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ギルドスレッド

鉄帝喫茶「ビスマルク」

【夜式・十七号】夜が来る!

 ただ進め。
 進むままに進め。
 退路がなくなって初めて、見えてくる道もあるのだろう。

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 都合何度目かはわからない。
 しかしこうして何度目であろうと、十七夜は地面に転がされた。
 接点が背中の中心に来た瞬間、そこを軸にぐっと背中を張り出す。投げられた勢いを上に転換して、美しく足を垂直に持ち上げながら、一瞬で十七夜は立ち上がった。
 木剣は月明りを照り返さない。
 鈍く照らされた光を柔らかく包んで、刀身に僅かに湛えている。

 ややあって後ろを振り向いた女は、果たして少女よりも小柄だ。
 両腕はまるでぶら下がっているようで、自重で扱えているのかも定かではないが、それが成した成果は自分が良く知っているのだ、と十七夜は密かに臍を噛む。

 とん、と両の踵を女は揃えた。
 そのまま鋼鉄の両腕を腰の後ろで静かに揃える。
 きぃ、と鉄の軋む音が鳴った。
「やはり、己の流儀を持っていないのが良くないでありますな」
 侮蔑ではない。
 求めているものを求め切れていないその不幸に、女は嘆息した。
 必殺の一撃――それを持っている彼女にその願いをされた時から、そんな気はしていたのだ。
 錬鉄徹甲拳。
 その武術を学ぶとなれば、一朝一夕ではならぬが。
 少なくとも仲間がそこに己の鬱積の突破口を求めているのであれば、応えるのは吝かではないそう思って、女は少女の願いに応えた。
 ないのだが……
「こないだの地下闘技場ではもっと動き良かったでありますよなあ。
 ……であれば、自分、思うでありますよ。
 必殺の一撃あらば、そう、まずは防御と牽制であると。
 我流結構。しかし単なる無手勝流を我流と称すには、この業界なかなか厳しいでありますよ?」
 けほけほと、先程打ち付けた背中を気にしながら十七夜は、勝手なことを言ってくれる……と思った。
 こちらは剣。相手は拳。であれば……いや、それこそが驕りか。
 少なくとも、木剣で遠慮なく殴りつけたからといって恨むような人では。
 いやむしろ、木剣を言い訳に手加減をしたら烈火のように怒り狂いそうな人だと思った。
「貴女。貴女の動きには、何かの基礎を感じるであります。
 絞り出すであります。次は、後の先に拘らず己から状況を作っていくのであります。
 大丈夫、貴女のその必殺の技は本物だ。貴女の技――技を超えた本質は、きっとある。
 それを一緒に見つけるでありますよ。
 然らば――次こそ本気の一合だ」

 そう言うと、今までざっくばらんに構えていた女の手が変わった。
 左手は軽く上げ、人差し指の先が女――エッダ・フロールリジの視線と、十七夜の心臓を真っすぐに繋いでいる。
 右手は内側に捻り、顎の横に添えられている。

 次とか何とか言っているが、ぴりぴり肌に伝わる感触は十七夜に一つの事実を告げていた。
 全力でやるからな、と。
 

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●参加者向けハンドアウト
・あなたは自分の技を磨き上げる為、先輩オールドワンに指導を乞いました。
・彼女はあなたの武に光るものを認めながらも、技術基盤の弱さを気にしているようです。
・彼女は稽古のつもりですが、そもそもいつであれ本気です。
・次の一撃は、あなたの刀を左手の甲で滑らせて受けながら、右拳が心臓に向けて放たれる形で飛来します。

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ーー基礎。そう、彼女は云った。
然らば、私の基礎。戦い方のはじまりは何処からだろうか。
そう逡巡して、僅か。辿り着いた答えは一つ在った。
ーー最早過日の記憶にしかない、父の拳。
鍛錬と経験を積み上げた、回避を許さぬ連打と決死の反撃とを融和させたモノ。
幾度となくあの闘技場(ラド・バウ)で見たその構えは、朧気ながらも頭に残っている。
ーーけれど、それまでだ。どれもこれも、再現すらも出来ていない。不完全という言葉さえ余りある。
だからこそ、”眼前の彼女に負ける程度”でしかないのかとーー不甲斐なく思う。
自分はまだまだこれからだ、だなんて。そんなものは言い訳にしかならないんだと。
そこまで考えて、言葉が自然と滑り落ちる。

「ーーああ。本気、だな。なら、やらなくてはならないな」

身に染みた技も一度頭から投げ捨てて、構えを取ろうとする。
そうしてみて、痛感する。
果たして真っ当に足が着いているのか。その手には確りと力が籠っているのか。
何時もなら、分からなかった筈だ。
けれど今はーーほんの少しだけ、分かる。
正式な技を修めた彼女からすればどう見えたのだろう。そう思って仕方がない。

そうして息を吸って吐いて、一拍。ーーその直後。微かに見えた光は、揺らいだ。
故に、悟る。
「”何か”を得るにはーーこの一撃しか無いのだと」。
ーー思い出せ。或いはこの瞬間にでも積み上げろ。本気で、やってやれ。
その覚悟、良し。

(両手で構えたその剣を見る。
 剣は、ほぼ地面と水平のように見えた。
 八相という、戦場において頻回に使われる剣の搆えを更に水平に寝かして、ほぼ肩に担いだような形か。

 おおよそ両手剣の戦術は、二つに一つである。
 即ち、後の先を取るか、先の先を取るか。素早さには劣るが取り回しには優れた剣という武器の利点とは何よりも“カウンターが取りやすい”ことだ。
 しかし彼女の取った搆えは、乱戦に向いた搆えだ。
 一撃の精妙さよりも”生き延びる”ことに特化した搆えだ。
 それは武士や騎士ではなく、戦士や闘士の搆えだ。
 無論エッダにとってそれ自体は見慣れたものであるが――
 そう思い、だからこそ、エッダは一歩も動かなかった)

 自分は、貴女に応じ技を撃つであります。
 貴女は、自分の守りを崩し、その得物――先残光。
 “それ”があるとわかっていてなお、自分が“それ”に飛び込まなくてはいけないところまで崩しなさい。

 では、胸をお貸し致しましょう。
その台詞を聞き、より集中を高める。
……動きを崩す。どうやって? 考えろ、考えろ。
思考は止めるな。けれど、感覚が分かっているうちに動くのだ。
ーーヒリついた感覚。クリアになる思考。自然と動く身体。
それらすべて、間違いなく今この瞬間であればこそ抱けたモノだろう。
そして、それが。
過日の再現。記憶の中の技。
嘗て父が辿り着いた、その技をーー緩やかに、確かに思い出させる。
ぱちり、とスパークが弾けるような感覚。或いは噛み合った歯車。
この際、不完全だったとしてもどうだっていい。
これ(・・)で、崩す。初手はーー”三連撃”。 父が「瞬天」と呼んだそれ。
そして一歩、踏み込んでーー!

木剣を、エッダへ向けて一直線に突き出す。
単純なーー真っ直ぐな突き。
自分でも、これは滑らせて受けられるだろう、と予測が出来る程に。
突き技とは死に技であると言うのにーー踏み切った。
そうして鳩尾を狙う。何時もであれば繰り出せない程に、速く。
「受け流されるのなら、そうなる前に三連の突きを」と。
片刃に削られた木剣の峰を内へ向けて、狙う。次は喉を。三度目は頭を。
見え切った攻撃かもしれない。受けられたっていい。
ただ速く、重く。通す為の布石を打て。
――!

(まずは、体捌きが冴えたことに驚いた。
 そして然る後に、なぜ彼女の技がこうも噛み合わぬのかを瞬間で理解した。
 理解したならば、道筋を呈してやるべきだろう。
 例え渾身の一撃だろうと、加減をしてやるべきではない。

 そう思い、実行に移した。
 三連撃の、一撃目は確かにエッダの手甲を弾きぐらつかせた。
 しかし続く二撃目に対し、エッダは逆に向かってくる。眼前に差し出した右篭手で突きを滑らせながら右脚で大きく踏み込む。
 胸の前で指先を上に向け、受ける為に内側に捻り切った腕を戻す。火花を放ちながら、剣をレールのようにして拳が奔ってくる。それは鼻先でぴたりと止まった)
 体捌きは良い。狙いも良い。
 だが、突き技は撃つのに距離がいる。突きの連撃と、懐に飛び込む自分のような拳士の戦法は相性が悪いでありますよ。
 というか、いや……
 うん、やはりそうだ。
 貴女。
 その技、元は拳打でありましょう?
鼻先に止まった拳を真っ直ぐに見据えて、構えは解かずに受け答える。
「……ああ。闘士の父が使っていた技だ。今の私が振るったからには、所詮拳打の流用でしかないが」
そう、流用。
あくまでも拳で撃ち放つ技の不完全な再現を、無理矢理に剣へと落とし込んだそれ。
流用でなければ、もしくは記憶の再現に固執しなければ。
ーーもっと、別のカタチを見出せるだろうもの。

そこまで喋り思考して、ふうと息を吐く。
「……道は、微かに見えた」
「ーーだが。見えただけだ。まだ足りない」
足りないから、食らいつこうとする。
私の心の裡で、「そうするべきだ」と叫ぶ意志が漸く灯ったように思う。
一度積み上げたモノをリセットしてまで、鍛え直す。それ程の意志が。
でありましょうな。
別の違う技術を同じように使うというのは、難しいものであります。だが、やりがいもある。
(拳を引いて、一歩下がる。顎に指を当てると、ふぅむと唸り出した。
イレギュラーズとして、巫山戯たり真面目であったりと振れ幅の大きい彼女の、これはまた珍しい、純粋に拳士としての知的好奇心が表れているようだった)
差しあたっては、今の技を『貴女用』にチューニング致しましょう。
……今の形からして、原型はこんな感じでありますか?

(いつもの腰を沈めた姿勢ではなく、軽くかかとを浮かして一度、2度ジャンプする。
3度目は、左足だけで着地した。
膝を抜いて前に弾けるように飛び出す。
先程の十七号程の疾さはないが、分析の為であるからそこは寛恕して貰おうと思いつつ拳を奔らせる。
まずボディストレート。
ストレートを戻す手で喉に右の一本拳。
後ろ足を引きつけながら、左手で再び顎に拳を。
遅いが迅い。一挙動に三撃。
全て十七号に寸止めで見舞った)
なるほど、よくできた技であります。
……名は?
(寸止めにされた拳に怯えることなく、その拳の奔り方の全てを見て目を見張る。
 それ(・・)は確かに、これであるならと。そう思わされた。
 拳と、剣という違いこそあれど。ーー真に己のモノと出来たなら。
 果たしてその向こう側には、何があるのかと思考せずにはいられない)

……父はその技を「瞬天」と呼んでいた。
幾つもある技に名前を付けたりするような人ではなかったが、その技と”もう一つ”は違う。
三連撃と反撃の技。その二つだけは。

(ーーそこまで語って、息を吐く。
 今の私には、足りないものが多すぎる。
 なら、どうすればいい? ……決まっている)

ーーエッダ。
これは私の我儘だがーー良ければ、聞いて欲しい。
ふうん。

……技に名前を付け“ない”のにも、相応の意味があるものであります。
形というのは、無意識のうちに複雑で高度な動きを可能にするためのものであります。
それを付けないのは、有形に囚われることを恐れてのことかと。
なるほどラド・バウの技でありますな?
あそこでは日々、己の技が衆目に晒される。
研究される。
対策される。
その無間地獄では、形を限りなく透明にしたかったのでありましょうな。

であれば、その中で敢えて名前を付けるとしたら――
それは破られぬという絶対の自信と、禁を破ってでも形にせねばならないほど高度な技術であるということに他ならんであります。
お父上は、貴女に良いものを遺されたのでありますな。

であれば、謹んでお聞きいたしましょう。
これほどの技、眠らせるのは惜しい。
(そう聞いて、少し安心した。
 最早朧気な父の面影を追えるものは、つい先程まで無かったから)
……ありがとう。

私はーーこの技を。
「瞬天」を、モノにしたい。拳と剣、その違いを超えて。
新たな形になったとしても、新たな名を得たとしても。
だから、それを手伝ってはくれないだろうか。
……頼む。
(そうして、頭を下げる。それが精一杯の礼儀だと言うように)
……頭をお上げなさい。
貴女がそう言わなくとも、私はそのつもりでしたよ。
私も、この先が見てみたくなりました。
感謝なら貴女のお父上になさいな。

(少しだけ、彼女から感じる雰囲気が柔らかくなった。
 きっと今の言葉は、珍しくその全てが本心だったのだろう。)

……さて。
さしあたっては先ほどの技の総評であります。
まず一撃目が胴突きはよくない。
確かに胴は当てやすい場所だが同時に相手にとっても防ぎやすいところであります。拳であれば頭を下げて懐に潜り込む一手目として最高でありますが、剣ならまず一撃目は喉に見舞いなさい。
喉が一番心理的に圧迫感がある。目線の高さに近い方が剣は線ではなく点に見える。だから極論を言えば突きではなく目を払ったり視界の外から切り上げたりしてもいい。
要は、相手の姿勢を崩すのに、一撃目は当てなくても良いという話であります。あの体捌きでの飛込みは脅威なのであります。

――ここまで、よろしいか?
ーーああ、問題ない。

(す、と顔を上げた十七夜の顔は、静かに……しかし確かに、喜んでいた。
 ほっとしていたともとれるだろうか。
 なんにせよ、心から感謝している事には違いない)

初手は喉。当てなくとも、外れてもーー”圧”が敵に掛かれば、それで良いと。
ふむ、なるほど。
切り上げや払いも可能性としてはあり得るならば、突きの構えである必要も特にはないかもしれないな。近接攻撃が届く範囲であれば、だが……。
というところで、最初は大胆にこういうのはどうでありますか?

(そう言うと、青眼に構えさせた十七号の剣先をエッダは指でつまむ。
右脚を後ろに。
剣先も後ろに。
身体の後ろに剣を隠した搆え。
脇構えと呼ばれる体勢を取らせた)

刀身を身体で隠し、次の剣捌きを読みにくくするのであります。
これは敵の攻撃を防ぐ刀が身体の前にないものであり、本来は精緻な読みで敵の攻撃に応じて行くカウンターの搆えでありますが……

先ほどの体捌き。
迅速な踏み込みと回転があるならば、応じ技でなく先の先を取る技になり得るでありましょう。
先んじて技を当て、敵の動きを阻害する。
その上に読みにくいモーションとあれば、猶更此方の攻撃は徹る。
なるほど、確かに脅威だ。

……それに、そう言ってくれたお陰で少しばかり戦い方自体の改善点も見えたように思う。
要するに、今まで主体としていた「守りからの反撃」が私に噛み合っていないのだと。
攻めに転じられるだけの踏み込みがあるなら、先ずは攻めに回ってしまった方が恐らくいいな。
問題は、今までの癖を矯正するのにどれだけ掛かるか……という点だが。
……そうばかりでもないでありますよ。
守りからの反撃、とか、攻めと受けとか、そういう風に分けて考えるとそうなりがちでありますが。
つまり……ええと。
先ほど。
先ほど、自分が貴女の突きを捌いた時の技。覚えているでありますか?
覚えている。
確か、突きに沿って籠手を滑らせていたような。
弾くよりも受け流す形に近いが、あれは……。
……むむ。こうだったか? 
(そう言いながら、先程の動きを再現しようとしている)
ああいう感じでありますよ。
つまり――受ける形が即、反撃の予備動作になっているのであります。
これはつまり守ることによって攻めの形を作っているわけでありますね。

同様に。
自分が今から作ろうとしている貴女の技は、攻めることによって守るという技術であります。
攻撃を通すのではない。
“攻めること”によって相手に“守らせ”、結果的に己への攻撃を中断させる――攻めることによって、己の守りの形を作るのであります。
なるほど……。
人によっては、攻撃的な守りだとか言うモノか。
こちらのペースを作ることで、守りを整える。実に解り易いやり方だ。
であれば、技もそれに合わせたものになる訳だが……ふむ。
先手を取って攻め。
相手に守らせ、と来たか。
さて、そこで三連撃という話に戻るであります。
貴女のお父上の技がなぜ優れているかと言うと、連撃に合わせて身体ごと動くのでありますな。
これは良い。手打ちにならず豊富にバリエーションが増える。
そこで、弐撃目の提案であります。
――いっそ、思いっきり下がってしまいましょう。
ーーは。突っ込んだ後に下がる、と。
む、う。動きに緩急をつける……ということで合っているか?
下がることに異論はないが……ふむ。
いや。いや。違うでありますよ。

先ほどの踏み込み、あれは見事だった。
あれほど踏み込めるなら、切っ先三寸と言わずもう少し踏み込めるはず。
……この辺でありますな。

(状況想定。
十七夜にそのように動くように指示していく。
脇構えから、滑らかに霞中段にさせ、刀で突きを撃たせる。
エッダは先ほどと同じように、一歩踏み込んで突きの側面に回り込んだ。
二人が大きく踏み込んだ為に、両者は脛と脛が交わるくらいの距離になっている)

で、この突きを外された刀をでありますな。
すっと相手のどこか柔らかいとこに当てるでありますよ。
さっきの体勢からなら……そうでありますな。
腕の下、自分の腹の辺りに刃を触れさせる。
触れさせるだけで良いであります。

そしたら、自分の腹に押し付けて……そうそう。

そのまま、斬りながら下がるのであります。ほれぐっと。

(言葉の通りに十七号は斬り下がる。
つまり、遠心力で刀を振るのではない。
刀が動かずとも、刀を持っている己が動けば即ち斬れるのだ。
木刀であれども、それは確かに手答えがあったはずだ)

……ここまで、良いでありますか?
勿論。お陰で理解が出来た。
わざと外してしまっても攻撃に繋げられる訳か……。
人を相手取る時には使い勝手が良さそうだ。
人でなくても使えるでありますよ。
応用的でありますが、どこを刺しても当たる相手なら、引く動きで傷口を斬り開けるでありますからな。

……そして、最後の一撃。

これは特別であります。
特別だから、特別な一撃に致しましょう。
つまり、最後の一撃は突きであります。
こればかりは変化はナシ。
最後の一撃は突きと定めましょう。

……理由を言っても?
ああ。頼む。
是非聞いてみたい。エッダの話は、聞いていて楽しいんだ。

しかし特別……と言うと。
私としてはあまり奇をてらった理由は思いつかないがーー思い付くなら、『拘り』だろうか。
変わるものもあれば、変わらない……変えられないものもあるように。
………
さすが、その通り。

大当たりであります。十七夜嬢。

今まで自分が『突き』を否定し続けたのはその為であります。
つまり……

率直に言って、貴女の突きに自分は感歎いたしました。
それほどの突きを生かすならば……他の技は全て捨て石でも良いと思えるほどに。

整理するでありますよ。
(十七号から木剣を借りると、脇に構える。巨大な腕の中では小枝のように見えた。)
つまり……

一の太刀。
脇構えから切り上げ、切り降ろし、或いは突きの三択を迫る。これは当たっても当たらなくても良い。相手の体勢を崩す技であります。

二の太刀。
一太刀目で深く踏み込んだ後、一歩分斬り下がり。
これは三の太刀の為の間合いを確保しつつ、同時に搆えを作る為であります。

三の太刀。
先ほどの切り下がりから霞の搆えを取り、突き込む。
これはどこに当てても良い。
喉でも心臓でも。
体重の乗った平突きがいいでありますな。貴女の先程のステップインの鋭さなら、平突きにした分縮むリーチも補えるでありましょう。

以上が瞬天”十七夜ver”の構想であります。
如何でありますか?
ーーふむ。納得がいった。
得意分野を生かす、ということは今まで考えてもいなかったが……そういうこともあるのだな。
戦い方を考えるのも、存外楽しいものだ。

……少し、試してみてもいいだろうか。
(そう言った十七号の顔は、少しわくわくしているように見えた)
ふむ。
(木剣をくるりと回して切先を摘み、柄を彼女に差し出した。
背中の後ろで手を組んで、こつこつと下がって行く。

たっぷり一刀一足より広めの間合いを取ってから、構える。
ステップワークを介さないつもりの真半身。
スタンスは肩幅くらいに取る。
つぶさに動きを見るために、すっと腕を下ろした)

よし。では検証してみましょう。
いつでもおいで下さいまし。
ああ。全力で、やらせて貰う。

(柄を受け取り、脇構えに木剣を構える。
 ゆっくりと右足と剣先を身体の後ろへ移動させ、確かに地面を踏み締めた。
 ーーそして、すう、と深呼吸を一つ吸って吐いて。
 前を見る。眼前に立つのは、エッダ・フロールリジ。鉄帝国の騎士。
 ……臆するな。手心も要らない。そう、心に抱く)

ーー行くぞッ!

(初撃。
 一歩前へと右足を踏み出し、斬り上げる。
 身体の後ろへと隠して見え辛くした刀身を、視界外から叩きつけてーー構えを崩そうとした。
 叩きつけられたかに関わらず、そうしたことが肝要であるのだからと。

 二撃。
 斬り上げて踏み込んだ動きから、手首を捻り逆袈裟懸けの形で斬り下がる。
 左手の義手が稼働して手首の負担を和らげるが、それはあくまでサポートに過ぎない。
 そうして先は一度踏み込んだ右足を、またも引き戻してーー寄せては返す波のように。
 一手を打ち、次へ繋げる。

 三撃。
 再び木剣を構える。
 それは霞中段と呼ばれる構えで、平突きの体勢を取り。
 ーーそして、突き込む。
 あからさまな突きの形。全身をバネのように扱った、単純な突き。
 だがーー跳ね除けさせはしない。
 何よりも疾く、何よりも鋭く。貫くのだーー!)

 
(最短で来たか。と密かに頷いた。
 敵が武器を持っている場合、捌いてガードをこじ開けたり或いは返し技を狙う為に、切り落としや突きは有用だ。
 しかし自分は無手であり、武器の中では相当器用な部類である剣のりも更に小技は豊富。鋼の腕で怪我の心配も少ないから突っ込んで来やすい。
 となれば、こちらの鼻先を怯ませる最速の一撃。この辺りは戦場勘だな。
 果たして、私は足を止める。切り下がりはやや無理のある形になったな。もっとこう……スッと抜いて、落とす感じがいい。
 纏絲内功をいくらか覚えさせてみるか。うまく噛み合いそうだ。
 ともあれまだ力感はあれども形は正しい。
 ならば予定通り……
 自分の体重は後ろに乗ったまま。
 全身が纏まったのを見た。
 うん、ああ、やっぱり、これでいい。
 最後はこの形でよかった。

 心臓の上を鋼の腕で守る。
 平たく構えた木刀が装甲の継ぎ目に当たり、めぎ、と生木が折れるような音。
 全身を一個の弾丸としたような気剣体の一致した突きは、木剣が真ん中から折れるという結果をもたらした。
 暫くの沈黙。
 腕の装甲の隙間に挟まって取れない剣先をぎこぎこ動かしてずぼっと抜いた後、それを十七号に見せた)

うむ。
感想は?
ーーこれがいい、と思った。
が、まだ改善の余地はありそうだ。
二撃目の後退がもう少しスムーズにいけば、本命の突きがより加速しやすいように思う。
あとは、こちらの動きの間に相手の動きが挟まれるとどうにも辛いという点だな。
ともあれ。
今の私の練度であれば、本命の突きは今ほどの速さが基本になるだろうか。
無論体力の消耗などを考えると、十全な状態で撃てる確証はないが……。

(そうして少し、考え込んで。
 ふと顔を上げて、また喋る) 

ーーああ。それと、この技の名前はどうしたものだろうか。
ぼんやりとイメージはなくはないけれどーーエッダに助けてもらった結果のものだから、少し聞いてみたい。
…………そうでありますな。
あえて自分が名付けるなら、”燕飛”(えんぴ)でありましょうか。
燕が飛ぶが如く自在に形を変える軽やかさ…………
燕飛、なるほど。確かにいいな……。
ふうむ。
私がイメージしていたのは、波だとか蒼だとかそのような単語だが……そういったのもありか。
ほう。
技の名は体を表す必要がある………

蒼燕。
……蒼燕瞬天(そうえんしゅんてん)
というのは如何でありますか?
蒼燕瞬天。
ーー父の技の名を組み合わせて、新しい名前にした形になるか。
いい名だ。響きが綺麗で、イメージもしやすい。
……良ければ、この名前としてもいいだろうか。
……まだ。であります。
(ごそごそと木刀の予備を取り出す。
 切っ先を摘まんでそれを十七夜に渡した)

この技は、単体でも強力な技であります。
しかし已然、自分の考えは変わっていない。
先残光を単発の博打ではなく、本当に貴女の武器にする為にこの技が必要なのであります。

さあ、ステップ2。
”先残光”の、レベルを上げましょう。
博打ではなく、か。
……なるほど。
なら、やろう。足を踏み出さない理由はない。
良し。さて。
……今の青燕瞬天。
それを防ぎ切った相手が、もう一度撃たれまいと進み出でて来る。狙うのはそこであります。

今の儘だと三度目の突きは体を捨てての突きになるでありますが
、それでは次の手が遅れる。
そこで、一手こういうのを入れるであります。

(何も持たないまま、刀を持っている風に搆え、突き、切り下がり、突き……最後の突きの後、ぐっと伸ばして突いたはずの後ろ足を、上体の位置を変えないまま、身体の下に戻した。トォン、と震脚が鳴る)

跟歩と言う技術であります。
これで次の体勢が素早く作れる。……やってみて下さいまし。
一手、無駄にしない為の技か。
やってみよう。
(す、と木剣を構え、蒼燕瞬天を撃ち放ちーーエッダが成したようにやってみる。
 しかしそれは、まだ少しぎこちなく。足捌きという点では、まだまだこれからというようにも見受けられる)
うむ、良し。
何も今すぐ出来るようになれというものではないであります。
毎日続けてこそ結果が出る。練り込みなさい。

ともかく、返し技というのは先読みばかりが大事ではないのであります。
その連続技を見た敵は、脅威に思うことでありましょう。
然らばどうするか――打ち終わりに合わせて来るか、或いは次の立上りの前に来るか。

ステップ2の意味。
隙を作るのであります。わざと。
ああ。続ける事なら、多少は慣れている。やってみるとも。

……ふむ。脅威と思わせての、隙か。
つまりは、攻撃させてしまうことで誘い込むと?
(ともあれ暫く、練習と称して振ってみる。いくつかのパターンを試してみたが、まだ動きは硬い)

あともう少し、こう。なにか足りないな。

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