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鉄帝喫茶「ビスマルク」

【夜式・十七号】夜が来る!

 ただ進め。
 進むままに進め。
 退路がなくなって初めて、見えてくる道もあるのだろう。

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 都合何度目かはわからない。
 しかしこうして何度目であろうと、十七夜は地面に転がされた。
 接点が背中の中心に来た瞬間、そこを軸にぐっと背中を張り出す。投げられた勢いを上に転換して、美しく足を垂直に持ち上げながら、一瞬で十七夜は立ち上がった。
 木剣は月明りを照り返さない。
 鈍く照らされた光を柔らかく包んで、刀身に僅かに湛えている。

 ややあって後ろを振り向いた女は、果たして少女よりも小柄だ。
 両腕はまるでぶら下がっているようで、自重で扱えているのかも定かではないが、それが成した成果は自分が良く知っているのだ、と十七夜は密かに臍を噛む。

 とん、と両の踵を女は揃えた。
 そのまま鋼鉄の両腕を腰の後ろで静かに揃える。
 きぃ、と鉄の軋む音が鳴った。
「やはり、己の流儀を持っていないのが良くないでありますな」
 侮蔑ではない。
 求めているものを求め切れていないその不幸に、女は嘆息した。
 必殺の一撃――それを持っている彼女にその願いをされた時から、そんな気はしていたのだ。
 錬鉄徹甲拳。
 その武術を学ぶとなれば、一朝一夕ではならぬが。
 少なくとも仲間がそこに己の鬱積の突破口を求めているのであれば、応えるのは吝かではないそう思って、女は少女の願いに応えた。
 ないのだが……
「こないだの地下闘技場ではもっと動き良かったでありますよなあ。
 ……であれば、自分、思うでありますよ。
 必殺の一撃あらば、そう、まずは防御と牽制であると。
 我流結構。しかし単なる無手勝流を我流と称すには、この業界なかなか厳しいでありますよ?」
 けほけほと、先程打ち付けた背中を気にしながら十七夜は、勝手なことを言ってくれる……と思った。
 こちらは剣。相手は拳。であれば……いや、それこそが驕りか。
 少なくとも、木剣で遠慮なく殴りつけたからといって恨むような人では。
 いやむしろ、木剣を言い訳に手加減をしたら烈火のように怒り狂いそうな人だと思った。
「貴女。貴女の動きには、何かの基礎を感じるであります。
 絞り出すであります。次は、後の先に拘らず己から状況を作っていくのであります。
 大丈夫、貴女のその必殺の技は本物だ。貴女の技――技を超えた本質は、きっとある。
 それを一緒に見つけるでありますよ。
 然らば――次こそ本気の一合だ」

 そう言うと、今までざっくばらんに構えていた女の手が変わった。
 左手は軽く上げ、人差し指の先が女――エッダ・フロールリジの視線と、十七夜の心臓を真っすぐに繋いでいる。
 右手は内側に捻り、顎の横に添えられている。

 次とか何とか言っているが、ぴりぴり肌に伝わる感触は十七夜に一つの事実を告げていた。
 全力でやるからな、と。
 

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●参加者向けハンドアウト
・あなたは自分の技を磨き上げる為、先輩オールドワンに指導を乞いました。
・彼女はあなたの武に光るものを認めながらも、技術基盤の弱さを気にしているようです。
・彼女は稽古のつもりですが、そもそもいつであれ本気です。
・次の一撃は、あなたの刀を左手の甲で滑らせて受けながら、右拳が心臓に向けて放たれる形で飛来します。

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ああ。全力で、やらせて貰う。

(柄を受け取り、脇構えに木剣を構える。
 ゆっくりと右足と剣先を身体の後ろへ移動させ、確かに地面を踏み締めた。
 ーーそして、すう、と深呼吸を一つ吸って吐いて。
 前を見る。眼前に立つのは、エッダ・フロールリジ。鉄帝国の騎士。
 ……臆するな。手心も要らない。そう、心に抱く)

ーー行くぞッ!

(初撃。
 一歩前へと右足を踏み出し、斬り上げる。
 身体の後ろへと隠して見え辛くした刀身を、視界外から叩きつけてーー構えを崩そうとした。
 叩きつけられたかに関わらず、そうしたことが肝要であるのだからと。

 二撃。
 斬り上げて踏み込んだ動きから、手首を捻り逆袈裟懸けの形で斬り下がる。
 左手の義手が稼働して手首の負担を和らげるが、それはあくまでサポートに過ぎない。
 そうして先は一度踏み込んだ右足を、またも引き戻してーー寄せては返す波のように。
 一手を打ち、次へ繋げる。

 三撃。
 再び木剣を構える。
 それは霞中段と呼ばれる構えで、平突きの体勢を取り。
 ーーそして、突き込む。
 あからさまな突きの形。全身をバネのように扱った、単純な突き。
 だがーー跳ね除けさせはしない。
 何よりも疾く、何よりも鋭く。貫くのだーー!)

 

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