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鉄帝喫茶「ビスマルク」
(そう聞いて、少し安心した。
最早朧気な父の面影を追えるものは、つい先程まで無かったから)
……ありがとう。
私はーーこの技を。
「瞬天」を、モノにしたい。拳と剣、その違いを超えて。
新たな形になったとしても、新たな名を得たとしても。
だから、それを手伝ってはくれないだろうか。
……頼む。
(そうして、頭を下げる。それが精一杯の礼儀だと言うように)
最早朧気な父の面影を追えるものは、つい先程まで無かったから)
……ありがとう。
私はーーこの技を。
「瞬天」を、モノにしたい。拳と剣、その違いを超えて。
新たな形になったとしても、新たな名を得たとしても。
だから、それを手伝ってはくれないだろうか。
……頼む。
(そうして、頭を下げる。それが精一杯の礼儀だと言うように)
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進むままに進め。
退路がなくなって初めて、見えてくる道もあるのだろう。
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都合何度目かはわからない。
しかしこうして何度目であろうと、十七夜は地面に転がされた。
接点が背中の中心に来た瞬間、そこを軸にぐっと背中を張り出す。投げられた勢いを上に転換して、美しく足を垂直に持ち上げながら、一瞬で十七夜は立ち上がった。
木剣は月明りを照り返さない。
鈍く照らされた光を柔らかく包んで、刀身に僅かに湛えている。
ややあって後ろを振り向いた女は、果たして少女よりも小柄だ。
両腕はまるでぶら下がっているようで、自重で扱えているのかも定かではないが、それが成した成果は自分が良く知っているのだ、と十七夜は密かに臍を噛む。
とん、と両の踵を女は揃えた。
そのまま鋼鉄の両腕を腰の後ろで静かに揃える。
きぃ、と鉄の軋む音が鳴った。
「やはり、己の流儀を持っていないのが良くないでありますな」
侮蔑ではない。
求めているものを求め切れていないその不幸に、女は嘆息した。
必殺の一撃――それを持っている彼女にその願いをされた時から、そんな気はしていたのだ。
錬鉄徹甲拳。
その武術を学ぶとなれば、一朝一夕ではならぬが。
少なくとも仲間がそこに己の鬱積の突破口を求めているのであれば、応えるのは吝かではないそう思って、女は少女の願いに応えた。
ないのだが……
「こないだの地下闘技場ではもっと動き良かったでありますよなあ。
……であれば、自分、思うでありますよ。
必殺の一撃あらば、そう、まずは防御と牽制であると。
我流結構。しかし単なる無手勝流を我流と称すには、この業界なかなか厳しいでありますよ?」
けほけほと、先程打ち付けた背中を気にしながら十七夜は、勝手なことを言ってくれる……と思った。
こちらは剣。相手は拳。であれば……いや、それこそが驕りか。
少なくとも、木剣で遠慮なく殴りつけたからといって恨むような人では。
いやむしろ、木剣を言い訳に手加減をしたら烈火のように怒り狂いそうな人だと思った。
「貴女。貴女の動きには、何かの基礎を感じるであります。
絞り出すであります。次は、後の先に拘らず己から状況を作っていくのであります。
大丈夫、貴女のその必殺の技は本物だ。貴女の技――技を超えた本質は、きっとある。
それを一緒に見つけるでありますよ。
然らば――次こそ本気の一合だ」
そう言うと、今までざっくばらんに構えていた女の手が変わった。
左手は軽く上げ、人差し指の先が女――エッダ・フロールリジの視線と、十七夜の心臓を真っすぐに繋いでいる。
右手は内側に捻り、顎の横に添えられている。
次とか何とか言っているが、ぴりぴり肌に伝わる感触は十七夜に一つの事実を告げていた。
全力でやるからな、と。
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●参加者向けハンドアウト
・あなたは自分の技を磨き上げる為、先輩オールドワンに指導を乞いました。
・彼女はあなたの武に光るものを認めながらも、技術基盤の弱さを気にしているようです。
・彼女は稽古のつもりですが、そもそもいつであれ本気です。
・次の一撃は、あなたの刀を左手の甲で滑らせて受けながら、右拳が心臓に向けて放たれる形で飛来します。