫。それは鋼鉄帝国が潜在的に抱えている情熱である。
 でありながら、武力の使い道が侵略や周辺部族の併呑という形に偏ってしまったのは事実。前皇帝も充分に努力し最善を尽くした筈だが、それでもその時点では、こうするしかなかったといったところだろう。
 だからこそ、今が『革命』の時なのだ。
 ソールはマイクをマリ家へと投げパスした。
「さあ、新時代の幕開けです! まずはこの瞬間を、共に祝いましょう!」

 パレードが再開される。新たな皇帝を頂くべく、首都じゅうをゴンドラで巡ろうという派手なパレードである。
 新皇帝マリ家が手を振る巨大な白虎型ゴンドラ(ごんとらぁ君)のあとには、数々の候補者たちが乗ったゴンドラが続いていく。これはマリ家が己のみの思想で国を治めるのではなく、これからは広く耳を傾けていくという姿勢を現したものだった。
 そしてそうするだけの意味が、彼らにはある。
 たとえばすぐ後ろにゴンドラでつづく『かつての実像』いりすのゴンドラには彼女の思想に共感した人々が出資してできた白銀の装飾や鮮やかな花が飾られている。
 彼女はここまで一切のバックボーンを持たなかったにも関わらず、多くのイレギュラーズの応援を受けたほか、鋼鉄国で立場の弱かった人々からの支持を多く受けた。
 そして『雷神の槌』ソール・ヴィングトールのゴンドラ。鋼鉄の馬車で作られたそれは、未来への夢を乗せているようにすら見える。
 ソールの提案する冒険と探索の旅に今からでも出たいという者たちが、活気溢れる声援を送っていた。
 その後に続く『カニ』Ignat『音速の配膳係』リアナルのゴンドラに手を振るのは、保守的な考えを持つ人々だ。強い鋼鉄国を愛するという考えや、皇帝に強さを求める人々はIgnatたちの姿勢をしっかりと評価していた。
 そういった点では『絶対妹黙示録』ルージュの人気も根強いものだ。貢献の深さや支援者の数もさることながら、鋼鉄国の人手不足についても理解し対策しようとする姿勢が評価され、実際帝国では文官不足をおぎなうための対策が行われつつあるという。
 そのあとに続くのはキレッキレのプレジデントダンスを披露する『正義の社長』崎守ナイト。そして『殉教者』九重ツルギ。彼らの掲げるお祭り騒ぎのような日々や食を通じての国交に興味を示した者も多く、彼らのやったような選挙ライブステージスタイルを取り入れる組織まで現れはじめた。
 そのあとに続くのは『Lightning-Magus』Teth=Steinerによるゴンドラである。彼女のゴンドラにはエクスギアEXが随伴し、ロボット兵器の農業を始めとする他業界への利用や古代資源発掘への支援という思想に共感した人々の精神的ないしは資金的支援によって、この景色は実現している。
 それに続く『R.O.O tester?』アイには、彼の掲げた本気の姿勢や誇れる国というキャッチフレーズに共感した若者たちが大きく手を振っている。
 『なよ竹の』かぐやのゴンドラに至っては『むにむに帝国』という横断幕が掲げられ、一部ではそう自称する人間まで現れるというちょっとしたむにむにブームが起きたという。
 そこへ続いて現れたのは『パンドラフィッター』ダテ・チヒロ『ヒーラー』フィーネである。
 国民総筋トレという公約がマッスルたちにウケたというのはさておいても、研究に力を入れ国力を高めようという姿勢は鋼鉄国では斬新だったようで、鋼鉄マイノリティであった研究畑の人間たちが熱烈に支持していた。
 また一方で、『お家探し中の』梨尾の親身な皇帝になりたいという姿勢は深く評価され、皇帝にならずとも自分たちの悩みを聞いてほしいという声が多かった。あと撫でたいという声も。
 悩みといえば、鋼鉄帝国が慢性的に抱えがちな食糧問題について深く言及した『雑草魂』きうりん『妖精勇者』セララも高く評価されていた。
 一部の団体は彼女たちの考えに共感し、品種改良や新種の取り入れを始めたり、食料庫の見直しを行ったりといった実際的な活動にも結びついている。
 そしてやっぱり人気があったのは『硝子色の煌めき』ザミエラの掲げた国家全体でのレベルアップという考え方だ。そもそも弱肉強食の国なれど、強さこそが意味を持つ。国家総動員で強くなれればそれは最強国家への近道なのだ。
 また『天真爛漫』スティアの掲げたラドバウの拡張案も一部のプロモーターたちから支持され、大物ファイターが続々とエキシビジョンマッチに名乗りをあげている。ガイウスのような雲の上の存在と戦える日も、もしかしたら近いのかもしれない。
 このように、皇帝の座についたのは三名ではあるが……選挙期間に多くの支持者を集めた他の候補者達の想いや熱意は確かに市民達に伝わり、実を結ぼうとしている。
 イレギュラーズたちの力によって、確かにこの国は前を向き、そして確かな歩みを始めているのだ。
 まさにこれこそが、新時代の幕開けと言っていいだろう。
「「新皇帝陛下、万歳!」」
「「三倍皇帝陛下、万歳!」」
 クラッカーを鳴らし、手を叩き、鋼鉄国の市民たちが笑う。
 晴れやかな空に向けて。

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