ギルドスレッド
はぐるま王国
(小屋の中に生きたものの気配はなく)
(きりきりと、時折、歯車の噛み合うような音ばかりが響いておりました。)
(人形のお姫様は、眠るということも、夢を見るということも知りませんでした。)
(この世界に来てから初めて体験したそれは、生きる上で欠かせないことでしたけれど)
(この夜だけは。目を閉じても、クッションに埋もれても。どうしても、眠ることができなかったのです)
(きりきりと、時折、歯車の噛み合うような音ばかりが響いておりました。)
(人形のお姫様は、眠るということも、夢を見るということも知りませんでした。)
(この世界に来てから初めて体験したそれは、生きる上で欠かせないことでしたけれど)
(この夜だけは。目を閉じても、クッションに埋もれても。どうしても、眠ることができなかったのです)
……どうして。
あのとき、人形師さんは。
(こころの内を、上手な形にこねあげられないまま)
(どんな表情をすればいいのかも、わからないまま)
(クッションに埋もれた小さなお人形が、誰に言うとでもなく、つぶやきました。)
あのとき、人形師さんは。
(こころの内を、上手な形にこねあげられないまま)
(どんな表情をすればいいのかも、わからないまま)
(クッションに埋もれた小さなお人形が、誰に言うとでもなく、つぶやきました。)
(きりきり、きりきり)
(いつもどおりに鳴る歯車は、けれども、いつもと違う音を立てておりました。)
(喜びではありません。怒りでもございません。)
(胸の奥の方をぎゅうっと締め付けるような感情は、一体どこから来ているのでしょうか。)
(いつもどおりに鳴る歯車は、けれども、いつもと違う音を立てておりました。)
(喜びではありません。怒りでもございません。)
(胸の奥の方をぎゅうっと締め付けるような感情は、一体どこから来ているのでしょうか。)
(人形師の死を見届けるのは、これが二回目です。)
(自刃によって死した……別の世界へ旅立ったあの人形師さんは)
(今は、自分のように笑えているのでしょうか。)
(……彼の為した業を、彼の最期を思い返すと)
(これまでずっと信じてきていた、死の概念が)
(きっと死しても別の世界へ旅立って、幸せに暮らしているのだろうという信仰が)
(支えを失い、不確かに、抜けかけの歯みたいにぐらぐらと揺れは動き始めていたのです。)
(自刃によって死した……別の世界へ旅立ったあの人形師さんは)
(今は、自分のように笑えているのでしょうか。)
(……彼の為した業を、彼の最期を思い返すと)
(これまでずっと信じてきていた、死の概念が)
(きっと死しても別の世界へ旅立って、幸せに暮らしているのだろうという信仰が)
(支えを失い、不確かに、抜けかけの歯みたいにぐらぐらと揺れは動き始めていたのです。)
(――おじいさんは、ある日突然、倒れました。)
(苦しそうに唸り、口から泡を吹いて。やがて、動かなくなりました。)
(それがどういう「発作」だったのか、今はまだ知らないお姫様ですけれど)
(思い返せば、おじいさんもやはり、幸せな表情で旅立ってはいなかったのです。)
(先の人形師の死と、おじいさんの死を、重ね合わせると)
(やはり歯車が、きりきりと、鳴って。)
(おじいさんは、もしかしたら)
(「別の世界」になんて、行けなかったのではないかと。)
(こころのどこかで、別の世界へ行ったなら、きっとまた会えるわと謳っていた自分は)
(今や、どこの彼岸にも、その姿を見つけられませんでした。)
(だから、考えて、考えて……)
(お姫様は……はぐるま姫は、ようやく気づいたのです)
(おじいさんは、もう、どこにもいなくて。二度と、会うことはできないのだと。)
(苦しそうに唸り、口から泡を吹いて。やがて、動かなくなりました。)
(それがどういう「発作」だったのか、今はまだ知らないお姫様ですけれど)
(思い返せば、おじいさんもやはり、幸せな表情で旅立ってはいなかったのです。)
(先の人形師の死と、おじいさんの死を、重ね合わせると)
(やはり歯車が、きりきりと、鳴って。)
(おじいさんは、もしかしたら)
(「別の世界」になんて、行けなかったのではないかと。)
(こころのどこかで、別の世界へ行ったなら、きっとまた会えるわと謳っていた自分は)
(今や、どこの彼岸にも、その姿を見つけられませんでした。)
(だから、考えて、考えて……)
(お姫様は……はぐるま姫は、ようやく気づいたのです)
(おじいさんは、もう、どこにもいなくて。二度と、会うことはできないのだと。)
――ああ。そうだったのね。
(お姫様は、ひとつの感情を知りました)
(閉じた目を開いて。瞬きをひとつ、ふたつ)
(涙の代わりに、瞳の宝石が、ちらりと輝くばかり。)
(お姫様は、ひとつの感情を知りました)
(閉じた目を開いて。瞬きをひとつ、ふたつ)
(涙の代わりに、瞳の宝石が、ちらりと輝くばかり。)
(きりきり、きりきり)
(静寂を守り抜く人形たちが並ぶ小屋の中で)
(悲しげな歯車の音だけが、いつまでも、響いておりました。)
(静寂を守り抜く人形たちが並ぶ小屋の中で)
(悲しげな歯車の音だけが、いつまでも、響いておりました。)
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わたしがついに伝えられなかった言葉を、あの子たちは伝えて。
名も知らぬ人形師は、命を絶った。
穏やかな表情で、「別の世界」へと、旅立っていった。
わからなかった。
どうして、彼がついには命を絶つに至ったのか。
わたしが言葉を伝えたことは、正しかったのか。
どうして胸の奥が、こんなに、空虚なのか。